ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

24 / 42
24 黒豆

 

 

 

 見た目は建築物ほどの巨大な黒豆に短い手足が生えた怪物。

 正面全体はガラス、他の部位は鉄で作られているように見えるし堅そうだ。

 

 よく観察してみると右腕は手と言うにはちょっと違う。

 肘から先が幾つも筒を束ねた棍棒のようなモノになっていて指がない。

 

 

「兵器だとは思うけど、弱そうね」

 

 

 体当たりや右腕で建物を崩すには充分な巨躯をしているのは認める。

 でも破壊活動をするなら、ルルが前に見せてくれたバクゲキキの方がそうするに優れていよう。

 

 こいつはバクゲキキと比べて機動力は低く、攻撃範囲も狭く、第一何を目的としているんだ?

 そんな弱点だらけで意味不明な兵器を作ったとして、その意味は?

 兵器だとすればルルが詳しい。置いてきちゃったから聞けないし、後で聞こう。

 答えてくれるかはさておき。

 

 

「フロレンス! さっさとぶっ倒しちゃダメなの!?」

「──余計なことはすんな! 大暴れして被害が広がる可能性もある!」

「そういうこと」

 

 

 まるで立てこもりの強盗への対処みたいなことを言う。

 黒豆の怪物がぎぎぎと動いて、頭と目はないが硝子の面を向けてこっちを見た気がした。

 

 

「抑えとけばいいのね」

「そういうこと。避難が終わり次第やり返してやれ!」

 

 

 倒壊した玄関の瓦礫の隙間からフロレンスの声が聞こえる。

 救護班として有能なやつはこういう時に役立つと同時に忙しそうで大変そうだ。

 なぜか指示も飛ばせるしな。

 

 フロレンスが指令(リーダー)を務めてるのはちょっと腹立つ。

 けど仕切り出した以上は言い争うより素直に従う他ない。

 良かれ悪かれチームの考えを統一しなけりゃ現場はどうにもならんし。

 

 腹立つには腹立つけど、こいつ(フロレンス)って実戦経験豊富っぽいから無意味な指示は出さないはず。

 とにかく信じてこちらは黒豆のお相手をしよう。耐えてればぶっ飛ばす機会が訪れるんだ。

 耐えるのは得意。なんせ頑丈が取り柄な竜人なものでね。

 

 

「んあ?」

 

 

 巨大黒豆との睨み合い。

 しばらくの沈黙は、向こうが右腕を向けた事で終わった。

 棍棒のような束ねられた筒の正面をこちらへ向け、根元からぐるぐる回転させ──

 

 

「ッ! 逃げろドラゴン娘!」

 

 

 ドガガガガガガガ、と大量に鉄の矢じりを発射してきた。

 

 

「おわわわわ」

 

 

 運動着とはいえ穴だらけにはされたくない。

 その一心を内に秘めながら翼を最大まで広げて周囲への被害を防ぎ、私自身への被弾は鱗で耐える。

 腕を構えてブロックすれば多少袖が千切れる位で済む……はず。

 

 しかしとんでもない衝撃というか、連射力だ。

 なるほどね、弱点だらけの鈍重なやつと侮ったが正面火力はある。

 私はともかく並の人間がこんなの食らったらすぐ粉々になるだろう。

 

 

「耐えられるのかよ」

 

 

 フロレンスのドン引きした声が耳に届く。

 どうもこの攻撃を正面から耐えてるのが不思議らしい。

 あまり竜人を舐めないで頂きたいな。

 

 

「そっちはあとどれくらい?」

「もう数分くれ。瓦礫に埋まった奴がいる」

「おけ」

 

 

 ドラゴンスレイヤーをこの威力で撃ち込まれたら流石に分からないけど、ただの鉄の塊を叩きつけられるくらいなら充分耐えられる。

 

 

「ただ、やられっぱなしは性に合わないわね」

 

 

 あの回転矢筒は命中率がよくないのか、私を狙いながらあちこちへ矢じりを散らかしている。

 だから翼を広げて流れ弾を防いでいるんだけども──

 

 

「む。魔力切れ、いや弾切れってとこかしら」

 

 

 筒は回転しつつ、からからと音を鳴らしながら何も発射しなくなってしまった。

 反撃するなら今だ。さてフロレンス、どうしようかしら。

 

 

「──いいぞ、やっちまえ!」

「おーけぃ!」

 

 

 翼を仕舞い、一気に跳ぶ。

 建物二階相当の大きさの黒豆だろうが、鉄で身を固めていようが、ぶん殴っちまえば!

 

 

「っらっしゃあ!」

 

 

 の前に、その私を撃った腕を貰う!

 

 

「ははっ、部位破壊たぁ景気がいいねえ!」

「見せもんじゃないわよ!」

 

 

 喧嘩を煽る観衆のようなフロレンスの言葉に若干イラつきつつ、黒豆の右腕を殴ってへこませる。

 っとと、思ったより硬いな。ならばもう一発!

 

 

「右だ!」

 

 

 巨大黒豆の左手が、私から見て右側が光った。

 遠距離攻撃ではない光、ブレードと言われる魔法だ。

 

 魔力の消費は激しいし集中力がいるため剣の完璧な代用は勤まらないけれど、その代わり破壊力は高い。

 ブレードは一瞬展開して攻撃する超短距離高威力の攻撃魔法、というのが人間の話。

 ではあの黒豆の図体から飛び出るなら?

 

 

「こんの!」

 

 

 下手に振られたら周囲を焼きかねない。

 尻尾を伸ばして腕に突き刺し、無理やり角度を変えて上空へ──

 

 

「なんでそんなところにいるのよ!」

 

 

 見上げた上空、そこには飛んできたであろうルルが旋回していた。

 間一髪で当たらず、すぐにブレードも消えたが危険過ぎる。

 

 

「フロレンス! ルルの着陸場所を指示して!」

「了解! よしこっちだルルち、おーらい!」

 

 

 全く、黒豆が攻撃を外したとブレードを仕舞わなければどうなっていたことか。

 殴り飛ばして黒豆が倒れ込むのを危惧してさっきは仕留め損ねたけど、だらだらやるのもまた危険ね。

 せっかくフロレンスが避難を終わらせてくれたんだ。どこまで人払いができているのかは分からないけど、信じてやるしかない。

 

 尻尾を戻し、着地して向き直る。

 向こうさんも“わかれ”に同意して仕切り直してくれた。

 なかなか律儀じゃないの。そういう騎士道ある奴は大好きだよ。

 

 

「天の竜より賜りし我が名を告げる。名を──」

 

 

 ぴかっと光り、ブレードが私の身を、

 

 

「ちょっ」

 

 

 ──貫く直前に翼で身を包み防御。

 あれ食らったら着てるものが全部なくなっちゃうじゃん。やめてよ。

 

 

「ルルといい、不意打ちが好きなやつらだ!」

 

 

 口元に魔力を貯め、解き放つ。

 

 

『…………』

 

 

 収束させた光線、ブレスによって巨大黒豆の両腕が吹き飛ぶ。

 三方向は厳しいが二方向なら撃ち分けできるぞこの私。

 バランスを崩した黒豆がぎ、ぎ、ぎ、と地団太を踏み、そのガラス面で私を睨んだように見えた。

 あとはトドメに一発そのガラスを叩き割っちまえばいいね。

 

 

「よせルルち! 今は近付くな!」

「えっ」

「おい止まれって!」

「だめだよ!」

 

 

 わ、ちょ、こんな時に抱き着いてくるなルルかす!

 

 

「だめなの。エレファスは火薬庫、試作だから無駄が多い」

「順序立てて喋りなさい。何が言いたいの」

 

 

 無理やり引き剥がそうにも、こうがっちりつかまれては怪我をさせる。

 こういう時に竜人の怪力は利用できると前に抱き着かれた時で学習されたか。

 

 ぴし、と黒豆のガラスにひびが入る。

 そのひび割れはどんどん広がり続け、仕舞いにはぱりんと割れてしまった。

 

 

「うわ、きっしょ……」

「…………エレファス……」

 

 

 ガラスの砕けた中身、黒豆の内部はグロテスクに神経や筋肉の詰まったナニかだった。

 まるで甲虫類の脚側を見ているような気色悪さだ。

 そんなものがじっとこちらを向いているが、結局顔を向けているそこに目はない。

 しかしぎちぎちと動いている。きもい。

 

 

「ぶっ倒していいかダメか、二択で答えなさい」

「だめだよ、だめなの。エレファスは、大きいから」

「そう。でも倒す」

「火薬が詰まってるの!」

 

 

 ああ、もう、うざったい。

 こいつさっさとぶっ飛ばさなきゃ、体当たりでも相当な被害が出るのよ!

 

 

「って、ん? 火薬が詰まってる?」

「エレファスはそういうのだから」

「あのでっかい身体の中に?」

「みっちり」

 

 

 ……そう最初に言いなさい!

 

 

「運ぶわよ!」

 

 

 残った足でまだ動こうとする黒豆の背中へ回って掴み、無理やり上昇する。

 ここで倒しきって爆発させる訳にはいかない。

 悔しいが、理由はなんであれフロレンスの下手に攻撃するなって指示は的確だったわけか。

 

 

「問題はどこで処理するかよね」

「前に墜落した場所があるだろドラゴン娘。あそこはどうだ?」

「覚えてないわよ」

 

 

 ルルが墜落した時の穴なんて分からんよ。

 地下を通って学園へ戻ってきちゃったんだし。

 

 

「──ここから東へ真っ直ぐ進んだ所の森です! 守護竜様!」

 

 

 新聞部の声だ!

 騒ぎを聞いて駆けつけてくれたのか。

 

 

「ご武運を!」

 

 

 そうか、新聞部は記事を書いた関係で場所を覚えてるもんね。

 まるで王宮の騎士のようにびしっと構えた新聞部の指差す方を確かめ空へ飛び出す。

 

 敵を倒すだけならば私ひとりで十分だ。

 けどそれは周囲への被害を考えない場合。

 被害を抑え、人命を守るには私ひとりの力では不可能だった。

 

 

「ゆえに者共、礼を言おう!」

「そうだー! 感謝しろドラゴンガールー!」

「守護竜様のお役に立てるならば本望です!」

 

 

 少し重たいが、飛行に支障はない。

 黒豆投棄場までこいつが爆発しないで持つのかは分からないけど、まぁあのまま学園玄関で破裂させるよりはいい。

 

 万が一運んでいる途中で爆発四散したとて被害は私だけに収められるわけだし。

 あー、でもなんかこいつの中身生々しいし汁被りそうで嫌だなぁ。

 頼むから今爆発しないでくれよー。

 

 

「って、あんたもついてくるのね」

「エレファス、ひとりはかわいそうだから」

 

 

 当然のように後ろを飛んでついて来たルルを尻尾で掴み、背中へ乗せる。

 もしこのままはじけ飛んだら守れないからね。

 その点、私の背中なら翼で幾らでも守れる。

 

 翼は飛ぶ以外にも面積を生かして最強の防御となるのだ。角は役に立たないのに。

 ここまで角は、一切役に立ってないのに。

 

 

「見えてきた」

「前に墜ちたとこ」

 

 

 森の切れ目というか、ぽっかり空いた大穴が見えた。

 思ったより崩れてるなぁ。けど確かにここならどんな爆発が起きても大丈夫そうだし都合がいい。

 よいしょっと、切り離し。なんだかバクゲキキの気分。

 なるほど、確かにこんな感じで町へ爆発物を投下するのは気分がよくないな。

 

 

「ところでルル」

「んゆ?」

 

 

 がしゃーん、と穴の底から音がした。

 こんだけ衝撃を与えてもまだ爆発はしないか。

 

 

「あんたがさっきから呼んでるエレフェスって、どういうこと?」

「あの子のこと」

 

 

 のそのそと肩から腕を出し、ルルが指を向けた先は穴。

 

 

「あの特大黒豆をそう呼んでいるのは知っているのよ。どうしてあんたが知ってるのかってとこ」

「ああー」

 

 

 まぁ大方予想は付いてるんだけどさ。

 兵器なんでしょ? あんたの作った。

 

 

「んーん」

 

 

 え、違うの?

 

 

「あれは合成虫(ごうせいちゅう)。試作品だからおっきい」

 

 

 合成虫って、確かルルの母親が作ったっていう?

 死体を合成して作る虫ってんで合成虫とは聞いたけど、あれがそうなんだ。

 

 まったくそうは見えなかった。

 ……内側というか、内部は確かに虫っぽくてきもかったけど……。

 

 

「エレファスは防衛用。でも、なんでここにいるの?」

 

 

 ルルの世界の産物がここにいるって疑問。

 以前だったら分からなかっただろうけど、つい先日フロレンスから答えとなる面白い話を聞いてるし理由は分かる。

 

 

「前みたいな地下迷宮(ダンジョン)が現れた、ってところかしら」

 

 

 どかんと大きな音がして、森に開いてた穴がさらに広がった。

 その内側、星の煌めきのような細かな光が見える。

 やがてその光は収まり……。

 

 

「出てきちゃったってところかしら、地下迷宮(ダンジョン)

「んん? どういうこと?」

 

 

 薄い膜のような先、穴の向こうにはなぜか建物が見える。

 地下迷宮が混沌の産物であるとするなら、ああいう感じに町が現れる例もあるんだろうか。

 

 そんな事を知らないルルは困惑している。しかしこれはどうしたものかな。

 戻ってフロレンスに報告するか、それとも突入して黒豆の仲間がいないか確認するか。

 最善はルルに報告を頼む事なんだけど、こいつできるか分かんないしなー……。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。