中心の城から6本の尖塔を放射状に並べ、夜の砂漠へ降り立ったレーヌカーニバル。
カーニバルの名に恥じぬ派手な音楽と花火で私達を歓迎しているが、そんな歓迎の姿に反し怯えた様子の人物がひとり。
「わえの、わえの姿は、お母さん、どうしてなの」
「……どうしたもんかしら」
さっき背中に乗せたルルが、巨城の上に立つ人物を見つけてからこの調子だ。
確かにあそこにいる道化師はルルの姿とよく似ていよう。
格好も姿勢も違うのに、どうしてか絶対的にぱっと視界に入れた瞬間、あれをルルと判別してしまう程に。
ただ他人の空似とするには不自然なほどそっくりな道化師と、ただ似ているだけと捨て置くには不自然なほど怯えてしまったルル。
一体何の因果が存在するのかは分からない。
わからないけど、私がやる事は変わらない。
ここは混沌が支配する
あいつが城の主だとするなら、そしてこの地下迷宮のボスだとするならさっさとぶっ倒すしかねぇ。
どうしてだとかなんでだとかそういうの全部、終わらせた後に確かめよう。
「まずは脚を奪う」
上空を旋回しつつ様子を伺っているけど、今のところ向こうから仕掛けてくる様子はない。
だったら最大溜め、最大火力、容赦無しのドラゴンブレスで一気に消し飛ばしてやろう。
「無慈悲砲、ふぁいあ!」
そろそろかっこいい必殺技名の欲しいドラゴンブレスが花火の綺麗な光を文字通り無慈悲にかき消し、尖塔のひとつを──
「うっそ、無傷?」
──砕くことはなかった。
煙と光で着弾の様子は確認できなかったけど、直撃したはずに違いない。
なのに、無傷ってことがあるかいな。
「ならばもう一発!」
今度は集中して、ブレスをさらに収束させをもっと幅を絞る。
だいたい噴水と一緒だ。こう、ぎゅってやってぶしゃーってやった方が範囲は狭まるけど威力は高い。
威力というか貫通力というか……そういうアレ。
説明が雑だって?
しょうがないじゃん。感覚で撃ってるんだから。魔法はフィーリングよ。
さっきの最大火力を耐えられた恨みを晴らす光線が飛んでいき、着弾。
思ってたよりレーヌカーニバルは離れていたのか、一瞬遅れてどががががと石を削るようなけたたましい音が耳に届いた。
音は届いたけれど……。
「これも無傷、か」
煙は上がっていた。しかし、それは直撃した尖塔からではない。足下からだ。
つまり弾かれてる。当たったけど、本体に効果がない。
「魔法耐性、それも高レベルってわけね」
障壁魔法による防護は物理か魔力のどちらかを特化させることが多い。無理に両立しようとすれば綻びが発生し、逆に脆くなってしまうためだ。
細かく言えば物理の中にも突きや衝撃、魔法は属性云々……。
とにかく障壁は細かい仕様があり、個人それぞれの裁量によってその耐性は異なる。
故に剣道のようなスポーツではない対人戦闘では相手の防御の癖を見極め、弱点をつけるかが勝利の鍵となるのだ。
魔力全般を吸収し、物理は素で耐えてしまう竜の鱗がいかに人間世界にとって驚異というのが分かろう。もはや理不尽が詰まってる。
さて、話を戻してレーヌカーニバル。
あれは私の
「つまり、物理には弱いわけだ」
私が若いとはいえ全力のドラゴンブレスだ。
それを弾ける障壁ということは、パラメーターでいえば魔法耐性に極降りの物理耐性カスカスってところだろう。
「ま、あんな巨体に剣や弓で挑もうってやつはいないわね」
レーヌカーニバルは文字通り、城だ。
城と尖塔を合わせ、町が素材となった歩く城下町だ。
あんなものを攻め落とそうと思うなら魔法しかない。それを想定しての魔法耐性だとすれば。
「ルル。降りるかしっかり掴まってなさい」
「……どう、するの……?」
「ぶん殴るに決まってるでしょっ!」
叫ぶ頃には加速は済んで、視界いっぱいの城壁。
多少の弓矢は素の耐久力で防ごうってだろうが、竜人がくるなんて思ってもなかろう。
「私ぱーんち!」
「うわぁっ!」
右手をグッと握ってストレート。
綺麗に壁が吹き飛んだ。
「やっぱり有効打だね。ただ……」
接近したレーヌカーニバルはやはり大きい。
こんな物を拳一つで崩して回るなんて、中々骨が折れる作業ね。
「わ、わえは、骨、ない」
「その話はどうでもいいのよ」
なんとか正気を保とうと、それか恐怖を和らげようとルルは冗談を飛ばす。しかし言葉に覇気がない。
「わぷ」
「下手に喋ると舌噛むわよ」
「……口、閉じてる?」
流石にお祭りな雰囲気のレーヌカーニバルとはいえ、攻撃すれば反撃してきた。
尖塔を脚のようにジタバタさせ、それどころか花火をこちらへ向けて発射してきたではないか。
「追尾はないけど、数は多いランダムな軌道だし──」
あえて接地し両足を砂へ突き刺し強制的に減速。
頭上を通過した花火が破裂した。
一拍遅れず音が身を打ち、ぱちぱちと心地のよい感覚が伝わる。こんな状況じゃなければ素直に楽しみたいところだね。
「殴り倒すにしても、こうでかいと困るのわね」
「効率が必要?」
「そうね。あとあんたも邪魔だし」
「……邪魔……」
私ひとりなら花火に突っ込もうが尖塔がぶつかって来ようがどうにでもなるのよ。
けどルルを庇いながらだとどうしても、ね。
「降ろして戦うにしても、いつの間にか潰れてましたってんじゃね」
「……わえは、もうそれでいい気がする」
「ルル?」
尖塔の足裏と城本体が炎を噴出し、その巨体を持ち上げて夜の空へ飛び去って行った。
逃げるためじゃない。攻撃のためだ。
巨躯に見合わぬ石の塊が、まるで曲芸飛行のように自在に飛び交い襲い掛かる。
「厄介な!」
「……」
ルルを背中から前面へ、抱えて丸まりやり過ごす。
やりたくない事だが、どうも庇って無傷に済ませるには難しい。
「凄まじい衝撃ね。これが生身の人間に当たってたら……」
単騎の敵を退けるというより、対多数へ向けた暴れ方。
あまりスマートな戦い方はできないようだけど、それでもレーヌカーニバルの巨体ならこうするだけできっと一軍を、あるいは街の中心で大暴れするだけで国を落とせるだろう。
本当に何なんだこいつは。
なんなんだ、レーヌカーニバルって。
「……道化師」
尖塔に混じって飛んでる城の上、重力を無視して立ったままの道化師と目が合った。
にへらとした顔でぺこりとお辞儀をした、不気味なほどそっくりなもう一人のルル。
「まさかと思うけど、別の世界のルルとか?」
虫や鉄を使わず、魔法と石を中心として兵器を作り出した世界の……とか。
時代が違えば素材も違う。世界が違えば信仰も違う、そういう感じに違うルルがいてもおかしくない。
いや根拠はないんだけどさ。
「よっと」
ぶつかった衝撃で弾き飛ばされ、ちょうどいいやとそのまま距離を取る。
「……違う」
着地した時、ルルが小さく呟いた。
「あれは、“真実”。わえが、わえの“真実”が、あの人……」
「どういう事なのかさっぱりよ。ちゃんと説明なさい」
「レア・スが見つけて、狂って、死んでしまった、わえにとっての“真実”が、あれ」
地面へ降ろしたルルは俯いたまま動かない。
というより、動けないんだ。
真実を見たら狂って死ぬ? 三英雄と呼ばれる英傑らしいレア・スという人物ですら、その真実で死んだって?
その意味は私には分からないけど、その「真実」という一つの何かがとても恐ろしいらしい。
「あれは、だれ……? この身は、だれの姿なの……?」
都市伝説のドッペルゲンガーは自分と同じ姿を見たら死ぬなんて聞くけど、そういう訳でもなさそうね。
「わえの思考は、矛盾で出来てる。それを知ってしまえば自分を保てないのを知っていて、それでも真実を求めてしまう根源的行動原理、パラドックスの源」
「急に難しいこと言うわね」
「……レア・スがいなくなった時も、こんな感じだったのかも……」
しきりに口にする、道化師を指して「あれは誰」という言葉。
混乱だけでなく、言葉の通り真実を追い求める状態なのだとすればきっと危ないんだろう。
なんとか絞り出して教えてくれた通りなら、発狂して死ぬんだから。
幸いなことに私は影響を受けていないし、効率は悪いけどレーヌカーニバルを砕き散らす算段もある。
さらに幸いなことは、今この場はあの城と距離が開いており安全圏であること。
本腰入れてぶっ倒すとしますか。
「ここで待ってなさい」
「おいてかないで……」
「邪魔だから置いてくわよ」
「お母さん……」
「誰がお母さんか」
「そうじゃない」
うわあ急に冷静に返すな!