ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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今日はルル視点からスタートです。


28 自分を騙して戦おう

 

 

 

 真実を追い求める必要はなく、技術の発展を願う必要もないことは分かってる。

 けどそれらは生まれた時に深く刻まれた使命であり、自らの意志で止めることはできない。

 お母さんがそうしたから。

 

 必ず足側から落ちる猫と、必ずバターを塗った面を下に落ちるトースト。

 そういう矛盾する二つの組み合わせの狭間から生まれるエネルギー。

 それこそが自我なのだとお母さんが言って、オル・ガ・ルヴァという個人を組み立てた。

 

 

 使命のひとつは技術革新と平和利用。

 

 そしてもうひとつは。

 

 

『君はあたしの昔の友達に似てる。やわっこヨーグルトとリンゴが好きな子でね──』

 

 

 自分自身が、お母さんにとってどういう存在なのかを確かめること。

 ……お母さんがオル・ガ・ルヴァの事をどう思っているかは、最後まで教えてくれなかった。

 きっとこうだ、こうだと思う、という推論はあれど本当のところは分からない。

 

 

『もうちょっとタレ目だったかな?』

 

 

 何度も粘土をこねるように。

 何度もわえを眠らせて。

 納得がいくまで、何度も調整をした。

 

 

「似てる、じゃない。似せた、んだ。お母さんは……」

 

 

 ただ覚えているのは、()()()と言ったことだけ。

 今この場にいない人物の言葉の真意を確かめることができないから、堂々巡りの疑問はパラドックスとして存在している。

 

 

「道化師、お母さんの友達」

 

 

 でも今この瞬間、あの場所に、“真実”が存在している。

 確かめることができる。

 自分が何者で、自分がどうして存在しているか。

 問い詰めることができる。他ならぬ真実に。

 

 

「あの道化師は、わえの真実」

 

 

 止まるという選択肢はない。

 疑問を確かめる原動力が自身を構成している一つで、抑えようのない根源なのだから。

 答えを得てレア・スのようになることが分かっていようと、これは使命なのだから。

 

 

「──私ぱぁーんち! ぱーとつー!」

 

 

 空を飛び交う竜人が城の外壁を殴って壊し、降り掛かる瓦礫を払って進む。

 きっとあのままレーヌカーニバルを破壊し尽くせば、上にいる道化師すらも殴って消し去っちゃう。

 そうすれば、真実はまた遠くなる。知る術がなくなる。

 

 それは、困る。

 

 道化師とオル・ガ・ルヴァがどのような関係なのかを確かめたい。

 お母さんが似せたその意味を確かめたい。

 

 

「……」

 

 

 《三英雄(さんえいゆう)》のひとつたるレア・スは真実にひどく動揺し、ゆえに死んだ。

 人類を守る力という高尚な使命を背負ったレア・スですら、絶望した。

 

 

「……死にたくない」

 

 

 あのままだとレーヌカーニバルも、道化師も、真実すらなくなってしまう。

 問う機会は失われて、またいつも通りを過ごすことになる。

 それでいいのに。でも本能とも称せる衝動が、根源的使命が、知れとしている。

 

 

「ひとつ、だけ」

 

 

 パラドックス。行動への疑問、矛盾。

 自分一人じゃ解決できない演算の限界。

 

 

「わえの行動を、阻害はしない」

 

 

 手帳を取り出しページを撒いて、式を繋げて砂を舞わせて手段を探る。

 

 

「きっと、何とかしてくれる」

 

 

 砂の下からエレファスの巨体が引き上げられ、小さなわえの横に並ぶ。

 傷だらけのあとは朽ちるだけ、そんなこの子をまた使うやり方はあんまり好きじゃない。

 でも、それがきっと、必要だから。

 

 更に引き上げたガラクタ達へ式を書き込み、翼を作って即席の飛行形態を整える。

 一瞬飛べればいい。上空へ飛び立って一瞬滑空できればそれでいい。

 

 式の書かれたページが慌ただしく整備を行い、最後に前面のガラスカバーを取り外して簡易コックピットを組み立てた。

 

 

「……っ」

 

 

 

 乗り込んだ時、一番嫌いな兵器の姿を思い出す。

 人間が操縦して敵へ体当たりする滑空爆弾だ、今のエレファスはそれに似てる。

 

 

()()()()()

 

 

 人間は乗ってないし、ちょっと飛ぶだけ。

 そう考えたら楽になった。

 

 

「行こう、エレファス!」

 

 

 砂を巻き上げ強引に加速、上昇し夜の空を翔ける。

 戦場は正面、お城と殴り合ってる竜人。

 

 

「これがわえの答え!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に疲れたというか、飽きてきた……」

 

 

 6本あった尖塔は全部ぼろぼろで本体の城にも所々穴が空いてる。

 結構追い詰めた感じはあるけど、上に乗った道化師はにへらと笑いながらゆらゆらしてるだけで余裕な雰囲気だ。

 あれがブラフなのか、それともまだ手が残っているのかなのかは分からん。

 

 

「もう殴っても崩れるだけで決定打にならないしなぁ」

 

 

 ぼろぼろなお陰でちょっと衝撃を与えるとその場だけが崩壊するだけとなってしまった。

 もっと高火力、広範囲へ一気にぼーんって感じのができりゃいいんだけど……。

 

 

「……ん?」

 

 

 ぶー、ともべー、とも言えない空気が震える音。

 でっかい蜂が耳元を飛んだみたいな、そういうやつが聞こえた。

 

 

「んん-……。黒豆が飛んでる……?」

 

 

 無視できず探してみたら、夜空に紛れて分かりにくいけど見つけた。

 あれって、飛んでるの黒豆よね? 別名はエレファス。

 ついさっき脳味噌部分の本を吹っ飛ばしてやったはずなのに、なんで動いてるんだ。

 

 

「って、ルル!?」

 

 

 ガラス張りだった全面に穴が空いて、その中にルルがいた。

 な、なるほど、自分が直接操れるように即席で改造したんだ……。

 流石に設計しただけあって応用が凄いな。

 

 

「レーヌカーニバルに、道化師に、近づく!」

「そんなことしたら!」

 

 

 詳しい事情は分からないけど、ルルがその真実だかに近付いたら発狂して死ぬらしいじゃん!?

 

 

「んふふ」

 

 

 飛びついてルルを引きずり出せば、嬉しそうに笑った。

 

 

「壊す人にぶつける、それを目的として飛ばした」

「……まさか私を攻撃しようとしたわけ?」

「うん。真実がなくなっちゃうのは困るから」

 

 

 そうは言っても、それを建前にしているような──

 

 

「──ああ、そういうこと」

「わかった?」

 

 

 よく分からない事情だけど、ルルは本能的な行動原理があるらしくそれに抗う事が出来ない。

 抗う事ができないなら従うしかない。成功するかは別として。

 

 つまりこいつ、私に絶対妨害されると分かっていながら攻撃しようとエレファスを持ってきたのか。

 エレファスが大爆発を起こせる爆弾だから、レーヌカーニバルへのトドメとして。

 

 

「ちょうど今欲しかったのよね、物理的な攻撃手段」

「効率が必要だって」

 

 

 エレファスは火薬が詰まってる。どれほどの規模の爆発が起こるのかは、この地下迷宮(ダンジョン)が作られた時に見た。

 でもルル。あんたはそれでいいの?

 

 

「あの道化師、真実が欲しいんでしょ?」

「うん。今もそこへ行きたいと思ってる。確かめたいと思ってる。だけど、竜人に抑えられてたら動けない」

「そうねぇ」

 

 

 軽くつまんでるノリで会話してるけど、さっきから捕まえたルルはじたばたと私の腕から逃れようと動き回ってる。

 事実として、諦めたり破壊を望んでいたりはしていなさそうだ。

 よくもまぁ今こうして喋っていられるね。

 

 

「じゃ、妨害されない内にやっちまいましょうか」

「やだー」

 

 

 否定の言葉は出るが、やってくれと頼んでなきゃこんなでっかい爆弾持ってこない。

 

 

「花火、きた!」

「まずは避けるわよ!」

 

 

 ルルをさっきまで乗っていたスペースへ放り込み、私はエレファスの背中にしがみ付く。

 レーヌカーニバルの放ってくる花火の軌道はランダム、急に曲がったり爆ぜたりするから面倒だ。

 細かい回避は被弾のリスクがあるし、そもそもこのぼろぼろのエレファスが旋回時のショックに耐えきれるか分からない。

 なら、速度で勝負だ!

 

 

「ルル! 聞こえる!?」

『フロレンスの遠距離通信パクった。どうぞー』

「はぁ……。ホント器用ねあんた……」

 

 

 顔の近くに半透明の板と、それに映ったルルの顔。

 邪魔なので手で退けたらすすすっと移動していった。

 とにかく喋れるなら問題ない。

 

 

「エレファスの背中にくっ付いて飛んでる私は下側が見えない。けどお腹に座ってるあんたは下がみえる。そうでしょ?」

『でもどうするの?』

「道化師に近付けるタイミングがあれば教えなさい、案内するわ!」

『んふふ! わかってるぅ!』

 

 

 その分かってるって言葉がどういう意味なのかは分からないけど、ルルが出来ない事やしてしまう行動を事前に伝えてくれているんだ。 

 だったらそれに乗っかってこっちも行動を決めればいい。

 無理強いしたり口論したって時間が掛かるだけ。

 

 

「ヘンな話よね。自分を騙す方法を考えなきゃいけないなんて」

『今まで素直に生きすぎた』

「ちょっと、雑談してる暇ないのよ」

『むぅ。話題振られたのに』

「独り言よ」

 

 

 どんどん加速して、追いつけない花火達が後方で破裂していく。

 いつ突撃するのかを見極めるのがそっちの仕事でしょ。どうなの?

 

 

『適当でいいんじゃない?』

「あんたね……」

 

 

 素直とテキトーは違うのよ。

 

 

「んじゃま、直上直下の電撃アタック!」

『もっとかっこいい名前はないの?』

 

 

 旋回しレーヌカーニバルの真上へ到着したので、一気に頭を地面へ向けてさらに加速する。

 城の上に立っている道化師と目が合った。避ける気はないらしい。

 というより、もうここまで来たら回避も迎撃も間に合わないって感じだろう。

 

 

『わえの真実──』

「わえの真実──」

 

 

 エレファスの背中から離脱し、脱出際にルルを引っ掴んで翼でくるむ。

 肉声と板からの声が重なってルルが増えたかのような錯覚が一瞬した後、

 

 

「熱かったらいいなさい。励ますから」

「魔法で何とかしてくれるわけじゃないんだ……」

 

 

 耳が潰れるかのような爆音と熱が、私達を襲った。

 

 

 

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