「落ち着いたと思う」
「そう?」
爆発の余波で熱された砂があっちこっちと高速で飛び交い危険だったので、休憩がてら防御姿勢でちょっと微睡んでいたらルルからそんな報告が。
なんで厳重に翼で包まれたルルが外の様子に詳しいのかって疑問は全然ない。
だってこういう観測事は計器云々が得意なルルの分野だし。
「んー……。大丈夫そうね」
「5分ちょっと使った。すごい爆発だったー」
「やっとあんたから離れられる」
「ひどーい」
流石の竜人といえど目鼻口に砂が入るのは不快なので、抱きかかえたルルのいるスペースへ顔をうずめてたのだ。
ほんのり匂う椿の香りとふわふわでもふもふな髪の毛がちょっと楽しかった、とかはない。決して。
絶対に。
本当だよ。
……ムカつくけどこいつ、安眠抱き枕として起用できそう……。
「さて。全部消し飛んじゃったかしら」
町も砂漠も全部吹き飛んで、地面は岩盤らしきものが露出していた。
いくらなんでも爆発力ヤバすぎない? エレファス一体でこんなって。
もしこんなのを学園内で破裂させたりしてたら、ものすっごい被害が出ていただろう。
それこそ、フロレンスが首を振る規模の。
「真実も、なくなった?」
「……真実は消えるもんじゃないわ」
それっぽいこと言ったけど、これ結構絶望なんじゃない?
元々はボスを倒す目的なのに、だってさぁ。
「んふふふ……」
眼前、目の前、すぐそこ。
壊れて「レーヌ」としか文字の残っていない看板の上。
「あの特徴的な笑い方もあんたそっくりね」
「……」
道化師は、全くの無傷で立っていた。
「お久しどうです道化です?
にへらと笑いながらゆらゆらと揺れ、やけに難しい言い回しでついに喋った。
ルルのようなちょっと会話の順番が違うとかって喋りじゃなく、もはや複雑怪奇といった方がいい。
というかまともにやり取りできるとは思わない方が良いかも。
そもそも
人間のフリした喋る魔物とか、おとぎ話に出てくる魔族的なアレとかだとしても不思議じゃない。
「あ、あのっ」
宣言通り衝動を抑えきれないルルが近づこうとしたので、尻尾で抑え代わりに私が近づく。
直接ルルに会話させたら発狂死するかも知れないからね。
「あんた、なんなの?」
「
「……そうね。あんたがちゃんと自己紹介したらルルが死にそう」
「んふふふ、さようさようでようでさよ」
笑い方、声の質、そして顔。
喋りが違うだけでやっぱりルルそのものだ。
「ルルとあんたが直接喋ったらまずいのは分かる。だから私だけで話すわ」
だからどういう関係なのかを話しなさい。
──そう告げると、道化師は看板から転げ落ちるように降りてふわりと着地すると深くお辞儀をした。
「言葉に意味ありしとすば近寄り耳打ち内緒の話。
尻尾を伸ばして道化師とルルの距離を十分に離し、歩み寄る。
フロレンスを真似した遠距離会話の板が一瞬出たが、魔力で構成されているので私の砲撃をも防げる道化師が簡単に消してくれた。
あいつの真実へ向かう姿勢は本物だ。万が一に備え、尻尾の先で頭をぐるぐる巻きにして目と耳を塞いでもおこう。
「単刀直入に、シンプルに聞くわ。あんたとルルはどういう関係なの?」
「エンリカの友、昔馴染、かの者のモデル。
……エンリカっていうのは、確かルルの母親の名前よね。その友達か。
モデルっていうのがよくわからないけど、似ている事は否定しないのね。
「伝えうるばや
「わっかりにくい喋り方ね。まぁ、似てるだけの別人って言っときゃいいのね?」
「んふふふ。他になにごと言葉を紡ぐ? ぐをとごとなになに」
重力を無視したような軽い跳躍で一回転しつつ看板の上へ戻った道化師は再びぺこりとお辞儀をすると、そのまま看板の裏へ落ちていった。
「あ、ちょっまっ」
「何者なのかは分かったからどうしてここに」とか続けて聞こうにも、追いかけた先にはもう道化師の姿がない。
目を離した一瞬、というより私の視線から外れた瞬間に消え去ってしまったらしい。
まじかよ。どうやって? ここが混沌の云々だから?
「んんー! んんんー!」
「ひとまず解決ってことでいいのかな。謎は残るけど」
ルルを解放すると、真っ先に走って看板の裏へ行った。
当然ながら目的の道化師は姿を消しており、がっくりと項垂れてしまう。
どこへ行ったかなんて全く分かんないや。また出てくるかなぁ。
『──し? 聞こ──。──い?』
「フロレンス?」
今度はフロレンスからの連絡か。
あいつの声が聞こえるようになったってことは……。
「ボスを倒したって事で
「そんな! わえはなんにも聞いてないのに!」
外と中で文字通り次元が違うって話だから会話できなかったのに、それが段々通じるようになってきてる。
それってつまり、ボス撃破のカウントでいいのかな。
『中々安定しないな。──あ、これで聞こえる?』
「ええ。どこから逃げればいいのか教えなさい」
『せっかちなやっちゃ』
右を見ても、左を見ても、夜の世界に出口は見当たらない。
もしやこのまま崩壊する場と共に消えろと言わないでしょうね。
「わえの真実、また遠くへ?」
『ルルちはどうしたいったい』
「気にしないで」
その時、目の前に光る輪っかが現れた。
なにこのあからさまに怪しいモノ。
『テレポーターだ。そっから帰れる』
「……これ、正規の帰り方でいいのね?」
『何を疑ってるんだよ』
いや、フロレンスにしか出せない帰り道とかだったら今後のためにならないからさ。
『通常の帰り方は完全に空間が崩れるまで待つって感じだな。時間はかかるし気持ち悪くなるけど、オレ抜きでもちゃんと戻れるさ』
「そのやり方はなんか嫌ね」
「嫌ならわえが帰り方覚えとくー」
それは間接的に次も一緒に突入するって宣言なんだけど。
次がないことを祈りながら光の輪っかへ足を踏み入れると、超まぶしい。
ふわっと落下の感覚がした次には、学園寮のロビーだった。
へぇー。こっちに帰ってくるんだ。
「ただいまー」
「あらおかえりなさい」
ルルも寮長さんも呑気に挨拶してるけど、え。そんなすぱっと切り替えて日常へ戻れるもんなの……?
てか寮長さんは唐突に帰ってきた私達をそんなしれっと出迎えちゃっていいの……?
「そら帰還ポイントに設定してるから説明はするよ」
「フロレンス」
あんたなにソファでのんびりしてるわけ?
ルル。あんた砂まみれなんだからそこ乗らない。
「オレが行っても間に合わないだろうからこっちの準備してたの。お風呂掃除とか」
「話は聞いてるから細かい事は後にしてお風呂行ってきなさい。はい鍵」
「それは、まぁ助かるけど……」
寮長さんがホイホイと大浴場の鍵や予備の着替えセットを渡しつつ色々教えてくれる。
どうもエレファス襲撃の大騒ぎで授業は全部中止、生徒は帰宅待機になっていたそうだ。
テロか敵襲かとあわあわしてたらフロレンスがあちこち手回しして落ち着き今に至ると。
うーん、裏方全部担当してくれてたっていうなら……。
まぁ、今そこでのんびりしてるのを許して良いのか……?
「どうしたらオレは完全に許されるんだそれ」
ボス戦へも参加しつつ学園&寮のあれこれをこなすとか。
「ひどい」
ま、お風呂掃除してくれてたならいいや。
ほらルルついてきなさい。私もあんたも砂まみれなんだから落としに行くわよ。
「えー……」
「ほらルルち腹くくって行ってこい。ドラゴン娘以外いねぇから」
「なーらー」
どす、と背中にルルが乗ってきた。
今日はずっとそこに乗せてたけど、平時は自分で歩きなよ。
「お風呂ごーごー」
「ったく。今日だけよ」
真実云々と自分の思考に折り合いつけて戦闘参加、道化師云々。
こいつとて大変だったろうし、しょうがないから今日だけよ。
次は振り落とすから。