ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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3 飛ぶにはこれが一番

 

 

 

「皆さんも鳥が飛ぶ瞬間、あるいは木の葉が風に舞う瞬間……。何かが“浮く”瞬間を御覧になった事があると思います。まずはそれをイメージしてみてください」

 

 

 人類は本来空を飛ばないけれど、こうして魔法の扱いを鍛えることで程度の差はあれ浮く事ができる。

 先生から手本として指名されたのでふわりと浮いてみると、半数はおおーと声を上げた。

 何も言わない半数は事前にどこかで習ったか見た事のある貴族達。知っている自分達はお前らと違うんだ、というのが姿勢に出ている。

 

 

「結界を張ったこの中庭であれば怪我はしないと保証いたしますので、どうぞ自由にお試しください」

 

 

 ちょっと浮く。空を飛ぶ。

 立ち向かうにも逃げるにも、この技能はとっても役に立つので最初に教える事としているらしい。

 竜人として生まれた私にとって浮くも飛ぶも身近な存在なので今更特別感はないが、地から離れず生まれ育った普通の人達にはとても新鮮な感覚なようだ。あちこちで様々な声がする。

 

 さて、私はこの時間どうしよう。

 

 

「わた、ほー。んゆ? んんー……」

 

 

 ……この情けない異邦人も相手にして暇でも潰そうか。

 

 

「ルル」

「む。むむー。まったく飛べない」

 

 

 裾を掴んでぱたぱたはためかせ走り回りながらルルは唸っている。

 ……こいつにとって飛ぶイメージはカブトムシ一択なの? カブトムシの動きにしてはずいぶん慌ただしいけど。

 もっとこう、なんかいい参考元ないの? さっき先生も言ってた通りにさ、鳥とか葉っぱとかさ。

 一回浮いちゃえば早いんだけど、どうしたもんか。

 

 

「翼があれば飛びやすいのかな。あとタイヤ。人の身この身でそのまま飛ぶのは難しいかも」

「浮くだけなら翼は使わないわよ」

 

 

 私の翼をちょんちょんと突いてきたので尻尾で払いのける。

 今度は角を掴もうとしたので頭突き。

 この竜人たるそれぞれを気軽に触れようとしないことだ。

 

 

「うぐぉおお……」

「ふん。気軽に触れるからよ」

「内部が、揺れる……」

「……ちょっと。大げさ過ぎない……?」

 

 

 いくら竜人と身体に差があるとはいえ、そこまでされると心配になるんだけど。

 ふらふらとルルが右へ左へ揺れ動き──倒れた。

 

 

「あ、ちょっと!」

「……」

「ねえ。ねえちょっと、大丈夫なの?」

「……」

 

 

 仰向けになっているので顔を覗き込むと、相変わらず眠たげな黄緑の瞳がそのままあった。

 

 

「空、飛んでみたかった」

 

 

 大丈夫なのかどうかをまずハッキリなさいよ。

 

 

「流石のわえも素のまま飛べない」

 

 

 なんかよく分からないけど、上手く浮けないから拗ねてるだけか。

 周囲をちょっと見ればそこかしこで初めての飛行に成功した面々が色めきだっているし。

 上手く行かない少数も、友達や先生からのアドバイスを受けてどうにかなりそうな雰囲気があるので楽しそうだ。

 

 しかしその一方でルルはまったくダメ。

 きっかけというか、魔法が発動する気配もない。

 

 

「というかそもそも、ルルはまともに魔法を使えるの?」

「式は違うけど得意」

 

 

 ルルを入学させるにあたって最低限の試験はさせている。

 故にここまで来て魔法を扱う才が一切ないってことはないし、得意とまで言うのならそれなりの意があるはずだけど……。

 まさかこいつ適当なこと言ってる?

 

 

「苦手ならはっきり言いなさい」

「どれが、でもなく式が得意」

「意味は分からないけど、その式っていうのは何?」

「これ」

 

 

 問い詰めると起き上がったルルが懐から手帳を取り出す。

 ページを一枚破ってペンで一つ図形のような文字を書いた。

 図形のような文字というのも、全く読めないほど崩れた文字のような形に思えたから。

 手渡されたそれをまじまじ眺めてもこれがどういうものなのか全く分からない。

 

 

「分かりやすく言うとね、こういう線に沿って魔力を流すと効果が付与されていって、出力された時に──」

 

 

 まるで子供がささやかな報告を大げさに告げ教えてくれるように、そう表現できるほどルルは楽しそうに私の手元の文字を解説してくれる。

 線に沿って魔力をか。魔法陣とは違うしこれがルルの世界での魔法の使い方って感じかな。さっぱり理解できないけれど。

 

 

「……」

 

 

 ふと、楽しそうな言葉が止まった。

 紙から視線を外してみれば、ルルはわなわなと震えて必死に口を抑えている。

 

 

「ルル?」

「だめっ!」

 

 

 ぱしんと私の手にあった紙を奪うと、魔法を使ったのか一瞬で燃やして消してしまった。

 一体なんなんだ。何が、ルルは何を思ってこんな事をしたんだろう。

 まったく訳が分からず戸惑うしかない。

 

 

「聞かないで。答えちゃう。式もダメ。解はもっとだめ」

「はぁ?」

「わえは素直に言っているから」

 

 

 耳に手を置いて縮こまり何も聞かない姿勢だ。

 お父様もこうなったらもう絶対に何もできないと言っていた。

 ここは引いて、本来の話に戻した方が良いだろう。

 

 

「……ルル、空を飛びたくない?」

「わえはいつまでも憧れると思う!」

「ならほんのちょっとだけ手伝ってあげる」

「飛ぶの!?」

 

 

 おわ、急に叫ぶな。

 

 

「こんな基礎的な所で躓いて他と差がつくのは惨めだから。だから、これは仕方なくよ」

「んふふー。だいすき」

「私は嫌い」

「まったまたー」

 

 

 にへらと笑うな。なんだその下手くそな笑顔。調子が狂う。

 そうこうしている内にも授業の残り時間が少なくなってるんだから急ぐよ。

 とりあえず私がお父様にしてもらった方法でいいかな。

 

 

「んゆ? なんでわえを掴んで──」

「いってらっしゃーい」

 

 

 よいしょっと持ち上げて、ぽい。

 落下中は必死になるから自然と飛び始めるって方法だ。

 この“多少無理しても大丈夫な結界”のある中庭なら同じ事できるでしょ。

 懐かしいなぁ。お父様は「竜人なら万が一そのまま落ちても平気だ」って言ってたっけ。

 実際に大丈夫なんだろうけど、子供にすることじゃないよね。

 

 

「流石のルルも焦って何とかしようとするでしょ」

 

 

 頭上では小さな影がばたばたしてるのが見える。

 ちょっと高く飛ばし過ぎたかも。けど憧れの空だし問題なかろう。

 

 

「失礼。そろそろ結界が消えるので講義を終えたいのですが、ルルさんはどちらへ?」

「あ、先生。ルルは……」

 

 

 ──って、ん?

 

 

「結界の効果、もう終わっちゃうんですか?」

「ええ。流石にこれほど人がいる中で長時間張っているのは疲れますし」

「そ、そうですよねぇ。で、えっと、ルルならお手洗いに……」

 

 

 なにか用なら伝えておきますよ!

 

 

「いえいえ。苦戦していたようなので、補習が必要ならと」

「んー」

 

 

 幾ら飛ばし過ぎたとはいえ、落下してくるにしては時間が掛かってるし大丈夫そうかな。

 

 

「必要ないと思います。駄目そうなら私が付き添いますし」

「まぁ。それはありがとうございます」

 

 

 それから幾つか差し当たりの無い応答をして先生が離れる。

 実習のあとは食事なのでこのまま解散だってさ。

 よかった集合とかなくて。

 

 

「よっと」

 

 

 人目を避けて垂直へ跳ぶ。

 離陸なら脚力のが魔力を温存出来る他、単に楽だ。

 

 

「ルルー?」

 

 

 屋上を超えた辺りで魔法へ切り替え、空中に留まっている陰へ近づく。

 なんかバサバサと音がしてるというか、なんか色々舞ってるけどなんだろうあれ。

 

 

「……紙?」

 

 

 ルルのもとへ辿り着いて、それが何なのか分かった。

 さっき見せてくれたような文字の書かれたページが幾つもルルの身体を包み込み、風を引き起こして宙に浮かせていた。

 小柄とはいえルルも一応人間だ。そこそこの質量を風だけで宙に留めるのはかなり無理があるというか力業と言うか、迎えに来て良かったかも。

 

 

「わぷ、わぷ、わ、わ」

「助けが必要?」

「落ち着きたい!」

 

 

 どうも必死になってやった結果がこれらしい。

 下の結界もなくなったし落ちたら確実に死ぬだろう。脇を抱えて飛ぶ。

 舞っていたページ達が魔力を失いひらひらと落ちていった。

 

 

「待って、待って! ノート! 紙が、全部!」

「まぁこのままだとゴミが散らかっちゃうわね」

「ダメなの!」

 

 

 ……さっき私の手から紙をひったくった時といい、ずいぶん焦っている。

 自分の世界の魔法技術を持ち込む事にそれほど抵抗があるんだろうか。

 

 

「あ、ちょっと!」

 

 

 ばたばた暴れて私の手から抜け出した。

 どれだけあの紙を見られるのが嫌なのよ!

 

 

「しょうがない」

 

 

 翼を広げ、目を閉じて風を感じ、自身の魔力の流れを切る。

 魔力を使わなければ翼があれど落ちていくだけだ。頭から地面へ向かい始め、翼が風を切り、空気が肌を打つ。

 私の他に存在するルルの姿と魔力の流れ、舞う紙の軌跡を頭に刻む。

 

 

「行くよ」

 

 

 落下の勢いを速度に変えて、旋回し、脳裏に描いた軌道で飛び新たな風を吹かせる。

 曲芸とも言える軌道だけれど、この繊細なラインを空中に描くのは私の得意とするところだ。

 ばさばさと全ての紙を風圧で一つの位置にかためた瞬間──

 

 

「よっと」

 

 ──ルルごとまとめて回収。

 ま、これくらいは簡単なことだ。邪魔もないし。

 

 

「アクロバット飛行!? マニューバ!」

「おとなしくしないとまた撒くわよ」

「む……」

 

 

 このアホが小脇に抱えられるサイズなのは助かる。

 で、これが拾ったページね。

 

 

「見てない? 中身。知ったら困る」

「回収するのが忙しくて確認してないわよ。ちゃんと全部ある?」

「ある! ……おとなしくする」

「はいはい」

 

 

 どれだけその文字を見られるのが嫌なのよ。

 疑問をぶつけた所で防御姿勢になるだけだろうし、今の所はその不思議な文字と、ルルはそれを使って魔法を使えるというのが知れただけでいいか。

 

 

 

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