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人間どころか生物でもないが故に食事や睡眠に酸素等々は必要なく、目的の性能へ特化させているからこそ高度な式の構築が可能なのだとか。
──正直、驚きでいっぱいだ。
純粋な人間でない竜人の身でいうのもあれだけど、常識の理解の及ばない人外の類がこんな身近にいるなんて。
うーん、思い返せば結構ぼろぼろとボロが出てた気がする。でも疑いもしなかった。
だってそもそも、等身大の人形が喋って歩いて生活してるなんて考えないもの。
「食堂には来ない、制服は着崩さずきっちり肌を見せない。些細な事でもさらっとやられたら中々気が付けないわね」
「んふふ。わえは迂闊じゃないのだー」
「まぁそもそもそんな気にするほど仲良くなかったしね」
「えっ……」
ざぼぼぼぼ、とルルがお湯に沈んでいく。
流石はお人形。呼吸をしてないのは本当のようで沈んだままになった。
「機械っつってたけどさ、ルルちって熱とか水没とか平気なのか?」
水中で拡散するルルの髪の毛を弄びながらフロレンスが疑問を口にする。
私は機械というものに詳しくない。それってなんかマズいの?
「いやほら、機械って水に弱いじゃん?」
「じゃんって言われても知らないよ」
「おーいルルちー」
聞こえてないわこれ。
話が進まないし引き上げ。……揚げ物みたい。
テンプラ、うん。この後は蕎麦とテンプラ行こう。ヨシ。
「なんの話してたの?」
「あんたの話。フロレンスが水大丈夫なのかって」
「色んなところに溝あるし、気密性どうなの?」
「ああー」
歩いて飛んで戦って、今さら水没程度平気だとは思うけど。
「実はわえ、水中戦に特化してる」
知力特化って話は?
「全く想定してない訳じゃない。《三英雄》はそれぞれレア・スが地上、ソラ・オプトは上空、わえが水中で戦えるようになってる」
「3大超高性能AIと三英雄だけじゃなくってザ・ビッグ要素も入っとるんかお前。欲張りさんめ」
フロレンスがなんか半笑いでルルを小突いた。
どうせ別世界の知識がヒットして面白がっただけだろう。
「お前のママさん、中々いい趣味してるじゃん。一緒になんか飲みてぇぜ」
「未成年でしょあんた」
「人は見かけによらないんだぜ」
じゃあ年齢詐称で逮捕ね。
「お母さん、どこ行っちゃったんだろうなー」
ふいにルルが寂し気に呟く。
エンリカの母が残した「式が近い」という言葉が、本当に式なのかそれとも死期なのかは分からない。
ただ少なくとも詳細を告げられずルルが母親に置いてけぼりにされたという事実はそのままだし、なんて声を掛けたもんか。
子供を作って放置のネグレクトには違いないもんね。
「ルルちは帰りたいか? 元の世界」
「……?」
今度はフロレンスが哀愁を漂わせている。
なんなんだよ、処理しきれないよぅ。
「わえ、元の世界に会わす顔がない。だって世界滅ぼしたの、わえだし」
「良いも悪いもって言葉がある。技術を悪用したのはルルちじゃな──」
キッ、とルルがフロレンスを睨みつける。
どうやら気に障る発言だったようだ。
「わえが、全部壊したの」
兵器開発を主導した責任感はそうぬぐえないか。
「……《三英雄》はそれぞれが違う役割を持つ。攻守に知。でも、最大の目的はお互いの抑止」
「そういうことかよ」
ちょっとフロレンス。勝手に納得しないで説明なさい。
「簡単な話だ。目的のはっきりしたそれぞれが暴走しないよう、均衡を保つため監視し合う」
「あ、じゃあ、ルルが滅ぼしたって話は……」
「たぶん本当の話だ」
ルルは今まで散々、自身で抑えることの出来ない衝動と言うものを口にしてきた。
それは自身に課せられた使命だからと。
他の三英雄達もきっとそれは同じで、しかし内容が異なる命令を持っている。
攻、守、知。
特化したそれぞれは人類の為と活動するも、過剰な行動を取ってしまう可能性を孕む。
そこで誰かが突飛な手を出した際、止めに掛かるのが他のメンバーって訳か。
普通の人間には対抗不能な三英雄の相手をするには、同じ立場しかないと。
「本当はレア・スが止めるところ、例の真実のせいで既に死亡していたと」
「自壊してお母さんが破棄した。ソラ・オプトは最初から行方不明」
「お前のママさん、よくそんな状態で製作にゴーしたな」
「ホントそれよ」
三体揃ってちゃんとした機能を発揮する所、その内の一体でも欠けたらバランスが崩壊って。
お陰で世界滅びちゃってるし。
「みんなわえの技術を応用して争った。わえ、平和を目指すために全部頑張った」
「……おい待て、ルルち。お前まさか……」
ルルが以前にバクゲキキを見せてくれた魔法で映像を出す。
フロレンスが全部言わずとも、言いたい事は分かった。
こいつは、ルルは勝利の為にあらゆる策を尽くす。
それは確かに平和へ向かう一手ではあるけど。
「戦争が不可能になるまで全て破壊し尽くす。……あの時のわえ、もうどうにかなってた」
お風呂場の壁に映された戦場には、超巨大な軍艦が存在していた。
バクゲキキは近付く事も許されず弾幕に沈み、陸を行く鉄の塊も地殻ごと消し飛んでいく。
どこからか飛んできた光線はピンポイントに貼られた防壁に阻まれ、巨体にはダメージの一片も届かない。
圧倒的な暴力が、力そのものが支配していた。
きっとエレファスが何十機と並んで一斉にハチの巣砲を撃ったところで、そもそも有効射程内へ入る前に破壊される。
この幻影で見ただけで分かる。私がひとりで挑んでも、きっと……。
「ルルち。こいつは、まさか……」
「最大の過ち。止めることのできない平和への願いが生み出した怪物」
艦首から伸びた筒が大きく輝くと、次の瞬間には目の前の大地が消え去り大きな川が出来上がっていた。
「みんな、都市が動いているように見えるから“摩天楼”と呼んでいた」
大好きな空への憧れを無視し、自身の得意な海を拠点にした超効率的な破壊兵器。
虫の要素やお母さんへのリスペクトもなく、ただただ勝利する事のみを目的とした完全なる兵器。
「そいつを使い、全てを滅ぼしたと」
ルルが頷き、再び沈んだ。
誰かが自分を騙して技術を悪用したのは確かに始まりだ。
しかしこれは、ルルがルル自身の意志で生み出し使用した。
例えそれが呪いのような効力で自身を縛る使命だとしても、抗えなかった自分のせいには違いないとルルは言いたいらしい。
救いのない奴だ。
こんな過去を鮮明な記憶として保持し続けて、だからこの世界へ来た当初の語りたがらなさにも納得がいく。
ヴェオに対する懺悔の祈りもだ。
「全部滅ぼして、終わったからこっちの世界へ来たのか?」
「っ! わ、わえはっ! もう、嫌だから技術を封じたくて、だからっ」
「フロレンス!」
ひどく狼狽したルルの様子から受け取った意味を察し、フロレンスをぶん殴る。
こ、こいつ、今までいい感じに喋ってたから好意的に思ってたけど、ここでやらかすな!
今のルルにとってそれは、こっちの世界も滅ぼしにきたとも取れるぞ!
「ぐぅおぉ……。わ、悪い、悪い意味じゃないんだ、ただ、こっちへ来たタイミングが知りたくて……」
言い訳がましいが、フロレンスの言葉に悪意が無いのは分かってる。
フロレンスはそれはそれとしてを切り分けて喋る。今回は少し状況とか相性が悪かっただけだ。
拳を沈め、私も冷静になる。ついかっとなっちゃったな……。
「わえも知らない。ソラ・オプトを見つけて、ソラを二八式軽自立機械人形として稼働させる手伝いをして、それから、本を」
「本?」
いつも式を書いてるあれ?
「んーん。わえ、リセットしたくて時の本を作ってた。時間遡行、改変のために」
「機械兵器以外にもそんなことできるんかよルルち」
「完成したような、しないような、気が付いたら摩天楼ごと──ぁ」
待て。
おい、待て。
「摩天楼、ですって……?」
「言ったな。確かに今」
聞き捨てならないヤバい単語が聞こえたんですけど。
「……白状、します」
そんな畏まらなくてもいいんだけど。
「わえが見つかった
壁に映されていた景色が代わり、森に鎮座する巨大戦艦・摩天楼が映し出される。
「地上に現れた魔界領。それが、摩天楼」
フロレンスは出現する魔物が強すぎてとか言っていたけど、そりゃそうだ。
こいつはルルが世界を滅ぼす為に全力で作り上げた最強の兵器にして、現実として滅ぼした実績を持つ存在。
「わえは、摩天楼を破壊できる人を探したかった」