「──と言う訳なので、まずは採寸」
また頭を悩ます種が一つ増えた。
摩天楼にはエレファスと同じく簡易的な人工脳味噌が搭載されており、破壊しようとすれば全力で迎撃してくるらしい。
設計者たるルルが乗り込んで無効化してこいとも思ったが、性格の悪い事に世界を制圧するための兵器に強制停止する手段はないのだという。
当時のルルは本当に失望しきっていたというか絶望しきっていたというか、マジのマヂに全てを無へ帰すつもりだったらしい。
他の三英雄の歯止めがないとこうなるって、なんてもん作ってんだよエンリカママ……。
ま、何はともあれ決戦は避けられず、ルルが自身の世界から持ち込んでしまった摩天楼とかいう超絶ヤバヤバ兵器を撃破するって目的はいい。
それが勇者に代わりこの世界を守る使命を背負いし竜人たる我が使命なのだから。
危険性を説いて国や軍を巻き込み総戦力を動かすのは簡単だ。
それこそ他の竜人達へ応援を要請するのもまた容易。
しかし、万が一にルルの技術が漏洩するって可能性を考えればなるべく大人数で戦いたくはない。
というかそもそも頭数を揃えた所であの兵器から一掃されて被害も増えるだろうし。
「ねえ聞いてる?」
ルルは本格的に攻め落とす算段が付いたら兵装や弱点等々の詳細を教えてくれるらしいが、まだ時期じゃないとの事。
どうしてと言いかけたがその判断にはフロレンスも賛成していたし、今すぐ行動しようと無理強いはできなかった。
というのもだ。
まずとある場に現在安置されている摩天楼は各国の監視対象であるので迂闊に手が出せず。
次に万全を期すならこちらで起きている問題を解決してからだと、それぞれ説明されてはね。
「おーい。もしもーし」
上空でルルを襲った黒い手の魔法。あれがどこから誰が何の目的で飛ばしたかが判明しないと、迂闊に行動ができない。
摩天楼との対決中にアレが邪魔に入ったら? それとも技術の横取りを狙って来たら?
なんにせよ先にこっちの正体を掴んで──
「んがっ」
「あ、起きた」
「……寝てないし……」
「それは起きたばっかの人がいう言葉なの」
夕暮れの教室、そういえば今日は学園祭の準備中だったっけ。
目の前で私の顔を覗き込んでいたルルと委員長が呆れた顔をした。
しまったな、つい物思いにふけっていた。黒い手については新聞部の続報を待つとしよう。
「それでさっきの話なんだけど」
ごめんごめん。
それで、何の話?
「もうっ。ほら、この翼とか尻尾とかってどうやって服に通してるのかなって」
「わえは自分で穴開けてるって聞いた」
ばさっと翼を広げて伸びー。
人にこういうオプションはないものね。気になるか。
「まずは最小サイズに縮める」
物理的にどう縮んでいるのかは分からないけど、ぎゅっと小さくすると手のひらみっつぶんくらいの面積になる。
小さくするとそれ相応に柔らかくなるので、この状態で着替えたりアクセサリーを引っ掛けた後に……。
「こう、いつものサイズにする」
「おおー」
「尻尾も同じ感じ?」
「だいたいそうね」
ただ尻尾は元々よくしなるというか曲がるというか、融通が利くしわざわざ限界まで小さくする必要ないんだけどね。
「その尻尾って器用よねー。人捕まえたり持ち上げたりする力もあるし」
「第三の腕として役立つわよ。……平時はね」
「んゆ?」
委員長が尻尾をぺたぺた触るので、持ち上げて近くの椅子に座らせる。
「たまに、たまにね、私の尻尾があることに気が付かなくて扉に挟まれたり踏んづけられたり……」
「あららら。地味に痛いやつ」
「いや痛くはないんだけど、扉が壊れたり転ばせちゃったり相手が可哀想で……」
「あそっち」
そんな程度で傷のひとつつかんよ。
それはともかく、急にそんなこと気にしてどうしたの?
「ほら! ドラゴンメイド喫茶の衣装! あれの制服デザイン考える時に、翼と尻尾の大きさとかどうやって衣装に通そうかって話に悩んでてさ」
ああー、それでか。
「アマデオは? 衣装はあいつの仕事でしょ」
「なんらかのハラスメントになるからって買い出しに行かせた」
「……なんかかわいそうね」
翼や尻尾を見せることに抵抗はないが、キモイ目つきで観察されると思うとなんか嫌だな。
「というか! さっきからあんたわたしの名前ちゃんと呼んでない! また委員長に戻ってる!」
いいじゃん委員長だし。
「リ・ヴィ・ア! 覚えてね!」
「わえの名前に似てる」
「ルルちゃんとはあんまり似てないと思うけど」
迂闊なんだよぅオル・ガ・ルヴァぁ……。
「まぁいいや」
「あんまりよくないけど話進まないし次いこっか」
うむ。それが賢いぞリヴィア委員長。
「それで質問を戻すんだけど、その翼とかの大きさってそのサイズが一番いいとかってあるの?」
「ん? んー……」
ああ、だいたいいつも同じサイズにしてるけどってことか。
遠からず近からず。
「これらのサイズ維持は無意識にできるというか、意識して大きさ変えない限りそのままになるのよね」
翼を触っていたルルをどかして立ち上がり、伸縮させる。
最小最大どのサイズでもいいけれど、しかし私にも生活がある。
「だから、普段は一番バランスがいいこのサイズにしてる」
「お。見慣れた大きさ」
そう。翼も尻尾も邪魔になるなら一番小さくすればいいとは確かに思うだろう。
でも私は竜人でありその誇りがある。
故に日常生活であまり邪魔にならないかつ、威圧しない程度かつ、かといって舐められない良い感じの大きさにしているのだ。
まぁ殆どは重量とかファッション性を考えた諸々のバランスだけど。
ほらさ、アンバランスだとなんかこう、カッコ悪いじゃん?
「ふむふむ。じゃあ、メイド服に似合う大きさをこっちで考えて設計しても」
「ぜーんぜん大丈夫。というか、そうするもんだと思ってた」
「いやいや、リアリティは大事だからね。折角聞けるなら反映しないと」
それもそうか。折角だしと取材は大切。
「じゃあ考えるのはオプション部位の固定方法、脱着が容易でふいに取れにくい感じのを……」
よく考えてるなー。
あ、ねえ。この頭に付いてる角も忘れないでね?
というか正面から見て一番目立つ部位なのに全然これに対する疑問はないわけ?
もしかして慣れ過ぎて気にしてない? 付けてる本人が一番気にしてるのに? おーい。
「設計中に邪魔するのはだめ。わえも邪魔されたら怒る」
「あんたが怒ったって大して怖くないでしょ」
「がおー!」
あーこわいこわい。
ところであんたのぽっぽ焼き、あいや、決定したのは笹団子か。
あれってどうなったの?
「作り方の詳細は渡してあるから試行錯誤中。わえが口を出すよりきっかけを与えて任せた方がより進化する」
「進化て……。……あ、そういう……」
「んゆ?」
以前からルルが口にしている、きっかけを与えたくないって言葉。
そうか、それが世界が滅んだというか滅ぼさざる得ない状況に陥った原因だったからか。
「もし私達の教室がおいしい笹団子を作れたら、この町の新しい名物になるかもね」
「ドラゴンメイド笹団子!」
「……いや、竜人要素はいらないでしょ……」
ご当地銘菓、竜人印の~とかってした方が売れそうではあるけど。