ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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35 黒い魔法

 

 

 

 尻尾による薙ぎ払いを側転でかわした小さな影は、着地と同時に低姿勢のまま懐へ飛び込んでくる。

 これを迎撃するには何が適切だろう? 剣で、いや拳だ──。

 

 

「ほいよっと」

 

 

 一瞬迷って腕を振ろうとした時には遅く、お腹を蹴り飛ばされた。

 

 

「ひっとあんど、あ・うぇーい」

 

 

 鱗のお陰で痛みはない。衝撃だけ。

 相手は蹴っただけでダメージを与えられないのは承知で行動したらしく、くるっと鮮やかに宙で身を翻しながら適当な言葉を抜かした。

 もう完全に舐め腐ってる。というか今の一連の流れも、自分の方が武芸に秀でているぞというアピールに違いない。

 

 むっかー。腹立つー。

 

 そら確かに今まで竜人パワーで全部なぎ倒す脳筋スタイルでやってきたけどさー。

 こうも明らかな技量差を見せつけられるとこう、負けん気がよぅ。

 

 

「ま、ダメージないなら撃破はされないしあんたの体力負けが先ね」

「理不尽の化身だなぁホント」

 

 

 フロレンス・バタイユと剣道(ケンドー)での対決。

 折角だし一本やってみようぜと誘われたので乗ってみたものの、流石というか自信に偽りなしというか。

 他の生徒やルル相手とは全く違う、実戦を通して鍛え上げられたであろうそれが動きからすぐ伝わってくる。

 

 ふざけた言動しておきながら、明らかに別格なのだ。

 こっちは使えるものをフルに活用してるのに対して未だに剣を抜かず、前と一緒でポケットに手を入れ足技だけで竜人をあしらえるって相当だぞ。

 

 

「力技は通用しないし、かといって小技も苦手だし──」

「おらよっ」

 

 

 どう攻略したものか思考に耽っていると蹴りが飛んでくる。

 首を狙ったそれを受け止め、枝のようなその足を掴もうと手を伸ばしたがもうそこに足はない。

 代わりに伸ばした腕の関節を狙った踵落としが決まり、その反動でフロレンスは離脱する。

 やはり完全に動きを読まれているというか、誘われた通りに動いてしまっているというか。

 

 

「ああ、竜人殿の体表に浮かび上がる鱗がえっち……!」

「ちょっとアマデオ。集中してるんだから異常性癖はそこまで」

 

 

 攻撃を受けた部位は衝撃に反応して鱗が浮かび上がる。

 この鱗がある限り攻撃されたとて痛い訳じゃないけど、油断はできない。

 鱗があるから絶対無敵というわけでなく、高威力でぶち抜かれたら流石に竜人とはいえ耐えきれないからだ。

 

 もしこれが実戦で、フロレンスが本気の場合。

 あのポケットから手を抜いて、剣や魔法を使い、本気で私を倒しに来た場合。

 

 足だけで何度も懐に潜り込まれ、連続で攻撃を許しているんだ。

 フロレンスの隠し玉というか奥の手というか、持っているであろう何かで私はやられている。

 それも、とても容易に。

 

 

「ねえ、ねえ」

「なによルル。試合中は一騎打ちよ」

「フロレンスなら遠慮なしに攻撃していいと思う」

「遠慮なしって」

 

 

 遠距離会話の透明板をぺいっと手で払い、正面を向き直すとフロレンスから魔力が出ていた。

 ようやく足技だけでなく魔法も使う気になったか。

 ルルの時と同じく、段々とペースを上げていくらしい。

 

 

「無意味よ」

「ダメージを与えるって点ではな」

 

 

 ずどん。

 頭頂に降り掛かった黒い滝のような魔法は、ルルの時と同じく真下へ向けるあれだ。

 宙に出した黒い球体の真下へ撃つだけの単純で避けやすい攻撃だけど、あえて受け止めてみた。

 一つ、確かめたい事があったから。

 

 

「んー。重たいわね」

「魔力を凝縮し叩きつける。質量を感じても不思議じゃない」

「ふぅん」

 

 

 前にルルがこの魔法を見た時に、ちらっと言っていた事。

 確か、“計器がおかしい”だったわよね。

 

 

「周囲の重力を巻き込むもんだからな」

「それで。他にこの手の魔法は?」

 

 

 叩きつけていた滝のような魔法が消え、ポケットから引き抜かれたフロレンスの手に力が宿る。

 ルルが襲撃を受けた際にも同じような事を言っていたし、黒い魔法というのも一致していた。

 疑いたくはないが、しかし貴重な手がかりであることに違いない。

 

 

「得意だぜ」

 

 

 フロレンスは呟いたが何も起こらない。

 ただ、胸の辺りに違和感を覚える。

 ……ん?

 

 

「魔法陣?」

「──計器に異常」

 

 

 くるくると胸の辺りを回る魔法陣が成長した。

 時間が経つのに合わせて幾つも増えて重なっていく、なんか嫌な予感はぬぐえないしルルも例の言葉を発してるし──

 

 

「時間切れだ」

「ぱぁっ!?」

 

 

 目の前が暗くなって、背中に衝撃が、あ、あれ……?

 

 

「いた、い……?」

「ほほー。流石にこれだとぶち抜けるのか」

 

 

 何が起きたの。

 爆発した。魔法陣を中心に?

 あれもしかして、鱗の防御力を上回ってダメージが来た?

 

 

「めっちゃ凝縮して臨界点で爆発。まぁ一瞬ブラックホールが発生するみたいなもんだ」

「……言葉の意味は分からないけど、高度な回復魔法に加えてこれもってあんた本当なんなのよ」

 

 

 起き上がって身体を確認すれば、体操着の全面が消し飛んで鱗が代わりに露出していた。

 うん。上裸みたいなもんだし鱗は出現させたままにしておこう。恥ずかしいけどないよかマシだマシ。

 

 

「まだやるかい?」

 

 

 もちろん──と言いかけ、審判をしていたリヴィアから待ったがかかる。

 

 

「時間。あとその恰好、だいぶ危ういから」

「ハァハァ……ン竜人殿ォ……」

「うわきっしょ」

「うーん。やめとくか」

 

 

 しょうがない。

 悔しいけど、粘った所でみっともないとこ晒すだけになりそうだし。

 今日はドローってところでひとつ。

 

 

「ほいよ上着。ひとまずそれで隠しとけ」

「いやあんたの小さいから」

「そお?」

 

 

 フロレンスが羽織ってるやつくれたけど、小さいなおい。

 

 

「つかあんた、私にダメージ与えるなんてとんでもない威力よ。そんな魔法覚えて誰に撃つ気なのよ」

「どうしようもないレベルの魔物くらいだな。人には撃たねえよ」

「いや私に撃ったじゃん!」

「危ないと思う」

 

 

 ルルの言う通り、これ私じゃなきゃ消し飛んでるよ!

 てか私にダメージ通す威力って、あんたちゃんと魔法の把握できてる!?

 

 

「できてるできてる。流石に威力高くて危ないから杖抜きで撃ったし」

「杖ありだとどうなるっていうの!?」

「流石にドラゴンガールでもやばいんじゃない?」

「そんなものをお気軽に差し向けるな!」

 

 

 魔法補助の杖というのは、威力や命中率の向上に詠唱時間の短縮等々使うものだ。

 フロレンスの口ぶり的にこの爆発魔法を更に強化できるみたいだし、マジでなんなんだよ。

 回復に特化してるだけじゃなく、攻撃もこんなレベルでできるっておかしいだろ。

 

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。これはチャージ完了まで時間かかるし隙だらけな単発高威力なだけだし」

「言いながら私に向けて魔法陣展開しないで貰えるかなぁ!」

「なにそんなぴりぴりしてるんだよ」

「するわ!」

 

 

 ぱぽん、と胸元で小さく魔法陣が弾ける。貯めきってない状態なら大した威力ないみたいだけど怖いな。

 私はねフロレンス。あんたがまだまだ奥の手を隠し持ってる上に自慢の鱗を超えられたのがショックなの。

 というか剣道としてもドロー宣言したけど事実上負けだし!

 

 

「まぁまぁドラゴン娘。例の摩天楼と戦う前に目標ができてよかったじゃんか」

 

 

 ああ?

 

 

「今はこの程度で流してるが、オレと本気で戦い勝つ。──ぐらい出来なきゃだろ?」

 

 

 そりゃあまぁ、そうだけど……。

 確かに摩天楼をぶっ倒すなら私自身も竜人という身に慢心せず、訓練とかした方が良いかもなぁ。

 少なくともフロレンスを粉々にできるようじゃなきゃ話にもならないだろうし。

 

 

「わえも賛成。強ければ強いほど安心」

「ルルちもそう思うだろ?」

「強い素体と装備は大事。レア・スはその点すごかった」

「というわけで、今度迷宮いかね?」

 

 

 地下迷宮(ダンジョン)に?

 

 

「ヴィオレッタ……ああ、うちの身内な。そいつが見つけたって報告くれてな」

「見に行くから一緒にって?」

「そゆこと」

「わえも行くー」

 

 

 ま、折角だし行くか。

 竜人の身で生徒ぼこった所で戦闘経験の足しにもならないだろうし。

 馬鹿にしてるとか慢心してるとかじゃなく、単に種族さがさ。

 

 

「うし決まりだ。じゃあ次の休日に」

「おっけー」「やったー」

 

 

 鎧、は着る必要ないし戦闘衣装か。

 そういうの用意しとかないとね。

 

 

 

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