ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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36 ルル・エネルギー

 

 

 

 肉体も武器の一つ。

 竜人たるこの身は人間と同じ特徴を、というより人間の身体をベースに竜の要素が組み込まれているが、秘めたる力は全く異なる者だ。

 まぁ散々今まで見せた通り、単純な身体能力が段違いに違う。

 腕力脚力動体視力、ともかく鱗抜きでそもそもの基準が人間の遥か彼方上空に鎮座している。

 

 更に付け加え第三の腕や武器として扱える伸縮自在の尻尾、尻尾ほど器用ではないが二枚あるし面積もあるので使い道の多い翼、身を包み元から高い耐久力を底上げし魔力の貯蔵庫ともなる鱗、視界を狭める頭の角──等々。

 とにかく竜人とはかつて世界を魔の手から取り戻さんと生み出された種というだけあり、幾ら私が年若い見た目通りな年齢とはいえそう簡単に敗れてはならないのだ。

 

 しかし先日、私はフロレンスに負けた。

 正確には時間切れの引き分けとなっているけど、ただのいち人間程度に引き分けな時点で負けも同義だ。

 こちらの攻撃は全て見切られ、向こうからの攻撃は食らう。なんて情けない。

 

 

「待ってろよフロレンス……絶対にその四肢引き裂いて地と海にばら撒いてやる……」

「なんか殺意がすごい」

 

 

 梅干しをぱくり。んー、すっぱい。

 いやこれ食事処でいう言葉じゃなかったね。

 折角のご飯なんだからおいしく頂かないと。

 

 

「ルルそれ取って。お魚」

「ん。ところでなんでわえ、連れてこられたの?」

 

 

 今日は少し食べたい気分なので。

 

 

「わえ、食べないよ?」

 

 

 ルルの身体は人形であり、故に食事が必要ないというのは承知だ。

 だから連れて来た。

 

 

「んゆ?」

「ふたり来て一人前しか頼まないのは不自然でしょ?」

「うん」

「こういう場合、あんたの分も注文しないといけない」

 

 

 食べ終えた皿をルルの前に置いて交換。

 つまりだ。お肉もお魚も私は食べたい気分だったって訳。

 

 

「……ひとりで頼んじゃダメなの?」

「恥ずかしいじゃない」

「ええー」

 

 

 その点ルルはいい。

 食べない食べられないっていうのが本人も分かっているし、遠慮はいらない。

 いやぁ便利なところもあったもんだね。

 

 

「わえ、嫌われるかと思ったけどこれは予想外」

「予想?」

「この身体、普通じゃないから嫌がるかなって──」

「──何言ってるのよ」

「えっ……」

 

 

 ──嫌いなのは元からよ。

 

 

「ええー!?」

 

 

 ほーれほれ。この焼き加減最高だぞー。

 いやぁ食べられないなんてかわいそうになーんー。

 

 

「ひどいと思う」

「冗談」

 

 

 ま、元々嫌いだったのは確かよ。

 ルルが、というより異邦人全般がね。

 

 

「やった。じゃあわえのこと好き」

「嫌い」

「ええー!?」

 

 

 なんというか、勇者様勇者様って異邦人を祭り上げる風習あるじゃない。

 竜人としてそれが面白くないと思ってただけって気付かされてね。

 

 というか。

 オル・ガ・ルヴァっていう異邦人を敵視してる程度の自分がこう、虚しくなってきたといいますか……。

 こんなやつ相手にしたところでなっていう、のがさぁ……。

 

 

「よくわかんないけど、わえが小ばかにされてるのはわかる」

「あ、このタレすっごいおいしい」

「誤魔化した」

 

 

 もう一つ理由として、言いたくはないけど弱みを見てしまったという点がある。

 経緯や戦績はどうであれ一緒に戦って過去を知れば、よっぽどのアレじゃない限り敵視はできない。

 

 

「じゃあわえと仲良し」

「ではない。調子に乗るな」

「がーん」

 

 

 相手の意を尊重せず偏見と嫌悪で接する癖がつかないよう努力しますってだけ。

 無論理由があれば敵対する事もある。敵にならないよう気を付けろよー。

 

 

「……そういえばルル」

「にゅ」

「あんたって食事をしないのにどうやって動いてるの?」

 

 

 微生物であれ虫であれ人間であれ竜であれ、生きとし生きるモノは全て食べてエネルギーとしている。

 自然の循環の輪でありこの世界のルールのようなものだけど、じゃあ食事をせず動くルルは一体どうなっているんだろう。

 無から魔力を生み出すなんてできっこないだろうし、かといって周囲から取り込むなら効率が悪すぎるし。

 

 

「えーっとね、分かるように説明をするには……」

 

 

 言語を整理するため頭を抑えている。

 こういう動作も人間ぽいっていうかさ、よくもまぁ作ったもんだ。

 

 

「まずわえの身体、大まかは合成虫(ごうせいちゅう)と同じ素材」

「まさか、虫?」

 

 

 エレファスの中身がひっくり返した虫みたいなもんだったし、こいつもそうってわけ?

 がた。と椅子を引けばルルが悲しい顔をした。

 

 

「素材が、素材がね。金属より丈夫でしなやかで軽いから、素材だけなの!」

「触角とか足とか詰まってるってわけ……?」

「違うってば!」

 

 

 それはそれでキモいな……。

 まぁいいや。気になるからってルルを頭からかち割る訳じゃないし。

 

 

「合成虫は見た目を虫に寄せただけで、元の素材は巨獣っていう魔物みたいなのでねっ」

「はいはい」

 

 

 説明を省くためにエレファスを例に出しただけね。

 

 

「とにかく、わえは動くのにそれほどエネルギーを消費してるわけじゃないの」

「食べなくてもいいくらいに?」

「そう! 効率化の頂点、お母さん超すごい」

 

 

 じゃあ、飛行練習の時に魔力切れとかで休んでたのは?

 

 

「出力に限界があって、ええっと……」

 

 

 また整理中か。

 翻訳しきれない、こっちの世界に無い用語とかをかみ砕いているんだしゆっくり待とう。

 そもそも最初の頃は会話が成立しなかったんだ。待って話合えるならそれでいい。

 こいつも噛み合わないのを分かって合わせてくれてるんだよなぁ。

 

 

「はい!」

「ん。どうぞ」

「わえのエネルギーは、ダムです」

 

 

 やっぱ会話成立しねえわ。

 今日はもう解散ってことでひとつ。

 

 

「待って、待って。続けるから」

「はいはいはい」

 

 

 それで?

 

 

「えっと、この時代にもダムはある、よね?」

「貯水池の事でしょ? この近くにあるヒサ湖もそうよ」

「んー。んんー、ちょっと違うけど大体合ってるしいっか」

 

 

 翻訳の都合かそれとも技術水準の違いか。

 ともかく大体合ってるならいいでしょ。

 

 

「えっとね。エネルギーを水として、池に貯める」

「はい」

「そこからバケツで汲んで使う。それがわえ」

「う、ん」

 

 

 急に雑なわえが出て来たけど、なんとなくわかった。

 

 

「膨大な魔力を貯められる竜の鱗を持っても人間は身の丈以上の魔法を扱えない。そういう話ね」

「たぶん合ってる。だからわえも飛ぶ時は効率を考えないといけない」

「でもルル」

「んー?」

「それだとあんた、いつか死なない?」

 

 

 今の話だと一方的に消費しているだけだ。

 いくら身体を動かすのに消耗はないと言っているとはいえ、足されないならいつか……。

 

 

「んふふ。人間より長生きするってお母さん言ってた」

「そう? ならいいの……かな……?」

 

 

 長く生きればいい、のは確かだけど。

 人工物なら寿命が決まっているからその宣言がされているだけ、いやでもそもそも生物も100年しない内に竜以外は寿命で──

 

 

「──どうしたの?」

「なんでもない。寂しくはない?」

「んゆんー」

 

 

 首を傾げた。

 いつか終わりが来る、というのを理解しているのならいいけど。

 でもエネルギーを補充すれば長生きできるだろうし、ならそうしたいとか思わない?

 

 

「思わない」

 

 

 淡白な答えが返ってきた。

 

 

「わえ、わえ達《三英雄》は未完成。だって三体揃わないと正常に稼働できないもの」

「そういうことじゃなくって」

「違わなくない。わえは、《三英雄》だけでなく個人でもそう思ってる」

 

 

 緩やかな自死願望。

 こいつの過去を考えれば分からなくもない、けどさ。

 

 

「色々見て来たから」

「……そう」

 

 

 無理は言わない。説得もしない。

 私よりこいつの方が色々考えて、色々苦しんだろうから。

 だから何も言わない。言えない。

 

 それにきっと、摩天楼なんてものがある限り止められたもんじゃないから。

 摩天楼は様々な思いの象徴だ。ルルの意が籠った全てだ。

 

 

「せめて漬物の語り合いくらいできればいいのに」

「消化器官がないからなー」

 

 

 強くならなきゃな。

 

 

 

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