目を開けると、そこは深い森の奥らへんのどこかだった。
こういう急激な環境変化は
「あ、霧。ヴェオもきてたー」
「ここが最終ステージ、暗黒の森にございまぁす」
フロレンスがそう告げるが、暗黒の森とはいったい。
それとルル。危ないからここでお祈りはやめておきなさい。
「一集団、あるいはひとつの町。そういうのが
「序盤というか、色々ショートカットしちゃってよかったの?」
「弱い魔物と入り組んだ地形で時間が無駄になるだけ」
大まかはドラゴンスレイヤーの時と一緒か。
迷宮の名の通り、迷路と魔物がセットになって最深部への到達を阻んでいる感じの。
あ、こらルル。ふらふらどっか行くんじゃない。
「最終ステージのこの森もルールは変わらない。敵が出るから切り抜けながら進む」
「おーけー。他には?」
「前は雑魚ラッシュが最後のイベントだったが今回は違う。ボスだ」
「ほう」
ボスと言えば、真っ先に思い浮かぶのはレーヌカーニバル。
確かにああいうタイプの敵ならば練習になりそうだ。
魔法が効かないから物理だ、とか爆発も物理だから効くぞ、とか色々考える所あって楽しくはあったね。
「お、ボス戦を楽しめるなら見どころありだ──」
フロレンスを尻尾で抱えて引き寄せ、森の奥から飛んできた矢を弾く。
ふむ、弓兵か。しかしエレファスが使っていた蜂の巣砲のが断然脅威だね。
ただの矢の一本でこの私を倒す事などできぬぞ。
「いっぱいなんか来てる」
「あんたの大好きなヴェオじゃなくて?」
「ヴェオはもっと不干渉。でも歴史が好き」
「さぁ守ってくれよ守護竜さん」
見た目はお転婆町娘なのに、態度が嫌なやつだなほんと。
「あ、それと練習にならないからなるべく鱗防御は無しな。ちゃんと何かで防ぐ練習しとけ」
「確かにそれは必要ね」
いつも竜人のパワーで全てを薙ぎ払ってきたので、それに頼らずどうにかしてみようというのには同意。
といっても現在は無手なのでどうしたもんか。
「犬出て来た」
「……これは犬とは違うんじゃないかなぁ」
がさがさと森をかき分け出てきたのは、人型ではあるものの全身に毛が生え狼の顔をした者だった。
フィクション作品とかで獣人と呼ばれるタイプのあれだ。
魔物であることに違いはない。
「潜んでる弓持ちの数は分からないけど、前に出てきたのは5体」
「倒しちゃうの? かわいいのに」
「あんたね……」
戦う気のない二人を尻尾と翼で庇いつつ、フロレンスから虫網をもぎ取り手頃な獣人の頭へ被せて混乱させた隙に引き寄せ蹴り飛ばす。
ごきゃ、と絶命する音が聞こえた。なるほど。この程度で倒せるのか。
「命を奪うってのも気楽なもんじゃないわね。ほんと嫌な感触」
「そういう嫌悪感を相手に抱かせるのも魔物の生存戦略だ。生き物じゃねぇけどな」
ひとりがやられたのを皮切りに、残りの4体が一斉に襲い掛かってきた。
棍棒持ちが2、素手が2。
「下がってなさい」
「お手並み拝見」
「ふぁいとー」
棍棒の振り下ろしを身を逸らし避け、見えた背中に肘を入れて撃破。
流れで正面にいた武器無しの胸元へ頭突きを叩きつけると、角が刺突武器として役立ったのか嫌な感覚が伝わった。
もう。こんな生々しいだけの攻撃には役立たなくていいんだよお前。
その横にいた素手その2が拳を振り上げていたので、高速ドラゴンアッパーひとつ。魔物より竜人の方が強いのだ。
「タスケテー。ワタシハココヨー」
「棒読み!」
漏れた最後の一体、棍棒持ちがフロレンスへ襲い掛かろうとしていた。
あんなもんに殴られたところで痛くもないだろうが、今日は護衛対象だから守らねば。
尻尾……は使っていいんだっけ? いいよねこれくらいは。
相手の胴体へ巻き付け、引き寄せながら持ち上げる。
「おっと危ない」
矢が飛んできたので持ち上げた獣人で防ぐ。さくっと良い音した。
これぞドラゴンガード。
「かわいそうだと思う」
言うなルル。これは戦いだ。
「いよいしょぉっ!」
高さを固定し、動けない相手へ思いっきり拳の振り下ろし。
倒された魔物はしばらくすると消えるって言うのが
「そこに潜む者よ! 貴様もこうなりたいか!」
がさがさと音はしたけれど出てこない。
それどころか気配が消えた。逃げた様子だ。
全く。魔物には武士の志がないのか。
「逃げたっぽい?」
「んだな。前衛が消えたのも合わさって不利を悟ったんだろ」
ふう。
それにしたって、ゴリ押し抜きにまともな戦い方するとやりにくいわね。一体抜けられて後ろが襲われてたのもフロレンスがわざとらしく叫ばなきゃわからなかったし。
いつもというか普段というか、縛り抜きでやるなら初手で尻尾と翼からの砲撃で終わったんだけどなぁ。
「反省はできたか?」
「ええ。確かにこう色々視野を広げて考えて戦うならあんたの強さも納得ね」
「だろぉ? いやー、このアルティメットバーニングサバイブ美少女ことフロレンス・バタイユ様は日々──」
「行くわよ」
「ちょ」
構ったってしょうがない。
「ルル。置いてくわよ」
「ん」
また霧に心を奪われているルルを引っ掴み、森を直進していく。
飛んでもよさげだけど、名目は訓練だからね。
ただ、どうすればいいかなんてわからないのが難点。
その辺はフロレンス的にどうなの? 何かある?
「打ち合い競り合いよりも自身の欠点や戦闘時の視点を広げてスペックを生かせるようにすればいい。そうすりゃオレも摩天楼も超えられるはずだよ。むしろそうなってくれなきゃ困る」
やっぱりそうなるか。
竜人が武術だの戦略だの学びだすだけで色々世間様は警戒するけど、若人の身だし趣味や興味で納得してくれないかなぁ。
だめ? んんー、フロレンスの家を借りてこっそり勉強とか……。
「ねえ、ねえ。わえは?」
「ルルち? ルルちはそうだなぁ、装備の拡張性を高めてあらゆる状況で一定の戦果を出せるようにしてみるとか」
「おー。それっぽい」
「折角そんな身体なんだし、活かしてみるのがいいと思うぜ」
ルルが強化されたら間接的に困るの私達では?
摩天楼戦だとルルは敵側に回るんでしょ?
「そういやそうだな。敵に戦術戦法筒流し」
「んふふふ。難易度上昇」
「や、困れしなり」
「いよー、ぽん」
「かかん」
なんの漫才……? 息ぴったりねあんたら。
いつの間にそんな仲良くなったのかしら。
森の切れ目に敵の影が見えたので、石を拾って警戒しつつてくてく。
お、予想通り矢が飛んできた。
石で弾いて投石。撃破。
「お花ー」
「紫苑の花よ。
「オレの記憶だと全知の意味だっけ」
「全然違う。追憶の意よ」
どこの誰かもどの町かも分からない誰か達の為にも、早くここを攻略して眠って頂こう。
「とにかくセーブポイントだ。ここでひと休憩してボス戦だが……」
「疲れてないわ」「どうかん」
「だよな」
そんなに戦ったわけじゃないし。
「んじゃ、気を引き締めてけ。これより先は地獄いき」
そんなに言うんだからさぞ強いボスであろう。
期待半分、恐れ半分。
万が一ならフロレンスも訓練を中止で色々やるだろうし、そこは信頼しておこう。
紫苑の群生地から徒歩数分、到着したのは崖の下だった。
ただの崖下ではない。
何かを運ぶ途中だったであろう荷台が散乱しており、さらに漁られたか襲われたかしたであろう惨状のままとなっている。
盗賊に襲われ崖に落ちたか、落ちて襲われたか、何にせよこんな状態ではさぞ無念だったであろう。
これが、今いる
「ボスがいるんでしょ?」
「のはず。そいつを倒しアイテムを回収してクリアだ」
「ふむ。にしては静かね」
時間が止まったように物音ひとつしない。
「見えない敵が様子を伺ってる、とか」
「あり得るかもな」
「ちょっと。あんたの腕輪は何か情報くれないの?」
「ノーコメントで」
都合よく役に立たない奴だ。
「ルル。あんたの計器だかに引っ掛かってない?」
「んー、まぁそれくらいはセーフか」
振り返る。フロレンスがいた。
フロレンスだけがいた。
「え?」「は?」
自称美少女のいつも余裕な顔が珍しく崩れる。
だってルルが、忽然といなくなってた。
「さっきまで、いたわよね」
「いたな。オレの横にいた」
「それで?」
「……いなくなった」
目を離した隙にいなくなるにしろ、フロレンスが気が付かなかった?
こいつはこれで色々気を配るやつだ。ふらふらっと動けばすぐに止めるハズ。
ルルにこっそりこの場を抜け出す理由も方法もないのに……。
「──似た匂いと思いましたが、お人形でございましたか」
どこからか、第三者の声がした。
しかしどこから声がしたのかは分からない。
右か左か、上か下かも分からない。
「ここは特別な地。墓荒らしとするのであれば容赦は致しません。どうか身を引いて頂けませんか?」
また声がした。でも場所が分からない。
少しも気配が読めないなんて、どうなって──
「道化師」
「どうした?」
「前のボス、道化師も同じように常識が通用しなかった」
「普通はこういうやべーやつ出てこねぇよ」
フロレンス曰く、異常なレベルのボスらしい。
そもそも強い魔物が出てくるだけがボスなのに、喋ること自体がおかしいのだとか。
じゃあ今の相手は?
「とんでもなく強い手合い、強い思念が形を取ったとか……」
「あんたでも知らない事があるのね」
「これ以上場を荒すなと申したいのです。
また声がした。
心なしか先程より力が籠ってるように聞こえる。
「フロレンスは離れてなさい。ゆっくり、ゆっくりね」
「……一般人として、それに従おう」
まだその設定生きてるんだ。
後ろ歩きにゆっくりフロレンスが森へ向かっていく。
「そうですか」
落胆の声色。
途端に強まる殺気と、それに反応し引く血の気。
まさか、竜人たる私が気圧され──?
「──
瞬間、大きく身体のバランスが崩れた。
いいや違う、この感覚、前にフロレンスに爆破されたのと一緒だ。
え。じゃあさ、攻撃を受けたってこと?
つまり、痛い?
「ふっ、う……」
耐えられる。これくらいの傷みがなんだ。立て。
どこを斬られた。何が起きた。
いや、敵はどこだ? 追撃は?
「おや?」
崖を背にした誰かが目に入った。
「やはり鈍りましたね。自信はあったのですが」
そいつは細身の剣をくるりと回して血を払うと鞘へ納めた。
この状況に似合わない、魔物やボスと言うにはただの人間過ぎる風貌だ。
というか、メイド服? なんでメイド服なんか着てるわけ?
糸目なのか瞑ってるのか分からない顔でこちらをじっと向いている。
「続ければ、血の匂いが増えちゃうんじゃないかしら」
「それもそうでしょう。しかし荒らされる方も問題なのです」
「あんた、現場検証か何かしてるわけ?」
「そうではございません」
話はしてくれるようだ。
会話で場を繋ぎつつ、自分の身体を確認する。
どこかが痛いけど、どこを斬られたんだ?
痛みに慣れてないからこういう時、困るな。なんか、出血が凄いのは分かるんだけど。
とりあえず全身に力を込めてどこかを圧迫。どこからか漏れてるであろう感じはなくなった。
あとはドラゴン治癒力に任せよう。ドラゴン頼む。
「では続けましょう」
やべ。
どこが斬られたか分かんないまま続いちゃうのか。