ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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39 殺意マシマシメイド

 

 

 

 半透明を経てその場に現れたとしか言いようのないメイド服の女性。

 少女、と言うにはちょっと大人びてるかな。

 とにかく……。

 

(状況は最悪だな)

 

 あの一瞬。一閃一太刀一発だけで尻尾と左翼を斬り捨てたそいつは余裕な表情で立っている。

 対するドラゴン娘の口だけは余裕だが、二部位を失ったショックというのは大きい。

 回復魔法抜きの筋肉式で止血はしたけど……うーん……。

 

(ルルちの無事も確認したいし)

 

 つかあの鱗、頑丈さが取り柄なのに俺の爆破といい噛ませになってないか?

 

 

「さて、そろそろよろしいでしょうか?」

「……」

 

 

 戦場に沈黙が訪れた。

 ドラゴン娘はふらつきながらも身体を浮かせ、側面を取ろうとゆっくり動いているもののメイド服は動かない。

 普通こういうのってお互いに動いて隙を伺う感じになるのに、自信があるんだろうなぁ。

 しゃーなし。俺がやるか? ここまで強いボスは想定外だ。

 

 

 

「──お悔やみ申し上げます」

 

 

 

 ぴちゃん。

 さっきまでドラゴン娘の立っていた空間にメイド服が現れ、もう既に残心の状態だった。

 まるで時間でも止めて攻撃を加えたかのような動きだ。

 

(外した? どういうことだ?)

 

 踏み込んだのはドラゴン娘が初撃を食らった現場、血だまりができてるその場所。

 その側面をゆっくり漂っている本人へは視線のひとつも寄越していない。

 

 

「……?」

 

 

 不思議な挙動にドラゴン娘も気が付いたようだ。

 

 

「おや」

 

 

 メイド服は不思議そうに首を傾げる。

 

 

「濃い血の匂いで見失いましたね。やはり使わぬ剣とは錆びるものです」

「……」

「しかし」

 

 

 剣を鞘に納めると高音が鳴り響き、ぐりんとその仏頂面がドラゴン娘の方へ向いた。

 ふむ。いや、分かった気がするぞこいつの特性。

 ドラゴン娘が気が付いて対処を考えられるならもう少し様子を見てもいいかも知れない。

 極限の状態、死と生の狭間で足掻くこの瞬間こそが成長に繋がる。

 

 

「ひとつ聞いていいかしら」

「はい。いかようにもお聞きください」

「ルルを、紫のもふもふしたお人形をどこへやったのかしら?」

「もふもふしたお人形ですか。そうですね──」

 

 

 ドラゴン娘が地面へ光線を吹きかけ爆音を鳴り響かせ、勢いで空へ飛び立つ。

 怪我の具合が具合なので余裕はなさそうだが、何か策を思いついたようだ。

 

 

「……お聞きしたいのでは、ありませんでしたか?」

 

 

 メイド服が顔をしかめて言うが返事はない。

 

 

「ふっ!」

 

 

 ドラゴン娘の急降下攻撃。

 だが一瞬、ほんの一瞬だけ遅く。

 空気を裂くのを肌で察したか、それとも他にも要因があったか、

 

 

「お悔やみ申し上げます」

 

 

 左腕が落ちて来た。ドラゴン娘の腕だ。二の腕と前腕がバラバラに散らかる。

 竜の鱗なんか知らないと言わんばかりに、メイド服は無慈悲に斬り捨てやがった。

 ぼとぼとと血が落ち池を作り、鉄の匂いが辺り一面へ充満していく。

 

 

「ああ、この場を汚してしまいました」

 

 

 残心を終えたメイド服は佇まいを直し、空を見上げる。

 しかしその瞳には何も見えちゃいないだろう。

 

 こいつはきっと盲目の身だ。

 匂いや音で周囲を把握し、防ぎようのない斬撃で敵を倒す。

 度々鈍ったとか言っているが十分な腕前だ。

 

(しかし、だな)

 

 腕に自信があるのはいい。

 だが、過信し慢心するのは直した方がいい癖かもな。

 

 

 

「……おや」

「妙な動きをしてみろ。その首をへし折る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイド服のボスの首を残った腕で掴み、脅しではないぞと力を籠める。

 

 私は空へ飛び立ったあの瞬間、左腕を自切した。

 腕を千切れば血は飛び散り、直前の爆風爆音と合わせればメイド服の()を奪う事に繋がる。

 正直に言えばもう死ぬと思ってるし、こんなこけおどしが通らなくとも死ぬ。

 

 私が起死回生として建てた作戦はこうだ。

 1、自信があるならそれに乗っかる。

 2、やられたフリしてこっそり近付く。

 3、何とかする。以上。

 

 やる事を決めたら後は覚悟だけ。

 足音なく浮いて移動するのはメイド服にとってあり得ない挙動らしいのを二撃目の空振りで察し、どうせフロレンスが後で治せるからと腕を投げて裏を取る。

 無茶が過ぎるし私が瀕死なのも分からないでもないだろうに、どうやらこいつ(メイド服)は聞き訳が良いらしい。

 

 

「参りました。流石に首を掴まれては動けません」

「武器を捨てなさい」

 

 

 おとなしく剣を捨ててくれた。

 

 

「他には?」

「これだけです。本日はそこまでする予定ではなかったので」

「予定?」

 

 

 あ、やべ。

 メイド服の首を掴んだまま倒れそうになり、踏ん張ろうにも足に力が入らない。

 

 

「訓練は終わりだドラゴン娘。治すぞ」

「……ええ、頼むわ」

「ったく無茶しやがって……」

「手伝いましょうか」

 

 

 おいおいおい、メイド服。お前、直前まで殺し合いしてた相手を介抱するのかよ。

 

 

「ばらけた腕に尻尾と翼。傷口は塞がってるが、こうして近づけてぴかっと光らせれば──」

 

 

 お、おお!

 なんかくっ付いてく感じする!

 でも圧倒的に血が足りない! 貧血と言われるような感じ、ああ、初めて味わった!

 どうすればいいんだろ、レバー? レバー食えばいいんだっけ? お肉食べにいこう!

 

 

「ふふ、お元気になられたようで何よりです」

「いやお前がぶった斬ったんだからな?」

「そうでした」

 

 

 で。

 まず聞くけど、ルルはどこへやったの?

 

 

「あのお人形、お譲り頂けませんでしょうか。愛しき道化師によく似ていたもので」

「……道化師?」

「はい。そちらも御存じと思われますが」

「なぁドラゴン娘」

 

 

 フロレンスが耳打ちに頷いて返す。

 ルルに似ている道化師と言われたら一つしか心当たりがない。

 この前のレーヌカーニバルだ。つるんでやがるのか。

 

 

地下迷宮(ダンジョン)のボスは裏で繋がってたりするの?」

「そんなはずない。構造的にあり得ない」

 

 

 聞いてみるか。

 

 

「レーヌカーニバルといい、あんた達は何者なの? ただのボス敵じゃないわよね」

「ボスてきの意味は分かりませんが、我々は頼まれ戦っているだけですので」

「……誰に?」

 

 

 剣を拾い、埃を払いながらメイド服が立ち上がる。

 そして、聞き馴染みのある名前を呟いた。

 

 

「エンリカ・レヴニール。その者より、この時この場で相対した者を討ち取れと」

 

 

 ルルの母の名前。

 そいつが、地下迷宮(ダンジョン)を指定してボス足る力を持つ奴を手配した?

 何のために。まさか、殺す為に?

 誰を?

 

 

「詳細は存じ上げません。ただ、ゆるい約束事でしたので本日はこれでお暇させて頂きます」

「あ。ルルちがどこにいるか結局聞いてないんだけど」

「あのお人形でしたらこの先の花畑に置きました。戦闘に巻き込まれ破損すれば価値が下がると思いまして」

「私達の所有物よ」

「残念ですが、敗者として引き下がりましょう」

 

 

 メイド服は一礼すると、てくてくと森へ歩いて行った。

 木々を抜け、霧に身を隠したその瞬間に気配も消える。

 

 

「……エンリカは何を企んでるのかしら」

「分からんが、オレ達の行動を読まれ先回りされてるのは確かだな」

 

 

 ひとつ考えられるのは、暴走した過去を持つルルを消しに来てることだ。

 レーヌカーニバルの道化師やあのメイド服を見る限り、それにしては具体性も確実性も何もない命令だけど……。

 

 

「っとと」

「慌ててもしょうがねぇ。怪我は治せても精神面はどうしようもないからな」

「はぁ?」

 

 

 一歩踏み出した足が震えている。

 手を見れば、手も震えている。

 今になって……恐怖が出て来た……?

 

 

「死ぬ一歩手前まで戦ったんだ。恥ずかしがるもんじゃねぇ」

「……あんたが治せなかったらなんて、今になって考えたら……」

「安心しろ。死ななきゃ幾らでも治してやる」

「そう」

 

 

 自信はいい。自負があるなら信用したい。

 でも、過信するのはあのメイド服の敗因みたいになるし。

 でも、助かったのは事実だし。

 

 

「……ありがと

「え、どした?」

「なんでもない!」

 

 

 

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