ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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4 食堂戦争とぽっぽ焼き

 

 

 

 これまでは行事や午前授業ばかりで食堂を使う機会がなかった(時間があったので外食していた)けれど、今日から私もとうとう学食デビューだ。しかし胸踊るというより、なんだかなーという気持ちの方が大きい。

 というのも、学園での食事は戦争みたいなものだと噂を聞いたことがあるからだ。

 

 いち早く列へ並べた者が数量の限られる良メニューを口にすることができるし、そうできなかった者は数合わせの素朴なランチにありつく他ない。お腹を空かせたみんなは殺気立って我先にと駆けるが故、それは正しく戦争だと言うらしい。

 折角の休み時間に体力と気力を削ってまで上澄みの食事へありつこうとは思わないので、急がずのんびり並んで日替わりセットの引換券でも狙っておこう。

 

 

「噂に聞いていたとはいえ、ここまでとは驚いたわね」

 

 

 ──さっきまでのんびり気楽に思ったが、列に並ぼうとした直後にもはや体当たりともいえる程の強引な割り込みに襲われた。初日初回のさっそくこれなので、戦争というのもちょっと納得だ。

 私が素のパワーで人間に負ける筈もないので逆に吹き飛ばしましたけども。

 ……竜人相手にタックルは結構命知らずだと思うな。お相手さんに怪我がなくて良かったよ。

 

 

「かないっこないのは見て分かるだろうに」

 

 

 竜の血バンザイな私は無事に引換券を手に入れられたけれど、ルルの方はといえばいつの間にか戦争から逃げ何処かへ行ってしまったようだ。

 臆病者め。他に食事のあても無かろうにどうするつもりなんだろう。

 

 

「日替わりセットね、はいどうぞ」

「ありがとう」

 

 

 まぁ。休み時間くらいはあいつから離れて休みたいしいいか。

 散開する口実を探す手間が省けた。

 

 

「いただきます」

 

 

 世間は私達竜人一族よりも異邦人、勇者を神聖視する。

 ルルの正体が周囲にバレていないとはいえ、事情を知っている私は仲良く食事なんてできっこない。竜人と勇者の間柄だし。

 あ、このおひたし美味しい。

 

 

「こういう料理も、勇者産だっけ」

 

 

 世界から魔の勢力を打ち払い王となった後、勇者は崩壊した世界を立て直そうと精力的に自身の世界の知識を広めた。

 今こうして存在している学園や料理、変わった所では“冒険者”というよく分からない職業にも拘ったらしい。

 私は勇者についてあまりいい顔をしていないけれど、平穏を過ごさせてもらっているので功績は認めざる得ないだろう。

 

 

「それほどにおひたしはうまいのだ」

 

 

 おひたしが、というよりかはお醤油が。

 白米もいいぞ。よく頑張ったな勇者。

 きっとお前がいなかったら穀物の未来はパン一択だった。

 品種改良に土地の選定、感服いたす。

 

 

「……」

 

 

 亡くなる前に残した勇者の手記によると、まだ“納豆”なる隠し玉があったらしい。

 どうも条件が揃わずこちらで再現できなかったようで、それが悔やまれる。

 なんたって白米との相性が最高だとされるんだから気になるじゃないか。

 

 

「……何してるの?」

「ぽっぽるぽっぽーぽっぽ焼き」

「行動を答えなさいよ」

 

 

 そろそろ現実に目を向けよう。

 先程まで姿を消していたルルことオル・ガ・ルヴァは、屋台を構えていた。

 

 食堂の隅っこたるそこに。

 恐らくは無許可で。

 

 

「おひとつ食べる? きっとおいしい」

「きっとって何よ。そもそもなんなのこれ、パン?」

「おやつにもいいよ」

 

 

 答えないと。

 見た目は小さなパンなのだけど、鉄板で焼いているし違うようにも思える。

 

 

「わえ、試したいことあって。空へ憧れるから、靴を買うの」

「靴が買いたくて、それで出店を?」

「でも全然売れなくて赤字。悲しいー」

「ふーん」

 

 

 四角いテーブルに鉄板を乗せ魔法で加熱して料理。

 パッと見てやってることはなるほど屋台だなとは思えど、こいつは食事を受け取る列に並んでいなかったために致命的な事を知らないらしい。

 

 

「ここの生徒そんなに現金持ち歩いてないわよ」

「えっ」

「食事も購買も、利用は生徒手帳の提示で引き換えるの。防犯上の都合でね」

 

 

 現金で取引しないのでとても便利だ。

 しかしその一方で、食事が定額となっているのために“戦争”が起きているんだし一長一短である。

 同じ値段ならちょっとでもいいモノ食べたいって気持ち、若人の食事に賭ける情熱を侮り過ぎだ。

 

 

「……戦争。ここでも戦争。きっかけはごはん」

「だから売りたいなら数少ない現金持ちにすり寄るか、表へ出るか──」

「じぃー」

「なによ」

 

 

 一応は持ち歩いてるけど、あんたなんかに使わないわよ。

 だいたいそんな意味の分からないものに。

 

 

「ぽっぽ焼き、買って」

「あらずいぶん素直」

 

 

 でも買わないわ。

 てかそもそもこの短時間でどこから用意したのこれ。

 

 

「買え」

「あーっ! 私のおひたし!」

 

 

 なに奪ってんだ返せ!

 

 

「買ーえーっ!」

「食べ物の恨みは深くなるわよやめなさい。警告よ」

 

 

 全力の殺意を向けてなおルルは引かない。

 どうでもいいところで鈍感なのかただ心臓が強いのか。

 

 

「おひたしとぽっぽ焼き、選ばせる」

「その文面なら当然おひたしを選ぶわ」

「残念……」

 

 

 待て待て待て、私のおひたしをどうするつもりだっ!

 

 

「分かったわよ。買えばいいんでしょ買えば!」

「んふふふ」

「で、ひとつ幾らなのよ」

「10本370Es(エッサ)

 

 

 束売りしかしてないの!?

 しかも高いとまでは言えないけど安いとも言い切れない微妙なライン!

 

 

「というかそれなら400にしときなさいよ切りよく。小銭が嵩張るでしょ」

「これも勉強。わえ、商いははじめてだから」

 

 

 どうやらこの奇妙な焼きパンは小さい分、紙袋に入り切る単位でしか売ってくれないようだ。

 おひたしひとつでやられたというか、こんにゃろっていうか。

 

 

「500Es玉でいい?」

「まいどー!」

「……おつりは?」

「ないよ?」

 

 

 はい?

 

 

「おこづかいないもん」

 

 

 ないもん、じゃないでしょ!

 お釣りも用意してないでなんで出店なんか構えたの!

 

 

「んふふ。なんとかなるかも」

「なってないでしょ……!」

 

 

 どこから出てくるのこの自信。

 しかもなんとかなってないっていうおまけつき。

 

 

「はぁ……。もう何本か寄越しなさい、それでいいわよ」

「10本370Es(エッサ)

「それはもういいのよ!」

 

 

 こいつを殴る権利が売ってたら即決なのに……ッ!

 

 

「もう買わない?」

「……いらない。代わりにあとで130Es返しなさいよ」

 

 

 ともかく、めんどくさいしここは引いて貸しにしておこう。

 ルル相手に押し通そうとしたとてただ面倒くさいだけだ。

 なんなんだよこいつ。

 

 

「で、結局こいつはどういう食べ物なの?」

 

 

 紙袋から焼きたてほかほかの、ぽっぽ焼きと言ったっけ。そいつを取り出す。

 パンのように見えるけれどしっとりとしていて、手に持ったらでろんと垂れた。

 

 

「黒砂糖の焼き菓子だよ。そのもっちりが魅力みたい。おいしいかも」

「“みたい”に“かも”って。あんたは食べないの?」

「さぁー」

 

 

 聞いてんのにさぁはないでしょ。何もかも曖昧だなオイ。

 とりあえず買ってしまったものは勿体ないし食べてみよう。

 

 

「……」

「どう? どう?」

「……試食、した?」

 

 

 口を付けた所から、でろっと生焼けの生地が垂れる。

 どうもルルのやつ──

 

 

「せめて自分で食べてから売りなさいよ!」

「戦争反対ー!」

 

 

 情けない声を上げながら逃げていった。

 流石のルルも分が悪い事を察したようだ。

 

 

「あとせめて屋台を片付けていきなさい……」

 

 

 勝手に食堂のいちスペースを占拠するのどうかと思うよ。

 仕方がないので代わりに片付けようと鉄板を手にして、その変わった構造に気が付く。

 熱を扱っていたのに火が見えないと思っていたけど、この鉄板自体に例の文字を刻んでいたようだ。

 

 例の、ルルが隠そうとしている謎の図形文字。

 最初に見せてくれた時は楽しそうだったのに、後は一貫して絶対見せようとしていないあれ。

 ルル自身からこれを隠そうとしているというよりかは、厳格な決めごとがありそれに従っているように感じる。

 

 

「こんなものを、ねぇ」

 

 

 線に沿って魔力を、というのは聞いていたので試しに魔力を込めてみたけど何も起こらない。

 刻んである線の一部が少し光ったし手ごたえはあるけど、どうも一手足りなく感じる。

 意味が分からなければ使い方もよく分からない。ただ、隠したいことではあるのには違いなかろう。

 

 

「私が回収しておくか……」

 

 

 そんで130Esを渋った時の交換に使うとするか。

 あいつの慌てようならきっと、すぐに乗ってくれるだろう。

 

 

 

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