「飛ぶと楽しい。風と気圧と上昇気流」
「流石に上の方までくると涼しいわねー」
「マイナス50℃は涼しいどころじゃないと思う」
「あら、お人形には厳しいかしら」
「ここで活動するように造られてない」
現在地、上空。
夏も近付き学園祭の準備も加熱する中、こうして飛んでいるのは決してさぼっている訳じゃない。
アガの街からちょっと離れて王都へと向かい、市場リサーチをするのだ。
学園祭へは外部からの観光客も多く訪れる。
なので他のクラスを出し抜き売り上げトップを目指すのなら、こうした細々とした戦略が必要となる。
故に、向かうのだ。首都へ。食べに。
「ふふふふ……」
魔力の放出を停止して完全に滑空状態──どころか翼も足も畳み、空中で体育座りになる投石状態。
攻城兵器で投げられたような感じに空をすっ飛んでいく。楽しい。
「なにしてるの?」
「食の楽しみがないあんたには関係ないわ」
「むぅ。わえ、人のふりは見た目だけ」
ちなみにルルの飛行は結構改良されているらしく、靴はそのままとして腕に風を纏う事で姿勢制御が容易となり長距離の飛行が可能になったらしい。
その代わりとして大幅に速度が下がったり両腕が塞がってるから他に何もできないとか、そういう点が惜しまれる。
「というか、そもそも停止できるようになりなさいよ。魚じゃないんだから」
「魚? お魚。海のお魚、うーん……」
「空中戦メインのスポーツだと試合以前の問題よ。改良なさい」
「さかなー」
聞き入れてるのか分からない返事だけど、ここはひとつ信用しておこう。
空に憧れどう遊ぶのかはルルの勝手だ。
めんどくさいから好きにしてくれとも言う。
「ねえ、お魚すき?」
「好きよ。色々な食べ方があっていいわよね」
「わかめは?」
「お味噌汁には欠かせない」
「じゃあわえ!」
「調子乗んなカス」
「がーん」
だいぶ高度も速度も下がってしまったので翼を広げ、風を包んで上昇。
急いでない風には見えるが、こうでも遊ばないとルルを置いていってしまう。
じゃあなんで飛ぶのが遅いやつ連れて来たんだと言えば、こいつ連れてくればいっぱい食べられるから。
2人前を自然に注文し、私が全部食う。
「もしかして食いしん坊?」
「……そういう言い方はよしなさい」
竜人の身は通常の人間と違って消費カロリーが多いのよ。
だからお腹が空きやすいし、いっぱい食べてたら食道楽にもなる。
折角沢山食べられるなら色んなものを試してみたいでしょ?
「うーん。わえは食べないからわからない」
そうねぇ……。
色んな解のある式は楽しい、とかない?
「わかる! 式の構築、効率重視のみっちりもいいけどすらっと見やすい列もすき!」
「うわ、そこまで食いつくとは思わなかった」
「んふふふ、食べるだけに?」
「やかましい」
と、そんなくだらない話してたら到着したわよ。
「あれが我らがエチゴ国の王都よ」
「わー」
アガの街と比べたら雲泥の差、大都市こそ繁栄の印。
どうだ。素晴らしいだろう。
「んゆ? なんで掴む?」
「隠れるからよ」
正面からがっつりルルをホールド、そして降下。
こいつは忘れているというか異邦人なので感覚がないのかも知れないが、この世界において竜人は希少な種とかで収まる存在ではない。
親子間の関係ですら同じ地域に固まって過ごせば警戒され、国家間の関係にも緊張が走ってしまう程のものなのだ。
そんな竜人が、まだまだ子供の竜人とはいえ王都へ現れたらどうなるか。
当然大騒ぎになる。そしてお父様がくっそ怒られる。
こないだはフロレンスのテレポーターを指して便利でいいなーとか思ってたけど、よう考えたらあちこち気軽に顔出すのヤバかったわ。
「なので」
街道の脇へ着地して、翼と尻尾を縮めて衣類へ収納。
今日はゆったりとしたスタイルなので目立たない。
「ツノー」
「今日も角の邪魔さを堪能できるわね」
こめかみから頬の横へ向かう大外周りの角はどうしようもない。
ので、髪の毛を絡ませ包んでそういう髪形ですよと。
「どう?」
「……」
ルルからの返事はなかった。
手鏡で見てみる。
「うーん、珍妙」
貴族のお嬢様方が裕福なのを主張する為に髪の毛をぐるぐる巻く事があるけど、あれ以上に珍妙だ。
というか、角度がおかしい。明らかに芯が入ってる。重力に逆らってる。
「ルル。あんたの得意な式で何とかしなさい」
「えー……」
今日ルルを連れて来たのは2人前の食事を道楽するだけではなく、こういう事態の時に式を使わせるのが目的なのだ。
え、行き当たりばったりじゃないかって? 今思い付いただろ?
……首都へ行ける、首都のご飯が食べられるってことしか頭になかったの……。
さっき飛びながら涼んで冷静になって、「あれ? これ結構ヤバくね?」ってなった。
「透明化、ステルス、うーん……。認識阻害、はわえ好きじゃないし」
「好きも嫌いもあったもんじゃないのよ。ワンチャン国際問題行くから」
「すごい必死」
ここまで来て手ぶらで帰れるかってんだ……ッ!
「そだ」
ぱららららら、と懐から出した手帳を捲り適当なページを開く。
どうやら何か策を思いついてくれたようだ。
「じゃーん」
と言われて式を見せられても全く分かりませんが。
てか見せちゃっていいのかルルの式。
「あ、だめ忘れて。わえ、困る」
「それはどういうものなの?」
「これはねー」
ページを破ってぺたりと私の額へ貼ると、満足そうにうなずいた。
いやなんなのよコレ。
「レア・スなりきりお面なのだ」
「……それは、いいの……?」
お人形とはいえ亡くなったあんたの姉妹みたいな立場だろうに、それは、色々大丈夫なの……?
こう、倫理的にというか……。
手鏡で確認してみると知らない顔がしっかりあった。角もない。
角を隠せるとて人の道を踏み外すには、いやでもご飯食べたいし……。
「んふふ。レア・ス、懐かしい顔。厳しくも優しい人類の力」
「あんたがいいなら使わせてもらうけど……」
私自身の視界的にはちらちらとページや角が見えているが、傍からはレア・スになっている。
少し奇妙な感覚だが、他人の顔を使わせてもらおう。
「ふふ、堂々とグルメ旅……じゃなくて市場調査ができる!」
「本音でちゃった」
だって王都よ!?
海に面してるってだけでそもそもアガの街とは違うの!
お刺身にイクラなんてとっても久しぶり! 竜人だからってだけで中々気軽にその辺の町いけないし!
「わかんないや……」
食べる楽しみがないなんて私は耐えられない。
もし食を奪われたら本気で暴れる。
だから行こう。王都はすぐそこ早く行こう!
「わえ、便利に使われ過ぎな気がする」
「気のせいよ。仲良し仲良し」
「んふふ。わえとなかよしー」
ごーごーごはん!