魚市場特有の生臭さというのは嫌いじゃない。
むしろここにおいしい奴が揃っているんだなと想像できるからプラス。
競りを見学し終えた我々は近場のお店へ入り、あの光景を忘れない内に海鮮丼どーん!
「新鮮なお米、新鮮な刺身、うむ。美味」
「いいなー」
「生者の特権よ」
「レア・スはご飯食べられるのに、わえはダメなの?」
いや、レア・スなのは顔だけだから。
顔借りてるだけだから。
「そうだった。違うかも」
「かも、じゃなくて違うのよ。中身は私のまま」
「わえならインストールできるかもなのにー」
……意味は分からないけど、もしかしてこのお面(式の書かれた紙)ってヤバい奴?
「いなくなったレア・スをエミュレートするための式。わえが使ったらウイルス扱いで弾かれた」
ウイルスってなに!?
人の顔に病原体みたいな単語のものをくっつけるんじゃないわよ!
これ私つけてて平気なの!?
「たぶん平気。それより──」
「多分!?」
んな曖昧な!
「ねえねえ。それより、トリブレから何聞いたの?」
「それよりで済まさないで欲しいんだけど」
「教えるから教えてー」
海鮮丼をひとつ平らげ二つ目へ。
こっちは貝やイカ等々の珍味が寄せられた、ルルみたいな中身の丼だ。
いや、見た目じゃなくって混沌具合っていうかね?
正面をみる。物理的にきらきらした目のルルが私を見ている。
いやなんで光ってるの。なんで目が光ってるの。
どこから情報を処理したもんかと頭を抱えた。
「えー。まず……」
「トリブレ! トリブレのお話!」
ずいっと乗り出した顔を手で抑えると大人しく引いていく。
最初の頃と比べて表情が表へ出てくるようになった分、喧しさに磨きがかかっている。
「トリブレからなに聞いたの?」
「そうねぇ」
──トリブレが持っていた情報は、正直に言えばそこまで欲したいものではなかった。
エンリカの現在へ直結する内容はなく、レーヌカーニバルを中心とした話しかなかったのだから。
「まずエンリカとレーヌカーニバルは協力関係にある」
「おー。わえもそこ聞いた」
私達と戦った道化師をトップとした一座、レーヌカーニバル。
ただの旅の一座であり本来であれば戦いなんて専門外かつ管轄外なのでノータッチらしいが、今回だけはエンリカからの要請ということで例外的に表へ顔を出したという。
竜人の四肢を剣の一本で斬り飛ばせるアイーダやあんな巨城を保有しておいて、よくもまぁ戦闘が本業じゃないと言い切れる。
トリブレは見習い道化師であるため戦力としてはカウントされていないようだ。
「トップの道化師が適当なのかそれともホウレンソウできてないのか、誰もなぜ戦う必要があるのかは知らないらしいわ」
「なんでだろー」
「詳しく聞けばもう少し考察のしようはある。でも、めんどくさい」
「どうして?」
「……道化師といい、トリブレといい、会話に時間が掛かるのよ」
道化師の姿を模しているルルにもその片鱗はあるが、とにかくこいつら会話がしにくい。
トリブレは確かに聞けば答えてくれるんだけど、数倍の手間かけてようやく一文が完成するから……。
文字を書けってしようにも腕ついてないし。
「あんたはなんか心当たりないの? エンリカが敵を送りつけてくることに」
「時間、場所、それらを無視できるならわえを止める。《三英雄》は成り立っていないから」
「ま。それは私も思ってたけどさ」
「お母さん、破棄する時は思い切りがいい」
それはレア・スが亡くなった時の話か。
「あ!」
うわうるさ。急に叫ばないでよ。
「もしかしてトリブレ、わえを壊す為にきたのかも!」
「はぁ?」
「だって、わえに道化師の情報を与えれば自壊するし」
「それは……そうだけど」
確かにトリブレが道化師の名前や経歴等々を伝えれば、真実へ到達したとなるかは分からないがもしかしたらルルの死に繋がるかも知れない。
私もそこが怖くて聞き出す際には時間が掛かるのを承知で面談方式にしたし。
「でもルル」
「んゆ?」
「仮にもしあんたを殺す必要があるとしても、今すぐはやめておきたいわ」
「どうして? わえはいらない」
「摩天楼の撃破にあたって情報が欲しいからよ。今死なれたら困る」
あと遺体の処理に困る。
それに貴重な異邦人を死なせたとなればお父様が大目玉食らうから。
ロクな英雄譚も技術も引き出せず死ぬのはやめて欲しい。
「むぅ……」
「今の目的は学業に精を出しつつ
「それはそうだったかも」
なのでそれまでは守ってあげる。感謝しなさい。
「とても上から」
「用が済んだら好きにしていいわよ。自害しようが元の世界へ帰ろうが」
「うーん、どっちも大変」
自害できるものならとっくにしているだろうし、そうしないのはなるべく死を避けるよう命令もされているんだろう。使命と一緒で。
「エンリカの目的は不明とはいえ、アイーダみたいな手練れと戦えるなら好都合。ばんばん戦ってがんがん腕を上げていけるわ」
「かっこいい」
そもそも生きてるのかしらエンリカ。
会えたら一発殴ってやりたいわね。
「さて。そろそろ聞きたいんだけど」
「なーにー」
「というか言いたいんだけど、眩しい!」
ルルの目がさっきから光ってるの! なぜか!
指摘したらやめた。なにそれ。
「んふふ。わえの機能なのだー」
「今それ必要だった?」
「楽しいかなって」
「必要だった?」
絶対必要なかったでしょ、その光。
「むぅ。好奇心とかは目を光らせるという」
「物理的にするものじゃないわよ」
今がお昼だからマシだったけど、もう少し暗くて目立ってたらお人形だってバレてたわよ。
「それはいけない。わえ、異邦人は隠さないと」
「そうその意気」
「だからレア・スも」
いや私は……ああ、そっか。竜人だってバレちゃいけないものね。
珍味丼を食べ終えた私達は店を出て大通りを歩く。
流石に王都なだけあり、右も左も人と建物でいっぱいだ。
お上りさんって訳じゃないけど、でも物珍しいからあちこち見ちゃう。
「じゃ、お仕事に戻りましょ」
「市場ちょーさー」
「といっても、あんたがぐるっと見れば解析ぐらいできるでしょ」
「……わえ、やっぱり便利に使われてる?」
だって実際さ、ルルがそういうのやった方がいいし。
私、計算苦手だし。
「むぅ。道具は便利に扱われてこそ」
「というわけで、私は食べる。あんたはその隙に店の値段設定や売れ行きを記録する」
「おうぼうだー」
半分くらいは真面目に言ってるから。
こっちだって流石に全部任せるのは気が引けるし、取材くらいはするわよ。
ルルにやらせたら困惑させるだけだろうしね。
「すみませんご主人。ここのお店って──」
課題でこういうの調べていてーとか言えるから学生の身は便利だ。
多少無礼でも許されるし、嫌な顔せず答えてくれる。
別に騙してる訳でもないんだけどさ。便利だなって思いました。
「帰ったら忙しくなるから、ここは食いだめね」
「そんなにお腹すく? あ! 猫たちのごはん!」
猫については寮長さんに一任したでしょ。というか日帰りだし。