ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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5 飛ぶための式

 

 

 

 

「疲れた……」

 

 

 その後は特段目立った事はなく終了。

 ルルは鉄板について全く言及せず、忘れている様子で特に触れられることなく解散となった。

 今頃向こうも部屋でのんびりしているだろう。

 

 荷物を放り出してベッドへ飛び込む。

 今日はストレスまみれで結構疲れてしまったなぁ。

 

 

「……」

 

 

 行事が終わって本格的に授業が始まり、ルルとの絡みも増えて。

 誰しも環境が変われば多少なりともストレスを感じるものだ。

 しかし此度の場合それが特段増している。

 そう、特段ルルがめんどくさいために。

 

 

「だったら関わるなって、そういう話なんだけどね」

 

 

 残念ながらそうはいくまい。

 幾ら相手の出生や歴史的な関わり、性格的な可否あれど、見知らぬ土地で右も左も分かっていない奴を個人的に嫌いだからって理由一つで放置するのは道徳心に背く。

 

 私以上に環境の変化を感じているのはルルだろうし。

 なんせ引っ越しどころか世界から違うのだし。

 

 

「めんどくさい立場よねー」

 

 

 正義たる竜の血があるからか、それともそういう性格か。

 お父様が異邦人オル・ガ・ルヴァの発見と担当をしたのも大きいかも。

 

 なんにせよ、あーもうめんどくさい。めんどくさいって言いつつ関われば関わるほどあいつめんどくさい。

 てかぽっぽ焼きの鉄板めっちゃくちゃ邪魔なんだけど。早いところさっさと交渉して引き取ってもらうまでをしないとな。

 地味ぃーに甘い匂いが染み出ててあれだし。

 

 

「よっと」

 

 

 起き上がり、窓から出て羽ばたく。

 ストレス発散にはやはり飛ぶのが一番だ。

 

 

「んー……っ、良い風!」

 

 

 最近暖かくなってきたし夜の飛行がとても心地いい。

 星が綺麗だ。身を打つ風も最高。

 やっぱり、空はいい。

 

 

「もっと」

 

 

 伸びて、くるくる回って、高度を上げていく。

 空へ、空へと昇り、雲を突き抜け、誰もいない世界を漂う。

 誰にも邪魔をされない、孤独と静寂の世界。

 

 そして、急降下。

 

 なんだか飛ぶだけじゃ満足しないな。

 もっと速く、もっと鋭く。

 加速し、曲がって、刺激を求めていく。

 

 

「なんか刺激が足りない」

 

 

 速度を上げ過ぎて身体がぶれたので減速。

 私の身体なら制御不能のきりもみに陥って墜落しても全然耐えられるんだけど、もし衝撃波が誰かやどこかにぶつかったら悪いからね。

 

 理性と速度の壁が邪魔で、まだもう一つ二つ上がありそうなのにそこまで到達できない。

 この目に見えない壁。まだ先があるのに進めないもどかしさ。

 それって、とってももやもやする。

 

 

「──ん?」

 

 

 地上が近づいたのでそろそろ部屋へ戻ろうかと考えた時、近くの森に不審な光を見つけた。

 夜に街はずれで灯火? なんか怪しいし見回りしておこう。

 無法者ならどうにかしないとだしね。万が一に攻撃されても私ならどうされたって無傷だろうし。

 

 

「そこで何をしている」

「ま」

 

 

 降り立って話かければ、人影は短く声を発するとこそこそと逃げようとした。

 逃げ切れる訳ないでしょ。この私を前にして。

 

 

「みゅー! んんんんっ!」

「観念なさい」

 

 

 樹の幹を挟んで撒こうとしたみたいだけど、基礎的な身体能力が違い過ぎる。

 あと尻尾のリーチ。飛び込みながらぐるっとテイルアタックで完。

 普通の人間達と一緒に生活していると服の尻尾穴ひとつにも苦労するけど、こういう戦闘時には手が一つ多いようなものなので便利だね。

 叩きつけてしばく、倒れた所へ上から抑えたり。

 

 

「たすけて!」

 

 

 んん?

 

 

「あんた、まさかルル?」

「ひどいよぅ」

 

 

 こんな所でこんな時間に何してるの。

 あんまりにも怪しいから思いっきり叩いちゃったじゃない。

 

 

「壊れたら大変なのに」

「……怪しいのが悪い」

「確かに」

 

 

 分かってるならやめときなさいよ。

 で、なにしてたの?

 

 

「ちょっと待ってね。壊れてたら大変だから」

「なにをしていたのかまず答えなさいよ」

「はやく飛んでみたい」

 

 

 質問に答えないし靴脱いで覗き込んでるし。

 ストレス発散で気分よく飛んでたのにこれじゃ、こんな所でルルと会うなんて収支マイナスじゃんか。

 

 

「そんな靴履いてたっけ」

「安かった」

「買ったのね。で、それを?」

「……」

 

 

 片手に持った手帳を光らせ、靴をじっと見続けているルルは答えてくれなかった。

 

 

「……」

「……」

 

 

 ルルは気が付いてないみたいだけど、私にはそれらが全部見えてるんだよね。

 竜だから夜目が聞くとかって話じゃない。普通に明るくて分かっちゃう。

 

 靴も、手帳にも、どっちにも例の文字が書かれている。

 手帳はたぶん光らせる為のものだと思うけど、靴の方はどういう効果が刻まれているのか分からない。

 聞いても答えないだろうし、どうしたもんかなぁ。

 

 

 いや、聞いてみるか。

 もし答えてくれたらそれでいいし、慌てて逃げ帰るならそれでもいい。

 

 

「そのページの文字、魔力を通せば光るってだけでいいのよね?」

「式でもない単語。組んでも大したことないからそのまま使ってる」

 

 

 お、まともな答えだ。

 どうやら聞いたら答えちゃうというのは本当らしい。

 式か、あるいは解に絡めれば素直に言ってくれるのかな。

 単に集中してて無意識に喋ってる説もあるけど。

 

 

「じゃあその靴は、もしかして空を飛ぶための仕組みかしら」

「見えない内側に式を入れてみた。でも人型を飛ばすのは初めて。加工が必要かも」

 

 

 良い調子だ。

 もう少し踏み込んでみよう。

 

 

「その式、どういう効果なの?」

「空を飛ぶためのもの」

「そうじゃなくって、どういう……式というか」

「それは──」

 

 

 靴を覗きつつ棒状のもので作業をしていたルルの手が止まる。

 ふむ。深く聞きすぎたかな。あるいは、言い淀んだ聞き方になったから違和感を覚えて戻ってきたか。

 

 

「聞いた? わえ、答えた? ……駄目だと思う。ちゃんと伝えたのに」

「まとめて喋りなさい。どれを言いたいの?」

「わえ、嫌なことちゃんと言ったのに。でもなんで……」

「それは」

 

 

 ……無理に、聞き出すような事ではなかったね。

 本人が嫌だって言ってたのに。

 

 

「ごめんなさい」

「うん」

 

 

 ルルは手帳の明かりを消すと、手入れの終わった靴を履いて立ち上がる。

 

 

「じゃあ飛んで。知りたいから」

「まぁ、それくらいなら」

 

 

 今回は私が悪い。

 だから飛んでやるくらいはしてやろう。

 よいっしょっと。

 

 

「んゆ? なんか既視感──」

「いってらっしゃーい」

 

 

 よいしょっと持ち上げて、ぽい。

 これで空を飛ぶ感覚を掴めるでしょ。

 がんばってねー。

 

 

 

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