ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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8 飛ぶのは誰も邪魔できない

 

 

 

「来たわよ」

「よくぞ来た、逃げずきた」

「できる事なら来たくなかったわよ……」

 

 

 郊外の森。先日の夜訪れたそこへ向かうと、ルルは台車に乗って仁王立ちしている。

 その光景をみて最初に思うのは、やっぱりこなきゃよかったの一点のみ。

 

 それでもどうして付き合うのかというのは愚問だ。

 こいつは私が来なかったら来なかったで強行するか、あるいは草の根分けても探して私の名前を叫びながらあっちこっちを駆け巡る。

 そうなってしまえば、外部者というのは無垢な方へ肩入れするというもの。

 

 つまりルルと関わってしまった時点で詰みなのだ。

 おとなしくこれ以上状況が悪化しないよう祈って付き合う他ない。

 かなしいね。

 

 

「それで、今日は飛べるんでしょうね」

「準備したから。昔作った式の応用、でも空力的に翼がないから不安かも」

 

 

 一番はさっさと満足するまで飛べるようになることだ。

 そうできたなら後は放置でも大丈夫になはず。

 

 

「見て、タイヤ」

「……台車をそう呼ぶやつははじめてみたわ」

「かたぱるー」

 

 

 車輪の四つ付いた普通の台車。

 確かにこれへ乗っかってみたいとは子供の頃に思った事あるけど、流石に16にもなって実行しようとは思わないね。

 というか、タイヤってなに。そっち(ルル)の世界での台車の呼び方? こういう絶妙に通じないのは翻訳の都合かな。

 

 

「さっそく飛びたい。飛ぶからやるね、式もあるから」

 

 

 台車の上にうつつ伏せになったルルはそう宣言すると、ばたばたさせていた足を揃えて魔力操作を開始する。

 身体全体を見れば普段と変わりないが、例の靴は外から見て分かる程に光を発し、魔力を蓄えているのが分かった。

 

 うーん。飛ぶにはまず浮くが前提としてあって、身体に掛かる重力を減らして軽くするのが一般的なんだけど……。

 まぁいいか。これで成功しようが失敗しようが個人それぞれの飛び方だ。一般的はあくまで例であり例外もある。

 

 

「わー! はー!」

 

 

 がらがらがらがらっ!

 靴から放出された魔力が推進力となってルルの身体を動かし、それに合わせて台車ごと地面を滑走していく。

 加速を続け、馬よりも速くなった頃──

 

 

「お、飛んだ」

 

 

 自身に角度をつけて、台車を捨てて宙へと飛び出した。

 

 

「だいぶ力業ね。美しさの欠片もない」

「なーにー!?」

「その程度で満足するなんてまだまだねって言ったのよー!」

「んっふふーっ! 風すごい!」

 

 

 頭上ではルルが大興奮の歓喜を漏らしながら右へ左へ飛んでいる。

 しかしあれは私達の想定する“飛ぶ”とは違う、どちらかといえば“振り回されてる”に近い。 

 

 とにかく勢いで誤魔化している。

 靴から圧縮した風を噴出させ、その推進力で加速するのはいい発想だと思う。

 けれどあくまで重力を速度で振り切っているだけで、全く効率的な飛び方ではない不器用なそれは危険極まりない。

 

 人類ならもっとスマートに飛びなさい。考える頭があるのだから。

 と、そう思う。

 

 

「それで。そこからどうするの?」

「追いつかれた!」

 

 

 速度が出ているとはいえただ直進に進むだけの飛び方なんて、空のプロたる竜の血を引く私の前じゃ赤子も同然よ。

 あっという間に横へ並べば大げさに楽し気な顔を向けた。珍しく普段の眠たげな瞳じゃない。正しく瞳を輝かせるって感じだ。

 

 

「加速と速度は認めてあげるわ。でも他はてんでダメ。情けない離陸の方法に先の読みやすい愚直過ぎる軌道、空中での静止もできないでしょう? その程度で飛べたなんてよく言えたものね」

「まだターボジェットの試作だからそこまで言わ──」

 

 

 見える所で速度を維持したまま曲芸飛行を披露してやる。

 急旋回や上昇、翼を畳んで自由落下からの静止、加速、背面飛行。

 

 竜人たる私だから、という訳でもなくこの程度の動作なら人間でも可能な域だ。

 もっとも、初心者には難しいかも知れないけどね。

 

 

「やりたい! でも翼がない。折角飛ぶならそこまでやりたいから」

「ふん。ルル程度が私に追いつくなんて無理よ」

「……塩梅難しい」

 

 

 ぱすんと空気の漏れる音がして、ルルの速度と高度が急激に下がった。

 

 

「燃料切れー」

「ほら言わんこっちゃない」

 

 

 腕を掴んで安全に着地させる。どうせ着陸の事なんか考えてないと思ったわよ。

 飛ぶことだけを考えて魔力切れまで続けるなんてことは、普段の行いから容易に想像できる。

 

 

「それで。さっき試作がどうのとか言ってたわね」

「んふふふ。靴の式はわえの昔作った奴の流用だけどボディが違うから、出力の色々の試算が大変で、でもすぐ飛んでみたいのがあるからやってみたり」

「やっぱり技術関連になると饒舌になるわね……」

「式や解じゃない答えていいライン。ちょうどいい所ならいっぱい喋れるし楽しい」

 

 

 そう。別に式も解も言ったってかまわないのだけど。

 

 

「むぅ! わえ、きっかけを与えるのが嫌なの!」

 

 

 はいはい。

 

 

「けどルル。こっちの世界にも魔法陣や呪文っていうそれっぽいものあるわよ?」

「んゆ?」

 

 

 魔法陣は円形を基本に文字と組み合わせたものを、呪文は言葉だけで構成された魔法行使の方法を指す。

 魔法はイメージという前提に対し、これらはそのイメージを記号で結びより具体的にしたものだ。

 かつては精霊に働きかけるだのって神聖な感じで広まっていたらしいんだけど、今現在だと同時に魔法名を叫ぶっていうのが主流になってエンターテイメント性重視のインパクト勝負になってる。

 

 

「だから下手にこそこそするより、ある程度は表に出してアレンジの結果とした方がやりやすいわよ」

「ん、むぅ。魔法陣、呪文……ハイブリット? は、んんー」

「ちなみにこれらは教科書のだいぶ最初の方に書いてある」

「まじ! 見直す!」

 

 

 ルルが目を開けたまま固まった。

 たっぷり10秒ほど止まった後、靴を脱いで外側へ新たに式を書き始める。

 曲線を描き、文字を並べて、直線を伸ばして……。

 

 

「……あんた、まさか教科書全部暗記してるの? それを今思い出して読んだの? たった10秒で?」

「お母さん超がんばった」

「がんばり過ぎてしょ……」

 

 

 しかし今書いてるのは半球状の魔法陣だ。分度器のようにされては意味がない。

 陣というのは最低限の形を保たなくては絶対に魔法行使の補助に役立たないはずだけど、それに対して省略をしているのだ。このルルってやつは。

 

 短い期間とはいえルルの性格はある程度把握している。

 少なくともこいつが式関連で無駄や中途半端な事をするとは到底思えない。

 ということは意味があるはずで、つまりまさか、

 

 

「まさかとは思うけど、そこから魔法陣の仕組みを解析したの? たった10秒で記憶だけを頼りに?」

「無駄が多くて複雑に見えてるだけで、雑音を省けば式は短くなる。みんなに使ってもらうなら憶えやすい方が良い」

「……その認識、学会の歴史が覆るから言わない方がいいわね」

「まじでかー」

 

 

 先に説明した通り、魔法陣も呪文もイメージをより強固にするための補佐だ。

 それ故に、極端を言ってしまえばどんなラクガキでも行使する本人が「これで火が出るのだから出る」と認識してしまえていればそのラクガキで火が出る。

 

 それに対しルルは魔法陣の中身を分析し、誰でも使えると言い切ってしまったのだ。

 誰でも使える、というのは補佐どころの仕事ではない。

 “魔法はイメージ”という長い歴史の大前提を覆してしまう。

 

 

「でもこれ存在する陣。天動説と地動説みたいなもの」

「例えはよく分からないけど、その略式魔法陣について聞かれたらお父様の名前を出して誤魔化しなさい」

「お父さん? わえいないよ?」

 

 

 あんたのじゃなくって私のよ。

 流石に覚えてるでしょ、あんたを拾ってしばらく世話してくれたおじさん。

 

 

「できた! ハイブリット試作型!」

 

 

 聞きなさいよ。

 覚えてるわよね、あんたを拾ってしばらく世話してくれたナイスミドル。

 ……なんか覚えてなさそー……。

 

 

「さっそく飛ぶー。飛ばして―」

「はいはい……」

 

 

 結構飛んできたから台車もないし、私が投げ飛ばすしかないのか。

 最初はあんなにびっくりしてた癖に慣れやがって。

 

 

「んじゃ投げるから準備なさい」

「あ、霧だー。ヴェオきたー」

「腕力で霧散させるわよ……っと」

 

 

 霧が出てくるとすぐそっちに意識が行くんだから。

 あと脅しでもなくできるわよ。腕力で欠片一つ残さず霧にするの。パァんって。

 

 

「あんまり変わっているようには見えないけど……」

 

 

 空中をびゅんびゅんと飛び交う姿に先程との変わりがあまり見えない。

 言うなればちょっと安定性が向上しているかもってくらい? けど気休め程度。

 でも即席でマイナスにならない事ができるのは流石か。

 あいつ、ぼーっとしてるし訳わかんないことする癖に式を絡めると途端に輝くんだよなぁ。授業でも数学は即答だし。

 

 

「ぱん! ぱ……めー! めーで! めーめー!」

 

 

 なに騒いでんの?

 って!

 

 

「攻撃!?」

 

 

 手のような形をした黒い塊。魔法による攻撃のそれが、霧と森を隠れ蓑に現れ空中のルルへ襲い掛かっている。

 誰がどこから、なんてわかる訳もなく、今はとにかく防御するしかない。

 

 

「そのまま前進し続けなさい! 下手に動かず!」

「おけ!」

 

 

 翼を大きく広げ、面積で弾を防ぐ。

 威力としては大したことない。だけど、攻撃のぶつかった部位が掴まれたかのように重くなる。なるほど、手の形をしているのには意味があるみたいだ。

 重いったってそれも大したことないんだけどさ。

 

 

「どっから撃ってきてるのか分からないから面倒!」

 

 

 ルルへ向かって真っすぐ進むお陰で軌道が分かりやすく、故に防御は容易い。

 下手に回避行動を取らず指示通り動いてくれるのは助かるね。

 ただ、相手がどこから攻撃してきているのかはさっぱりなもんでこれからどうしたものか迷うな。

 

 

「ば! ばーでぃこ!」

「今度は何!?」

 

 

 振り返る。

 

 

「……ああ、もう! 飛ぶのやめて丸まりなさい! なんとかする!」

 

 

 ルルはいつの間にか大きく傾いた状態で飛び、自身でどういう飛び方をしているのか理解できておらず地面へ向かって直進を開始していた。

 飛行を始めたばかりの初心者が陥りやすい空間識失調ってやつだ。

 

 こうなったら自分でどうにかするのは難しい。

 むしろ、自分がそういう混乱状態に陥ってると理解して声を上げられただけ褒めていい点である。

 

 

「まかせるー!」

 

 

 叫んで魔力を切り膝を抱えて丸まったルルを抱きかかえ、翼でくるんで全体を防御する。

 あとは、このまま落ちるだけ。

 

 

「衝撃備え! 3、2、1!」

「ん!」

 

 

 木々をなぎ倒し、地面を抉り、空洞を引き当ててしまったのか崩れる音が聴こえる。

 薄く目を開ければ、破壊したそれらが降り注いでくるところだった。

 

 

「服が汚れちゃうな……」

 

 

 これ、結構気に入ってるやつだったんだけどな──。

 

 

 

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