ENゼロ、拳のみ、勝者ありの特殊レギュ対戦……?
「泥船と言いましたか、害獣共……」
こちらを無視して飛んでいこうとしていた「アーキバス・バルテウス」が、僅かに速度を緩めた。
顔も見えないのに、青筋が浮かんでいる様が見て取れるような声だ。
「ええ、その通りです! 我々ベイラムにも、封鎖機構にも後れを取り続けた敗北者、それがアーキバスでしょう!」
「貴様……!」
苛立ちを隠そうとしないスネイルに対し、五花海は朗々と続ける。
「壁は取れずに、戦果は盗られ、封鎖機構は捕り逃がし、部隊長を3人も
「アーキバス・バルテウス」はもはやこちらを素通りするのを止め、こちらに向き直っていた。
「挙句の果てにはシュナイダー、傘下のはずのシュナイダー……! それに背中を刺され、技術を流される始末だ……!」
「……今のうちに取り消せば、再教育センター送りで許して差し上げますよ……!」
「いえいえ、断じて取り消すつもりなどありませんとも! 惨めな惨めなアーキバス、その第2隊長も実に惨めだ……!」
詐欺師はアーキバスに対する侮辱から、個人攻撃へとその矛先を変えた。
「第2隊長として長らく君臨するも、主席にはなれず、何も得ず……!
度重なる強化手術も、素体が弱ければ形無しですねぇ……!
自分が決して第1隊長に勝てないと解っているから、次席という立場も弁えずに『閣下』などと部下に呼ばせることで、辛うじてその矮小な自尊心を保っているのでしょう?
ああなんとさもしいことか! 空虚なことか!」
「何だと……!」
「第2隊長がそんなザマですから、その部下も酷いものだ……!
先ほどの第7隊長、いえ現第4隊長の末路をご存じですか?
部下も上官も見捨てて、無様に命乞いをしたのですよ……!
『私の命さえ助けてくれれば、第2隊長を売ってもいい』と言っていましたよ?」
「…………」
「ああ惨めなアーキバス! そしてその大将気取り! 揃いも揃って無様極まる! さあさあ皆さんご唱和ください! ヴェスパー第2隊長、スネイルは惨めな敗北者と!!」
五花海が号令をかけると、MT部隊が一斉に声を上げる。
「「「「スネイルスネイル敗北者! 泥船2番手敗北者!!」」」」
「ハゲ!」
「バーカ!」
「「「「スネイルスネイル敗北者!」」」」
「うわーん! スネイルみたいにはなりたくないです!」
「ハゲ!」
「……いいでしょう」
上空に留まっていた「アーキバス・バルテウス」が、いよいよ向かってくる。
「身の程を弁えない害獣共……! 私の手で、直々に跪かせるとしましょう……!」
その声には、凄まじい怒気が滲んでいる。
「それと、頭髪は着脱可能な人工繊維に置き換えているのですよ、生憎と定期的に開頭手術を行うものでね……!」
……ツッコむところ、本当にそこでいいのか?
「……どうやら、釣れたようですねぇ……では」
計画通りといった風に、五花海が言う。
「後は任せましたよ、G14」
「……ん?」
「我々では足手まといでしょう? まあ後方支援くらいはしますよ」
そう言い残すと、「鯉龍」はMT部隊を連れてそそくさと下がっていった。
追う間もなく、「アーキバス・バルテウス」が突っ込んでくる。
「前任、後任共に裏切り者の第4隊長、頭の悪い上層部……」
それは、こちらを射程内に収めるや否やレーザーを撒き散らしながら回転を始める。
「前第4隊長とやたら親しいと思って死後調べてみたら、やはり裏切り者だった前第3隊長……
同じく裏切り者の巣窟の癖に、気の狂った提案ばかりして私を煩わせる傘下企業……!
空気の読めない発言ばかり繰り返す現第3隊長……!」
……長くね?
「ちょこまかとしぶとい封鎖機構に、その討伐戦を妨害した襲撃者……!
挙句その襲撃者に敗れて頓死した、使えない第5、第6隊長……!」
うん、それは俺のせいだね、ごめん。
「追撃戦で使った独立傭兵も大概だ……!
何も考えずにフルチャージばかり撃つ者、口を滑らせて機密情報を垂れ流す者、意味不明としか言いようのない機体構成の者、そしてあの駄犬……!」
恨み言とレーザーを垂れ流しながら、「アーキバス・バルテウス」は回り続ける。
いつまでたっても止まる気配はない。ENではなく、スネイルの鬱憤をリソースとして回っているのだろうか。
「火種を撒き散らすルビコンの害獣に、邪魔ばかりするベイラムの害獣……!どいつもこいつも、この私を苛立たせる……!」
そろそろ終わりか?
「だが!!! 誰よりも、何よりも私を苛立たせるのは……第1隊長!!! 貴様だ!!!!」
さらに上がった怒りのボルテージに呼応するように、「アーキバス・バルテウス」の回転数が上がる。
凄まじい破壊力。距離を取って躱すのが精一杯だ。
「主席隊長の座に就いておきながら、事務作業も、戦術も戦略も全て私に丸投げし、そのくせ注文ばかり付けてくる……!
やれ敵対企業のパーツを使いたいだの、どこぞの独立傭兵に興味があるだの……!
作戦開始直前になって配置を変えたいだの、別の作戦に付きたいだの……実際作戦が始まってみれば、持ち場など守らない癖にあれこれと……!
機体の要求も滅茶苦茶だ……! レーザードローンの開発をVCPLに発注するだけで、どれだけの金がかかったと思っているのですか……!
なのにそれを弁えず、あれを使ってみたい、これを使ってみたいと次から次に……!!」
……なんか可哀想になってきたな。
「挙句出してきたあのHCの改修案!! どう考えても正気ではない!! 脳に軟体生物が詰まっているとしか思えない!!」
「死ね、死んで平伏しろ、フロイト!!!!!!! 私こそが企業だ!!! ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「呼んだか? スネイル」
回転レーザーによって、滅茶苦茶に破壊されたビルの残骸。
その隙間から顔を出したのは、先程の高機動型LCの改修機に勝るとも劣らない、奇妙な機体だった。
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AA22F:DECRYPTOR/V.I Freud
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