「最後の最後だ、今回だけは絶対ぇに勝つ……!」
右腕に歪な爪を掲げ、地を蹴り躍り出る「81-009 SRPH」。
フライトユニットを失ったその巨体には、標準的なAC以上の滞空能力は無い。
だが、フライトユニットを動かすための膨大なエネルギーを各部に再配分したその機体は、なおもACを上回る運動性を有していた。
「食らいやがれ!」
繰り出されるのは、シンプルな横薙ぎの斬撃。
アクチュエータ出力を無理矢理引き上げたそれは、今までより遥かに速い。
だが、それだけだ。
苦も無く、斬撃の内側に入り込む。
そのまま、残った左拳を構え――
「そう何度も、してやられるかよ!」
だが、その拳が命中する前に、「81-009 SRPH」の脚部が視界を覆う。
隙を潰すように放たれたその蹴りに弾き飛ばされ、距離が開いた。
「……テメェもだ、野良犬」
「ジュピター」を蹴り飛ばした「81-009 SRPH」は、さらに振り向きながら右腕を振るった。
「…………!」
その肘が、背後から収束レーザーを突き刺そうとしていた「ボイジャー1」に命中。同じく弾き飛ばす。
「まとめて食らえ!」
「――――――!!」
「81-009 SRPH」の攻撃は終わりではない。間髪入れずに右腕からコーラルの奔流を放ち、回転。地平線を薙ぎ払うように、長大な緋色の光が一周した。
「イグアス……!」
「…………」
だが、それで終わる俺達ではない。
俺は上に飛び、ユーリは地に伏せ、やり過ごした。
「各部アクチュエータ、過剰供給の影響は軽微……引き続き全力で対処してください、イグアス!」
「……ああ!」
「81-009 SRPH」はさらに躍動する。伏せることでコーラルの奔流を掻い潜った「ボイジャー1」に対し、蹴り上げて追撃しようと動いた。
……先ほどまでの、武器を振り回すだけの動きとは明らかに違う。
機体全体を使った、なりふり構わぬ喧嘩殺法。
あるいは、それこそが彼の本領、真の才能なのかもしれない。
だが、シンプルな殴り合いが得意なのはこちらも同じ。
「やらせるか!」
「ボイジャー1」を蹴り上げようとする「81-009 SRPH」の背後を蹴りつける。
「チッ……!」
「…………!」
それが蹴りの衝撃で僅かに怯んだ刹那、「ボイジャー1」の左腕から収束レーザーが放たれた。
「……イグアス!」
それが貫いたのは、「81-009 SRPH」の右腕に装備されたコーラルオシレータの一部、先ほどアサルトアーマーを放つ際に展開した部分だった。
いい判断だ。
だが、それで弾切れになったのだろう。「ボイジャー1」は、動かなくなったレーザーショットガンを投げつけるように破棄する。
それは「81-009 SRPH」めがけて飛び、いくらかの衝撃を与えて爆散した。
しかし、それで「81-009 SRPH」が止まることはない。
「……やれ、セラ!」
部分的に損壊したコーラルオシレータ。だが、それで全体の機能を損なったわけではないようだ。
それはなおも緋色の輝きを発しながら、地面に勢いよく突き立てられる。
「――――――!!」
「……ユーリ、下だ!」
直後、「81-009 SRPH」の周辺、その地面からコーラルの火柱が上がる。
飛び退くことで当たりはしなかったが、
「……最大出力だ、オールマインド!」
「……ええ!」
地面に突き立ったコーラルオシレータが、輝きを増す。
そのまま「81-009 SRPH」が斬り上げを放てば、翠と緋に輝く爪が地面を抉りながら閃いた。
その枝分かれした爪。そしてそこから放たれる、横に3つ並んだ光波の刃。
その速度は、尋常ではない。距離を離され懐に入れない状況では、回避は困難。
故に、その隙間を掻い潜る。腕が飛んだ分横幅が減っていたことが幸いした。
「だったら!」
間髪入れずに、今度は横振りで爪が振るわれた。
当然、その場合の光波は横向き、縦並びになる。
「……好機です、イグアス、セラ!」
視界が、ノイズで埋め尽くされた。。
超高速で放たれた光波の1つに、「ジュピター」の首が刎ねられたからだ。
「――――」
「ああ、今度こそ決める……!」
メインカメラを潰されて、ろくに見えなくなった視界。
それでも視認できるくらいに巨大な緋色が、「81-009 SRPH」の右腕に収束していく。
視界を潰されたこちらは、まともに
まさしくそれは必殺の一撃だろう。
だから、良い。
(今だ)
合図を声に出すまでもなく、「81-009 SRPH」の背後でパルスの奔流が炸裂する。
「な……」
「野良犬……!」
それは、「ボイジャー1」に残された最後の武装。アサルトアーマーだ。
そう。カメラを潰される前、「ボイジャー1」のコア冷却が完了したのを俺は見ていた。
だから、
「ゴード!」
至近距離で放たれたアサルトアーマー。
今の「81-009 SRPH」にそれを凌ぐ手段はなく、
すかさず
赤熱し高速回転する刃からは、絶えず高温の火花を発している。
チェーンソーを保持している側にも、その内の少なくない量が降り注ぐと予想できるが、そんなことはどうでも良かった。
視界を妨げない位置でチェーンソーをチャージしつつ、敵を見据える。
遠い。
「81-009 SRPH」のACS再起動時間は、ACのそれより僅かに長い。
それでも、フルチャージしたチェーンソーを突き立てるには、彼我の距離は遠すぎた。
本来なら、もう片方の腕で殴ってACSの再起動を阻害することで時間と距離を稼ぐことができる。
だが、その腕はもうなかった。
俺には、だが。
「これで、決めて!」
正真正銘、すべての武装を失った「ボイジャー1」が、残された左腕を叩きつける。
その衝撃は、「81-009 SRPH」のACS再起動を阻害するとともに、その巨体を俺の方へと運んできた。
それを、俺はしっかりと見据える。同時に、チェーンソーの出力を無理矢理引き上げ、限界以上にチャージを始めた。
「……ああ」
「イグアス、対処――」
こちらに向けて投げ渡された「81-009 SRPH」の中心に、限界を超えてチャージされたチェーンソーを突き立てる。
その刃が装甲に触れたのを確認した直後、コクピットハッチを閉じた。
チェーンソーが機体を解体する際に出る火花は、空転時の比ではない。
……まだ死ねない。
それに、何度も何度も、数えきれないほど繰り返してきた動きだ。ここからは、目を瞑ってでもできる。
異音と火花を撒き散らしながら、「81-009 SRPH」の装甲が解体されていく。
直撃すればあらゆるACを即死させると言っていい威力の凶刃。その前では、その強固な装甲もまるで無意味であった。
最後にその刃を勢いよく振り抜けば、その中心を空洞へと変じさせた「81-009 SRPH」は上下バラバラに吹き飛び、地面に転がった。
同時に、長らく使い続けたそれも限界を迎えたのだろう。オーバーチャージされたチェーンソーは異音を立てて停止し、ジョイント部分も破損したのか腕を離れて落ちた。
「――――――」
「……ああ、クソ」
大穴が空き、両断された「81-009 SRPH」の内部で、エネルギーが暴走を始める。
コーラルジェネレータ特有の緋色と、光波に由来すると思しき翡翠色。やがてそれらは、別々の光を上げながら爆散した。
「また、勝てなかっ――」
「……我々の、負け……ですか」
完全に崩壊した「81-009 SRPH」。
「ですが……コーラルがある限り、可能性は消えません」
その頭部が、今にも消え入りそうな
「バスキュラープラントはまだ完全に稼働してはいない……コーラルはその大半が惑星内部にあります……そのコーラルに強制的な連鎖燃焼を引き起こせるだけの火種が……貴方がたに――」
それは悪足掻きか、あるいは一縷の望みに縋っているのか。
「……火種なら、ある」
その声を聞いてか、ユーリがぼそりと呟いた。
「わたしの、
「……そんな……何故、貴方はそこ、まで……」
そこで、声が途切れる。地面に転がった頭部の残骸は、光を失っていた。
「ボイジャー1」が、ゆっくりとこちらに向き直る。
「ゴード。手伝ってくれて、ありがとう」
コンソールに、メッセージが入る。
その中身は入金通知と、「星系外脱出シャトル」と銘打たれた座標のデータだ。
意外なことに、その位置はここからそう離れてはいなかった。
「わたしは、これから火をつける。でもあなたがこのほしから出るまでは、待つよ」
「……その必要は、ない」
言い終わると同時に、「ジュピター」の傍らへと補給シェルパが到着した。
それは、最も厳重に隠しておいたもの。中身は補給物資ではない。
「……それは?」
そこから取り出したのは、円状をした機械。
その周囲に、即席の装置が取り付けられている。
「火種」
それは、
解放戦線を襲撃したのは、すべてこれのため。
思想的指導者であるサム・ドルマヤンの乗機、「アストヒク」のジェネレータであるこれを奪い取るためだった。
「着火は、俺がやる。お前は脱出しろ」
入金されたCOAMを送り返す。ちなみにだが、時限式や遠隔式にして遠距離から着火、なんてぬるい真似をするつもりはない。
万が一、離脱してから起爆するまでの間に企業の残存勢力がここに来たら。万が一、オールマインドの言葉がブラフで、動かせる機体が残っていたら。
そんなリスクを許容するつもりは、さらさらなかった。
「ううん、わたしが火をつける。あなたは脱出して」
「…………」
「…………」
平行線。
それを破り、自身の意思を通す方法。それを、俺は1つしか知らなかった。
「……悪いな」
再びコクピットを開けて、視界を確保。残された左拳を構える。
「……そっか」
それを見て、察したのだろう。「ボイジャー1」もまた、最後に残った左拳を構えた。
最後の敵は、倒した。
けれど、戦いはもう少しだけ、続く。
今構想のあるもの改
-
AMちゃんルートIF
-
465、仕事の時間だ
-
ループ621
-
レッドガンIF
-
ヴェスパーIF
-
葦名一心VS岩本虎眼