転生したらモンキー・ゴードでした   作:NEST中毒者

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バスキュラープラント襲撃⑯

 

「最後の最後だ、今回だけは絶対ぇに勝つ……!」

 

 右腕に歪な爪を掲げ、地を蹴り躍り出る「81-009 SRPH」。

 フライトユニットを失ったその巨体には、標準的なAC以上の滞空能力は無い。

 

 だが、フライトユニットを動かすための膨大なエネルギーを各部に再配分したその機体は、なおもACを上回る運動性を有していた。

 

「食らいやがれ!」

 

 繰り出されるのは、シンプルな横薙ぎの斬撃。

 アクチュエータ出力を無理矢理引き上げたそれは、今までより遥かに速い。

 

 だが、それだけだ。

 

 苦も無く、斬撃の内側に入り込む。

 そのまま、残った左拳を構え――

 

「そう何度も、してやられるかよ!」

 

 だが、その拳が命中する前に、「81-009 SRPH」の脚部が視界を覆う。

 隙を潰すように放たれたその蹴りに弾き飛ばされ、距離が開いた。

 

「……テメェもだ、野良犬」

 

 「ジュピター」を蹴り飛ばした「81-009 SRPH」は、さらに振り向きながら右腕を振るった。

 

「…………!」

 

 その肘が、背後から収束レーザーを突き刺そうとしていた「ボイジャー1」に命中。同じく弾き飛ばす。

 

「まとめて食らえ!」

 

「――――――!!」

 

 「81-009 SRPH」の攻撃は終わりではない。間髪入れずに右腕からコーラルの奔流を放ち、回転。地平線を薙ぎ払うように、長大な緋色の光が一周した。

 

「イグアス……!」

 

「…………」

 

 だが、それで終わる俺達ではない。

 俺は上に飛び、ユーリは地に伏せ、やり過ごした。

 

「各部アクチュエータ、過剰供給の影響は軽微……引き続き全力で対処してください、イグアス!」

 

「……ああ!」

 

 「81-009 SRPH」はさらに躍動する。伏せることでコーラルの奔流を掻い潜った「ボイジャー1」に対し、蹴り上げて追撃しようと動いた。

 

 ……先ほどまでの、武器を振り回すだけの動きとは明らかに違う。

 機体全体を使った、なりふり構わぬ喧嘩殺法。

 

 あるいは、それこそが彼の本領、真の才能なのかもしれない。

 だが、シンプルな殴り合いが得意なのはこちらも同じ。

 

「やらせるか!」

 

 「ボイジャー1」を蹴り上げようとする「81-009 SRPH」の背後を蹴りつける。

 

「チッ……!」

 

「…………!」

 

 それが蹴りの衝撃で僅かに怯んだ刹那、「ボイジャー1」の左腕から収束レーザーが放たれた。

 

「……イグアス!」

 

 それが貫いたのは、「81-009 SRPH」の右腕に装備されたコーラルオシレータの一部、先ほどアサルトアーマーを放つ際に展開した部分だった。

 いい判断だ。()()()()()()()では、それが最も邪魔になる。

 だが、それで弾切れになったのだろう。「ボイジャー1」は、動かなくなったレーザーショットガンを投げつけるように破棄する。

 それは「81-009 SRPH」めがけて飛び、いくらかの衝撃を与えて爆散した。

 

 しかし、それで「81-009 SRPH」が止まることはない。

 

「……やれ、セラ!」

 

 部分的に損壊したコーラルオシレータ。だが、それで全体の機能を損なったわけではないようだ。

 それはなおも緋色の輝きを発しながら、地面に勢いよく突き立てられる。

 

「――――――!!」

 

「……ユーリ、下だ!」

 

 直後、「81-009 SRPH」の周辺、その地面からコーラルの火柱が上がる。

 飛び退くことで当たりはしなかったが、()()()()()()()()()()()()()

 

「……最大出力だ、オールマインド!」

 

「……ええ!」

 

 地面に突き立ったコーラルオシレータが、輝きを増す。

 そのまま「81-009 SRPH」が斬り上げを放てば、翠と緋に輝く爪が地面を抉りながら閃いた。

 

 その枝分かれした爪。そしてそこから放たれる、横に3つ並んだ光波の刃。

 その速度は、尋常ではない。距離を離され懐に入れない状況では、回避は困難。

 

 故に、その隙間を掻い潜る。腕が飛んだ分横幅が減っていたことが幸いした。

 

「だったら!」

 

 間髪入れずに、今度は横振りで爪が振るわれた。

 当然、その場合の光波は横向き、縦並びになる。

 

「……好機です、イグアス、セラ!」

 

 視界が、ノイズで埋め尽くされた。。

 超高速で放たれた光波の1つに、「ジュピター」の首が刎ねられたからだ。

 

「――――」

 

「ああ、今度こそ決める……!」

 

 メインカメラを潰されて、ろくに見えなくなった視界。

 それでも視認できるくらいに巨大な緋色が、「81-009 SRPH」の右腕に収束していく。

 

 視界を潰されたこちらは、まともに()()()()

 まさしくそれは必殺の一撃だろう。

 

 だから、良い。

 

(今だ)

 

 合図を声に出すまでもなく、「81-009 SRPH」の背後でパルスの奔流が炸裂する。

 

「な……」

 

「野良犬……!」

 

 それは、「ボイジャー1」に残された最後の武装。アサルトアーマーだ。

 

 そう。カメラを潰される前、「ボイジャー1」のコア冷却が完了したのを俺は見ていた。

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をしてやったのだ。

 

「ゴード!」

 

 至近距離で放たれたアサルトアーマー。

 今の「81-009 SRPH」にそれを凌ぐ手段はなく、ACS負荷限界(スタッガー)に陥る。

 

 すかさず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、チェーンソーを起動。

 

 赤熱し高速回転する刃からは、絶えず高温の火花を発している。

 チェーンソーを保持している側にも、その内の少なくない量が降り注ぐと予想できるが、そんなことはどうでも良かった。

 

 視界を妨げない位置でチェーンソーをチャージしつつ、敵を見据える。

 

 

 遠い。

 

 

 「81-009 SRPH」のACS再起動時間は、ACのそれより僅かに長い。

 それでも、フルチャージしたチェーンソーを突き立てるには、彼我の距離は遠すぎた。

 

 本来なら、もう片方の腕で殴ってACSの再起動を阻害することで時間と距離を稼ぐことができる。

 だが、その腕はもうなかった。

 

 俺には、だが。

 

「これで、決めて!」

 

 正真正銘、すべての武装を失った「ボイジャー1」が、残された左腕を叩きつける。

 その衝撃は、「81-009 SRPH」のACS再起動を阻害するとともに、その巨体を俺の方へと運んできた。

 

 それを、俺はしっかりと見据える。同時に、チェーンソーの出力を無理矢理引き上げ、限界以上にチャージを始めた。

 

「……ああ」

 

「イグアス、対処――」

 

 こちらに向けて投げ渡された「81-009 SRPH」の中心に、限界を超えてチャージされたチェーンソーを突き立てる。

 その刃が装甲に触れたのを確認した直後、コクピットハッチを閉じた。

 

 チェーンソーが機体を解体する際に出る火花は、空転時の比ではない。

 ……まだ死ねない。()()()()()()()

 

 それに、何度も何度も、数えきれないほど繰り返してきた動きだ。ここからは、目を瞑ってでもできる。

 

 異音と火花を撒き散らしながら、「81-009 SRPH」の装甲が解体されていく。

 直撃すればあらゆるACを即死させると言っていい威力の凶刃。その前では、その強固な装甲もまるで無意味であった。

 

 最後にその刃を勢いよく振り抜けば、その中心を空洞へと変じさせた「81-009 SRPH」は上下バラバラに吹き飛び、地面に転がった。

 同時に、長らく使い続けたそれも限界を迎えたのだろう。オーバーチャージされたチェーンソーは異音を立てて停止し、ジョイント部分も破損したのか腕を離れて落ちた。

 

「――――――」

 

「……ああ、クソ」

 

 大穴が空き、両断された「81-009 SRPH」の内部で、エネルギーが暴走を始める。

 コーラルジェネレータ特有の緋色と、光波に由来すると思しき翡翠色。やがてそれらは、別々の光を上げながら爆散した。

 

「また、勝てなかっ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……我々の、負け……ですか」

 

 完全に崩壊した「81-009 SRPH」。

 

「ですが……コーラルがある限り、可能性は消えません」

 

 その頭部が、今にも消え入りそうな(電波)で呟く。

 

「バスキュラープラントはまだ完全に稼働してはいない……コーラルはその大半が惑星内部にあります……そのコーラルに強制的な連鎖燃焼を引き起こせるだけの火種が……貴方がたに――」

 

 それは悪足掻きか、あるいは一縷の望みに縋っているのか。

 

「……火種なら、ある」

 

 その声を聞いてか、ユーリがぼそりと呟いた。

 

「わたしの、あたまの中(脳深部)に」

 

「……そんな……何故、貴方はそこ、まで……」

 

 そこで、声が途切れる。地面に転がった頭部の残骸は、光を失っていた。

 

 「ボイジャー1」が、ゆっくりとこちらに向き直る。

 

「ゴード。手伝ってくれて、ありがとう」

 

 コンソールに、メッセージが入る。

 その中身は入金通知と、「星系外脱出シャトル」と銘打たれた座標のデータだ。

 意外なことに、その位置はここからそう離れてはいなかった。

 

「わたしは、これから火をつける。でもあなたがこのほしから出るまでは、待つよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その必要は、ない」

 

 言い終わると同時に、「ジュピター」の傍らへと補給シェルパが到着した。

 それは、最も厳重に隠しておいたもの。中身は補給物資ではない。

 

「……それは?」

 

 そこから取り出したのは、円状をした機械。

 その周囲に、即席の装置が取り付けられている。

 

「火種」

 

 それは、IA-C01G:AORTA(コーラルジェネレータ)を改造した爆弾だ。

 

 解放戦線を襲撃したのは、すべてこれのため。

 思想的指導者であるサム・ドルマヤンの乗機、「アストヒク」のジェネレータであるこれを奪い取るためだった。

 

「着火は、俺がやる。お前は脱出しろ」

 

 入金されたCOAMを送り返す。ちなみにだが、時限式や遠隔式にして遠距離から着火、なんてぬるい真似をするつもりはない。

 万が一、離脱してから起爆するまでの間に企業の残存勢力がここに来たら。万が一、オールマインドの言葉がブラフで、動かせる機体が残っていたら。

 そんなリスクを許容するつもりは、さらさらなかった。

 

「ううん、わたしが火をつける。あなたは脱出して」

 

「…………」

 

「…………」

 

 平行線。

 

 それを破り、自身の意思を通す方法。それを、俺は1つしか知らなかった。

 

「……悪いな」

 

 再びコクピットを開けて、視界を確保。残された左拳を構える。

 

「……そっか」

 

 それを見て、察したのだろう。「ボイジャー1」もまた、最後に残った左拳を構えた。

 

 最後の敵は、倒した。

 けれど、戦いはもう少しだけ、続く。

 

 

 

 

今構想のあるもの改

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