「総員、油断せずかかれ!」
上空から現れた、G2 ナイル率いるレッドガンの機体達。
それらが一斉に武器を向けた先は、俺の方だ。
まあ、当然のことである。傍から見ればベイラムの量産ACが所属不明機と交戦しているという状況なのだから。彼らも、まさかベイラム機の搭乗者が脱走したサム・ドルマヤンである、だなんて思わないだろう。
上空から降り注ぐ榴弾やミサイルの雨。
高度な連携を以て逃げ道を塞ぐように襲ってくるそれを、跳躍力を活かして強引に振り切り、反撃を加えていく。
「そこらの独立傭兵の動きではないな……ますます中身が気になるところだ」
ますます、ナイルの注目がこちらに向いていく。
「……あっちの中身も、気にした方がいいんじゃないか?」
「……何?」
ナイルらが俺を攻撃している間、場にいる全員の注目から外れていたドルマヤンのAC。
それは、解放戦線の輸送ヘリと撃破された「バーンピカクス」の残骸から、素早く何かを回収し、コクピット内に収容していたようだ。
「アーシル、ツイィー、ダナム、無事か」
「す、帥父……!」
「……確と掴まっていろ!」
どうやら、ヘリの乗員はもとより、撃破されたダナムも脱出して生きていたらしい。
「この状況で他に構うとは、随分余裕があるらしいな!」
「生憎と臆病なのでな、そう簡単に切り捨てられんのよ……!」
ここで、レッドガン部隊の注意がドルマヤンの乗るベイラムACに向く。
一連のやり取りと、奇妙な行動。違和感を抱くには十分だ。
「……そこのAC、一体誰が乗っている? ベイラムの者では無いな」
「さてな、たまたま居合わせた民間人が乗り込んでいるだけやも知れぬぞ?」
「戯言を……! この声は貴様、サム・ドルマヤンか!」
レッドガン部隊の動きが変わる。
所属不明の襲撃者も脅威ではある。だがルビコン解放戦線の思想的指導者ともなれば、逃がした時の損害はそれ以上だろう。
「総員、あのACの中身はサム・ドルマヤンだ! まずは奴から墜とす!」
「了解!」
「ディープダウン」とその麾下のMTらは、ドルマヤンの乗るベイラムACに標的を移す。
だが、俺を敵として認識していることに変わりはない。
状況は、本格的に三つ巴の様相を呈し始めたと言っていいだろう。
「邪魔立てするのならば貴様らから潰すぞ、レッドガン!」
まず動いたのは、サム・ドルマヤンだ。
ベイラム量産ACの拡散バズーカが「ディープダウン」目掛けて撃ち放たれ、4つのミサイルがその後を追った。
「くっ……!」
重装甲の分鈍重な「ディープダウン」では、その爆撃を躱しきることは難しかった。
爆発により、いくらかのダメージと衝撃を「ディープダウン」は被る。だが、堅牢な装甲によって被害を少なく抑えたそれは、反撃とばかりに多数のミサイルを撃ち放った。
「当たるものか!」
周囲のMTによる援護射撃を含めたミサイルの雨。それを、ベイラム量産ACは難なく躱して接近していく。その機体はドルマヤンにとって初めて乗る機体である筈で、かつ彼は強化人間ではない筈なのだが、そんなことは関係ないと言わんばかりにその動きは淀みない。
「奪った機体で、ここまでやるか……!」
接近してくるベイラム量産ACに対し、「ディープダウン」はリニアライフルを構える。
その銃身には電磁エネルギーの光が宿っており、チャージが完了していることが見て取れた。
「若造が、甘いわ!」
だが、その電磁気力により加速された銃弾が敵を捉えることは無かった。
ベイラム量産ACの空いた右手がリニアライフルの銃身を掴み、その銃口を逸らしたのである。
「何……!?」
そのまま、銃身が引き寄せられる。
双方の距離が縮まる中、ベイラム量産ACが構えたのは――――左手、パイルバンカーだ。
「……食らうがいい!!」
爆音とともに、死の杭が炸裂する。
炸薬により発射されたその鉄塊は、寸分狂わず「ディープダウン」を打ち据えた。
「サム・ドルマヤン……腑抜けた老兵と聞いていたが、その実ここまでの化け物だったとはな……!」
至近距離でチャージされたパイルバンカーを受けた「ディープダウン」だったが、まだ致命傷には至っていなかった。
理由は2つ。まず、終始ドルマヤンに圧倒されていたナイルであったが、一切成す術が無かった訳ではない。パイルバンカーが炸裂する寸前に機体を動かし、堅牢な装甲を持つ肩で攻撃を受け止めることに成功していた。
そしてもう1つの理由は、「ディープダウン」のACSが機能していた事だ。
パイルバンカー、そのチャージした全力の一撃は、大抵の場合
だが今回は、リニアライフルの銃身を掴んで引き寄せることで、強引に当てに行った。その技量は驚嘆に値するが、ACSによるダメージ軽減が働いている以上、必殺の威力を発揮する使い方にはならない。
尤もそれは、ドルマヤンの攻撃がここで終わるなら、の話なのだが。
「まだ終わらぬぞ、若造!」
チャージされたパイルバンカー。それは致死にならずとも、「ディープダウン」を
そうして硬直した「ディープダウン」を、拳が打ち据える。
ご存じ、更なる衝撃による
1発、2発……と、拳を振るうベイラム量産AC。
その間、左手のパイルバンカーは冷却と炸薬の再装填を済ませていく。
この調子でいけば、3発目を振り終えた直後辺りで、再び死の杭を撃ち放つことができるだろう。
「流石に、それは通さんぞ……!」
とはいえ、無抵抗で死を受け入れるナイルでもなかった。
3発目を受ける直前にパルスアーマーを展開し、衝撃による怯みを無効化。状況を仕切りなおして見せた。
――――さて。
ここまで俺は、ナイルとドルマヤンが戦うのを、MTを掃除しつつ静観していた。
敵同士が潰しあう分には、一向に構わないと。
ドルマヤンがナイルを瞬殺するなら、それはそれで良かった。1対1の方がやりやすい。
だがそうはならなかった。なら、横槍の時間だ。
ところで、ACが最も高速で動く方法は何だろうか?
AB? 否。それはあくまで継続的な巡航に重きを置いている分、瞬間的な速度では他の手段に劣る。
QB? 否。それは、瞬間的にはそこそこの速度が出るが、あくまでそこそこだ。
――――近接攻撃。確かにそれはアリだ。ブースタの近接攻撃推力を利用し、瞬発力と移動距離を併せ持った加速を行う。
特化した機体で運用すれば、非常に有用な接近手段になるだろう。
だが違う。そもそも、この機体はそこまでその移動方法に適していない。
最速は――――そう。落下である。
MTをいくらか掃除した後、大容量ジェネレータを活かして2機の上空まで移動していた俺は、ブーストを切り落下を開始した。
空中で
「アセンブラージュ」の逆関節型脚部が落下の衝撃を吸収すると同時に、そのコアからパルスの奔流が発せられる。
「チッ……!」
「な……!?」
放たれたパルス爆発によって、「ディープダウン」がせっかく展開したパルス防壁は消し飛び、またも
一方のベイラム量産ACは、ギリギリで爆発の中心から飛び退いていた。受けた衝撃は少なくないが、辛うじて
ここで追撃するべきは――――ドルマヤンの方だ。
ナイルは、まあ確かに強者の部類なのだろう。だがこの場では間違いなく格が劣る。
この状況、メインのターゲットであるドルマヤンに更なる打撃を与えるべきだろう。
アサルトアーマーを逃れたベイラム量産ACに対し、すでに放っていた爆導索で回避方向を制限しつつ蹴り飛ばしてACSにとどめを刺し、バズーカを挟んでさらに蹴る。
これまでの消耗もあって、一連の攻撃で敵はかなり消耗している……だが、押し切れない。やはりやや決定力に欠けるか。
ならばさらに押し込むまで……と、バーストライフルを構える。
その時だ。
「識別名モンキー・ゴード、多数の機体反応が接近しています……今度は早期に気づきましたよ!!」
オールマインドの警告と共に、レーダー上に多数の敵を示す表示が出る。
それが何者であるかは……すぐに分かった。
「コード23、現着……この状況、やはり罠でしょうか」
「ああ……システムもその可能性が高いと判断したからこそ、これほどの大部隊派遣を決定したのだろう」
それは、惑星封鎖機構の部隊だった。
見たところ
「サム・ドルマヤン自身による、『
「だが、仮に真実の場合、惑星封鎖に大きく貢献する提案だ……合理で動くシステム故に、利を語られれば無視できない……そういうところだろう」
「……その発言、システムへの疑念として処罰の対象になりかねませんが」
「はは、密告するかね?」
「まさか。今は任務を果たしましょう」
惑星封鎖機構らしからぬ軽口を叩きつつ、接近するSG部隊。
「来たか……うむ、ルビコンの脅威よ……貴様を殺しきるには、今のままでは不足の様だ……ここは!」
それを見るなりドルマヤンは、
「す、帥父……まさか投降するのですか?」
「いいや?
「しょ……正気ですか!?」
「はっ、かつてドーザーであった私に、それを言うのか?」
そう言いながら、ベイラム量産ACはSG部隊を蹴散らしつつ全速力で逃走する。
……察するに、ドルマヤンは元々、自分自身を餌にすることで惑星封鎖機構を呼び、その混乱に乗じてベイラムの勢力圏からから脱出するつもりだったのだろう。
おそらくは、オールマインドがジャミングをかけた時にはすでに、奪ったベイラムの端末から封鎖機構にメッセージを送っていたと思われる。
「た、対処を! 追いかけてください!」
「……すまんが、厳しいな」
機体重量の関係上、単純な追いかけっこではあちらの方が速い。その上、奴は上手く封鎖機構をこちらに対する盾にしながら逃げている。
出鼻を挫かれた以上、ここから追いつくのは難しいだろう。
「……ま、まあ? 我々の計画は完璧ですから? この程度想定の範囲内ですよ? ……気を取り直していきましょう」
「ああ……うん、ごめん」
「……いえいえ、大丈夫です大丈夫……さて、我々も帰還しましょうか……でもその前に、やることがありますね」
「……ああ」
「
「勿論。初任務でコケたんだ、それくらいの尻拭いはする」
俺はそれ以上何も言うことはなく、手始めに「ディープダウン」へと向き直った。
さて。
残念ながら、オールマインドの下での初任務は微妙な結果に終わってしまった。
あれから、その場を片付けつつ
今はミドル・フラットウェルを補佐にしつつ、解放戦線に与さない土着勢力への勧誘を積極的に行っているらしい。
オールマインドは、「大丈夫……まだ
……そういえば、ここまで誰かに対して引け目を感じたことは今まで無かったな。
そんなことを思いつつも、俺の首輪付きとしての初任務は終了したのだった。
ベイラム量産AC
UNIT
R-ARM UNIT:
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
FRAME
HEAD:HD-011 MELANDER
CORE:BD-011 MELANDER
ARMS:AR-011 MELANDER
LEGS:LG-011 MELANDER
INNER
BOOSTER:BST-G2/P04
FCS:FC-008 TALBOT
GENERATOR:DF-GN-06 MING-TANG
EXPANSION:NOT EQUIPPED
【挿絵表示】
解説
ドルマヤンが奪い、搭乗したベイラムのAC。
ベイラムのバーツを軸にした、オーソドックスな機体……というには、パイルバンカーが尖っている気がする。
実際、ベイラム系で近接武器を乗せようとすると、パイルか、パルブレか、厳密には近接武器か怪しい太陽守しかないので、せっかくならアストヒクと被らないようにしようと考えた結果パイルになった。
性能的には割とまとまっているが、パイルを加味してもやや決め手に欠けるといった感じ。ドルマヤンはアサルトライフルを捨てて運用したが、作中で言った通り近接適性が際立って高いわけでもないので最適解かどうかはケースバイケースといった感じ。
ちなみに、パイル→パンチ3発→パイルのコンボはかなり厳しいが出来なくもない。ACテストではわりと成功するが実戦ではキツイくらい。