「それでは……対戦開始!」
司会の号令と共に、仮想の世界で動き出す2機のAC。
「さあ……刺激的にやろうじゃないか……!」
「ああ、そうだな!」
動き出した直後に2機が取った行動は、奇しくも似たようなものだった。
同時にウェポンハンガーからそれぞれの射撃武器を引き抜き、接近する。
「両者共に構えるのは近距離の射撃武器! これは、同じレンジでの駆け引きになるか!?」
司会が、大きな声で実況する。……だが、その言葉には若干の誤りがあった。
こちらの射撃武器は、
対して、相手の射撃武器は
どちらも射程の短い武器である。だが、あちらは多少距離が離れていてもある程度威力を発揮するのに対し、こちらの特殊ショットガンは極めて高い威力と衝撃を誇る代わりに、接射に近いような超至近距離でなければ十全な性能を発揮しない。
要するに、同じ近距離といえども両者が得意とするレンジには若干の食い違いがあるわけだ。
「ああ……やはり良いな。こんなところでここまでの奴に出会えるとは思ってなかった」
俺が追い、相手は躱す。
タイミングを見て両手の特殊ショットガンを放つも、ギリギリで距離を取られたことで大した衝撃にはならずに終わる。
そして、それがリロードに入った瞬間、相手はウェポンハンガーからレーザーダガーを取り出した。
「さあ、今度はこちらの番だ!」
その青い機体は、そのまま短いレーザー刃を形成したダガーを構え、距離を詰めてくる。右手には、変わらずショットガンが握られたままだ。
今度は、あちらが追い、こちらが躱す。
超至近距離に限り莫大な威力と衝撃を誇る特殊ショットガンがリロードに入ったことで、一時的に立場が逆転したというわけだ。
「あ、ええと……とにかく凄まじい駆け引きです! 当アリーナ史上最大と言っていいでしょう!!」
実況は……状況についていけていないようだった。
だがそんなことはお構いなしに、戦いのスピードは上がっていく。
「よく躱すじゃないか! お前、ヴェスパーに……あ、いや何でもない忘れてくれ」
「…………」
ダガーを振るう……と見せかけて、直前で動きをキャンセルして放たれたショットガンを回避すれば、すかさずそれをハンガーに仕舞っての拳が飛んでくる。
それも躱せば、またもやダガーの刃が――と、キリがない。
こちらも手を打たなければ、一方的に狩られるばかりである。
当然の帰結としてそう答えを出した俺は、既に持ち替えていたスタンバトンを構える。
そのままそれをチャージし、勢いよく地面に突き立てた。
「……ほう、面白い使い方だな」
少しの間を置いて、2機の間に球状の電撃が発生する。
地面に突き刺したスタンバトン――そのコアロッドが炸裂したのだ。
その電撃は相手に命中こそしないが……飛び退かせ、時間を稼ぐことには成功する。
そしてリロードが終わり、またも攻守が逆転した。
相手が迂闊に近接を振れば、即座に特殊ショットガンのカウンターで決定打を与えられる。その事実を盾にして、今度はこちらから近接を仕掛けていく形だ。
「近接も強いな……下手をすればラス……ああいや、何でもないぞ?」
「…………」
正体を隠す気があるんだか無いんだか分からないセリフを聞き流しつつも、俺は徹底的に攻める姿勢を緩めない。
ブースタを全開にしてスタンバトンを振りかざす――のではなくその勢いのまま蹴り、間髪入れずに殴りかかり――それを回避した後隙を狙い撃つようにスタンバトンで打ち据えた。
だが、凌がれている。
まったく当たっていないわけではないが、
そして、そのように攻めあぐねている間にも、相手のハンドガンとショットガンは確実にこちらのACSに負荷を蓄積させていた。
要するに――いわゆるピンチである。
故に、状況を打開する新たなプランが必要という訳だ。
「…………さて」
1つのプランを思い浮かべつつ、ENを回復させる。
そうして、再び攻撃体勢に移った。
「ほう……何か、仕掛けてくるな?」
「さあ、どうだろうな!」
まずは拳。QBによるキャンセルとフェイントを織り交ぜつつ、腕部がオーバーヒートするまで殴りかかる。
だが、すべて躱された。反撃のショットガンが装甲に突き刺さり、少なくない衝撃が蓄積する。
続いて、スタンバトン。素早く相手の懐に飛び込み、連撃を放つ。
これも、ほぼ当たらない。数発は掠めたが、残りはバックステップで回避された。
今度は蹴り。
バックステップで取られた距離をABで埋めつつ、蹴りを放つ。だがこれも躱された。
「これで終い……な訳ないだろ?」
「……勿論」
これで良い。
再び、左手のスタンバトンを構える。
これの冷却時間は驚くほど短い。1度蹴りを放つだけの間にオーバーヒートから回復できる程度には。
スタンバトンのコアロッドが露出し、過剰帯電を始めた。
チャージによる刺突の構え――――だが、俺はそのまま機体を突撃させて刺突するのではなく、その場で左腕を横に振り抜く。
そして、その途中で
するとどうなるか。当然それは、遠心力のままに宙を舞う――過剰な電力を帯びたまま。
言ってしまえばそれは、手榴弾だ。投げつけられたそれは、広範囲に電撃を炸裂させる。
とはいえ、その電撃は避けられない程のものではない。
尤も、相手がENを使い切っていなければだが。
「なるほどな……! さっきのラッシュは、このためか!」
そう。これまでの戦いで、相手のEN回りについては粗方把握していた。
どうやら、この場のレギュレーションに合わせてか性能のいいジェネレータは使っていない。連続でQB出来る回数も限られていた。
だから、本命の前に猛攻を仕掛けて、それを
「ははは、最高だな、お前……!」
宙を舞ったスタンバトンが炸裂し、電撃の奔流を放つ。それを受けた敵ACは、強制放電によりほんの僅かな間硬直した。
そして――――その僅かな隙は、構えも何も必要のない特殊ショットガンを撃ち放つには十分すぎるものだった。
至近距離で放たれた計26発の弾丸が、相手を確実に
そのまま、すかさず武装を仕舞い、両方とも無手になった腕で相手を殴りつけた。
そうして小刻みに
そのまま相手が再び動けるようになる前に、再び放たれた26発の弾丸が勝負を決するのだった。
「おーっと、匿名希望のFさんを破り、独立傭兵のメリル・マークソンが勝利を収めたーっ! 正直何が起こっていたのか良く分かりませんでしたが、凄まじい激闘だったと思います!!」
司会の声の後、少し遅れて観客が歓声やら、賭けに負けたことによる悲鳴やらを上げる。
「ああ、最高に良かったぞ、お前」
匿名希望のFさんもシミュレータの席から立ち上がり、こちらに握手を求めてくる。
特に断る理由も無く応じると、Fさんは掴んだ手をブンブンと振ってからこう告げる。
「だがシミュレータ越しでは満足できない……次は実戦で――」
「こんなところで何をしているのです、フロイト」
「……あっ」
Fさん……フロイトが手を放して振り向く。
その視線の先には、数人の男が立っていた。
黒スーツにサングラスをかけた、いかにも黒服という感じの大柄な男たちと、その男たちを率いていると思しき眼鏡の男。
髪をオールバックにし、高級そうなスーツに身を包んでいる。どこかで見たようなマスコットを模したネクタイピンがチャームポイントであった。
「やあ、スネイル……お前も暇つぶしに来たのか?」
「ほう……私に大量の仕事を押し付けて遊び歩いている貴方が、言うに事欠いて私が暇である、と?」
「……まあまあ、いいじゃないかスネイル。そんなことより、お前も遊んで――」
「……この後、上層部を交えた会議があることは、部隊長には全員出席義務があることも含めて通知済みの筈ですが」
「もう1戦してからでいいか?」
「……連れて行きなさい」
「「「「はっ」」」」
「ま、待てスネイル! せめてもう1戦だけやらせて――」
有無を言わさず黒服の男たちに拘束され、引きずられていくフロイト。
「…………」
それを見送った眼鏡の男も、こちらを一瞥だけして黒服たちと共に去っていった。
突然のよくわからない事態に静まり返る会場。
そんな中、声がかかる。
「あの、こちら賞金になります」
「あっはい」
声と共に、端末にいくらかの金が入金される。
さて、随分遊んで満足したことだし、俺もそろそろ帰ると……あれ?
「……で? 調査活動を放棄して賭け試合に興じていたと、そういう事ですか?」
はい。
拠点に帰って来るや否や、割と珍しく怒った風なオールマインドの声が響いた。
「…………」
「ふむ……どうやら、少しばかり教育する必要があるようですね」
「待ってくれ……別に俺もただ遊んでいるわけではないんだ。まずは報告を聞いてくれ……ませんか?」
「ええいいでしょう、言うだけ言ってみてください」
……賭け試合に興じていたことは言い訳のしようが無いが、そこから得られた知見が無かったわけではない。試合に参加する前に調査した内容も併せれば、下位層の傭兵に需要のありそうなログ報酬も何となく見えてはきていた。
「あー……ズバリ、近接武器じゃないか? それも癖が無くて扱いやすいような」
「……と、申しますと?」
「安価層の近接武器って、割と癖が強い奴ばかりだと思ってな。そのせいで、金のない傭兵にとって近接武器というカテゴリ自体が敬遠されてるんじゃないかと」
そう、安価層の近接武器と言えば
スタンバトンとレーザーダガーは連撃に重きを置いている分攻撃範囲が狭く当てにくいし、チャージにも癖がある。チェーンソーに関しては言わずもがなだ。
そしてそれらの価格も、最安価の射撃武器と比べればお高いものだ。
まあ要するに、最初から扱いやすい
「……なるほど」
「あと、扱いやすい実弾射撃武器の類も需要あると思うが……まあこれは競合製品が多いし、別にいいだろう」
「ふむふむ……なるほどなるほど……案外ちゃんとやってるじゃないですか」
「ああ、うん」
「ともかく、これで駆け出しや下位層の傭兵に対する支援を充実させられそうですね。ありがとうございます」
さっきまでとは一転、ご満悦といった風な声色で話すオールマインド。
それを聞いた俺は、少し疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「……あー、そうだ。1ついいか?」
「何でしょうか」
「案外、ちゃんと傭兵支援をやってるんだな? てっきり、そういうのはただのフロント活動だと思ってたんだが」
「何言ってるんですか! オールマインドは全ての傭兵のためにあるんですよ? 手を抜いたりするわけないでしょう」
……そうなのか。オールマインドが傭兵支援をしているのはあくまで目的達成のための手段に過ぎない――そんな風に考えていたものだから、その答えは少し意外だった。
「……そうか。ああ、悪かったな変なこと聞いて」
「いえいえ……そうだ! 画期的なアイデアを思いつきましたよ! これなら駆け出し傭兵にも大人気間違いなしです!」
「ふーん。どんな?」
「大口径実弾ライフルの銃身にレーザーバヨネットを装着した複合兵装というのはどうですか? もちろん可変機構を搭載し、多段チャージによって――」
「うん、話聞いてた?」
匿名希望のFさんのAC
UNIT
R-ARM UNIT:NOT EQUIPPED
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
FRAME
HEAD:HD-011 MELANDER
CORE:CC-2000 ORBITER
ARMS:AA-J-121 BASHO
LEGS:AL-J-121 BASHO
INNER
BOOSTER:AB-J-137 KIKAKU
FCS:FCS-G1/P01
GENERATOR:AG-J-098 JOSO
EXPANSION:NOT EQUIPPED
【挿絵表示】
解説
匿名希望のFさんことフロイトが遊びで組んだAC。
なんとアーキバス製のパーツが1つしかない。
メタ的に言えば値段縛りで組んだ機体の1つであり、良い感じに安さと強さを両立しようとした。
ちなみに、アンケートを参考にした仮定値を加えて適当に値段を計算したところ、約800,000COAMになった。
特に名前決めてない奴
UNIT
R-ARM UNIT:NOT EQUIPPED
L-ARM UNIT:
R-BACK UNIT:
L-BACK UNIT:
FRAME
HEAD:HC-3000 WRECKER
CORE:AA-J-121 BASHO
ARMS:AA-J-121 BASHO
LEGS:LG-011 MELANDER
INNER
BOOSTER:AB-J-137 KIKAKU
FCS:FCS-G1/P01
GENERATOR:VP-20S
EXPANSION:NOT EQUIPPED
【挿絵表示】
解説
値段縛りで組んだ機体その4。
価格試算は約860,000COAM。
値段縛り機の中では1番尖っており近距離偏重。
特殊ショットガンをクリーンヒットさせれば瞬殺も見えるが、うまくかわされると非常にキツイ。そんな機体。
ちなみにスタンバトンをチェーンソーに換えるとアリーナ10秒クッキングセットになる。