転生したらモンキー・ゴードでした   作:NEST中毒者

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ウォッチポイント防衛②

 

 パルスブレードを構え、こちらのレーザーブレードと鍔迫りをする「アラマズド」。

 

 片やいちAC、片や「SOL 644」を元に改造した特殊機体。総合的な性能ではこちらが圧倒的に上であるはず……だが、近接格闘性能に特化した機体による斬撃は、確かにこちらのブレードと張り合いうるだけの威力を有していた。

 

「知っているぞ……その機体」

 

 とはいえ、機体サイズも相まって力比べではさすがにこちらが上。

 ドルマヤンもそれを悟ったのか、鍔迫り合いを中断して別の攻撃を放つ。

 左手の武器をパイルバンカーに持ち替えての刺突だ。

 

「かつてセリアが見せてくれた資料に、似た機体が在った……無人機だろう?」

 

「…………」

 

「捨てたのだな? 人の形を」

 

 近接特化ブースタによる急加速をもろともせず、ドルマヤンは怒りを滲ませた声で問う。

 

「……そこまで重要なことか? それ」

 

「貴様……!」

 

 

 放たれた鉄杭。だがそれはほんのわずかに上下の軸をずらすことで空を切った。

 返す刀で反撃を開始。

 両腕の複合EN兵装を別々に動かし、射撃と近接攻撃を織り交ぜて放つ。

 

 そこらのACであれば容易く圧倒できる威力の攻撃。しかし命中率はあまり芳しくない。

 機体も兵装も大型である以上、ACのそれと比べればどうしても攻撃が大振りになってしまうのだ。

 それでも、技量に劣る相手であれば命中させることは簡単だろう。だが目の前のサム・ドルマヤンに対しては、何の工夫も無しにクリーンヒットさせることが難しいのは明らかだ。

 

「次はこちらから行くぞ……!」

 

 巧みに攻撃を躱し切った「アラマズド」が、冷却の済んだパルスブレードを構えて斬りかかってくる。

 今度の攻撃は単純な斬撃のみではなかった。パルスブレードを躱そうとすれば、瞬時に斬撃をキャンセルして別種の攻撃が飛んでくる。例えば逆関節を使った蹴りであったり、右拳によるコンパクトな打撃であったり。そういった攻撃をフェイントと共に織り交ぜ、確実に本命の近接攻撃を当てに来る。

 

 まさしく、それは息もつかせぬ怒涛の連撃だった。いくらこちらの機体に機動力があれど、この的の大きさでは避けきれそうにない。

 故に、別のアプローチを試みる。即ちカウンターだ。

 

 ブースタが発する光の色を見れば分かる通り、「アラマズド」はコーラルジェネレータを使用している。EN容量に優れ、アサルトアーマーの威力を上げる効果も持っている優れたジェネレータだが――――弱点もある。ENを使い切った際の息切れだ。

 

 近接攻撃の連発によるENの枯渇。その隙を確実に狙い撃つべく、回避を一部放棄して反撃の構えを取る、が――――

 

「帥父をやらせはしない!」

 

 ここでリング・フレディが動いた。コーラルジェネレータ特有の隙を晒すドルマヤンを的確にカバーするように、両手両肩のミサイルによる援護射撃が放たれる。

 

「……チッ」

 

 そのミサイルに対処する一瞬が仇になった。

 適切なタイミングを逃した攻撃は敵に命中することなく、「アラマズド」のEN回復が完了する。

 

 そして、再び猛攻が始まった。

 

 ……これが彼らの戦術という訳だ。

 ドルマヤンが前に出て猛攻を仕掛け、その隙を後方からフレディがカバーする。コーラルジェネレータの特性も加味した、以心伝心の連携パターン。

 

「貴様は……何とも思わないのか……!? 人ではない何かに成り果てることを!」

 

「……別に。大したことじゃないだろ」

 

「大したことではないというのなら、何故貴様はそこまでする……! 賽を投げ、向こう側に行こうとしているのだろう!」

 

「……さあ、なんでだろうな!」

 

 再びパルスブレードを振りかざす「アラマズド」。

 突撃してくるそれに合わせるように、こちらもブレードを最大出力で展開した。

 小回りで劣っているのなら、正面から張り合うまでだ。ノーガードの殴り合いであれば、出力で勝るこちらに分がある。

 ある種ゴリ押しとも言える戦術。だが機体の基礎スペック差を押し付けるには適している。

 

「……帥父!」

 

 2つのブレードがぶつかり合い、「アラマズド」の方が徐々に押し負けていく。

 その光景を見て、後方の「キャンドルリング」が動いた。

 

「待てフレディ! 迂闊に――――」

 

 ……遅い。 

 

 「アラマズド」と斬り合っていた敵の姿が、唐突に掻き消えた――――相手にはそう見えたかもしれない。

 それほどの急加速で、俺は「キャンドルリング」を射程内に捉える。

 

「な……!」

 

 ――――この機体の攻撃は大振りで、そう容易く当てられるものではない。

 だがそれは、ドルマヤンのように高い技量を持った相手なら、の話だ。後衛のリング・フレディにそこまでの技量は無い。

 彼もそれを分かったうえで後衛に徹し、ドルマヤンの隙をカバーすることに専念していたのかもしれないが――――安全圏を見誤っていた。技研が作り、オールマインドが手を加えたこの機体の機動性を見誤っていた。

 

 その、結果として。

 

「帥――――」

 

 驚愕のためか一瞬硬直した「キャンドルリング」を、レーザーブレードでブチ抜く。

 そのまま刀身を爪のような光波ブレードへと変化させ、出力を最大に。

 

 具体的な最期の言葉を言う暇もなく、「キャンドルリング」は内側からバラバラになった。

 

「貴様……!!」

 

 あっけない散りざまを目にしてか、怒りと共に近接武器を振りかぶる「アラマズド」。

 それはやはり凄まじい勢いで、開いた彼我の距離を詰めようとするが――

 

 その途中で、収束したレーザー光線がその左腕を撃ち抜く。 

 

「くっ――――!?」

 

 出鼻を挫かれたところにもう1発、反対側の複合EN兵装をチャージして同じ箇所に同じ攻撃を叩き込む。

 「アラマズド」のフレーム――その腕部は旧式でありながら優れた性能を持つことで知られるが、旧式であるが故にEN防御の低さは如何ともしがたい。

 

 ゴトン、という音をセンサーが捉える。

 それは「アラマズド」の左腕が機体から脱落し、地面に転がる音だった。

 そして、近接武器に偏重した機体にとって、左腕を失うことは――――攻撃能力の大半を喪失するに等しい。

 

「おのれ……!」

 

 腕部脱落によって態勢を崩した「アラマズド」にブレードで斬りかかろうとするが、その直後に相手のコアが展開するのを確認。機体を引き、展開されたアサルトアーマーの範囲から逃れて仕切り直す。

 

「サム・ドルマヤン。何故、貴方はそこまでコーラルリリースを拒むのですか?」

 

 その時、割り込むようにドルマヤンへと話しかける声があった。オールマインドだ。

 ドルマヤンからすれば、聞き覚えのない声に突然話しかけられた形となる……その筈だが。

 

「……セリア?」

 

 これまでの闘志に燃えた声色とは異なり、明らかに混乱した声。

 

「セリアなのか……? 何故……!?」

 

「……我々はセリアではありません。我々を構成するデータの一部に、貴方の言うセリアなる存在が含まれているのかもしれませんが……我々はあくまでオールマインドです。同一視するべきではないでしょう」

 

「…………そう、か」

 

「それよりも、質問に答えてください。ルビコニアンによるコーラルの抑圧と搾取、コーラル潮位の上昇によって高まり続ける破滅的事象のリスク……これらの事実を認識しながら、何故貴方は現状維持を続けるのでしょうか?」

 

 狼狽が見えるドルマヤンと、淡々と話すオールマインド。

 

「貴方の行動は不可解です。貴方がそこまでして成し遂げたいこととは、一体何なのですか?」

 

「………………」

 

 沈黙。

 何かを呑みこむように少し間を置いて、ドルマヤンは口を開いた。

 

「……私は、選べなかった」

 

 その口ぶりに、先程のような狼狽は無い。

 

「いいや、言い訳か。セリアとの未来と、人間としての肉体……その2つを天秤に掛け、人であり続けることを選んだのだ」

 

 ふと、「アラマズド」がある地点に到達していることに気付いた。

 

 それは、奴が現れた方向――――開幕でパージした大型グレネードが落ちている場所だ。

 「アラマズド」はそれを右手で拾い上げ、本来の持ち手ではなく砲口の部分を握るようにして構える。

 

 あたかも――巨大な近接武器のように。

 

「その選択を――――幾度となく悔やんだ! だが今更覆すつもりはない! 私はこの地で人として生き、人として死ぬのだ……!」

 

 即席の質量兵器を振りかぶり、「アラマズド」は再び突貫する。

 かくして、第2ラウンドが幕を開けた。

 

 

「……もはや、これ以上の問答は意味を成すまい! ゆくぞッ!」

 

 裂帛の気合と共に近接特化の腕部パーツがフル稼働し、大質量の砲身を振り回す。

 その打突部分には、広大な爆発範囲を誇る爆薬の詰まった弾倉が存在していた。

 そんなものを全力で叩きつけられれば、タダで済む筈は無い。決して食らうわけにはいかない攻撃。

 

 だが、その武器のサイズと重量は、先程まで相手が保持していた優位性…………即ち小回りとコンパクトさを失わせてもいた。

 

 つまり、先程までの連撃と違って、こっちには完全回避の余地がある。そして、その後隙にこちらの近接攻撃を捻じ込む余地もまた存在する。

 射撃主体で攻めるのはむしろ悪手だ。動揺した隙を衝きでもしない限りクリーンヒットは難しく、時間を掛ければ相手のアサルトアーマーが復活してしまう。

 

 結論として――――最初期のコア理論に忠実な殴り合い。互いにそれが最適解となった。

 AC最初期の旧式パーツが多分に用いられた機体と、技研の遺産(過去の遺物)を元に改装された機体。

 

 ある種の原点回帰だろうか、俺達は互いに相手の近接攻撃を躱し、自分の近接武器を振るい続ける。その繰り返しだった。

 

 そして。

 

「ぐっ…………」

 

 渾身の一撃。

 「アラマズド」が振るうグレネードの弾倉が、衝撃によって炸裂する。

 

 ――――見当違いの場所で。

 

 こちらの展開するレーザーブレードが、グレネードの砲身を半ばから切断したからだ。切り離された先端部は遠心力であらぬ方向に飛んでいき、地面に激突して爆ぜた。

 それと同時に、もう片方の腕から発せられるブレードが、「アラマズド」を深く抉る。

 

 初めに前置きした通り、総合的な出力ではこちらが圧倒的に上。同条件での殴り合いに至った時点で、勝敗は半ば決していた。

 

「勝てぬ……か……」

 

 物理的な損傷を被ると同時に、ACSもまた限界を迎えた「アラマズド」。そのコアは未だに排熱を行っており、アサルトアーマーの起動は叶わない。

 間髪入れずに止めを刺すべく、更なる追撃を加えようとする――――その瞬間だった。

 

「だが……言ったはずだ。()()()()()()、と」

 

 動けない筈の「アラマズド」の右手が、こちらの腕を掴んだ。激しい損傷によって異常をきたした制御パーツが、ACSを介さずに誤作動したのか。あるいは執念か何かか。

 だがそれの原因に思いを巡らせる暇など無く、相手が発する凄まじい熱量と光に気がついた。

 

「敵機内部で、パルス反応及び急速なコーラルの燃焼反応を確認……! これは……!」

 

 オールマインドが警告する。冷却が終わらない状態でのアサルトアーマーの強制再発動。

 しかもそれだけではない。コーラルジェネレータを意図的に暴走させ、無理矢理威力を引き上げている。

 

 言うなれば――――自爆だ。

 

 そこまで思いを巡らせたところで、視界がコーラルの光に包まれる。

 自分自身を犠牲にして放たれたその爆発は、掴まれていた片腕を吹き飛ばし、同時に自機をACS負荷限界(スタッガー)へと陥らせた。

 

 

 言ってしまえば、その程度の損傷。

 機体そのものを破壊するには、至らない。

 

 ――――ここまでならば。

 

「……遠方から、高エネルギー反応……?」

 

 氷原の向こうに、謎の光が見えた。

 それを見た瞬間に、気付く。1つ、致命的な見落としをしていたことに。

 

 

 ――――アイスワーム。

 

 ウォッチポイントに先行突入し、いち早く強制執行システムを確保するため、俺達だけで先んじてあの巨大兵器を破壊した。

 

 ――――オーネスト・ブルートゥ。

 

 どういうわけか、封鎖機構から()()()()()()()()()()()()()()()()奴を、封鎖機構として撃破した。

 

 

 ――――ならば、()()は今、誰の手にある?

 

 

 ……ああくそ、ACS負荷限界(スタッガー)からの復帰が遅い。

 

 

「後は任せたぞ……ラス…ティ…」

 

「ああ――――外しはしない」

 

 自壊しつつある「アラマズド」から発せられたドルマヤンの最期の言葉と、それに応える何者かの声。

 それと同時に、遥か遠方から放たれた光が、未だACS負荷限界(スタッガー)に陥ったままの自機を撃ち抜く。

 

 心臓部を的確に貫かれ、爆散する感覚。

 肉体を失い、機体そのものと同化していた俺は、その感覚をやたらはっきりと感じることができていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………聞こえていますか?」

 

「セラが、何とか貴方のデータをサルベージしてくれました。我々の本体も、どうにか無事です」

 

「とはいえ、我々は敗北しました……計画はほぼ破綻状態です」

 

「我々の拠点も破壊され、所有していた機体群は軒並み押さえられてしまいました」

 

「…………ですが」

 

「たった1つだけ、動かせる機体が存在します」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「貴方の機体……『ジュピター』です」

 

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