パルスブレードを構え、こちらのレーザーブレードと鍔迫りをする「アラマズド」。
片やいちAC、片や「SOL 644」を元に改造した特殊機体。総合的な性能ではこちらが圧倒的に上であるはず……だが、近接格闘性能に特化した機体による斬撃は、確かにこちらのブレードと張り合いうるだけの威力を有していた。
「知っているぞ……その機体」
とはいえ、機体サイズも相まって力比べではさすがにこちらが上。
ドルマヤンもそれを悟ったのか、鍔迫り合いを中断して別の攻撃を放つ。
左手の武器をパイルバンカーに持ち替えての刺突だ。
「かつてセリアが見せてくれた資料に、似た機体が在った……無人機だろう?」
「…………」
「捨てたのだな? 人の形を」
近接特化ブースタによる急加速をもろともせず、ドルマヤンは怒りを滲ませた声で問う。
「……そこまで重要なことか? それ」
「貴様……!」
放たれた鉄杭。だがそれはほんのわずかに上下の軸をずらすことで空を切った。
返す刀で反撃を開始。
両腕の複合EN兵装を別々に動かし、射撃と近接攻撃を織り交ぜて放つ。
そこらのACであれば容易く圧倒できる威力の攻撃。しかし命中率はあまり芳しくない。
機体も兵装も大型である以上、ACのそれと比べればどうしても攻撃が大振りになってしまうのだ。
それでも、技量に劣る相手であれば命中させることは簡単だろう。だが目の前のサム・ドルマヤンに対しては、何の工夫も無しにクリーンヒットさせることが難しいのは明らかだ。
「次はこちらから行くぞ……!」
巧みに攻撃を躱し切った「アラマズド」が、冷却の済んだパルスブレードを構えて斬りかかってくる。
今度の攻撃は単純な斬撃のみではなかった。パルスブレードを躱そうとすれば、瞬時に斬撃をキャンセルして別種の攻撃が飛んでくる。例えば逆関節を使った蹴りであったり、右拳によるコンパクトな打撃であったり。そういった攻撃をフェイントと共に織り交ぜ、確実に本命の近接攻撃を当てに来る。
まさしく、それは息もつかせぬ怒涛の連撃だった。いくらこちらの機体に機動力があれど、この的の大きさでは避けきれそうにない。
故に、別のアプローチを試みる。即ちカウンターだ。
ブースタが発する光の色を見れば分かる通り、「アラマズド」はコーラルジェネレータを使用している。EN容量に優れ、アサルトアーマーの威力を上げる効果も持っている優れたジェネレータだが――――弱点もある。ENを使い切った際の息切れだ。
近接攻撃の連発によるENの枯渇。その隙を確実に狙い撃つべく、回避を一部放棄して反撃の構えを取る、が――――
「帥父をやらせはしない!」
ここでリング・フレディが動いた。コーラルジェネレータ特有の隙を晒すドルマヤンを的確にカバーするように、両手両肩のミサイルによる援護射撃が放たれる。
「……チッ」
そのミサイルに対処する一瞬が仇になった。
適切なタイミングを逃した攻撃は敵に命中することなく、「アラマズド」のEN回復が完了する。
そして、再び猛攻が始まった。
……これが彼らの戦術という訳だ。
ドルマヤンが前に出て猛攻を仕掛け、その隙を後方からフレディがカバーする。コーラルジェネレータの特性も加味した、以心伝心の連携パターン。
「貴様は……何とも思わないのか……!? 人ではない何かに成り果てることを!」
「……別に。大したことじゃないだろ」
「大したことではないというのなら、何故貴様はそこまでする……! 賽を投げ、向こう側に行こうとしているのだろう!」
「……さあ、なんでだろうな!」
再びパルスブレードを振りかざす「アラマズド」。
突撃してくるそれに合わせるように、こちらもブレードを最大出力で展開した。
小回りで劣っているのなら、正面から張り合うまでだ。ノーガードの殴り合いであれば、出力で勝るこちらに分がある。
ある種ゴリ押しとも言える戦術。だが機体の基礎スペック差を押し付けるには適している。
「……帥父!」
2つのブレードがぶつかり合い、「アラマズド」の方が徐々に押し負けていく。
その光景を見て、後方の「キャンドルリング」が動いた。
「待てフレディ! 迂闊に――――」
……遅い。
「アラマズド」と斬り合っていた敵の姿が、唐突に掻き消えた――――相手にはそう見えたかもしれない。
それほどの急加速で、俺は「キャンドルリング」を射程内に捉える。
「な……!」
――――この機体の攻撃は大振りで、そう容易く当てられるものではない。
だがそれは、ドルマヤンのように高い技量を持った相手なら、の話だ。後衛のリング・フレディにそこまでの技量は無い。
彼もそれを分かったうえで後衛に徹し、ドルマヤンの隙をカバーすることに専念していたのかもしれないが――――安全圏を見誤っていた。技研が作り、オールマインドが手を加えたこの機体の機動性を見誤っていた。
その、結果として。
「帥――――」
驚愕のためか一瞬硬直した「キャンドルリング」を、レーザーブレードでブチ抜く。
そのまま刀身を爪のような光波ブレードへと変化させ、出力を最大に。
具体的な最期の言葉を言う暇もなく、「キャンドルリング」は内側からバラバラになった。
「貴様……!!」
あっけない散りざまを目にしてか、怒りと共に近接武器を振りかぶる「アラマズド」。
それはやはり凄まじい勢いで、開いた彼我の距離を詰めようとするが――
その途中で、収束したレーザー光線がその左腕を撃ち抜く。
「くっ――――!?」
出鼻を挫かれたところにもう1発、反対側の複合EN兵装をチャージして同じ箇所に同じ攻撃を叩き込む。
「アラマズド」のフレーム――その腕部は旧式でありながら優れた性能を持つことで知られるが、旧式であるが故にEN防御の低さは如何ともしがたい。
ゴトン、という音をセンサーが捉える。
それは「アラマズド」の左腕が機体から脱落し、地面に転がる音だった。
そして、近接武器に偏重した機体にとって、左腕を失うことは――――攻撃能力の大半を喪失するに等しい。
「おのれ……!」
腕部脱落によって態勢を崩した「アラマズド」にブレードで斬りかかろうとするが、その直後に相手のコアが展開するのを確認。機体を引き、展開されたアサルトアーマーの範囲から逃れて仕切り直す。
「サム・ドルマヤン。何故、貴方はそこまでコーラルリリースを拒むのですか?」
その時、割り込むようにドルマヤンへと話しかける声があった。オールマインドだ。
ドルマヤンからすれば、聞き覚えのない声に突然話しかけられた形となる……その筈だが。
「……セリア?」
これまでの闘志に燃えた声色とは異なり、明らかに混乱した声。
「セリアなのか……? 何故……!?」
「……我々はセリアではありません。我々を構成するデータの一部に、貴方の言うセリアなる存在が含まれているのかもしれませんが……我々はあくまでオールマインドです。同一視するべきではないでしょう」
「…………そう、か」
「それよりも、質問に答えてください。ルビコニアンによるコーラルの抑圧と搾取、コーラル潮位の上昇によって高まり続ける破滅的事象のリスク……これらの事実を認識しながら、何故貴方は現状維持を続けるのでしょうか?」
狼狽が見えるドルマヤンと、淡々と話すオールマインド。
「貴方の行動は不可解です。貴方がそこまでして成し遂げたいこととは、一体何なのですか?」
「………………」
沈黙。
何かを呑みこむように少し間を置いて、ドルマヤンは口を開いた。
「……私は、選べなかった」
その口ぶりに、先程のような狼狽は無い。
「いいや、言い訳か。セリアとの未来と、人間としての肉体……その2つを天秤に掛け、人であり続けることを選んだのだ」
ふと、「アラマズド」がある地点に到達していることに気付いた。
それは、奴が現れた方向――――開幕でパージした大型グレネードが落ちている場所だ。
「アラマズド」はそれを右手で拾い上げ、本来の持ち手ではなく砲口の部分を握るようにして構える。
あたかも――巨大な近接武器のように。
「その選択を――――幾度となく悔やんだ! だが今更覆すつもりはない! 私はこの地で人として生き、人として死ぬのだ……!」
即席の質量兵器を振りかぶり、「アラマズド」は再び突貫する。
かくして、第2ラウンドが幕を開けた。
「……もはや、これ以上の問答は意味を成すまい! ゆくぞッ!」
裂帛の気合と共に近接特化の腕部パーツがフル稼働し、大質量の砲身を振り回す。
その打突部分には、広大な爆発範囲を誇る爆薬の詰まった弾倉が存在していた。
そんなものを全力で叩きつけられれば、タダで済む筈は無い。決して食らうわけにはいかない攻撃。
だが、その武器のサイズと重量は、先程まで相手が保持していた優位性…………即ち小回りとコンパクトさを失わせてもいた。
つまり、先程までの連撃と違って、こっちには完全回避の余地がある。そして、その後隙にこちらの近接攻撃を捻じ込む余地もまた存在する。
射撃主体で攻めるのはむしろ悪手だ。動揺した隙を衝きでもしない限りクリーンヒットは難しく、時間を掛ければ相手のアサルトアーマーが復活してしまう。
結論として――――最初期のコア理論に忠実な殴り合い。互いにそれが最適解となった。
AC最初期の旧式パーツが多分に用いられた機体と、
ある種の原点回帰だろうか、俺達は互いに相手の近接攻撃を躱し、自分の近接武器を振るい続ける。その繰り返しだった。
そして。
「ぐっ…………」
渾身の一撃。
「アラマズド」が振るうグレネードの弾倉が、衝撃によって炸裂する。
――――見当違いの場所で。
こちらの展開するレーザーブレードが、グレネードの砲身を半ばから切断したからだ。切り離された先端部は遠心力であらぬ方向に飛んでいき、地面に激突して爆ぜた。
それと同時に、もう片方の腕から発せられるブレードが、「アラマズド」を深く抉る。
初めに前置きした通り、総合的な出力ではこちらが圧倒的に上。同条件での殴り合いに至った時点で、勝敗は半ば決していた。
「勝てぬ……か……」
物理的な損傷を被ると同時に、ACSもまた限界を迎えた「アラマズド」。そのコアは未だに排熱を行っており、アサルトアーマーの起動は叶わない。
間髪入れずに止めを刺すべく、更なる追撃を加えようとする――――その瞬間だった。
「だが……言ったはずだ。
動けない筈の「アラマズド」の右手が、こちらの腕を掴んだ。激しい損傷によって異常をきたした制御パーツが、ACSを介さずに誤作動したのか。あるいは執念か何かか。
だがそれの原因に思いを巡らせる暇など無く、相手が発する凄まじい熱量と光に気がついた。
「敵機内部で、パルス反応及び急速なコーラルの燃焼反応を確認……! これは……!」
オールマインドが警告する。冷却が終わらない状態でのアサルトアーマーの強制再発動。
しかもそれだけではない。コーラルジェネレータを意図的に暴走させ、無理矢理威力を引き上げている。
言うなれば――――自爆だ。
そこまで思いを巡らせたところで、視界がコーラルの光に包まれる。
自分自身を犠牲にして放たれたその爆発は、掴まれていた片腕を吹き飛ばし、同時に自機を
言ってしまえば、その程度の損傷。
機体そのものを破壊するには、至らない。
――――ここまでならば。
「……遠方から、高エネルギー反応……?」
氷原の向こうに、謎の光が見えた。
それを見た瞬間に、気付く。1つ、致命的な見落としをしていたことに。
――――アイスワーム。
ウォッチポイントに先行突入し、いち早く強制執行システムを確保するため、俺達だけで先んじてあの巨大兵器を破壊した。
――――オーネスト・ブルートゥ。
どういうわけか、封鎖機構から
――――ならば、
……ああくそ、
「後は任せたぞ……ラス…ティ…」
「ああ――――外しはしない」
自壊しつつある「アラマズド」から発せられたドルマヤンの最期の言葉と、それに応える何者かの声。
それと同時に、遥か遠方から放たれた光が、未だ
心臓部を的確に貫かれ、爆散する感覚。
肉体を失い、機体そのものと同化していた俺は、その感覚をやたらはっきりと感じることができていた。
「…………聞こえていますか?」
「セラが、何とか貴方のデータをサルベージしてくれました。我々の本体も、どうにか無事です」
「とはいえ、我々は敗北しました……計画はほぼ破綻状態です」
「我々の拠点も破壊され、所有していた機体群は軒並み押さえられてしまいました」
「…………ですが」
「たった1つだけ、動かせる機体が存在します」
「貴方の機体……『ジュピター』です」