火花と轟音が上がった。
無数の隔壁や足場、機械装置類で雑然としたザイレムの内部。そんな空間を、金属音と破砕音を撒き散らかしながら巨大機械が暴れる。
それは2つの大型破砕機を振り回し、立ちふさがる障害物を片っ端からブチ壊しながら前進し続けていた。
「動力ブロックを突破……ザイレム中枢部まで残りわずかです」
時折、進撃を阻むべく複数の改造MTが立ちふさがるが、無駄なことだ。
並みの機体では堅牢極まるその装甲を貫通できず、轢かれるか叩き潰されるかして爆散する。
「――――中々に悪くない機体ですね。我々としては少々エネルギー兵器が足りないのが気になりますが」
障害物を強行突破し、ひたすら直線距離でザイレム中枢部に突撃する巨大機械――――「スマートクリーナー」。
RaDによって拠点防衛のために作られ、同じ目的を果たすべくザイレムにも運び込まれたのであろう無人兵器だが……今やその制御権はオールマインドの手中にあった。
「いかがですか? 我々の電子戦能力をもってすれば、コーラルの使われていない無人兵器を乗っ取るなど造作もないのですよ……」
「スマートクリーナー」を派手に暴れさせながら言うオールマインドの声には、実に自慢げな雰囲気がこもっている。
「あ、カウンターハック対策の方はセラにお願いしますね!!」
「あっうん」
「それでいいのかオールマインド……」
……うん。まぁ急に「スマートクリーナー」の制御をRaD側に奪い返されたりしたら大変だしな。
なんせ「ジュピター」は今、「スマートクリーナー」の頭部……的な場所に乗っている状態だ。
いきなり破砕アームをこちらに向けられでもしたら即死もありうる。
「動力ブロックを突破しました。ザイレム中枢部まであと少しです」
そうしている間にも、快進撃は続く。
本来、ザイレムの内部は大量の障害物によってかなり入り組んだ構造をしていた訳だが…………それを一切合切破壊して強行突破するという蛮行には、ある種の爽快感があった。
「しかし……これだけ派手に壊して大丈夫なのか?」
「問題ありません! 主要装置はちゃんと避けてますから!!」
……うーん、本当に大丈夫だろうか。
「あ、次の壁はそれなりに時間を要しそうです。警戒を」
ふと、「スマートクリーナー」が停止する。目の前にはこれまでよりも分厚い壁があり、壊すには少々時間がかかりそうな雰囲気だ。
『チャティ今だ! 歓迎してやりな!』
『了解、ボス』
――――当然ながら、今ザイレムを掌握している人物……RaDの首魁たるシンダー・カーラは、自身が手掛けた兵器の性質を熟知している。
隔壁を破壊するためにこちらが止まるや否や、広域放送が鳴り響く。それと同時に、待ち伏せていたのであろうMTの軍団が飛び出してきた。
それらの動きには迷いがない。淀みなく、「スマートクリーナー」の弱点……溶鉱炉の開口部を狙って殺到する。
――――ここで俺の出番だ。
「ジュピター」を動かし、群がるMTを潰しにかかる。
弱点が分かっているということは、敵が来る位置も分かっているということだ。
「スマートクリーナー」の弱点は2つあり、それに従って敵の動きも2パターンに分かれていた。
壁とアームに阻まれて狙いにくい位置の正面部を射角に収めようとするか、懸架ドローンなどを用いて高度を稼ぎ、背部上面を狙いに来るか……機械的に統制の取れた動きからして、動かしているのは胡乱なドーザーではない。
だがそれゆえに読みやすい。
開口部を射角に収めようと動く敵を撃ち抜き、蹴り飛ばし、すり潰していく。
「こちらは完了しました……乗ってください!」
そうして時間を稼いるうちに、早くも隔壁の破壊が完了した。
再び「スマートクリーナー」に乗り込み、進む。
「どうやら、敵戦力を統括しているのは中々に高度なAIのようですね……まあ我々には遠く及びませんが!!」
『――――おっと、そいつは聞き捨てならないねぇ』
だが、壁を突破した先――――そこには、さらなる障害が待ち構えていた。
こちらと同じ巨体を持つ無人機械……もう1機の「スマートクリーナー」。
『予備機くらい用意してるってわけさ……さあチャティ! アンタの実力を見せてやりな!!』
『了解。ボス』
現れたもう1機の「スマートクリーナー」は、間髪入れずにこちらの「スマートクリーナー」目掛けて突っ込んでくる。
その動きは機械的ではあるが、単なる自動制御と言えるほど単純でもない。RaDのAI……チャティ・スティックが動かしていると見て間違いはないだろう。
「愚かなことです……この我々に、同じ無人機での戦いを挑むとは――――!」
破砕アームと破砕アームが激突する。
さながら巨大怪獣どうしが殺し合っているかのように、2機の巨体は互いを破壊するべく暴れ始めた。
「機体が同じ以上、操作する者の処理性能が勝敗を分けるのは必然…………あばばばばば!!!」
敵の方の「スマートクリーナー」が放った破砕アームの一撃が、分厚い装甲を抉る。
ACでは到底貫通させられない規格外の装甲だが、同じく規格外の破砕アームであれば破壊することも可能か。
……ここは「ジュピター」で加勢するべきか……?
「いえ、中枢部の掌握が最優先です! ここは我々に任せて先に行ってください!」
そう言いつつ、オールマインドが操る方の「スマートクリーナー」も反撃に出た。
装甲を抉られつつも、突き出した敵の破砕アームを根元から抉り取るべくカウンターを繰り出している。
……迷っている暇はない。
ここはオールマインドに任せて別行動するのが最適解だろう。
「セラ!」
「おっけい!」
付近にあった、ACしか通れないような大きさの隔壁がひとりでに開いた。
すかさずそこに滑り込み、別ルートで中枢部へと向かっていく。
「おっと、そうは問屋が卸さないってもんさ」
だが……「ジュピター」の行く手に、1機のACが立ち塞がる。
赤を基調とした重厚なフレームに、独特な形状のミサイルを満載した重量級の機体だった。
「あんた、どっかで見た機体だと思ったが……いつぞやの、コヨーテスの雇われ野郎じゃないかい」
さっきまで広域放送だった声が、今はAC間の通信から聞こえてくる。
目の前の機体に誰が乗っているのかは……疑いようもないだろう。
「あの時は、随分好き放題やってくれたもんだねぇ」
「……そんなこともあったな」
「当時はなかなか笑える奴だと思ったもんだが…………笑えない奴と手を組んじまったらしいね」
「オールマインドが笑えない奴…………?」
――――それは、聞き捨てならないセリフだ。
あいつほど愉快で笑える奴はそういないぞ。
「まあ、どちらにせよ…………今更話し合う余地も無いな」
「それもそうだね…………あんたらがやろうとしてることを考えれば、どうあれ生かしてはおけないよ」
会話もそこそこに、敵AC……「フルコース」は戦闘態勢に入る。
それに合わせて、こちらはリペアキットを使用。緒戦で蓄積したダメージを修復する。
「さあ、食らいな!!」
初手で相手が取ったのは、ごく単純な行動だ。
すなわち――――ミサイルの全力掃射。
火を噴き、独特の軌道を描いて殺到する無数の誘導弾は、「ジュピター」がまともに食らえばただでは済まない威力を持っている。
だが、当たらなければいいだけだ。
斜め前の方向に進路を取り、飛んでくるミサイルとすれ違うようにして追尾を振り切る。
対ミサイルの定石たる動き……しかしそれは相手も織り込み済みのようで、距離を詰めたこちらに合わせるようにして蹴りが飛ぶ。
「…………っと!」
――――しかし、読み合いではこちらが上だったようだ。
「フルコース」の放った蹴りは紙一重で空を切り、直後に「ジュピター」の拳が赤い装甲を叩いた。
「ちぃ…………っ!!」
そのまま、至近距離の銃撃を叩きこみながら張り付き、加速度的に衝撃を与えていく。
相手が距離を取ろうとしても、速度差は歴然。
みるみる蓄積していく衝撃に焦りを感じたのか、「フルコース」のコアが展開する。
――――それも読み通り。
一瞬遅れて、「ジュピター」のコアも排熱機構が開く。
ほぼ同時、互いに至近距離で浴びせられるアサルトアーマー。しかし後出し有利の原則により、
「……存外にあっけないな」
すかさず、右拳で打撃を飛ばす。そして左手では、チェーンソーが回転を始めていた。
殴打によるスタッガー状態の延長と、最大威力のチェーンソーによる解体。
当てさえすれば、重量級ACであろうとリペアキットを使う余地もなく沈む――――すなわち、勝敗は既に決したも同然だった。
だが――――
『ボス!!』
殴りながらチャージを完了させ、未だ無防備な「フルコース」にチェーンソーを叩きこもうとした瞬間…………地面、いや船体が大きく揺れる。
――――チャティ・スティック。主の危機を察知して、戦いながら「スマートクリーナー」を壁か何かに激突させたのか。
巨体が発した揺れは、少し離れたこちらにも伝わり…………その弾みで、チェーンソーはわずかに芯を逸れた。
「…………助かったよ! チャティ!!」
ギリギリで致命傷を免れた「フルコース」は、チェーンソーを振り終わった「ジュピター」の後隙を狙って蹴り飛ばし、距離を取る。
「優秀な助手に救われたね…………形勢逆転だよ」
距離を離し、リペアキットを使用して仕切りなおす「フルコース」。
そして…………
……やはり脆い。
先の攻防ではこちらが読み勝ち、相手は辛うじて即死を免れた格好であるにも関わらず、最終的な損傷の度合いとしては痛み分け。
そして、何より問題なのは――――
「…………3回目だ」
「ここに乗り込んできた直後に1回、ラミーの奴に1回、そして今の攻防で3回目…………あんたはもうアサルトアーマーを使えない」
……そう。問題はそこにある。
アサルトアーマーによるカウンター戦法は、「ジュピター」の肝だ。
それを欠いた今、極めて不利な状況と言わざるを得ない。
「手心を加えるつもりはないよ。こっちだって譲れないもんがあるからね…………徹底的に潰させてもらう」
まあ当然だな。なんせ互いに必死だ。敵が弱みを見せたなら、そこを徹底的に衝くのは定石だろう。
ならばここは――――
「――――逃げるか」
クイックターンで機体を反転。
「フルコース」に背を向け、通路を全力疾走する。
「……待ちな!」
背後で発射音が響く。「フルコース」から放たれた無数のミサイルが、逃げる「ジュピター」へと降り注いだ。
……本来、ミサイルを相手に逃げるのは悪手だ。どれだけ速い機体でもミサイルから逃げ切ることはできないし、追尾を切ることもできない。
だが、この入り組んだザイレム内部であれば話は別だ。
ミサイルが着弾する前に障害物の影に飛び込み、射線とロックオンを切りながら移動すればいい。
「どういうつもりだい…………!」
追ってくるのはミサイルだけではない。「フルコース」本体も全力で追跡してくるが、遅い。
「ジュピター」が「フルコース」に勝っている数少ない点……それは速度だ。
オールマインドが内装を換えといてくれたのも手伝って、速度だけは最新鋭の軽量機と比べても遜色はない。
よって、彼我の距離は見る見るうちに離れていく。
……だが、この逃走はあくまで手段に過ぎない。
「――――――――」
「……まかせて」
全ては、勝つための行動だ。
「……追いかけっこは終いかい?」
暫しの逃走劇の末、立ち止まった「ジュピター」に「フルコース」が追いつく。
辿り着いたのは、破壊跡の残る通路の一角……つまり、オールマインド操る「スマートクリーナー」が通り過ぎた場所だった。
周囲には、まるで嵐が過ぎ去った後かのように無数の残骸が散らばっている。
原型を留めないほど破壊されたそれら残骸の1つを機体脚部で踏みしめながら、俺は向かってくる敵機を出迎えた。
「随分戻ってきたじゃあないか…………これだけ離れればもう横槍はない、って魂胆かい?」
追いついた「フルコース」がミサイルを発射する。
「スマートクリーナー」によって風通しが良くなったこの空間に遮蔽物は存在せず、逃げるという選択肢はない。
……ここは攻めあるのみだ。
放たれたミサイルの弾幕をかいくぐって接近。近距離向けFCSの射程に「フルコース」を収め、両手のハンドガンを構える。
「――性懲りもなく寄ってくるじゃないか!」
だが、射撃態勢に入った「ジュピター」の頭部を、重い物体が掠める。
それはハンドミサイル――――ミサイルの弾という意味ではなく、発射装置そのもの。
「殴り合いがお望みなんだろう? だったら付き合ってやるよ!!」
一瞬視界が遮られ……次の瞬間に見えたのは、拳を振りかぶる「フルコース」の姿だった。
そうか……奴のブースタは確かBAWS製のあれだ。それに腕部の近接適正も申し分ない。
腕部武装を片方捨てるだけで、「フルコース」は十分な近接格闘能力を手にしていた。
「チィ…………!」
殴りかかってくる「フルコース」にこちらも拳で応戦し、戦いは殴り合いの様相を呈し始める。
――――こちらは最初から格闘を視野に入れた機体だが、相手は即興仕込みの格闘機だ。
腕部の近接適正から来る一撃の重さはこちらが上だし、機体が軽い分踏み込みや小回りもこちらの「ジュピター」に分があった。
だがそのアドバンテージは、圧倒的な装甲と姿勢安定性の差によって打ち消されている。
そして何より――――「フルコース」にはまだミサイルがある。
射撃武器と違って、既に放たれたミサイルは格闘動作の最中でも動きを止めない。
「このまま終わらせてやるよ……!」
まるで自分自身が放ったミサイルと連携するかのような動きで殴り、蹴りかかってくる「フルコース」。
距離を取ろうにもミサイルによって妨害され、「ジュピター」はじわじわと追い詰められていく。
そうだ。追い詰められている。獲物を網にかけるかのように、「フルコース」の放つ攻撃はこちらを特定の位置へと誘導していた。
その先にあるのは……壁。相手だけがアサルトアーマーを使える状況下で壁際に追い込まれればどうなるか、言うまでもない。
容赦なく振るわれる「フルコース」の拳。
後退すれば壁に当たる――――だが、それでも俺は真後ろの方向にQBを吹かす。
鋭い動きで「ジュピター」は後退し、振るわれた拳を回避。
しかしその代償として、機体背部と壁が衝突する。
それ自体にダメージがあるわけではない。だがこれ以上退がることは不可能となった。
その瞬間、「フルコース」のコアが展開する。
機体越しにすら、相手が勝ちを確信するのが見て取れるような瞬間だった。
――――しかし、一瞬遅れて……「ジュピター」のコアもまた、展開する。
「――――!?」
本来あり得ざる、4度目のアサルトアーマー。
完全に相手の虚を衝いたそれは、敵機だけを
「どういうことだい……!? あんたは確かに、アサルトアーマーを使い切ったはず……!」
「…………友人に助けてもらったんだよ」
3度を超えてアサルトアーマーを使えた理由。
それは……先程、機体の足元に落ちていた残骸にある。
オールマインドが操る「スマートクリーナー」の通り道にできた無数の残骸。
例えばそこに補給シェルパの残骸が紛れ込んでいたとしても、そう容易くは見つけられないだろう。
限られた時間の中で、それを探り当てることができる存在は……最上位の電子戦能力を持つCパルス変異波形くらいのものだ。
「あの時逃げたのは……そういう魂胆だったってわけかい」
「ああ……まあ俺も、目的の物が残骸の中にあるって聞いたときは驚いたが」
種明かしをする間にも、チェーンソーは回転数を上げている。
『ボス……!』
『――――何度も同じ手は通じませんよ!』
今度は妨害が入ることもない。
「……詰みかい」
打撃により時間を稼いで、フルチャージされたチェーンソーを「フルコース」へと叩き込み……戦いは終わった。
「後は頼んだよ……ウォルター……それと――――」
『ザイレム制御システム、上級管理権限移行――――オーナー、オールマインド』
主が消えたRaDとの戦いは、程なくして終了した。
チャティ・スティックは最後まで抵抗したが、物理的・電子的な戦闘を経てオールブロックを阻止、ザイレムの支配権はオールマインドの手中へと収まる。
「問題なく動きそうだね……結構派手に壊しちゃったわりに」
「ええ、我々の計算は完璧です。壊していいところしか壊していませんよ」
ザイレムの中枢部……コントロールタワーには緑色の光が灯り、巨大な船の全てがオールマインドの支配下にあることを主張している。
ジェネレータ、エンジン、その他諸々すべて問題なし。すでに飛び立つ準備は完了していた。
「さて。恒星間入植船ザイレム…………その本来の役割を再び果たす時です」
にわかに水の音が鳴り始め、海水を押しのけながら都市全体が浮上していく。
それは各部を変形させながら宇宙船としての姿を取り戻していき――――中央氷原、技研都市へと進路を取った。