玲さんは進学、楽郎は学生のまま顔隠しとしてチーム所属の二足の草鞋状態。
一応別々に暮らしてるけど半同棲な感じ。
ーーーー全国的にお天気は下り坂、終着東京は雨から雪へと変わる見込みです・・・・
俺は最終ギリギリで
車窓を打つ雨粒を眺めながら、車内アナウンスに耳を傾ける。
「間に合っ・・た・・・!!」
季節外れの雨に打たれて冷えた体も少しづつ熱を取り戻してくる。
試合後のカフェイン不足をホットコーヒーで補って、ほっとした途端に疲労感が全身を襲う。
リニアが着くまで約1時間。
少しだけ俺は瞼を閉じて、昨日のことを思い出していた。
12月23日。
所属するチームに欠員が出たため、スケジュールが空いていた俺は半強制的に大阪行きのリニアに乗せられていた。
いや、確かに契約するときに「できるだけ試合に出たい」とは言ったよ?
だからって、
どうにか通常のギャラに臨時ボーナス上乗せは約束させたが、問題はそこじゃない。
試合時間を考慮すると24日は泊まりになる可能性が高いということ。
「・・・・・お仕事、ですから・・・」
出がけに笑顔を貼り付けた玲さんがぽつりと呟いていたのを俺が聞き逃すわけがない。
あれは・・怒ってたのかそれとも悲しんでたのか、はたまた両方か。
普通に考えれば、ひと月も前から約束していたクリスマスイヴの予定を反故にされかけてるんだから、玲さんはもっと怒ってくれていいし、その方がなんていうか・・・こっちも気が楽というか。
(でも、そうしないのが玲さん、なんだよなぁ・・・)
多分、ネガティヴな感情を俺に見せたくなくて、全部飲み込んで切れぎれの笑顔で
(不甲斐ないなぁ、俺)
理解はしているが、納得はしてないというのが正直なところだ。
曲がりなりにも恋人という立場で、他の人間と比べて玲さんの内側に近い位置にいるのだから、もう少し気を許して欲しいというか・・・・端的に言えば甘えて欲しい。
モヤモヤした気持ちがこもった特大のため息で窓が白く曇る。
甘えて欲しいのは単なる俺のエゴでしかない。
伝えたとしても余計に遠慮してしまう玲さん、というのも想像ができるのだ。
そしてあの笑顔の裏で泣いてるんじゃないかとか、寂しげにこの雨を見てるんじゃないかと思うと胸の奥がチリチリ痛むわけで。
ただ、何も対策しないほど俺もヘタレではない。
(早く帰りてぇ・・・)
ポケットの中の小箱を確かめながら、俺はもう一つため息をついた。
リニアが着くまであともう少し。
携帯端末を操作して、待ってるであろう玲さんにメッセージを送った。
「雪が降る前に帰るから」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーー東京の天気は雨のち雪。イヴには間に合いませんでしたが、明日のクリスマスはホワイトクリスマスになりそうですね〜〜
一人の部屋は静かで寂しすぎる。
ソファに腰掛け、なんとなくテレビをつけてみたが、無駄にテンションの高い天気予報の内容が今の状況に追い打ちをかけるようですぐさま消してしまった。これなら無音の方がまだ気が楽だ。
「クリスマスイヴ、ですもんね・・・」
クリスマスイヴは休暇を取ったから、ゆっくりできるよと言われたのはひと月前のこと。
現在、大学生とプロゲーマーの二足の草鞋状態の楽郎くんは私が思う以上に忙しい。
楽郎くんは元々フットワークが軽いことに加えて、プロゲーマーとして場数を踏んでおきたいという理由で、出られる試合に出来るだけ出るようにしている。
だからひと月も前に予定を入れてくれていたのに。
大阪で開かれる大会でチームに欠員が出てしまい、その穴埋めのため駆り出されてしまった。
「楽郎くんは悪くない・・・でも・・・」
最初は休暇を理由に断ろうとしてくれていた。
しかし、なんだかんだでチームのことを大事に思っている彼は不戦敗になってしまうと言われれば、承諾せざるを得ない状況だったのもわかるのだ。
「やっぱり一緒にいてほしかった」
ため息と共に本音が漏れる。
あの時、私が仮に泣きでもしたら彼はこの場にいてくれたかもしれない。でもそれは彼の行動を縛る上にプロとしての彼の立場も悪くしかねない。
幸運にも恋人という誰よりも楽郎くんに近い位置にいる自分だからこそ、彼が決めた以上、できるだけ笑顔で送り出すことが唯一私にできることだった。
別に今生の別れというわけでもないのに、モヤモヤが募る。
だって今年のクリスマスイヴは私にとって特別だったのだ。
「今年こそ、ちゃんと二人で過ごせると思ったのにーーーー」
一昨年はシャンフロに一緒にログインして過ごした。
昨年はお付き合いを始めたものの二人とも受験勉強の真っ只中だったため、簡単なデートで終わってしまっていた。
俗っぽい考えだと自分でも思うけれど「二人きりで過ごす初めてのクリスマスイヴ」というイベントを楽郎くんと迎えられるということをずっと楽しみにしていたし、もう目前に迫っていたところで、この有様で。
「はああああああああ」
特大のため息が白くふわりと宙に浮かんで消える。
堂々巡りのネガティヴ思考が嫌でもう寝てしまおうか、と思って立ち上がった瞬間。
テーブルの上の携帯端末がチカチカと光り出す。
手の上でぼうっと光る画面に表示されたメッセージ。
「雪が降る前に帰るから」
私は居ても立っても居られず、二人分の傘を手にコートを羽織って家を飛び出した。
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「さっむ」
最寄り駅に着いた俺は携帯端末を操作する手を止めて、軽く擦る。
東京の冬は天気予報よりも寒い気がする。なんていうか体感温度?空気の質?が違う感じがする。
玲さんに送ったメールは既読になったものの、返事は来ない。
現在時刻は23:41
さっきまでの雨はいつの間にか雪に変わっていて、ふわりふわりと舞い降りては消えていく。
「既読になったってことは、寝てはいないみたいなんだけどなぁ・・・」
流石に何の連絡もなしに家に向かうのは気が引ける。
呼び出し音が鳴るか鳴らないかのところで食い気味に通話が繋がった。
「っと・・、玲さん?」
「らくろう、くんっ!どこ、ですか・・っ!?」
明らかに息を切らした声が耳に届く。あれ、これ玲さんもしかしてこっち向かってね?
玲さんの家から向かってるなら、多分こっちの方か?と思って視線を向けた先に。
傘も差さずに走ってくる
「玲さんこっち!!3番出口!!」
「さん、ばん・・・ってどっち、でしょうかあああ・・・・!!」
実は割と方向音痴で抜けてるところがある玲さんにもわかるように俺は大きく手を振った。
俺の姿を見つけてパッと玲さんの顔がほころぶ。あ、可愛い。
「らくろ、くん、おかえりなさ、ひゃあああ!!」
「あっぶね!!」
少し速度を落としながらもこちらに向かって走ってくる玲さんが俺の前で足を滑らせて、前のめりになったところを既のところで抱き止める。ぼふんといい感じにダウンジャケットが衝撃を吸収し、玲さんの体がすっぽりと俺の腕の中に収まった。
「ただいま、玲さん」
「・・・・・・・・」
あ、バグった。
「れいさーーーーん?」
これ、再起動まで時間がかかるパターンのバグだな・・・どれくらいかかるかな・・・?と思いながら時計を見ると「23:55」の表示。
「やばい、せっかくイヴに間に合ったってのに!玲さん、玲さーん!!」
「・・・・・っ!ひゃい!!」
「落ち着いた?なら、このままでいいから聞いてくれる?」
こくこくと頷く玲さんの髪が頬に触れてくすぐったい。
「俺のダウンジャケットの右側のポケット探ってみ?」
「・・・・・?この、箱ですか?」
「そうそう、それ。開けてみてくれる?」
腕の中で玲さんが動くたびにふわりとシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「・・・・ゆび、わ・・・?あの、楽郎くん、これって・・・え?」
やばいまた玲さんがバグりそうだ。
そうなる前に意識をこっちに向けなければと俺の取った行動は
「俺からのクリスマスプレゼント・・・玲さんがつけたい指にどうぞ?」
耳元ウィスパーボイス一択だった。
「えええええぇぇぇぇええええ!!!!????」
声にならない悲鳴をあげて、比喩表現とかじゃないレベルで顔を真っ赤にした玲さんは、俺の顔と手の中の指輪を交互に見ては、口をパクパクさせている。
「玲さん?」
「・・・・・・・・・・・」
最後に小さく呟き、玲さんは完全に沈黙した。
寸前に呟いた言葉を俺が聞き逃すわけがなく。
(・・・・くすりゆび、ね)
正解だよ、玲さんと小さく笑って腕の中の可愛い恋人をギュッと抱きしめた。
内側に入って相手の解像度が上がったからこそ、本音が言えなかったり、気を遣うことって多々あるよねとか思って書いた。
現時点で本編の楽玲クリスマス描写があるかわからないので、曖昧にぼかしましたが進展あってもいいのよ?
ちなみになんで楽郎に欠員補充の指名が来たかっていうと、単純に対応できるゲームのジャンルが広い上にプレイヤースキルもあるからです。つまりは己のせい。
尚、楽郎くんはあの指輪に今回のギャラと上乗せした臨時ボーナス分、全部突っ込んだ模様。
話の流れ的にまだ書ききれてない部分もあったりするので、続きが生えるかもしれない。