楽郎がほとんど出てこないけれど、これは楽玲です。
発端はたまたま覗いたクラン用のSNSだった。
オイカッツォ:これから1〜2時間、参姿翠冥の地下迷宮で素材集め手伝ってくれそうな人いる?
サイガー0:私でよければお手伝いします。
場所的におそらく金策を兼ねた素材集めだろう。
参姿翠冥の地下迷宮であれば今いるフィフティシアからも近い。
クランに所属する以上、手が空いているならばメンバーのお手伝いはしておいて損はない。
ましてや玲はこのクランでは新参だ。出来る限りクラン内での印象はよくしておきたい。そしてあわよくば楽郎も参加するかもしれないという若干の下心もあり、引き受けることにした。
「サイガー0さん、よろしく」
「よろしくお願いします。オイカッツォさん」
約束した時間通りにやって来たオイカッツォにぺこりと頭を下げる。
結局、他のメンバーは見つからなかったらしく、2人でパーティーを組むことになった。
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1時間後。
オイカッツォのプレイングスキルの高さとドロップ運の良さも相まって、予想以上に素材が集まったため、早めに切り上げた玲たちはフィフティシアへ戻ることにした。
「思ったより早く済みましたね」
「そうだね。さすが
「お役に立てたなら、よかった・・です」
玲は心底ほっとした声を出して、胸を撫で下ろす。
というのもオイカッツォが上手すぎて、玲が前に出る必要がほぼ無かったのだ。
とりあえずヘイトを受け持ったり支援に回ってみたのだが、どうにか足は引っ張らないで済んだようだ。
「それにしても、プロゲーマーというのは・・・皆さんこんなにすごいもの、なのでしょうか・・・?」
このレベルの動きができなければ生き残っていけない世界なのだとしたら、楽郎の役に立つことなどほとんど無いのではないか?と凹んでしまう。
「ん?あぁ、そっか俺の仕事知ってるんだっけ」
「あっ・・・!すいません!」
「いやー、サイガー0さんは悪くないでしょ。これに関しては100%
でも、色々と面倒だから公言しないでね?と笑いつつ、オイカッツォは話を続ける。
「で、プロゲーマーについて、ね。どうだろうなぁ・・・ジャンルによると思うよ?俺は格ゲー専門だからアクションとかハクスラに強いけど、MOBAなんかは戦略重視になってくるからペンシルゴンみたいなタイプの方が有利になると思うし」
「オールラウンダーというより、ジャンルに合わせた特化型ということですか?」
「そうそう。あとは個人のプレイスタイルが大きいかな。」
「プレイスタイル?」
「うん。例えば俺は理論型。データを積み上げて最適な動きで相手を倒すタイプ。」
玲は自身が
決して弱いわけではない黒狼メンバー相手にオイカッツォは3
戦術機獣「白虎」というアドバンテージがあったからだなんて
「で、サンラクなんかはわっかりやすいテンションモンスターだね・・・、自分の感情と状況がハマれば異様な瞬発力と強さを発揮するタイプというか」
まぁそこにプレイヤースキルが乗っかるから対戦すると厄介な事この上ないんだけど、と付け加えつつオイカッツォは苦笑する。
「確かにリュカオーンと戦った時のサンラクさんは凄かったです・・・」
「でもあの時のダメージソースの大半はサイガ−0さんでしょ?」
「確かにそう、ではありますが、それはサンラクさんや秋津茜さんがヘイトを受け持ってくれたからで・・・」
「いくらサポートがあったからって、ここぞって時に自分にできる最善のパフォーマンスを発揮できるプレイヤーはプロでもなかなかいないよ?その辺、サイガー0さんは自信持っていいと思う。今日一緒にプレイした俺が保証する」
「あ、ありがとうございます!」
(
「お世辞だとしても褒めてもらえるのは嬉しいものですね」
「えぇー!お世辞じゃ無いんだけどなぁ」
呆れたように笑うオイカッツォにつられて玲も笑う。
そういえば、面と向かって話すのは初めてだったはずなのだが、思っていたよりも緊張せず打ち解けていることに玲は気付く。そしてそれは相手も同じだったようで。
「サイガー0さん、聞いてたより普通だし、むしろ話しやすくていい人じゃん。ガチ勢っぽいところもないし」
「ガチ勢・・・ですか?一体それは誰から・・・?」
「んぁ、サンラクだけど?」
「サっ・・・・サンラクさんから?!え、えと、差し支えなければ、で、構わないのですが、サンラクさんは私のこと、なんて言って・・・いましたか・・・?」
「そうだなぁ、ガチ勢で強い上に状況に合わせて動ける人だから頼りになるって」
楽郎が自分のことをそんな風に思ってくれていて、それどころか仲の良いオイカッツォにそう紹介してくれている事実が嬉しくてにへらと口元が緩む。
「らく・・いえ、サンラクさんがそんなことを・・・」
「あと、たまに挙動がバグるんだよなぁ・・・って言ってたけど、全然そんなことないよね」
「そっ、ソウデスネ・・・」
最後の一言で上がったテンションがスンと下がる。
わかりやすく落胆している玲を見ていたオイカッツォが「あー!」と何かに気づいたような顔をして、ウィンドウを操作し始める。
「あのさ、サイガ−0さんは周回とか強敵を倒すための
「それは・・・目的のため、ですね。例えばレアなドロップアイテムとか」
「正解」
突然の質問に戸惑う玲を横目に明らかに
「でも、それがただの作業になるとモチベーション下がるから良くないと俺は思う。というわけで、手伝って貰ったお礼としてアレ呼んどいた」
「クランメンバーなんですし、お礼なんてもらえな・・・・・ヒュッ」
顔の前でパタパタ手を振る玲だったが、フィフティシアの入り口に立っている人影を見て息が止まる。
ちょっと待ってほしい、こんな不意打ちでイベントフラグを立てられても心の準備ができていない。
玲は盛大にパニクってオイカッツォに
「
「えっ・・・え・・・ええええええええ!!!???」
と、とてもいい笑顔で参考にならないアドバイスをいただいた。
「俺にできるサポートはここまで。周回が作業になる前にケリつけちゃいなよ」
せめて、一緒に!と視線を向けるもそれじゃ、お先に〜とオイカッツォはログアウトしてしまい後にはフリーズした玲だけが残された。
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(そんな、ご無体な・・・!!)
逃げることも、かといって進むことも出来ず棒立ちしている玲を不思議に思ったのか、楽郎が駆け寄ってくる。
「どうしたレイ氏?大丈夫?またVRシステム調子悪いとか?」
「いえっ!!全然問題ないです!!絶好調です!!」
「おおう!急に復帰した!えっと、カッツォにレイ氏がどうしても欲しいレアアイテムがあるから手伝って欲しいって聞いたんだけど。レイ氏をもってしても手に入れられないとか、それドロップ率渋すぎない?っていうかどんな敵から落ちるの?」
シャンフロのことだと思い、矢継ぎ早に質問をしてくる楽郎に動揺を悟られないよう、玲は
「えと・・・そもそも極端にエンカウント率が低くて、倒すのも難しく・・・」
「エクゾーディナリーモンスターみたいな感じ?」
「そうです!そんな感じ、です。とても強くて、私なりに頑張ってはいるんですが、いつも一歩及ばずというか・・あぅ」
今までのことを思い返すと自分のことながら不甲斐なくて言葉が詰まる。
JGEの時だって、いつもの通学路だって、たくさんチャンスはあったのに、いつも肝心なところで伝えたい気持ちは言葉にならなくて、それもやむなしと諦めてしまっていた感は否めない。
「レイ氏がそこまで苦戦する相手かぁ。まぁ、でも今回は安心していいよ」
「え?」
「だって、そのために俺がいるんだから。2人ならうまくいくって」
だからまずは楽しもう?と楽郎が笑う。
あの夜、楽郎の背中を押したのと同じ言葉が今度は玲の背中を押した。
「そう・・ですね。実は最近は少しだけ、攻略の糸口が掴めて来た、と言いますか・・・以前よりは手応えがあるような、気がしていて。サンラクさんの力があれば、手に入るかもしれません」
真っ直ぐに楽郎を見据え、辿々しいながらも言葉を紡ぐ。
「対策あるなら、教えてよ。何でも手伝うから」
「・・・ちょっと手を出して、くれますか?」
今までうまくいかなかったのは無理に言葉にしようとしたからかもしれない。
気持ちが言葉にならないのであれば、この手にありったけの思いを込めるしかないと玲は差し出された楽郎の手を両手で包み込む。
「・・・・・・あなたを手に入れていいですか?」
「・・・・・・はい?」
楽郎に
「・・・・・・・・・・・・・・・マジ?」
たった一言、呟いて後を追うようにログアウトしていった。
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翌日。
いつもの通学路、いつものタイミングで楽郎くんは現れた。
「「おはよう、ございます・・・」」
しばしの沈黙。
楽郎くんから差し出される手。
「・・・これが俺の答え」
「・・・・・はいっ!!」
眩しい日差しに照らされて、玲は弾けるような笑顔で楽郎の手を取った。
3日後という名の後日談
〈玲の場合〉
「真奈さん!私ついにやりました!!楽郎くんに告白してOKもらいました!!」
「そう玲ちゃん告白したのね・・・ってええええ!!告白?OK貰った!?えらいわ!!よくやったわ玲ちゃん!!とりあえず店開けてる場合じゃないわ、ゆーっくりお話聞かせてちょうだい!!あぁもう岩巻さん今夜は大盤振る舞いしちゃう!!」
玲から報告を受け、ロックロールは臨時休業、岩巻は最高級のシャンパンを3本空けた。
ついでに疲弊した木兎夜枝の胃にも穴が開きかけたとかなんとか。
〈楽郎の場合〉
「カッツォお前の仕業か」
「え〜何のこと〜?俺はサイガさんがいつまでも周回が終わらないっていうから、手伝っただけですけど〜?」
「うっわ、ムカつく。ってかなんで気づいたんだよ」
「サンラクの話題になると異常に食いつき良かったし、分かりやすくテンション上がったり下がったりするから。あと挙動がバグるってのが全然俺の方で再現性なかったから。こりゃ確定かな、と」
やだ対人特化プロゲーマーの観察眼こわい。