作者に音楽知識はない
第一音 どこからともなく生えてきた男友人
俺と彼女――後藤ひとりが初めて関わったのは中学のいつだったか。
ああ、思い出した。
中学一年の修学旅行のことだ。
「……」
「……」
「…………」
「…………どうしよっか?」
「……ひッ、あ、あ、あばばばばば」
「ヴぇッ?!」
彼女同様、友人なんて一人もいない俺は修学旅行の班分けで余った挙句に置いて行かれてしまった。
一緒の班で動くはずだが五人班は三人が離脱――恐らく扱い的には俺とひとりがはぐれた――。
「…………(居心地悪いよぅ。なんでこの人不定形になってるのぉッ?!)」
「ヴァヴァヴァヴァヴァ」
「こわぁ……」
「ぴょッ!?」
「ヴェッ!?(は、破裂した!? 幻覚!?)」
明確に置いて行かれた以上は合流という選択肢はなかったし、最低限俺たちくらいはと声を掛けたは良かったけれど、良くなかった。
初対面の相手にまともなコミュニケーションを取れるはずがない彼女は俺に声を掛けられたことによって破裂し、宙を舞う。この時からだ、超常的な光景を前に俺は早々に現実逃避をし続けることを決心したのは。
「集合まで四時間。どうする?」
「わ、私のことはお気になさらず彼らと修学旅行を楽しんできてください……」
「いや、僕も置いて行かれちゃって」
「え?(えっ、もしかして私と同じ?)」
顔を見ればわかった。
この子、俺を同類視している、と。
威圧的にならないようにって気遣って一人称を『僕』にしたのが気弱な根暗認定のきっかけになったんだろう。
まあ、俺と彼女が同類なのは事実だけど……。
「お、置いて行かれちゃったワケじゃない? それでどうしよっか、って……」
「お、お一人で楽しんできて下さい……私なんかと一緒じゃ楽しめないでしょうし」
「ぼ、僕はあまり出歩かないからこういう時の楽しみ方がわからなくて……後藤さんなら知らないかなぁ、な~んて……」
「ごごご、ごめんなさい! 役立たずでッ!」
「はわわわわ」
と、まあ。
初対面の時はお互い酷い有様だったっけ。
彼女は思い込みが激しいし被害妄想癖が入ってるし、俺は俺で顔色を窺うのが下手なうえにロクに会話能力のないクソ野郎だし。
ただ、まあ。
今となっては類友と言うべきか、なんやかんやで付き合いは未だに続いているし卒業後も続きそうな感じはする。
する、というか、続く。
「
「ど、どったの?」
「独りは……せ、せっかく歩くんと仲良くなれたのに……」
「あ~、進路希望……」
机には進路希望調査の紙。
とはいえ俺自身は彼女の目標、というか欲望は知っていた。
ギタリストとして大成して~、という。それが叶えば高校を中退する気ですらいる、と。
その欲が叶う片鱗はほんの少ししか見えないことも。
とはいえその片鱗もネット弁慶というか、ネットによって現実像を歪めることで自己を肥大強化することでしか見ることができなくて、ネットのファンを現実に引っ張ってくるのは難しいことも。
「高校中退する気満々だしどこでも良いんじゃないか、って言いたいけど。友人としては最低限将来と両立できる高校には行って欲しいってのが本音ですわぁ」
「うっぐ……」
「中学三年で、中二初期からの付き合いだけど多少の微々たる改善だけでそのコミュ障は今なお濃いし。高校で克服できれば良いけどそうならなかった場合を考えると最低限は、ねぇ」
「私よりも私のことをちゃんと考えてるぅ……」
「中卒でこのまま仕事するとして肉体労働か……あまり言いたくはないけど夜の方向じゃん? 高校に進学したら最低限高卒という社会的ステイタスを得れるワケよ。そうしたらまだ出来ることも増えるワケじゃん?」
「は、働きたくないぃ……」
「言うと思ったよ」
彼女のことはおおよそ理解している。
思考回路がワリと単純だからどういうことを言うかは経験則でわかった。
実際、その手のことは以前も言っていたし。
「なら発想の転換だ。進学によって働くまでの期間が延長される、と」
「はッ!?」
「ま、冗談はさておき。実際高校進学はしといた方が良いと思う。ひとりがバンド仲間を見つけるには強制的に人と関わることになる状況が必要だろうし。今から社会に出ても相手するのは年上。それに中卒で働ける環境にいる人間は――コミュ強だ」
「コ、コミュ……助けてください歩くん……」
「だから進学しろって」
多分それが現状の最善手だと思うし。
……今、何考えてる?
流石にわからないけど変なこと考えてそうな顔ってのはわかるよ?
「あ、歩くん……私と一緒に高校に行ってください! 遠くの!」
「良いよ。――遠く? まあ、良いか。うん、良いよ」
「……え? い、良いんですか?」
「友人のいない進学校に行くよりも友人のいる高校に行く方が楽しそうだし。俺自身やりたいことがないからね、だったらひとりを応援しながら生きてる方が見つかりそうだもん」
「や、やったぁ」
「その代わり。ちゃんとできる範囲で良いから頑張るんだよ?」
「は、はいぃぃ……」
「お願い! 今日だけサポートギターしてくれないかな! ギターの子が突然やめちゃって…」
「むっむ…」
他力本願な状況でも案外チャンスって降ってくるんだなぁ……。
友達ゼロ。目標ゼロ。将来性なしの俺としては羨ましい限りですよ。
「たっ、助けてください歩くん。ブランコなんか漕いでいないで私を助けてください」
「え~、良いじゃん。行って来たら? 折角だしさ。ほらほら、武道館への第一歩」
「おお~、目標がおっきいね~。良いことだよ~」
「しょ、しょんなぁ……」
「俺も着いていくからさ。良いですよね? え~と、伊地知さん」
「もちろん! あと虹夏で良いよ~」
「オッケー虹夏。――だってさ。どうする?」
「……」
「行くって」
「まだ何も言ってないよ?!」
「あ~、これは『心は決まったけど勇気が出せずに返事ができない顔』だから大丈夫ですよ」
嘘です。
こうでもしないと行こうとしないからね、仕方ない仕方ない。
「ちなみに君……歩くんだっけ? は、何か楽器は弾かないの? ギターとかベースとかドラムとかピアノとか」
「あ~、昔ひとり――この子にギターを教わろうとしたことはあるんですよ。ただね……並行作業が極端に苦手でして。へっ、右手と左手でそれぞれ違うことが全くできないせいで片手で弦を抑えながらもう片手で特定の弦を弾くとか左右で別々の鍵盤を弾くとか、できなかったんですよ…………」
「おおぅ……が、頑張っただけ偉い!」
「ひとりがギターやってる姿はカッコいいんでそれに憧れたり、ひとりに弾いてもらいたくて曲を創ろうとしたものの……その手の感覚ってのもどうやら鈍いらしくて全然でしたよ。タハハ……」
その辺り、ホント凄いよひとりは。
「着いた! ここだよ~」
STARY……地下に下って行ってそこにある感じ、なんかアレだな。FFIXのヤツを思い出す。
まあ、アレとは劇場とライブハウスって違いがあるけど。
「やっと帰ってきた」
「リョウ~~~」
なんというか、虹夏とは対照的に声のトーンが平坦だな。
釣り合い取ろうとしてる?
「この子はベースの山田リョウ」
「こんにちは」
「リョウは表情が出にくいの! 変人って言ったら喜ぶよ」
「嬉しくないし」
嬉しそうね。
「この子がサポートギターの後藤ひとりちゃん!」
「あっ、よっ、よよよろしくお願いしますっ」
「よろしく。ところでそっちのは?」
「ひとりの友人枠で平沢歩です。一緒に公園にいるとこをひとりが声を掛けられたんで付いて着ました。楽器はできないのでお気になさらず」
「わかった。気にしない。――まだ時間あるからスタジオ入って練習しよう。あと勝手に抜け出して店長が怒ってたよ」
「ひいっ」
店長が怒る? 出演する側の人間に対して?
あ~、でも姉ちゃんがやってるって言ってたし何か手伝うのを条件に出演させてもらったとか?
もしくは打ち合わせか何かがあってそれをやらずに抜け出したからとか。
「あれが照明さんで、あっちがPAさんだよ」
PA……なんだっけ? 音響関係の人だっけか。
バンド系で調べ物した時に軽く見た記憶は……ある気がする。
憶えてない。
「おはようございます」
「いいいいイキってすみません…」
「ほえ~、なんかカッコよさげなお姉さん」
「おっ、歩くんPAさんに惚れちゃった~?」
「ははは、流石にそこまで惚れっぽくはないですよ。ただ大人な雰囲気の女の人はカッコいいなって惹かれはしますね」
「意外と素直?! そういうのって普通照れない?」
「や~、他者への憧れを口にするのは別に照れませんね。恋心とかなら照れるかもですけど初恋すらまだなんでわかんないっすわ~」
「え~、初恋がまだって珍しいね~」
「中二でひとりと友人になるまで他人と親しくなったことがなかったんでね~、ははは」
「意外~。てかパッと見だと二人は恋仲に見えるけどな~」
恋仲?
……ハハッ、老婆と介護師の間違いじゃ?
「こっ、こここっ、恋仲?!」
「ナイナイ。これはただ単に友人が他の人と喋ってるから孤独を感じて最低限の自己防衛として腕に絡みつくことで安心感を抱いてるだけですよ」
「灰色~」
「俺らってそんな面白い仲じゃないですからね」
「あっ、わっ、私と恋仲なんてそもそも迷惑でしょうから!」
「迷惑ってことはないけど単純に恋愛感情が向いてないな」
「独特な距離感だね~」
「面白い二人」
評価が良かったら続くかもね