ぼっちとぼっちと   作:レイジー

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 お久~


第六音 否定と肯定

「盛り上がってるか新宿ー!!」

『「うおぉぉぉぉぉぉ!」』

 

 生活費なんて知るか~!!

 今を楽しむぜ俺ぁ~ッ!

 

 

 

「あ~、えがったぁ……」

 

 ……物販ではしゃぎすぎたぁ。

 残りの金……。家賃分はある。水道光熱費も……ある。食費……ギリ?

 ……ま、いっか!

 

「せっかくSICKHACKキメたのに現実なんて……」

 

 STARRYに行くようになってからそこそこバンドは見たけど、今までで一番だぁ。

 ……酒カスできるだけあって実力スゲー。

 

「……初めて来たけど前教えられたときに来れば良かったなぁ」

「おや、お兄さんも初めてなのかい?」

「私たちもなの!」

 

 ? ……相手俺か?

 

「おじいさんもですか?」

「うん。少し機会があってね、今日来たんだ」

「そしたらスゴくハマっちゃって!」

「自分は以前ベースの人の演奏自体は聞いたことがあったんですけどね~」

「そうなのかい?」

「その時は演奏曲がSICKHACKのじゃなかったんで」

「あら、どんな曲だったの?」

「あ~、自分の友人にバンドやってる子がいまして。そいつのバンドの曲ですね」

 

 ライブってこういう交流もあるのか。

 ちょっと楽しいかも。

 

「その時にベースの人と少し関わった関係で今回気になって来ましてね。はしゃいじゃいましたよ」

「僕らはね~、以前スナックで飲んでいるときにそのベースの彼女と少し話したんだよ」

「私たち実は昔音楽やってたの。だから音楽で食べていきたいっていう彼女の夢を応援したくなっちゃって」

「なるほど、音楽をやっていたからこその共感ですか」

 

 音楽で食べていく……そういう夢があるって良いなぁ。

 俺なんかより将来に希望があって。

 

「自分、あの人と関わった時に少し人物像に不安があったんですけどね。今日音楽聞いたら……本気なんだって、そう感じて恥ずかしい話泣きそうになりましたよ」

「ふふっ、恥ずかしくないさ」

「音楽はそういうものよ?」

「そう、ですかね?――」

「そうだぞ少年! 俺らだって感動して泣いたんだからな!!」

 

 新手?!

 

「あら、お兄さんたちも?」

「俺ら以前歌舞伎町のカラオケスナックでベースのお姉さんの演奏聴いたんすよ! そしたらも~沁みて大はしゃぎっスよ!」

「俺らあん時からお姉さんのファン! そんで今日演奏聴いてSICKHACKのファンに!」

「なるほど、じゃあ僕らお姉さんをきっかけにしてSICKHACKのファンになった同士ですね!」

「同士……?」

 

 あ、ヤバい。

 調子に乗り過ぎた。

 ははっ、そりゃそうだよな。

 ぼっちな俺が――。

 

「同士! 良いコト言うじゃん! そう、同士!」

「同士イエーイ!」

「おや、僕たちもかい? 嬉しいねえ」

「若い子たちと一緒になって若返った気分」

 

 ……。

 

「へへっ」

 

 

 

「――で? なんでウチの前に居るんですかねぇ?」

「既にキミは私のお風呂サイクルの一部なのさ!」

「来なかったらどうするつもりなんですか?」

「来るまで待つ!」

「帰れよ。……はぁ、風呂沸かすんで適当に待っててください。あ、楽器弾くなよ?」

「はーい!」

「夜」

「うっす……」

 

 ったく……。

 

「そーいえば今日ライブ来てた?」

「はい。それがどうかしました?」

「やー? 見た気がしたけど奥だったからハッキリしなくてさー。聞いただけー」

「ああ、そう。……演奏、良かったですよ。ああいう音楽に全力な姿見てると俺なんかよりずっとキラキラしてるなーって、カッコよかったです」

「……歩はキラキラしてないの?」

 

 俺……。

 俺、かぁ。

 

「俺は絶賛モラトリアム中ですよ」

「ほえ?」

「要は全力ではしゃげるほど子どもじゃないし、かと言って大人でもないハンパ者ってことです。自分の好きなことも、したいことも見つからないで……」

「趣味は~?」

「ないですよ。部屋見ればわかるでしょう?」

「ん~、ぼっちちゃんとの写真がいっぱい。バンドのCDが少し、あ、ウチのバンドのグッズ……でもなんで袋に入ったまんま?」

「それ、今日買ったヤツ」

「なるほど~」

 

 ほんと、最近買ったヤツを除けばなんもねーや。

 ハハ。

 

「じゃあバイトはどういう基準で選んだの~?」

「なんで……時給? あとは夜でも働ける?」

「夜でも? ……あ~、労基……あれ?」

「親戚に無理言ってバーで働かせて貰ってます」

「バー!」

「くんなよ?」

「え~……」

 

 アンタ来ると警察来そうなんだよ。

 俺、警察に身分尋ねられたらアウトなんよ。世話になってるのに迷惑かけたかねーよ、流石に。

 

「ん? この匂い……あ、テメッ」

「あ、見つかっちゃった」

「片づけねーのに飲むんじゃねえっ」

「あ゙~、私のおにころ~!」

「せめて片付けろやッ」

「わがっだがらぁ~ッ」

「……見苦しい。ほら、これでも食ってろ」

「おつまみ? わ~、未成年なのにお酒飲むの~? 悪い子だね~」

「そんなこと気にするタチかよ。……ちげーよ、単純におかずとして作り置きしてただけだよ。普通に食うだろ、たこキムチ」

「……」

 

 酒ばっかの酒カスにンなコト関係なかったな。

 うん。俺が悪かった。

 だから心底不思議そうな顔で見んな。

 酒がナチュラルだもんな!?

 

「そーいや、ライブの時から気になってて今確信になったんで聞くんですけど。……なんでそんなに髪の毛痛んでるんです?」

「ぃやー、お金がなくてさ~! うちお風呂ないって言ったじゃん? だから台所で髪洗ってさ~!」

「ライブの前くらいちゃんと風呂は入れや!? ……あ~、もう! ちょっと待ってろ!」

 

 え~っと?! どこ置いたっけ?!

 

「はい! 貰いモンだけどヘアオイルとスタイリングミスト! 女はそういうのちゃんとしないと周りの目ぇ辛いだろうが、酒カスがンなコト気にすんのか知らんが」

「わ~。……どうやって使うの?」

「知らん。説明文読め。ちょうど風呂沸いたし入ってこい、ドライヤーはそこな。服は……服アンタどうすんだ?」

「貸して~」

「シャツならともかく下着どーすんだよ。流石にブラもパンツも持ってねーよ?」

「持ってたらビックリ~。ま、ヘーキヘーキ」

「……」

 

 履かん気か?!

 正気か!?

 上はともかく下はアウトだよ!

 ……コンビニで確か売ってたよな?

 

「じゃ、お風呂いただきまーす!」

「ごゆっくり……」

 

 はぁ、なんで俺こんなことやってんだろう……。

 自分の事すらままならないのにロクに知らない女の人の世話なんかして。

 ただ……ひとり(これまで)のこともあってか、気が、楽だ。

 なんだろうな、これ。他人に依存してんのかな。

 

「ぃらっしゃっせー」

 

 色んなバイトに手ぇ出して。

 色んな人と接するようになって、歳の近い奴らとも話すようになって。

 なのに気が重いっつーか。メンドクサイってーか。

 

「ぁざっしたー」

 

 ああ……もう……。

 

「疲れたなぁ……」

 

 親が死んだのは物心つく前だから正直そういうものとしか認識してなかったけど、それを理由にどうこう言われるのは面倒っつーか。

 バカにされるのも、同情されるのも。

 ……そういえばPAさんは何も言ってこなかったっけ。やっぱ大人ってそういうのがちゃんとしてるよなぁ。

 いや、大人だからちゃんとしてるんじゃないか。ただ、PAさんがちゃんとしてるだけ。

 PAさんの対応も、星歌さんの反応も。ああ、あとはきくりさんも別ベクトルでありがたい。

 他人の事情に対して興味ないっていうか、深くに突っ込んでこない感じというか。

 ……違うか、あれはあれで気にかけてはくれてる。

 大枠で察しながら、あくまでも個人の事情って距離感でいてくれるんだ。

 

「きくりさん、着替え系扉横に置いておくんで」

「んにゃ? ありがとー!」

「それと、そろそろお風呂あがるってなったら声かけてください」

「うん、わかった~」

 

 なんだろう。

 生まれるタイミングでも間違えたのかな?

 もっと早くに生まれてたら……。

 ……ハッ、バカか俺は。

 俺がいつ生まれようと、所詮変わらない。

 どうせ結局のところ、他人からすればどうでもいいことでウジウジ悩むクソ野郎になってる。

 

「働きたい……」

 

 ああ、もうこんなことなんか考えたくない。

 思考を止めてしまいたい。

 仕事に没頭してる間はこんなこと考えずに済むのに。

 家に居たくない。

 家は、独りは……仮面が剝がれ落ちてしまう。

 平静を装うのも、心を覆うのも、出来なくなる。

 

「そろそろ上がるね~。覗いちゃダメだよ~」

「覗かんわ」

 

 こうやってひたすら何かを作ってたいな。

 料理だったり。

 心が一色に染まる。

 いっそのこと高校卒業したら寮のある会社にでも入るかな。

 同じ空間に誰かが居たらずっと変わらずに居られるし。そうしたら……そっちの方が本物に……。

 

「……ずっときくりさんが居たらなぁ」

「え~? なに~? プロポーズ~?」

「違います気の迷いですごめんなさい」

「あはは~!」

 

 俺は今何を口走ったんだ?

 ……アホか。

 

「下着ありがとねー」

「ああ、はい」

「それで? どうしたのかな~? お姉さんが聞いてあげよ~!」

「別に……良いですよ……」

「話してみな」

 

 ……。

 

「最近特に自分が嫌になるんですよ。心底自分がちっぽけに思えて……」

「どうしてかな?」

「何も、俺には何もないんですよ。夢とか希望とか。一瞬でも真っすぐ前を見れるなにかを、俺は持ち合わせてないんです」

「なんでそれがイヤ?」

「自分がまるで機械になったみたいなんですよ。環境なんですかね、昔から感情が人より少し薄くて。だからシチュエーションに応じて感情を演じて……。それで最近心がすり減って消えそうな、そんな気がして」

「それは違うよ」

「え?」

「キミは心がすり減ってるんじゃない。生まれ直してるんだよ」

「生まれ……?」

「先輩から、星歌さんから聞いたよ? ライブ観に来てるって。それにウチのライブにも来てくれてた」

「それが……どう……」

「本当に心がなかったらね、そもそもそれを苦痛に思うことすらないんだよ。苦しいと思うのは心の証。ライブを、新しいモノに興味を持つのだって心がなきゃしないよ」

 

 そう、だろうか。

 本当に……。

 演じた偽物じゃなくて。

 本当の心が、まだ残ってる?

 

「本当に?」

「君は心がちゃんとあるよ。心がなくなったらもっと違う状態になるから」

「そう、なんですか?」

「うん! お酒で一時的に心を吹き飛ばしてる私が保証したげる~!」

「こんななのに。涙を流せないのに?」

「あはは! 今は涙が違う形をしてるだけだよ~」

「違う形?」

「ねえ」

「はい?」

「雪が溶けたら春になるんだよ?」

「……ふふっ、そうですね」

 

 春は来るだろうか。

 閉ざされた冬の中でずっと独りだった俺に、暖かな春が来るその日が。

 それは一体いつになるのか。

 

「連絡くれたら歓迎します。また、来てください」

「ホント? ありがと~」

「とりあえず、ご飯にしましょうか」

 




例えば、ひたすら書くことで憶えるのが一番早い人がいるように。逆に口に出すことが一番の人がいるように。
歩は大人と接することが最も成長できる人間です
そして歩は道を指示されるのではなく、それまでと今の道を肯定される否定されることで進めると思います
歳が近いと歩の人生は否定も肯定もできない。それは理屈ではなく感情に基づいた判断だからです
ゆえに、歩はこれまで成長できませんでした。深層心理が経験の浅い人間の言葉なんて聞く意味ないと判断して拒絶するからです
面倒臭いね、こいつ。ある種ロックか?(ロックは免罪符じゃねえ)
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