「お久しぶりです」
「お久しぶりですね。最近来なかったですけどやっぱり一人暮らしは大変ですか?」
「そうですね、生活費を稼ぎつつ学校のこともっていうのはちょっと忙しいです。まあ、最近は特に忙しいんですけど」
そこまで……まあ一ヶ月は開いてるけど、かなり久しぶりな感じがする。
「夏休みの時期ですからね~」
「それもですし、きくりさんがしょっちゅうウチに来るんですよ」
「……え?」
「お金がないからって知人の家でお風呂借りれない時は台所で頭洗うらしいんですよ。けど夏場の汗掻く状況でそれはダメじゃないですか。だから使うか聞いたら……それ以降高頻度で来るように……」
「あの人そんなことしてたんですか……」
風呂ない&金があったら酒に変換されるって特性上多分ドライヤー持ってないし、あの人。
絶対タオルと自然乾燥だよなぁ。
「推しなんで助けられるなら助けたいですし……けど最近は忙しいからあの人家の前で待たせることになっちゃって……どうすれば良いですかね?!」
「え、ええと……? 合鍵、とかですか――」
「おいバカッ!?」
合鍵!
その発想はなかった! 天才か?
ところで星歌さんどったの?
「(なんで普通にアドバイスしてるんだ! 歩は未成年だぞ?!)」
「(す、すみません店長。あまりの衝撃につい……)」
「(普通に注意、というかアイツ今度来たら絞める)」
「どうかしました?」
「な、なんでもありませんよ~」
ま、いっか。
「ところで今日は何をしにいらっしたので?」
「バイトがこっちの方なんで始まる前に見に来ました」
「なるほど」
「あと少しお願いがあって来たんですよ」
「お願い、ですか?」
ぅう、やっぱひとり相手と違ってちょっと緊張するなぁ。
「料理を作りまして、その評価をしていただけないかな~と。一応ひとりには学校で食べて貰ったんですけどね、学生とは違う生活リズムだったり食生活をしている人の感想も聞いてみたくて……他人の手料理が生理的に無理って言うなら断って貰って大丈夫です! 正直な感想が欲しいのでっ」
「なるほど。食べること自体は大丈夫ですよ。ただ今は仕事中なのであまり量があると難しいですけど、量はどれくらいですか?」
「あ、それはそんなに量はないです。あとお昼を食べてあまり食欲がないかもなので感想も後でで大丈夫です。感想は後日……連絡先の交換が大丈夫であればラインでも……。い、嫌ですよね、こんな奴と連絡先交換するのなんて」
「だ、大丈夫ですよ~?」
怖いなぁ。
ひとりの気持ちがわかるや……。
「では後で感想送りますね」
「ありがとうございます」
「ところでどうして急に料理を?」
「……その、すごく単純でお恥ずかしい話なんですけど。その、きくりさんがウチに来た時に料理を出しまして。その……美味しそうに食べてる姿が凄く嬉しかったんですっ。そ、それでそういう道に行ってみようかなって……」
「ふふっ、なるほどそういうことでしたか」
「歩、それなに?」
「うぉっ、びっくりした……試作料理、食うか? 代わりに感想くれ」
「わかった。あとで歌にして送る」
「普通に感想文でいいから……」
何故歌おうとする?
お前はひとりか。
「っと、そろそろバイト行きますね。容器は明日取りに来ます」
「は~い」
「それで、どうだった?」
「どういう評価がいい?」
「素直に、特に遠慮せずに」
ところで道草物理やってるリョウはアテになるのかな?
味覚バグったりしてない?
「なら――味が濃い、具材が大きい、油入れ過ぎ」
「うっ……」
「そうですね~、男性だからそういう感じなのかもしれませんね~」
「PAさん。マズいモノを食わせてしまってすみません……」
「いえ、味自体は大丈夫でしたよ。ただやはり味が少し濃いと感じたのと、男女での食べる際の口の大きさでの具材の大きさが気になりましたね」
「油……女性ってそういうの結構気にするのにすみません」
「あはは、一食どころか試食くらいなら大丈夫ですよ。ただ油が多いのも事実ですね」
「マズくはない。精進したまえ」
「はい……」
味、大きさ、油……軽くだけでもこんなに問題点があるのか。
そうか、つい普段の感覚で作っちゃったけどそこあるよねぇ……。
男女だと一日の摂取カロリーとか栄養とか違うんだっけ。
そこ考えてなかったなぁ。
とすると男女汎用で考えるとベースを味薄め、別枠で味付けソース的に調整するのが良いのかも。
「多分歩くんの好みの味付けといいますか、感覚で作ってるんですかね」
「まあ、そうですね。つい手癖でといいますか」
「一般的なレシピはそれだけ大衆的ってことですからね、まずはそういうレシピを沢山再現するのが練習になると思いますよ」
「なるほど。たしかに……ありがとうございます」
「それとこちら。あくまでも私個人の好みですけど参考までに作ったものです。これはレシピですね」
「えっ、良いんですか? 重ね重ねありがとうございます!」
「気にしなくて大丈夫ですよ」
て、天使っ。
天使がいるよぉッ。
「今食べても?」
「はい、どうぞ」
「いただきます――うっま……ナニコレ、うまぁ」
「――大袈裟ですよ~」
「いえ、本当に。僕のと違って素材が活きてるというか、それに味も丁寧っていうか、なんだろう……調味料自体の使用量は少ないだろうに味がハッキリしてる? 手料理ってこういうものなんだなっていうか、生きてきて初めて実感しました」
「――ふふっ、ありがとうございます」
「いつかこれを完全再現できるように頑張らないと……。それにしてもPAさんの人間としてのスキル量が凄すぎる……デキる女性ってPAさんみたいな人なんですね」
「さっきから褒めすぎですよ~」
この人の彼氏が羨ましい。
いるのか知らないけど。
いたとしたら泣かせたらぶん殴ろ。
泣かせなくても羨ましいし殴りたいけど。
「――あっ、リョウてめッ、PAさんの料理を!」
「もらう」
「盗んだの間違いだろうがっ。くッ、まだちょっとしか食べてなかったのに一口くらいしか残ってない」
「一口残した」
「なんだその感謝しろみたいな態度は。なんだその私常識人みたいな面はァッ」
はぁ……。
仕方ない、このレシピを再現してPAさんの手料理と思って食べるか。
いや、無理だわ。
てかそんな妄想してる俺普通にキメェ。
「それにしても歩くんも変わりましたよね」
「はい? なんか変になりました? ま、まさかひとりの奇人がうつった? これまで平気だったはずなのにっ」
「いえ、そういうことではなく……。例えばですけど、さっきの完全再現できるように頑張らないとっていう言葉ですけど。多分出会った初めの頃の歩くんだと自分の料理の腕なんて~って思ったりしてたと思うんですよ」
「たしかに……僕なら言いますね」
「けどさっきは自分を卑下するのではなく、上達しようって意思だったじゃないですか。そういう部分が少し変わったと思いまして」
「楽観的になりましたかね……」
「ふふっ、そういうところはまだ変わってなさそうですけど、そうではなく成長ですよ。前向きになったってことです」
前向き……。
たしかに?
「だとしたら多分……ここに来たのが大きな転換点だったと思います。ここに来なかったら、多分閉じた世界で何も変わらずにいたと……。変わったっていうなら、多分皆さんとお話が出来たからだと思います。忙しいでしょうにこうやって相手をしてくれるPAさんや、優しくしてくれる星歌さん、メンバーでもないのに輪に入れてくれる結束バンドの皆……」
「褒めた? ならついでに前借りたお金の返済を待ってほしい」
「それはいつでも良いけどさ。……だから、なんかこうして改まって口にするのはちょっと気恥ずかしい感じもしますけど。――ありがとうございます。リョウも、ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして」
「一生感謝してもいい」
「うん。人生に影響を与えてるから、多分一生感謝すると思う。ホント、ありがとうな」
とりあえず時空的には第一巻。次から第二巻
ただその前に多分前言っていた閑話をいくつか
……これぇ、ぼっちちゃんいねぇな?
ま、いいじゃろ。原作ストーリー楽しみたいなら原作嫁って話ですし
ハハッ(裏声)