ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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妖精カレーバイキング

 妖精はカレーが好き。

 

 これは、桃子が18年間生きてきた中で、ヘノに出会うまでは全く聞いたことのない情報であった。

 

「ね、ねえヘノちゃん……なんか私たち、すっごく注目浴びてない?」

 

「気にするな。妖精の国で。人間が料理をすることなんて。普通はないからな。珍しいんだろ」

 

 

 ここは妖精の国の調理部屋。

 

 どこから調達したのか、飲食店で使っていそうな大きなサイズの鍋と、同じく人間が使うサイズの、薪を使ったかまど。

 それに、ノスタルジックな雰囲気の、ステンレスの蛇口がついた流し台までが揃っている。

 全体的にやや旧世代のデザインではあるが、お皿や食器類などもきちんと揃っており、当然ながら桃子の住むアパートの台所よりも広くて豪華である。

 

 ただし、壁がない。

 

 吹きさらしだった。

 

「私、思うんだけど、『部屋』っていうのは壁で囲まれてこそだと思うんだよね」

 

「安心しろ桃子。ここは寒くもならないし。暑くもならないから。壁なんて。なくても問題ないぞ」

 

「あのねヘノちゃん。実は壁って、温度調節だけのものじゃないんだよ?」

 

 広大な花畑の一角に配置された壁のない調理部屋で、桃子は周囲の視線に晒されながら玉ねぎを刻んでいた。

 どうやら、妖精と人間では『部屋』の概念が違うらしい。プライバシーもへったくれもなかった。

 

 気を取り直して。

 

 桃子が主にダンジョンで作るカレーは、基本的には玉ねぎとじゃがいも、日によっては肉があったりなかったり、そして市販のカレールーのみのシンプルなものである。それが一つのルーティンのようになっているので、気分によって別種のカレーを作ることもあるが、稀だ。

 それに加えて、ダンジョンで採集した野菜や果物を適当に入れるので、味わいも具材も毎回変わり、意外と飽きはこない。

 とはいえ、今日はダンジョン内で採集する暇など当然なかったため、カバンに入っていた玉ねぎとジャガイモ、カレールーのみの質素なカレーを作ろうということに落ち着いた。

 

 落ち着いたはず、だった。

 

「うぅ……こ、この果物……い、いれて、欲しいです……」

 

「この木の枝をいれると、おいしいかもしれないよぉ」

 

「提案なのだがね。こちらの蜜を入れるといいのでは、ないかな?」

 

「お酒♪ お酒、いれましょ♪」

 

「葉っぱとってきたヨ!」

 

 と、代わる代わる小さな妖精たちが食材と思われる何かを持ってきて、ジャガイモの皮をむく横でどんどん具材が増えていく。

 木の枝やら葉っぱやら、少々怪しげなものもあるが、妖精が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。

 桃子はおおらかな心で全てを受け入れることにした。

 

 

「この毒草を……ククク……入れようねぇ……」

 

「これっ、重い、人間の剣っ! カレーにしてくれっ!」

 

 前言撤回。おおらかな心でも駄目なものは駄目である。

 

 明らかにカレーに入れるべきではないものを鍋に入れたがる妖精も現れたので油断ならない。

 毒草はまだしも、大剣はさすがに桃子のスキルでも食材に加工出来そうにないし、出来たとしても食べたくない。

 というか、大剣は確実にサカモトが失くした剣と思われるので、桃子がきちんと回収しておいた。

 

 

 

 細かく切った玉ねぎとじゃがいもを炒め、水を注いでかまどに火をかける。

 そして浮いてくるアクを取りながら。

 

「そういえばさ、【カレー製作】のスキルって、具材を入れたら光って勝手に完成するじゃない? でも、スーパーで買ってきた玉ねぎとかじゃがいもには適用されないんだよねえ」

 

「それはきっと。桃子がまだまだ。未熟だからだぞ。修行して。カレーの達人になれ」

 

「修行……インドにでも行こうかな」

 

 桃子は以前から疑問に思っていたことをヘノに聞いてみたところ、そんな答えが返ってきた。

 カレーの達人というのはよくわからないが、未熟と言われてはぐうの音も出ない。

 

「さてと、じゃあ修行もかねて、今日のスペシャルな具材を入れてみるかな? みんなが集めてくれた材料、入れるよー?」

 

 桃子が声をかけると、周囲の妖精たちが一斉に沸き立った。

 

 薬草。何かの木の枝。沢山の果物。何かの葉っぱ。それにキノコや木の実など、多くの妖精が持ってきてくれた材料を、市販のカレールーとともに大鍋に流し込む。

 さすがに大剣はもとより、毒草の類は遠慮させてもらったが。妖精は大丈夫なのかもしれないが、桃子が全然大丈夫じゃない。

 雑に入れた材料が混ざり合い、パッと見ではカレーというよりは雑多な闇鍋状況になってしまったが、周囲の妖精たちは気にもしていないようだし、きっとこれで良いのだろう。

 

「あとはひたすら、信じて混ぜる、信じて混ぜる!」

 

 鍋が大きいために普段よりは時間がかかったが、ふつふつと水面が沸き立つとともに、鍋の中から光があふれだし――

 

「完成! 桃子特製カレー! 妖精たちの好物風味! わーぱちぱち」

 

 妖精たちの歓声があがる。

 

 鍋の中には黄金色のカレーが、実に旨そうな香りを漂わせていた。普段のカレーと違い、うっすらとスモークのような香りが混ざっているのは、木の枝の効果かもしれない。

 木の枝まで放り込んだごちゃまぜ鍋もあっという間に立派なカレーにしてしまう、スキル【カレー製作】は絶大であった。

 実は桃子が別に所有する【加工】のスキルも併用されたものなのだが、それは桃子本人が知っていても知らなくてもいいことだろう。

 

「桃子。カレーだな。なんだか前より量が多いな」

 

「うん、ただ、お米がそんなに無かったから皆の分はご飯なしのカレーになっちゃうけど……あんまり気にしてなさそうだね」

 

 桃子のリュックに入れておいたお米では、自分の分とヘノの分、あとは女王ティタニアの分が限度で、さすがに妖精たちに振る舞うほどのご飯は準備できなかった。が、どうやら妖精的にはカレーにライスがなくても全く問題ないようだ。

 そしてカレーが完成したとみるや、桃子が振る舞うまでもなく、周囲の妖精たちは我先にとカレー鍋に群がり、各々の持つ器にカレーを注いだらどこかへ飛んで行ってしまう。

 

「うわあ、みんなもう、自由だなあ……カレーバイキング状態だね」

 

「あいつらは。カレーとご飯を合わせて食べる。美味しさをしらないんだ。かわいそうだな」

 

 妖精が鍋に落ちやしないかと桃子は心配だったが、みんな器用なものできれいにお玉でよそっては飛んでいく。

 そんな妖精たちに白けた視線を送りながら、自分の器にだけはしっかりと白米を盛り付けるヘノに隙はなかった。

 

「では桃子。そっちの器に。女王のカレーを盛り付けるんだ」

 

「は~い」

 

「鍋の残りは。ほかの連中が。どうにかするだろ。女王のところに届けるぞ」

 

 用意されていたお盆に、女王ティタニア用のカレーを盛り付けると、自分たちの分とあわせてお盆に並べて、女王のもとへと向かった。

 

 

 

「これが、桃子さんのカレーなのですね。いい香りで、とても美味しそう」

 

 女王ティタニアは大きな花びらの玉座の上で、桃子はその横に準備された人間用のイスとテーブルで、特製カレーを味わっている。

 

「女王。これは。皆が材料を持ってきたから。皆のカレーだぞ」

 

「ヘノちゃん、敬語つかおう、敬語」

 

 ヘノも桃子の横をふらふらと漂いながらカレーの二杯目を食べている。鍋がここにないので、桃子の器から勝手に奪っていった。悪どい妖精だ。

 

「美味しいです。とても、懐かしい味がします」

 

「ティタニア様は、カレー食べたことあったんですね。私みたいに、ここに来た探索者が作ったんですか?」

 

「ええ、ずっと昔……私がまだ産まれたての頃に友達になった人間の少女が、あの調理部屋でカレーを振る舞ってくれたんです。あの調理部屋や人間用の客室も、その子と一緒に造ったんですよ」

 

「へぇ……」

 

 桃子は思案する。

 

 ティタニアが産まれたての頃というのは、いつ頃だろうか。

 もし彼女が人間だとしたら、見た目的には20代から30代くらいか。人間社会なら、美魔女的な佇まいでモデルか女優になれそうだ。

 日本で妖精が目撃されるようになってからまだ数十年しか経っていないので、もしかしたらティタニアも見た目相応の年齢だったりするのかもしれない。

 

 妖精は人間よりもはるかに寿命が長いイメージがあったけれど、もしかしたらヘノや他の妖精たちも見た目相応で、まだ子供なのだろうか。

 

 そのようなことを考えているうちに、いつの間にかカレーを食べたのか、女王ティタニアの手元にはすでに器はなくなっている。

 軽く口元を小さなナプキンで拭いていたが、そのナプキンもふわっとした光とともにどこかへ消えていった。

 魔法とは便利なものだ。

 

 

「妖精って、人間には姿を現さないって言われてるんですけど、やっぱり妖精と友達になった子ってほかにもいたんですね」

 

「ええ。とは言っても、この部屋まで入ってきたのはあなたが三人目ですよ、桃子さん」

 

「な、なんか恐縮しちゃいますね……」

 

 三人。桃子と、もう一人がサカモトなら、きっと最初の一人は産まれたてのティタニアの友達で、それは妖精にとって信頼できる人間だったということだろう。

 女王ティタニアの大切な思い出に自分が踏み込んでしまった気がして、桃子は少しだけ、申し訳ない気持ちになる。

 

「おい。桃子がきょーしゅくするな。ヘノが選んだ。ヘノの大切な友達なんだから」

 

「ヘノちゃん……頬っぺた、カレーまみれで言われても、格好つかないよ」

 

 女王と違い、ヘノは口元もべったり、テーブルにもカレーがこぼれていた。

 ポケットから出したティッシュでヘノの頬を拭きながらも、桃子の頬もゆるゆるだ。

 先ほどの部屋での会話を思い出し、なんだか恥ずかしいやら嬉しいやら。

 

「桃子さん、ヘノはまだまだ手のかかる子ですが、今後もよろしくお願いしますね」

 

 ヘノの世話をする桃子を、女王ティタニアが目を細めて見守る。

 まるで、娘を見守るように、懐かしい過去を眺めるように。

 

 そしてそんな女王ティタニアに、桃子は胸をはって答えるのだった。

 

 もちろんです、大切な友達ですから、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

 

「おいっ聞いたかっ! あの人間が、カレーっ! 作るらしいぞ!」

 

「カ、カレーって……あ、あの、なんでしたっけぇ?」

 

「ククク……女王が食べたという……至高の料理だねえ……」

 

「でもなっ! 材料が足りないんだって!!」

 

「えぇっ、そんなぁ……」

 

「残念だねぇ……ククク」

 

「クククじゃないよっ! 具がないと! 作れないだろっ!」

 

「うぅ……悲しいです、めそめそ」

 

「ククク……バカだねぇ。材料なんて……拾ってくればいいのさぁ」

 

「!!? お前っ! お前っ! 天才じゃねえかっ! アホじゃなかったんだなっ!!」

 

「うぅ……ざ、材料って、何を拾えばいいんですかぁ……?」

 

「当然……至高の料理の材料なら、一番……良いもの、だよねぇ?」

 

「良いものかっ! あるぞ! 前にすっごいの拾ったんだっ!!」

 

「良いもの……うぅ……思いつかないです……」

 

「ククク……良いものと言えば、アレしかないねぇ」

 

「でもっ! あれ重いんだよな! ちょっと頑張って持ってくるっ!」

 

「じゃ、じゃあ……きれいな色の、りんごとかで……いいですかねぇ」

 

「ククク……とっておきのものを……準備しようねぇ」

 

 

 

「おやおや。今の話は聞いて、いたかね?」

 

「聞いてたヨ! カレーの材料の『いちばん良いもの』。ワタシたちも探すんだヨ!」

 

「じゃあ、精霊樹の枝、とってくるよぉ」

 

「んふふ♪ お酒がね、一番いいのよ♪」

 

「じゃあワタシは、精霊樹の葉っぱでもとってくるヨ」

 

「ならボクは、精霊樹の蜜でも集めると、するかな?」

 

「みんなで『いちばん良いもの』探すヨー!」

 

 

 そうして話が広がっていき、妖精たちは各々『いちばん良いもの』を集めに向かったのでした。

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