ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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りりたんテレフォン

『ももたん、お久しぶりですね』

 

 

 その日、帰宅してドライカレーを炒めていた桃子のもとに、とある相手から通話がきた。

 コンロの火を止めて、登録した覚えのない相手の名前『りりたん』に数秒ほど頭が真っ白になるが、しかしこの相手なら何があっても不思議ではないと思い直して、通話ボタンをタップする。

 

 聞こえてきた声は、あの青い夜の花畑で、そして妖精の女王ティタニアと共に視聴している朗読配信で、実に聞きなれたものだった。

 りりたん。本名不明。15歳の、おそらく日本人。スキル【製本】とその膨大な魔力により、大体何でも出来る。そして、妖精の国の先代女王。

 

「わ、え、本当にりりたん? えと、うん、久しぶり。えと……」

 

『ももたんから連絡が来るのを待っていたのですが、どうやらももたんは遠慮しちゃってるみたいなので、こちらからかけてみましたよ』

 

「そ、それはどうも。えと、うーんと……まってまって、色々と急だから混乱しちゃって……」

 

 りりたんには自分から連絡する踏ん切りがつかなかったものの、聞きたいことは山のようにあった。しかし、いざ通話が繋がると、聞きたいことが多すぎて逆に何を話せばいいのかわからない。

 というか、前の時もそうだったけれど、桃子はりりたんについて知らないことが多すぎる。話のとっかかりすら、口から出てこない。

 

 その上、まさかりりたんから普通に通話が来るとは思っていなかったので、頭が混乱している。

 

『ふふふ。聞きたいことが沢山あるはずだけれど、りりたんから連絡が来るとは思わなくて頭の整理がついていない、ですか?』

 

「うん……まあそんな感じだけど。もしかしてりりたん、私の考えを読み取るスキルとか使ってるの?」

 

『いえ、ももたんが分かり易いだけですよ?』

 

「ええー……」

 

 りりたんなら読心のスキルやら魔法やらを普通に使っていそうなものだと思いきや、ただ単に桃子自身が分かり易いだけだったようだ。

 いや、でも普通に考えて、登録した覚えのない相手からいきなり通話がきたら誰だって困惑するだろうと桃子は思う。

 

 しかし桃子が頭を整理出来なかろうが、なんにせよ今回はりりたんからコンタクトをとってきたのだ。

 なので当然、りりたんが主導で話を進めていく。

 

『りりたんはももたんを友達だと思っていますから、たまにこうしてお話しするくらい、しても良いと思うのですよね』

 

「友達なのは嬉しいんだけど、私、りりたんと普通に話してていいのか、敬語を使った方がいいのかっていうレベルで悩んでるんだけどな……」

 

 りりたんは人間としては年下の少女であることは間違いない。更には、中学生特有の、ちょっと色々拗らせてしまう症状の患者ではないかと桃子は疑っている。

 そんな女子中学生なので、友達というには少々年齢差があるけれど、それでも会話しているととても身近な少女に感じるときもある。

 

 しかし。それと同時に、その精神性は人間のそれではない。先代の妖精女王であり、精神的な年齢も、人間に対するスタンスも、その保有する力も、人間からはほど遠い格上の存在だ。価値観が違いすぎて、自分とは見えているものが全く違うように感じるときもある。

 

 また、妖精の女王であるティタニアが『お母さま』と敬愛、いっそ信仰しているのがこの、先代女王だ。そんな相手に対して、ただの人間の桃子が年下の少女扱いして本当に良いのかどうなのか、未だに結論が出てこない。

 

『ふふふ。距離感が難しいとは、よく言われますよ。でも、ももたんはあくまで人間のお友達として、気軽に話せる仲になれると嬉しいですね』

 

「そっか。……んー、うん! じゃあわかった。私はりりたんの友達で、りりたんよりお姉さん、それでいい? いいのね?」

 

『良いですよ。今後は桃子お姉様とお呼びしましょうか?』

 

「それは友達の呼び方とはまた何か違うよね? ジョークだよね?」

 

 りりたんは、相変わらずジョークも分かりにくかった。

 

 

 

 

 

 

『ももたん、【創造】スキルはいかがですか? あれ、ももたんにぴったりなのですよ』

 

「あのね、りりたん。【創造】スキルで助けられたのは事実だけど、ああいうのを本人に黙って付与するのは良くないと思うんだけど」

 

 そして、やはり話題にあがるのは【創造】だ。

 りりたんが桃子に付与した、場合によっては新たな命ともよべる、自我を持つ存在すら生み出しかねない力だ。

 これは、さすがに説明がほしかった。

 桃子は、これについてはりりたんにクレームを入れるつもりだったのを思い出した。

 

『ふふふ。ももたんの驚く顔が見たかったんですけれど。イタズラが過ぎちゃいましたね、ごめんなさい、謝ります』

 

「う、うん……謝ってくれるなら、私もまあ、許すけど。あのスキルって、私には荷が重いというか、責任が大きすぎないかな」

 

 クレームを入れるつもりだったのだが、素直に謝られてしまったので、桃子も素直に許すしかない。

 謝ってきたら許す。もちろん場合にもよるが、これは桃子の基本スタンスだ。

 

 だがそれはそれとして【創造】のもつ責任は大きい。桃子はそれについて、りりたんに相談を持ちかける。

 これは、なあなあで、友達だからとかいう理由で受け取るべき力ではないと思う。

 

 しかし、それに対するりりたんの答えは、言葉の内容こそつかみ所の無いものであるが、しかし真面目な声色で返ってくる。

 

『【創造】という力は、ももたんが持つべきスキルなのですよ。昔は、ももたんのような方がいませんでしたから。ねえ、ももたん。ダンジョンは好きですか? 守っていきたいですか?』

 

「なんだか話が飛びすぎじゃない? まあ、ダンジョンは好き……かな」

 

 りりたんの、まるで謎かけのような問いに、桃子は一つずつ、意味をかみ砕きながら答えていく。

 

「ダンジョンの下層のほうは危険だし、危ない魔物も沢山いるし、それを守るっていうとなんか違うかもしれないけど。でも、ヘノちゃんとか、妖精のみんなと会えたのもダンジョンだし、探索もやっぱり楽しいし。だから、好きなんだと思う」

 

『そうですか。なら、ももたんは【創造】を所持していてくださいね。そして今後も、探索を続けてください。これはりりたんのわがままで、私からのお願いです』

 

 友人としてのりりたんのわがまま。

 先代女王としてのお願い。

 

 そこにはとても重いなにかが籠っているように思えた。

 

「ええと……どういうことなんだかさっぱりだから、具体的な説明も欲しいなあって思うんだけど。それは、悪いこととかじゃないのね?」

 

『はい。ももたんが所持する限り、人間にも害を及ぼすものではありませんよ。使い方は、りりたんの配信を見ていただけましたか?』

 

「うん。クルラちゃんのお爺ちゃんのお話だよね? あんまり、使い方の説明って感じじゃなかったけど……」

 

『いえ、あれを拝見していただけたなら、大丈夫ですよ。ももたんは【創造】にピッタリですからね。認識できないからこそ、人々は想像を共有していくのですよ』

 

「まってまって、もう少し具体的に、分かりやすく何かないのかな」

 

『ふふふ。なにも知らない方が、うまく行くこともあるのですよ』

 

 相変わらずりりたんの説明はつかみ所がなく、具体的な情報は無いに等しかった。

 だが、りりたんは桃子が【創造】を持つことがダンジョンのためになるという。

 認識できない云々は、桃子の【隠遁】との相乗効果がある、ということなのだろうけれど、それで具体的に何があって、ダンジョンにどういう効果があるのかはよくわからなかった。

 

 そして結局は最初に戻る。

 桃子が、よくわからないままでも、それが無害で必要なものだというりりたんの言葉を信じるかどうか。結局、責任の重さもなにも解決はしていないのだけれど。

 しかしそれならば、桃子の答えは決まっている。

 

「うーん、狐に化かされた気分だけど……まあ、りりたんにも助けてもらったしね。信じる! がんばる! 全然わかんないけど!」

 

『ふふふ。ももたん、私に化かされるのはいいですけど、狸に化かされちゃ駄目ですよ? 今回は私が手を出すと、ティタニアの立場が悪くなっちゃいますからね。出来るだけ控えさせてもらいますよ』

 

「えっと……それって、妖精と化け狸のテリトリーの問題?」

 

『ふふふ。まあ、そんなところですね』

 

 話がいきなり飛んで、化け狸の話が飛び出てきた。

 どうやらりりたんは、桃子がポンコと仲良くなって、里に招待されていることも把握しているようだ。把握されすぎていて、ちょっと怖い。

 

「りりたん、もしかして私のことずっと覗いてたりするの?」

 

『ずっとではないですよ。ダンジョンに居るときに、時々覗いておりますよ』

 

「あ、やっぱり覗いてはいるんだ……」

 

 

 

 

『でも、そうですね。スキルを一方的に付与して、姿を覗いてばかりではフェアではありませんから……』

 

「フェアじゃないっていうか、あんまり覗き見してほしくはないなあ……」

 

 桃子としても、ヘノやティタニアに行動を把握されるのは仕方ないと思うし、相手が妖精という別存在なので、抵抗もさほどない。

 だが、妖精でありながらも人間でもあるりりたんに覗かれていると思うと、やっぱりちょっと恥ずかしい。桃子も乙女なので、それなりに人に見せたくはない姿もあるのだ。

 まあ、りりたんが興味あるのは桃子やヘノの旅路なのだろうから、そういう桃子のプライベート姿を覗いているとは思わないが。

 

 しかし、桃子の抵抗もむなしく、りりたんは話を進めていく。

 

『……そうですね、ももたん。デウスエクスマキナって、知っておりますか?』

 

「えと、演劇用語の? ご都合主義とか、強引に大団円にするための舞台装置とか、そういう演出を指す言葉だよね?」

 

 デウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神。

 古代ギリシャの演劇において使われた、最後に万能の力を持つ神が降臨して全てを解決してくれるという、強引にハッピーエンドを作り出す物語の手法をさす言葉だ。

 桃子の記憶では、現代でもご都合主義などをさす言葉として使われていたはずだ。

 

『ももたん。桃子さん。私をあなたのための、デウスエクスマキナにしていいですよ?』

 

「え……と?」

 

『私には、これから先。あなたが直面する殆どの問題を強引に解決できる力があります。相手が人間でも。魔物でも。魔法生物でも。あまり気は乗りませんが、桃子さんが望むならば人助けに私を使っても構いませんよ』

 

「……りりたん?」

 

 桃子は違和感を覚える。

 この通話先にいるのは、本当に先ほどまでジョークを言っていた少女なのだろうか。

 なにか、違う気がする。雰囲気。空気。そのようなものが。

 

『桃子さんが困ったときは、私を利用してください。代わりにあなたは【創造】を持ち、それを広げ続ける。そういう取り引きにしましょう。それが、ダンジョンの安寧につながるとしたら、悪い話ではないでしょう?』

 

「ねえ、りりたん。やめて」

 

 これは、違う。りりたんではない。

 今この先にいるのは、桃子を、そして己すら何らかの目的のための駒として考えている、先代の女王だろう。或いはその亡霊だ。

 

『お気に召しませんか?』

 

「うん、嫌だよ。りりたんが、私のことを友達だって思ってくれるなら、そういうのは嫌。今の言葉通りに、互いの都合で利用しあう関係になっちゃったら、それは友達じゃないよ」

 

『駄目、でしたか?』

 

「あなたから見たら私は弱くて、確かに、どうしても頼らざるを得ないことは多いかもしれないけど。でも、友達ならなおのこと、利用するとかしないとかっていう前提の関係なんて嫌だよ。私は先代の女王様と取り引きをしたいんじゃなくて、りりたんと友達になりたいの」

 

 桃子はなんだかんだで、りりたんのことはちょっと怖いけれど、嫌いじゃない。むしろ、感謝もしているし、どちらかといえば好感だって抱いている。

 りりたんは距離感もつかみづらいし、すぐに取り引きとか言い出すし、詠唱とか唱えちゃうし、言っていることがよく分からないところもあるけれど、友達と言ってくれるのは嬉しかった。

 

 だから、先代女王の語る、打算だけの、都合の良い道具のような関係には頷けない。

 

 

『……ふふふ』

 

「りりたん?」

 

『ごめんなさい、そうですね、ももたんはそういう方でしたね。りりたん、間違ってましたね。りりたんとももたんは、お友達ですよ』

 

「……うん」

 

『さっきの言葉は忘れてください。りりたんはこれからも、気分でももたんを勝手に覗きます。たまにいたずらもします。ももたんは困ったことがあれば私を友達として頼ってください。私は気が向いたら助けますし、気分じゃなければ助けません。電話も私が一方的にかけます。りりたんは人から連絡がくるのは嫌いですから。そういう関係でいいですね』

 

「……うん、うん? ん?」

 

 なんだか妙なことを言われている気もする。それは友達関係としてどうなの? ということを言っている気がする。しかし、りりたんの声色は柔らかくなっていた。

 今の通話口にいるのは、15歳の、ちょっと癖が強すぎるだけの女の子だ。

 桃子の新しい友達の、りりたんに戻ってくれたことに、桃子は安堵する。

 覗きはやめてほしいけれど。

 

『ではお友達のももたん。友達らしく、タピオカミルクティと楊枝甘露、どちらが美味しいかここで決めませんか?』

 

「話題展開が急すぎてついていけません。もうちょっとさ、何かあるよね?」

 

『りりたんは、タピオカを入れれば大体どれも美味しくなるみたいな風潮はどうかと思うのですよね。タピオカミルクティって、本場のミルクティに喧嘩を売ってると思いませんか?』

 

「りりたん? 聞いてる? もしもーし?!」

 

 やはりりりたんはりりたん。

 桃子の話は聞かないし、一方的に話を運んでしまう、友達付き合いするとしたらなかなかヘビーな相手である。

 でも、こういうくだらない話が出来るというのは、とてもいいことだと思った。

 

 

 このあと滅茶苦茶タピオカの話をした。

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