ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「桃子さん、今日はなかなかの荷物ですね。そちらも一緒にお預かりしましょうか?」
土曜日の朝。房総ダンジョンギルド受付にて。
今日も今日とて桃子は自分の担当受付でもある窓口杏の下へとやってきた。
12月になり、外はもう寒くなってきた。桃子もさすがにスカジャンだけでは寒い季節になってきたので、ギルドまでは冬用のコートを羽織っている。
とはいえダンジョン内に入れば気候が変わるので、コートの下は相変わらずのスカジャンだ。
なお、ダンジョン内ではいつも着こんでいるスカジャンだが、不思議なことにあれだけ様々な冒険をしてきても、多少の汚れはあるものの、切れたり破れたりということがない。魔力が服にまで浸透していると防御力が上がる、という俗説があるが、もしかしたらそれは本当なのかもしれない。
ヘノや柚花ならば目でみて分かるのだろうかと桃子は考えるが、とりあえずそれは後日だ。
そして今日の桃子は、いつものリュックのほかに、何冊かの本が入った書店の紙袋を抱えていた。
紙の本というのは、思いのほか重いものだ。杏はその紙袋を覗き込むと、ロッカーで預かることを提案するが、どうやら桃子はこの紙袋を預けるつもりが無いようだ。
「いえ、これはちょっとしたお土産なんですよ。だから、ダンジョンへの持ち込み品です」
「お土産、ですか?」
「これ全部、うどんの本とか、カレーの本なんです。本屋さんでついつい色々買っちゃいました。たぬきの森の中にはこういうのって無いと思うんで」
「ああ、例の香川の……?」
「はい、香川ダンジョンの」
杏にも見えるようにと、桃子が紙袋の口を広げてみせた。紙袋の中に『うどんの作り方』やら『うどんくんの冒険』やら、うどんに関する本が並んでいるのが見えるだろう。
先日の段階で杏にはある程度の概要――あくまで化け狸の少女にカレーうどんを教えることになった程度の情報であるが――は伝えてあるため、桃子の言葉で察してくれたようだ。
今は周囲に他の職員や探索者は居ないが、化け狸の話なので念のため二人とも声を潜め、小声になる。
「桃子さん、今回は危険なことは無いんですよね?」
「はい。うどんダンジョンなので、危険どころか房総ダンジョンにちょっと似た雰囲気がありますよ」
「それはまた……珍しいというか、なんというか」
房総ダンジョン職員である杏だが、このダンジョンが他と比べるとかなり特異な空間であることは重々承知している。
なので、遠い四国のダンジョンがこのダンジョンと似ていると言われたところで、喜ばしいことなのかどうなのか、なかなか判断が難しいところだった。
第一層の森の中でヘノと合流し、いつものようにつむじ風の魔法で房総ダンジョンを駆け抜けて、さっそく桃子とヘノは香川ダンジョンへとやってきた。
今日は第一層『石造りの街』の水路が乾季で干からびているために、先日あれだけ並んでいたうどん店が今は殆どが休業状態になっているらしい。
なので今日は、第三層『妖狸の森』へ、そしてそこに存在するという化け狸たちの隠れ里へと、ポンコに誘われている。
目的地が下の層なため、今日は第一層『石造りの街』にあるカレー店ではなく、第二層『闘技場』の観客席での待ち合わせとなっていたのだが。
「桃子。あっちだぞ。反対側の座席に。たぬきがいるぞ」
ヘノと共に妖精の国から光の膜を抜けると、闘技場周辺に広がる石迷宮へとたどり着く。そして前回と同じく、ヘノの案内で第二層の中央部である巨大な闘技場へとたどり着いた。
闘技場には相変わらず挑戦者を待ち続ける巨大なゴーレムが佇んでおり、桃子たちが出てきたのはその二階観客席だ。ゴーレムを正面においた場合は、右側の観客席である。
すると、桃子たちがポンコを見つける前に、ちょうど闘技場を挟んで反対側の観客席からポンコの元気な大声が響き渡った。
「師匠! ヘノさん! ポンはこっちっすよー!」
「あいつ。馬鹿でかい声で。手を振ってるから。分かりやすいな」
「ポンコちゃん、声大きい、声大きい!」
あまりの声量に、下の闘技場でジッとしていたゴーレムすら一瞬ピクリと反応した気がする。ゴーレムはそれでも持ち場からは動かないようだが、こんな開けた場所で大きい声で呼ばれるのはさすがに困る。他に誰がいるかもわからないのだから。
桃子たちは慌ててポンコの下へと駆けていき、どうにか大声を出すのはやめるようにとストップをかける。
今日のポンコは人間の目をあまり気にしていないようで、外套のフードをはじめから下ろして狸娘の姿を最初から露わにしていた。
「ポンコちゃん、あんなに大きな声だしちゃうと、他の探索者さんとか魔物とかに気づかれちゃうよ? それにその恰好も、少しは隠さないと……」
「それもそうっすね、じゃあポンも次からはちっちゃい声にして、こっそり隠れながら呼ぶっす」
「うん、そうしてね。人の目もあれだけど、魔物を呼び寄せちゃったらポンコちゃんが危険だからね」
「でも、ここの階層の魔物ならいくらかポンに寄ってきても大したことないっすよ?」
この階層の魔物は、動く鎧やゴーレムのような、命を持たないタイプのものがメインである。
目に頼っていない魔物には桃子の【隠遁】の効果が薄いものも多いため、桃子はそれらの魔物がいたら通路を迂回しているのだが、どうやらポンコにとってはそれらの魔物は大した脅威ではないらしい。
「動く鎧とか、小っちゃいゴーレムとか、けっこう強そうだと思うんだけどなあ」
「何か。簡単な倒しかたでも。あるのか?」
「実はそうなんすよ。ポンがあとで実演してみせるっすね」
動く鎧や、同じく動く土人形であるゴーレム。桃子からすれば彼らは硬くて強そうな魔物たちなのだが、ポンコの口ぶりからすると、どうやら簡単な倒し方があるらしい。
「でもさすがに、ポンもあの下にいるでっかいのは相手してらんないので、小さい階段から行くっすよ」
「じゃあたぬき。道案内は。頼んだぞ」
ポンコに続いて、桃子たちはやって来た通路と逆の、左側の観客席から石壁の迷宮へと入っていく。
似たような通路をまっすぐ行き、右に曲がり、下へとおりて、そのまま歩くこと数分。桃子たちの行く末に、そいつは現れた。
「あっちから。動く鎧が。くるぞ。どうする?」
「どうしよっか、迂回する? あ、でもポンコちゃんはあれ倒せるんだっけ?」
前方からやってくるのは、金属質な足音をガシャリ、ガシャリと響かせる動く全身鎧だ。同じ全身鎧でも、サカモトとは違って人間味のない無機質な印象を受ける。
「ポンは、こういう時のための『術』を父ちゃんから教わってるんで大丈夫っす! 師匠、見ててくださいっすよ!」
「桃子。せっかくだから。離れて見てみよう」
ヘノに促されて、桃子は少し離れてポンコの様子を窺う。
剣を構えた鎧が、ポンコの存在に気付いたようで、歩幅を広げて真っすぐに襲い掛かってくるが、しかしポンコはその場で立ち止まったまま、何やら手に持って集中している。
そして、いよいよ鎧が近づいてきたところで、ポンコが野性的に歯をむき出しにして、一瞬にして相手の懐へと潜り込み。
「キシャーッ! ポコポーンッ!!」
気合の掛け声とともに、ポンコはバシンッと動く鎧の胴体に何かを叩きつけた。
それと同時に、今にも振り下ろそうと剣を上段に構えていた鎧は動きを止めて、そしてゆっくりとその剣を下ろしていく。
「勝利っす!!」
そして、ポンコの勝利宣言。桃子に向かってぴょんぴょん跳ねて、ポーズを決めている。
「えっ、なにしたの?! 今の一瞬で、もう倒した……ってことでいいのかな?」
動かなくなった鎧と、その横でぴょんぴょん跳ねて勝利の踊りっぽい何かを見せているポンコ。
桃子はあっけない幕切れに唖然としながらも、鎧を迂回するようにポンコに近づいて、よく分からないながらも、すごいすごいとポンコの頭を撫でる。ついでにモフモフの尻尾も撫でまくる。
そしてヘノは、ポンコが鎧の胴体に叩きつけたものを眺めて、ふむふむと考え込んでいた。
「なるほどな。たぬきは。葉っぱに魔力を込めて。魔法を使うんだな」
ヘノが覗き込んでいた鎧の胴体には、緑色の葉っぱが一枚、まるで御札のように貼り付いていた。桃子には見えないが、どうやらそこには魔力がこもっているらしい。
化け狸と言えば葉っぱ。
ポンコはどうやら、魔力を込めた葉っぱを使い、動く鎧の動きを封じたらしい。動かない動く鎧など、ただの動かない鎧だ。
「ポン、がんばったっす! なので師匠、動く鎧とか、動く石の塊が出たら、ポンに任せてくださいっす! 葉っぱもまだまだあるっすから……あれ?」
ポンコはふんすと鼻息を荒くして、懐に手を入れる。
そしてごそごそ、ごそごそ、ごそごそと何かを探す。
「あれっ? あれっ? 葉っぱ、まだまだあったはずっすよ。あれれ? なんで? そういえば、ここに来るときに使っちゃったかもしれないっす……」
「たぬき。葉っぱ。なくなったのか?」
「キューン……」
ポンコはその場で着ている服のポケットを裏返し、フード付きの外套をばたばた振り回して、ひたすら葉っぱを探している。先ほどのドヤ顔で披露した勝利の踊りから一転して、すでに半泣きである。
そんなポンコの姿を、ヘノと桃子と動かない動く鎧が、なんとも言えない沈黙とともに見下ろしている。
「ヘノちゃん、とりあえずだけど……この鎧は潰して、葉っぱだけ回収しておこっか。リサイクルってことで」
「りさいくるは知らないけど。それがいいと思うぞ」
相手は硬く、そして金属なので氷結の効果はあまり期待できない。
なので、桃子は思い切り振りかぶって、【怪力◎】をフルに使い、ハンマーに魔力を注ぎ込み、全力で、魔力の使い道を物理的なパワーに絞って動く鎧に振り下ろす。
ドゴン、という迷宮に響く轟音とともに、目の前の鎧の魔物を叩き潰した。
勢い余って、鎧が立っていた地点の床も叩き壊した。
通路が崩れ、大穴が空いた。
桃子とポンコは慌てて崩落現場から飛び退いた。
「ひゅわー、師匠、すごいっすね! 鎧を潰すどころか、床に大穴を開けちゃうなんて、ポンは感動っすよ!」
「また。やっちゃったな。桃子」
「やっちゃった。こういうのは人魚姫の仕事なんだけどなあ」
崩れ落ちた床から見えるのは、迷宮の一つ下の通路。瓦礫の数々がキラキラと魔法光を反射し、その中で一か所だけ銀色に輝いているのは、ぺちゃんこになって動かなくなった動く鎧の欠片。
胴体についていた葉っぱは見失ってしまった。というか、どこが胴体だったのかもわからない。
そしてしばらく見ていると、鎧は端の方からズズズと黒く染まっていき、煤になって崩れていく。
「ヘノちゃん、見て見て。やっぱり、金属でも魔物って煤になっていくんだねえ。不思議だねえ」
「あんな形でも。やっぱり魔物なんだな」
桃子は崩壊した通路ギリギリから下の階を覗き込み、半ば現実逃避のようにどうでもいい雑談を始める。正直いって、やりすぎた。いつぞやのように大規模な崩壊にならなくて済んでいるが、通路は崩壊してしまった。
そしてそんな桃子の横から、ポンコが「ポンッ!」という掛け声とともに、瓦礫まみれの下の階へと飛び降りる。
「この穴を通ったほうが断然早いっすよ。さすがポンの師匠っすね」
「桃子は。並の探索者よりも。断然魔力が多いし。カレー食べてるからな。破壊力が違うんだ」
「カレーってこの場合関係あるの?」
そんな風に話をしながら、ヘノのつむじ風の魔法の力を借りて階下の瓦礫へと着地する。
見れば、本当に下層への階段はすぐ近くだったらしく、通路を少し進んだ場所に下へと続く階段が口を開いていた。
【タチバナの真相解明チャンネル!】
こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!
さて、今日も先週と同じく、国内のダンジョンの調査隊として駆り出されてる私ですけど、今回はほら、ちょっと違いますよ。
本来なら第一層をぐるっと回って異常がないかを確認して終わりなんですけど、今回は私、とあるパーティというか、組織にお呼ばれしちゃってます。見てくださいこの大所帯、すごくないですか?
そして、第四層まで足を運ぶことになりました。
ああ、安心してください。ここは第四層までガッツリと道のりは開拓されてて、四層とはいえこれだけの探索者が揃っていれば比較的安全な場所ですから。
まあ、流石に日帰りは無理ですから、第四層でキャンプっていうのかな? 泊まり込みですけどね。
あ、お泊りに関しても、ちゃんと女性探索者さんも多いので大丈夫ですよ。視聴者さんがた、心配してくれてるんですか?
はぁ? 勿体ぶるな? さっさと居場所を吐け? 美少女がどこにいるんだ? このやろ、今日は他の人もいるから抑えるけど、そのコメントはいつもの配信だったら喧嘩のゴングだかんね。
でもそうですね。場所がどこか、ですね。
実は今はもうパーティ……というか、ちょっとした大集団ですけど、第二層まで来てるんですよ。この鬱蒼とした竹林。わかります?
そう、ご存じ遠野ダンジョンです!
本日は、『萌々子ちゃんを守る会』にご一緒させていただいてるんですよ!
なんか、例の新ダンジョンの件で遠野を離れることになった深援隊の方々のラストアタックというか、萌々子ちゃんへのお別れの挨拶というかなんというか……まあそういうのが丁度本日行われるらしくてですね。たまたま居合わせた私も誘われちゃったんですよね。
私なら萌々子ちゃんを見つけられるんじゃないか、って。物凄く説得されました。
まあ、ギルドのほうも許可を出してくれましたし、そういう流れなので、ちょっと今回は長めの配信になりますねー。
萌々子ちゃんに会いに行く配信、はじまります。