ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「先輩はやっぱりピンクのジャケットが一番似合うと思うんですよね。これとかどうですか?」
平日のとある日の午後。桃子は柚花と共に、東京は秋葉原の探索者向けショップへと買い物に来ていた。
今日は柚花が学校が半日で終わり、桃子も取引先の都合で今日の分の作業が早々に無くなってしまった為に仕事が半日で終わってしまった。
なので、せっかくの機会ということで、二人で前々から話していた東京の新しいお店に行ってみよう、ということになったのだ。
秋葉原の店舗は、女性探索者をターゲットにしたポップな感じの店である。
もちろん探索者ショップなので、ポップとは言え店頭には鎧や武器などの展示品も並んでいるのだが、しかし全体的にはライトな色合いで見た目にも力を入れた商品が多い。
ちょうど良い機会だと考えて、桃子もそろそろ長く使ってきたスカジャンに代わる、別なアウターを探していたのだが。
「やっぱりピンクかー。私、名前が『桃』だから、昔からなにかとみんなピンクのものが増えていくんだよね」
桃子がアウターを探していると聞いた柚花が、あれこれと桃子に似合いそうな上着を選び始めたのだった。
スカジャンのときはただの古着屋で安くて丈夫そうなものを選んだだけだったのだが、今回は探索者ショップだ。丈夫さという点ではどれを選んでも問題ない。中には、普通の女性用ファッションに見せかけて、服の内側にしっかりした防護パッドが入っているものもある。
お値段はさすがにしっかりしていて、古着屋のように安価なものは存在しない。とはいえ、さすがに今の桃子には収入があるので、せっかく買うならお値段がはってもきちんとしたものを購入したいと思う。
しかし想定外だったのは、桃子本人よりも、一緒に見に来た柚花の方が真剣に桃子のアウターを選びだしたことだ。
そして柚花はやはり、桃子に似合う衣装としてピンクの上着を勧めてくる。
名前のイメージというのはすごい。
桃子が自主的にピンクを好んで選んでいるつもりはないのだが、幼い頃から親が桃子のために選んでくれた服や文房具は大体ピンク、友人と一緒に選んだ服や、友人から送られるプレゼント類もピンク系が多い。更には最近でも和歌からもらった探索者用ブーツもワンポイントのイメージカラーは桃色だ。
結果として、本人の意思とは無関係にピンクが桃子のイメージカラーになっていた。
「いいじゃないですかピンク。子供っぽくて」
「残念。私は19歳の大人のレディなんだよ」
「じゃあこっちの、大人レディ向きのセクシーな肌を見せるやつとか着てみます? または、こちらのボディラインを強調した服とか。どちらも先輩に似合うとはあまり思えませんけど」
女性探索者の衣装には、とりわけセクシーさを売りにしたものも存在する。
同じ女性としては、性的な意味合いで男性が喜びそうなものが多いというのは複雑な気持ちもあるが、しかしやはり綺麗な女性というものは同性から見ても悪いものではないのだ。
そして柚花が引き合いにだしたのは、おへそやわき腹あたりが丸っと見えている軽装アーマータイプの衣装と、ボディにフィットしたちょっとしたスーツタイプの衣装。
どちらを選んだとしても、身体のスタイルが丸見えで、女性的な凸凹がものをいうことだろう。
試着する分にはタダだし、自分に似合うかどうかは分からないが、一度くらいはそういう服を着てみるのも良い経験かもしれないなと、桃子は前向きに考える。
「うーん、どっちにしようか悩むなあ……」
「え、先輩本気で悩んでます? 着ちゃうんです? まあいいですけど」
悩んだ末に、胴回りが大きく露出された軽装鎧を試着してみたのだが、柚花も、そしてまさかのショップ店員までもが「事案に引っかかりかねない」という謎の理由で首を横に振るのであった。
ダンジョン用の上着を見た後は、別なフロアだ。
ここは武器類を扱うフロアのようで、頑丈なガラスケースの中に様々な武器が並んでいる。
女性探索者向けのショップだからか、並んでいる武器は小さめの短剣や杖のようなものが多く、大剣などというものは並んでいない。ましてや巨大なハンマーなんていうものは取り扱っていないようである。
「柚花はさ、武器はこういうお店で買ってるの?」
柚花の武器と言えば、両腰に装着している二本の双剣だ。
もっぱら剣としてではなく、雷魔法を発動する際の起点として使用していることのほうが多い双剣。しかし主な用途がなんにせよ、あの剣はそれなりに良いものを使っているはずだ。
「最初の頃はギルドで購入したものでしたね。ある程度お金に余裕が出来てから、今使ってる剣を新宿の専門店で見繕って貰ったんですよ」
「そっかー。私、こういうお店見たことあんまりなかったから、なんだか面白いねえ」
「先輩って、仕事がら武器にはもっと詳しいのかと思ってましたけど、そんなでもないんですか?」
桃子は仕事で、主にダンジョン用の武器のメンテナンスや加工を扱っている。
そのため、店に並んでいる武器がどのようなもので、どのような作りなのかは大体見ればわかるし、一般的な形状のものならば一通り触ったことも、調整したこともある。
桃子はまだ既存の武器の調整ばかりで、1から自分の手で武器を制作するような仕事には関わっていないが、順調に親方や和歌にノウハウを教わっていけば、ゆくゆくは関われるようになるだろう。
しかし工房の仕事内容はさておき、桃子は店頭の武器を興味深そうに眺めている。
「武器自体は色々見て来たけどね、やっぱり私のところに来るのは使い込まれたちょっと古いタイプがメインだから、最新の武器って珍しいんだよね。見て柚花、これすごいよ。ナイフに棘抜きがついてる」
桃子がはしゃいで柚花を呼び寄せて、ガラスケースの中にあるナイフを指さした。
なるほど確かに、ナイフの持ち手にぴょこんと飛び出たパーツがついている。刺抜きだ。
「何に使うんですかそんなの」
「ほら、ダンジョンで棘が刺さったときとか、あったら助かるんじゃないかな?」
「そりゃ助かりますけど、何もナイフにつけなくても……」
桃子はこのトンチキ武器のアイデアがいたくお気に入りなのだが、どうやら柚花にはそのロマンは伝わらなかったようである。
桃子はちょっとだけ、残念に思った。
最後に立ち寄ったのは、ダンジョン素材の買い取りフロアである。
素材の買い取り。
大体の場合は各ダンジョンのギルド、あるいはギルド周辺に素材の買い取りを行う施設が付属しているのだが、必ずしも素材を扱っているのはダンジョン周辺だけではない。
中には、ダンジョンから離れた地域にも、この店の様な探索者用ショップが建っている場合もある。そしてそのような店舗では、大体の場合は素材の買い取りも受け付けている。
そして、実は桃子が一番来たかったのはこの場所だった。
何故ならば。
「ええと、これは遠野ダンジョンの一反木綿の布です。ちょっと枚数が多いんで確認してもらえますか?」
「おやお嬢ちゃん、随分と一反木綿を狩ったんだね。それとも誰かに貰ったのかい? これは上質な布なんだよ」
「えへへ、秘密です。それで、こっちの袋に入ってるのは琵琶湖ダンジョンの、なんかスライムから出て来た結晶です。綺麗だったので一袋分だけもらってきちゃったんですけど、なんだかよく分からないですけど、売れますかね?」
「ほう? いやこれ、よく分からないっていうか、琵琶湖のほうで噂になってるあれだろう? 本物かい? いや、疑うわけじゃあないんだが……うん、後程きちんと査定をするけど、本物だったらかなりのレアものだねえ」
「そうなんですか? もっと袋に詰めておけばよかったかな。えと、こっちは香川ダンジョンの、なんか牛の角? なのかな? みたいなものです。うどん屋さんが言うには、価値のあるものらしいんですけど……」
「待って待って、お嬢ちゃん、全国巡ってるわけじゃないよね? え、家族に有名な探索者とかいる? これも今すぐには価格は決められないから、とりあえず調べさせてもらってから後で振り込む形でいいかな」
桃子はなんだかんだで、魔物素材をそれなりに拾っている。
価値が分からずに放置してしまったものも多々あるけれど、袋に入れられるようなものならば一応は回収してきているのだ。
しかしそこで問題になるのが、遠野や琵琶湖で得た素材を、どこで売るか、である。
言うまでもなく、房総ダンジョンの施設でそんなものを売ったら事件になってしまう。
窓口やヤマガタを通して便宜を図って貰えばどうにかなるだろうが、ギルド上層部からの声掛けなんてしてしまっては次からは気軽に素材屋を使いづらくなってしまうだろう。
流石にそこまでして買い取りをお願いしたいというものでもないので、今までは保留にしてきたのだ。
しかし、ここは大都会東京の、出来たてほやほやの探索者用ショップだ。
様々な地域からきた探索者が、様々な地域の素材を持ち寄る場所だ。
つまり、ここならば桃子がどれだけ出所不明の素材を持ち込もうが、怪しまれることはないのである!
「……って先輩は思ってそうですけど、先輩。次からも私と一緒に来ましょうね」
「ふぇ?」
素材の販売の際は身元保証のために探索者カードの提示は必須である。
そこで問題になるのが、桃子の探索者カードを見た所で、琵琶湖や香川の素材を入手できる理由が全く浮かんでこない、ということだ。
最悪、出所不明の素材の数々を店に怪しまれれば、痛くもない腹を探られることになる。
そこでなぜ今日は普通に買い取りをして貰えたのかというと、裏には柚花の功績があった。
柚花――美少女探索者タチバナは、つい先日も配信がバズっており、それなりに名が売れ出した探索者だ。その上、彼女がギルドの依頼により全国のダンジョンを巡っていることも、調べれば簡単に分かる情報だろう。
つまり、タチバナならば全国の素材を持っていてもおかしくはないし、そのタチバナの連れということで、桃子もついでに店の信頼を勝ち得たのである。
「えへへ、見てよ柚花。この金額、もの凄くない?」
店で出してもらった暫定の査定金額が、自分の想像の優に十倍はあったので、桃子はホクホク顔だ。いくら邪念のないマシュマロとはいえ、臨時収入があればホクホク顔になるのだ。やはり世の中お金なのだ。
あくまで査定を待って、のちに素材が本物だと確定したら、の話だが、実際に全て本物なのでそこは心配しなくてよいだろう。
じきに、桃子がギルドに登録している口座に今回の料金が振り込まれることになる。口座のチェックが楽しみだ。
「先輩、頬っぺたが溶けちゃってますね。じゃあ、今日は豪勢に先輩の奢りで美味しいもの食べちゃいましょうか?」
「お、柚花ったら。でもいいよ、私、社会人だし、臨時収入も入ることだし! 和牛カレーだろうが牡蠣カレーだろうが、どんとこいだよ」
桃子はまだ振り込まれてもいないお金で太っ腹になっており、ドヤ顔を隠そうともせずにふんすと鼻を鳴らす。
しかし、桃子の口から出てくるのはカレーのラインナップだった。確かに高級なカレーではあるが、柚花は閉口する。
「……あの、もっと普通の食事にしましょう? お洒落な喫茶店とか」
「え、そう? まあ、柚花のおすすめのお店でいいよ、うん。カレーじゃなくていいの?」
「カレーは、先輩の手作りが一番美味しいですから。お店じゃなくていいんです」
「そ、そうかな。やっぱり、柚花もそう思う? えへへ……だよねー」
どうやら柚花の説明は、桃子のお気に召したようである。
ちょろい先輩の可愛さを堪能しながら、柚花はスマホで近隣の喫茶店をチェックするのだった。
【とある妖精たちの会話】
「じゃあ。後輩の配信に入ってた。あの声は。ニムじゃなかったのか」
「そ、そうみたいですねぇ。私も、あとから聞いて、驚きましたけど……」
「知っているかね? その後、見事に話題になっていたようだよ? 謎多き配信者として、だね?」
「本当に謎だよねぇ。後輩さんは、色々視えてるはずなのに、何も見ていないというのは不思議だねぇ」
「後輩どころか。その場にニムも居たのに。気づかなかったらしいからな」
「うぅ……あの時、座敷童子さんの幽霊がいたんでしょうか……怖い」
「怖いと言えば。ニム。お前。なんで壺に入ってたんだ? 意味が分からなくて。桃子も。女王も。困惑してたぞ」
「さては壺の中に、何か新たな謎があったのでは、ないかな?」
「謎は無かったですけど……そ、そのぉ、壺って、い、居心地がいいんですよぅ」
「そうなのか。ヘノはあまり。壺に入ることないから。わからないな」
「妖精はあんまり壺に入らないからねぇ」
「謎は解けたよ。ニムは、湿っぽいところが好きだからでは、ないかね?」
「そ、そうかもしれないです……わ、私、じめっとしてると……落ち着きますから……」
「驚いた。こいつが。普通に謎を解いたぞ」
「今日は空から、槍が降ってくるかもしれないねぇ」
「さすがに。それはないだろ。空から槍が降ってきたら。人も魔物も。全滅だぞ」
「槍の話してたか! 槍も恰好いいよな!」
「お前。畑に次は。槍を刺す気だな。駄目だぞ。本当に邪魔なんだから」
「うぅ……じめじめした壺の話、続けていいですかぁ?」