ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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カフェと怪談話

「ここ、女の子に人気のお店ですよ。ここがいいです、ここにしましょう先輩」

 

 新規に開店したばかりの探索者用ショップで色々と見た後、やってきたのはショップからほど近い場所にある喫茶店だ。SNSでもよく見かけるような、いわゆる若者に大人気のお店である。

 週末なら込み合っているような店だけれど、今が平日だからか比較的座りやすかった。

 12月ももうすぐ半ば。息が白くなる屋外から暖かい店内に入っていくと、店員に奥の窓際のテーブル席へと案内された。窓から見える外の大通りには、寒空の下で大勢の人たちが行き交っている。

 

「ふう、今日は楽しかった。柚花おすすめのフード付きジャンパーも購入したし、冬の間はこれを着てダンジョンに行こうかな」

 

 結局あのあと、セクシー路線の衣装は元の場所に置いてきて、柚花のおすすめしてくれた薄桃色のフード付きジャンパーを購入することにした。

 スカジャンよりも暖かい為、冬のこの時期に着るには丁度良さそうだ。

 

「先輩、前に言ってたじゃないですか。フードがないとヘノ先輩が隠れづらいって。これでいつでも隠れられますね」

 

「そうなんだよね。ヘノちゃんも喜んでくれるといいなあ。ところで柚花、飲み物はどうする?」

 

「じゃあ私は楊枝甘露のタピオカ入りで! 最近これ好きなんです」

 

 楊枝甘露とは、主に台湾あたりから広まった、いわゆるマンゴーメインのフルーツのスイーツである。店によってはごろっとしたフルーツが入っていたり、タピオカ入りのものも販売したりしていて、主に若い女性客をターゲットにした商品だ。

 本場ではストローで飲むのではなく杏仁豆腐のようにスプーンで掬って食べるものだったようだが、このお店では日本では定番になっているドリンクタイプのものに、上から更に生クリームやマンゴーピューレがかかっていて、まるでちょっとしたパフェである。

 つい先日、りりたんと電話で話し合ったばかりの飲み物を柚花が頼んでいるのは、桃子としてはなんだか妙な気持ちである。

 

「じゃあ、私はタピオカミルクティにしようかな。この前、知り合いの子とタピオカミルクティについて話してたら、そのあとずっとタピオカの話してたんだよね」

 

 そして桃子はタピオカミルクティだ。桃子が中学生くらいの頃にブームがきてから、廃ることなく定番商品のひとつとして生き残っている飲み物である。

 これまた先日、りりたんとの話題にあがっていたのだが、その時からなんとなく、あれ飲みたいなーという気持ちが続いていたのだ。

 りりたん曰く、タピオカミルクティは本場のミルクティに喧嘩を売っているらしいが、しかし思えば初めて会ったときにりりたんが飲んでいたのは市販品の午後に飲むタイプのパック紅茶である。本場への愛はどこへいったのか。

 

「先輩がタピオカの話で盛り上がる相手って……男の人じゃないですよね?」

 

「あはは、年下の女の子だよ。ところで柚花、テストは大丈夫だったの?」

 

「あー、まあ……前よりは下がったと思いますけどね、流石に。でも大丈夫ですよ」

 

 テスト。

 何を隠そう、現役女子高生である柚花の学校が半分で終わったというのは、今日がテスト最終日だったからである。

 桃子が心配しても仕方ないことだが、柚花はテスト前だというのに土日には塾に行くわけでもなく、ただただ各地のダンジョンを歩き回っていた。テスト勉強もなにもない。

 

 ただ、国の機関でもあるダンジョン庁の傘下、探索者ギルドからの正式な依頼なので、学校もそこら辺は理解を示してくれているらしい。点数は下がっても、内申点のようなものはきちっと評価してくれるという話だ。

 桃子も先輩として、ホッとする。

 

 そして、柚花があちこちのダンジョンを巡っていると言えば。

 

「この前の配信はびっくりしちゃったね。あれ、やっぱり萌々子ちゃんの声だったのかな」

 

 遠野ダンジョンからのマヨイガ配信の件だ。

 あの最後に聞こえた「またきてね」という声はニムではなく、そして当の柚花ですらそのときは気づきもしなかった謎の声らしい。

 柚花の動画はその部分の切り抜きがバズり、柚花は一部では「霊媒体質配信者」とか「オカルト系配信者」とかいう扱いになっている。

 妖精という魔法生物の加護を受けているのだから、ある意味ではオカルトなことには間違いないのだが、しかしその名前の売れ方は柚花としては不服そうだった。

 

「あの声の持ち主、私の【看破】でも何も見えてなかったですし、それこそニムさんも気づかなかったですからね。萌々子ちゃんて、そもそもまだ実体化してないんじゃないですかね」

 

「実体化って?」

 

「先輩の【創造】って、ええと……ウワバミ様ことクルラさんは、元からいた妖精の子が素体となって、そこに力をあげたパターンだったんですよね? それとは別に、座敷童子とかドワーフは、全くの無から都市伝説を作っちゃってるわけじゃないですか。だから、今はまだ生まれる途中の、存在がいるのかいないのか曖昧な段階なんじゃないですかね。まあ半分くらいはニムさんの考察ですけど」

 

「へえー、すごい。ニムちゃんはちゃんと賢いんだね」

 

「先輩の言い方じゃ、まるでヘノ先輩が賢くないみたいに聞こえちゃいますよ」

 

「そういうわけじゃないんだよ。ヘノちゃんは根は賢いけど、あまりものを考えてないところが可愛いんだよ。この前も一緒にお話ししてたらね、狸の掟で人間には話せないことでも妖精ならって――」

 

 桃子の言葉数が増えてきて、テンションが上がっていく。桃子は、カレーとヘノの話題になるとこうなる傾向がある。

 なお柚花は知らないが、工房で柚花の話をするときもこんな感じである。

 

「……まあ、ヘノ先輩についてはノーコメントで。それよりそうだ、結局そのお話しに出てきた狸さんのうどんはどうなったんですか?」

 

「ポンコちゃん? 今週は本を読んで、うどんの研究とか勉強を進めていくみたい。さすがに優勝は難しいかもしれないけど、週末のうどん大会には参加するってさ。柚花もカレーうどん食べたいの?」

 

「いえ、実はあのあと私も香川ダンジョンのことを少し調べて来たんですけど、それに関係していそうな興味深いお話があったんですよ」

 

 柚花が言葉を一度とめて、その間に店員が飲み物を運んでくる。生クリームとフルーツのトッピングが華やかで、人気が出るのもわかる。

 会話を一度休憩し、二人ともストローからタピオカの粒をいくつか吸い込んで、もぐもぐと味わう。やっぱり美味しい。カレーにどうにか組み合わせられないかと頭の隅で考える。

 

「ごっくん。えと、なんだっけ。この前話してた『消えた探索者』のお話?」

 

「はい。まあちょっとした怪談めいた話ですけど……およそ12年ほど前の話です。これはあくまで、どこかのダンジョンの話、として広まっているものなんですが」

 

 柚花の持ってきた話は、ちょっとした『怪談』として語られていた話だ。

 

 十年ちょっと前に、とあるダンジョンで探索者たちが突如として現れた特殊個体に襲われた。

 不幸にも上層に存在する大型魔物により救助隊が阻まれ遅れが出てしまい、数人の重傷者と、1名の死者が出てしまう。

 しかし、ギルドがその際に亡くなった女性探索者について調べると、ギルドの記録にそのような人物はいなかったのである。

 その探索者について、ギルドは今でもずっと、情報提供を呼びかけているらしい。

 

「怪談めいた話なので、色々と尾ひれがついた別パターンも広まってますけど、大本はいまの話の通りです。それで、どうやらこれは、香川ダンジョンで実際にあった話みたいですね」

 

 柚花の語り口調に、桃子はなんとなく背筋が冷える感じがした。

 店内が温かいとはいえ、アイスのタピオカミルクティではなく、もっと温かいものを頼めばよかったと少々後悔する。

 そんな桃子をよそに、柚花は話をつづけた。

 

「一応伝手で、香川ダンジョンギルドでの情報を探ってみたんですよ。そしたら、今でも『ユウナギさん』という本名不明の女性の情報を本当に募集しているようですよ、一応」

 

 記録にない女性の情報提供。

 それは客観的に見れば実に、奇妙なことである。

 

 しかし、ギルド上層部はとある可能性を視野に入れているのだろう。

 彼らは知っているはずなのだ。妖精や化け狸という魔法生物が本当に存在していて、彼らの力があれば、入り口の門を経由せずにどこかの遠い場所の誰かが別なダンジョンに現れることもあるのだ、と。

 だからこそ、ユウナギという探索者も、それに該当する可能性があるのだ。

 

 例えば、桃子がもし妖精の国を経由して入った他のダンジョンで、身元がわからない状態で死んでしまうことがあれば、ユウナギさんと同じく謎の女性探索者として情報を募ることになるのだろう。

 ギルド上層部は、その可能性を知っているのだから。

 

 しかし、ユウナギさんは桃子とは違う。

 だって、彼女の正体は……。

 

「そっか……あのね、柚花。聞いてくれる?」

 

 

 桃子は柚花に説明した。

 ポンコの母親が、人間と仲間だったこと。人間を牛鬼から守って亡くなったこと。

 それ以降、化け狸の里の掟として、人間との関りを一切禁止する方針になったこと。

 

「つまり、ポンコちゃんのお母さんが、ユウナギさん、なんですかね」

 

「うん。状況証拠的には、そういうことなんじゃないかな」

 

「その娘であるポンコちゃんが、週末のうどんの料理大会に参加するんでしたっけ?」

 

「そうなの。まあ実際には大会っていうか、希望者はだれでも参加できて、一般客の投票で順位が決まるって言う、和気藹々としたうどんフェスみたいだけどね」

 

 柚花は既に中身が半分になったグラスにストローを差し込んで、グルグルと中のタピオカを転がしながら、何かを考え込んでいる。

 和気藹々としたお祭りの話だけれど、先ほどのユウナギさんの話が尾を引いて、テーブルの上には陰鬱な空気が漂っていた。桃子も柚花が口を開くまで、無言で待っている。

 

「先輩、ちなみに伺いますけど、ポンコちゃんのお父さんていうのは今はどうしてるんでしょうか」

 

「お父さんか。実は会ってないんだよね。里を出て、今はどこで何をしてるのかわからないみたいで。心配だよね」

 

「あのですね先輩。ユウナギさんが亡くなった理由を考えたら……」

 

 柚花は、まだ先ほどの怪談口調から抜け出せていないのか、声を潜めて、ゆっくり間を取って。

 

「いえ、何でもないです。私の気のせい、考えすぎかもしれませんし」

 

「ええー?! 待って、何かあったの?」

 

「いえ、何か新しい怪談話を思い出しそうだったんですけど、なんか先輩が本気で怖がっちゃいそうだったので、やめておきますよ」

 

 くるくると、グラスに残ったタピオカを転がしながら、柚花は軽い調子で話を終了する。

 桃子は何か言いたげだけれど、柚花は桃子には何も言わないことを選択した。

 

 柚花は思う。人間を守る形で、夫と子を残してユウナギさんは死んだのだ。

 ならば、残された夫にはどれだけの人間に対する恨み、憎しみ、怨念が生まれたか。

 狸の里が人間との交流を絶った経緯は、ユウナギさんの悲劇を繰り返さないためだけだったのか。もしかしたら、抑えきれない憎悪から人間を切り離す必要があったのではないか。

 そんな悪意を抱えたヒトならざる者が、唯一の絆である娘すら残して失踪したならば、その行動の矛先はどこへ向かっているのか。

 

 柚花は思う。目の前の先輩は、善良すぎる。善良すぎて、他者を信じすぎて、人の心の機微に疎いところがある。

 一方で、自分はどうしても、ポンコの父親の負の感情ばかり想像してしまう。少なくとも、会ったこともない存在の善性になんて、全く期待を持てない。

 

 全てはあくまで自分の偏った想像。そして、そんな偏ったものを目の前の先輩に語ったところで、恐らく何一つ良い結果には繋がらない。

 なので、ここは一つ、自分が。

 目の前の先輩は分かっていないようだったけれど、今の自分たちの意見をギルドは無視できないのだ。ならば、存分にその権限を利用させて貰おう、先輩を守らせて貰おうと、柚花は心の中でほくそ笑む。

 先輩には、真っ白いままでいて貰おう。

 

「ね、先輩。フェスは土曜日の昼からなんですよね? 大丈夫です! 先輩は先輩のまま、あまり色々考えすぎずにポンコちゃんと楽しく過ごしてるのが一番うまくいくんですから! サポートは任せてくださいね」

 

「うーん、柚花が優しい言葉をかけてくれているようで、なんだか腑に落ちないんだけど。私って、そんなに色々と考え込むの向いてないように見えるの?」

 

 その通りである。目の前の先輩は、恨みとか憎しみとか、そういうのとは逆ベクトルの人なのだ。だから、先輩がやるべきことは化け狸の恨みについて頭を悩ませることではなく、ポンコを笑顔にすることなのだ、と。

 

「でも、サポートって言っても、柚花だって忙しいでしょ? あそこはティタニア様の庇護下でもないし……」

 

「もう……ほーら先輩、私は私で考えがありますから大丈夫ですって。と・こ・ろ・で、今日は先輩の奢りなんですよね? こっちの特大パフェ頼んじゃっていいですか?」

 

 柚花は、その喫茶店のある意味名物メニューとされている、特大パフェのページを開いて桃子に見せる。沢山の果物。たっぷりのクリームとアイス。チョコレートにクッキー。それに更にクリーム。

 ひとりで食べたらお腹はパンパン、胃はもたれ、次の日の体重計が怖くなること必至のスイーツだ。体重に関してはなんだかんだで探索者は滅茶苦茶運動しているので少しくらいは大丈夫かもしれないが、しかしボリュームが物凄いことには変わりない。

 

「え、ええ?! ……柚花、そんなの入るの?」

 

「何言ってるんですか、二人でシェアして頂きましょう♪ じゃあ追加で暖かい紅茶でも頼んじゃいましょうか? ごちになりまっす♪」

 

 柚花はそうして桃子の返答も待たずに、店員の呼び出しボタンを押す。

 本当に注文する気のようで、桃子は唖然とするけれど、しかし同時に笑顔が戻ってくる。

 

「あはは、まあ、いっか。わかった、紅茶は二人分ね。一緒に食べよ」

 

「前から先輩とパフェ食べたかったんですよ。房総ダンジョンも、ピザだけじゃなくてパフェの販売店とかありませんかね」

 

「柚花ったら、なかなか思考が妖精色に染まってきたよねー」

 

「え、先輩がそれ言います?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 どうやら、互いに何かしらの認識の違いがあるようで、桃子が首を傾げると柚花もまた首を傾げる。

 変な空気になってしまったが、すぐに店員がきてそんな空気も流れていってしまった。

 

 このあと滅茶苦茶パフェを食べた。

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