ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
『皆さま、長らくお待たせいたしました! ただいまより、第20回、香川ダンジョンうどん大会フェス祭り、開会式を開催いたします!!』
「この大会、随分くどい名称だったんだねえ」
桃子たちがテントの奥でカレーうどんの準備を進めていると、どうやら気づけば時刻も昼をまわっていたらしい。
櫓舞台の上から、司会者と思わしき男性の声が響く。司会者の男性が持っている拡声器は、魔石動力なのだろうか。この広い闘技場内にも、しっかりとその声は響き渡っている。
そしてその拡声器から聞こえたのは『香川ダンジョンうどん大会フェス祭り』という珍妙な、うどん大会の正式名称である。
「このチラシによるとっすね。大会って呼ぶ人と、フェスって呼ぶ人と、祭りって呼ぶ人が同じくらいいたので、名前をまとめちゃったらしいっすよ」
「ふぅん、雑じゃん」
テント内に最初から置いてあったチラシをポンコが手に持って説明してくれた。
どうやらこのうどん大会の実行委員は『香川ダンジョンうどんギルド』なる組織らしく、ダンジョンのギルドとは似て非なるものらしい。
さすがにうどんギルドとやらがダンジョン庁の傘下組織ということはないだろう。ならばいったい出資元はどこなのだろうか。やはり、ギルドを名乗ってはいるけれど、有志による団体なのだろうか。
うどんの世界には、まだまだ謎が多い。
「桃子。桃子。変な奴が。壇上に上がってきたぞ。なんだあれ」
桃子がチラシを覗いてうどんギルドについて考えていると、櫓舞台の上には司会者の横で、真っ赤な衣装の人物が仁王立ちしていた。
真っ赤な衣装に見えるそれは、もしかしたら調理服なのだろうか。赤の調理服がないとは言わないが、しかし全身が炎のように赤く染まっているその人物は、ダンジョン内では実に目を引く姿だった。
衣装同様にやや赤みがかった髪の毛がツンツンと逆立っており、いかにも『炎』のイメージの男性だ。
『では、前回優勝者の炎城寺マグマさんから、一言挨拶をお願いします』
『では、一言ぉ! うどんは!! 笑顔だぁぁぁ!! 今日も魂が燃えるぜぇぇ!!』
「うわあ……な、なんかすごい、濃ゆい人だね」
見た目だけでも『炎』のようなイメージだったが、一言の挨拶だけでもイメージの上限が突破してしまった。
挨拶がまず暑い。いや、熱い。
そして更には、名前がマグマさん。もはやギャグみたいだ。ポンコが『ももポン』などという名前で受付を認められているので、もしかしたらうどん店主というのは皆して偽名を名乗っているのかもしれないなと、桃子は訝しんだ。
「ええと、あれは前回優勝者の炎城寺マグマさんっすね。チラシによると、香川ダンジョンのうどん四天王筆頭、炎のうどん店主らしいっすよ」
「うどん四天王とかあるんだ……」
「なんか。うどんのなかに。武器とか入れそうなやつだな」
ポンコの解説に、桃子とヘノがそれぞれの感想を呟く。
うどんギルド主催のうどん大会フェス祭りに、コテコテの四天王。炎属性。なんだか雲行きが怪しくなってきた。
桃子も、ヘノの言うように妖精の国の武器マニアの妖精の子を連想したが、しかしあちらはなんだかんだ言っても小さくて可愛い女の子なのだ。見た目30近くの筋肉質の男性だと、やはりちょっと、熱さの圧が違う。
そして、ポンコは続けて、うどん四天王の解説文を読み進めていく。
「ええとっすね。うどん四天王は、四つの属性を司っているらしいっすよ?」
「待って、なんの話してるの? 属性?」
炎城寺マグマ。
熱い心でうどんを愛する、炎のうどん店主。彼の激辛うどんを食べれば誰もが汗だく必至。強靭なコシの麺と、その辛さで食べた者の血流を最高まで引き上げてくれるスープが互いを高め合っている。激辛うどんの達人。
フリーレン氷河。
氷の貴公子。氷のうどん店主。北欧の血を引いており、氷属性の魔法を扱う、冷製うどんの達人で、爽やかな冷たい心地よさが火照った身体をクールダウンしてくれる。柑橘系の風味がよく似合う、冷やしうどんの達人。
風祭えあろ。
四天王紅一点の、風のうどん店主。風属性の魔法を使い、自家製の乾麺と、そして干し鮑や干し昆布など、自家製の乾物を使い深い味わいを作り出す。乾燥うどんの達人。しかし肌は潤っている。双子の弟の名前はスミス。
田中二郎。
地道さが売りの、地のうどん店主。目新しい手法などは使わず、オーソドックスな地道で丁寧な仕事が売り。また、一部では美少女絵描きとしても有名で、定期的にイベント参加している。
「なんか属性付けが強引というかなんというか。あと後半は情報おかしくない?」
桃子はチラシにツッコんだ。激辛うどんの炎と冷製うどんの氷はわかる。
風の魔法を使った乾麺の使い手も、少々無理やりではあるが風のうどんと言えるかもしれない。
しかし最後。地道だから地属性というは、流石にあんまりである。雑すぎる。
名前が怪しいとか、双子の弟とか、美少女絵描きという情報は、もはやこの際とりあえず置いておくとして。
「ヘノは。風のうどんというのが。気になるぞ」
「ポンもこの人たちのおうどんは気になるっすけど、残念ながら今日は食べる余裕はなさそうっすね」
確かに、今日は来客としてやって来たわけではなく、参加者としてやって来たのだ。四天王にツッコミをいれている場合ではなかった。
今も拡声器で語り続けている開催の挨拶が終われば、うどん目当ての客が会場へと入ってくる手はずなのだ。いくらポンコのテントが端っこだとは言え、今日がうどん大会フェス祭りである以上、それなりの客がカレーうどんを食べに来ることだろう。
つまりは、今からしばらく、ポンコたちがうどんをゆっくり味わう暇などというものは存在しないのだ。
「よっし、気を引き締めよう! ポンコちゃんのカレーうどん、沢山食べてもらって、沢山投票してもらおうね!」
「じゃあ。ヘノは奥で。応援してるぞ。何かあったら。呼んでくれれば。応援するからな」
「頼もしいっすね! がんばるっすよー!」
「えいえいおー!」
桃子の小さい手と、ももぽんの同じサイズの手を重ねて、その上にヘノが乗っかって。
そして三人の少女たちの掛け声と同時に、外ではうどん大会フェス祭りの開始アナウンスが響き渡った。
「おっ、この前のカレーうどんじゃんか! こんな小さい子が作ってたとはな!」
「ふむ。付け合わせに焼いたきのこですか。なるほど、カレーに入れてしまっては風味が負けてしまいますが、焼いて香ばしくなったきのこを別ものとして添えることにより、風味のコラボレーションシステムが完成していますね。以前食べた時はフードで顔が見えなかったのですが、まさかの幼子の手料理でしたか。これはなかなか、将来性も期待できそうです」
「以前のワイルドさも良かったが、今回は丁寧に魚を下処理したようだな。なるほど、この方が多くのものたちが安心して食べられる、というわけ、か。悪くない、悪くないぞ」
「……へえ、やるじゃん。ももポンか、おもしれぇ女」
「キャー! ももポンちゃん可愛い、ハグしていいですか?」
「ほう、これがポン……ももポンのうどん、のう。一つ、食べてみようじゃないか」
「ち、小さい女の子の手作りうどん……も、もう、これ優勝じゃん?」
それからは、想像の数倍は忙しかった。
フェスというだけあって、人気店だけではなく、胃袋の許す限り全ての店を味わうという客層が非常に多い。そして当然ながらそれは無名のカレーうどん店も対象である。
この参加店舗で、カレーうどんという選択をとったのがももポン店だけというのも追い風となり、他のうどんの合間に食べる味変の箸休めとして、ももポンのうどんを食べる来客が少なくない。
仕切りカーテンの奥では、桃子がひたすらにカレーつゆを作り、そしてひたすらにうどんを茹でていた。客足が途切れる様子はない。
このイベントでは使い捨てタイプの容器と割りばしがうどんギルド側から支給されているため、皿洗いなどの手間が無くて済むのが救いである。この上皿洗いまでしていたら、人手が足りなくてカレーうどん店はパンクしていたことだろう。
なお、ポンコのうどんなのだから本来はポンコが調理場に立つべきだったかもしれないが、【隠遁】で桃子が客の対応をできない以上、ポンコが表にたち、桃子が調理場という配置になったのは必然である。
桃子がひたすら鍋とにらめっこをしている間も、カーテンの向こうからは多くの個性豊かな客の声が聞こえてくる。中には聞いたことのあるような声もいくつかあったようだが、それを確認するどころではなかった。
ポンコはポンコで、最初のうちは大勢訪れる人間相手にぎくしゃくしていたが、そのうち緊張している余裕もなくなってきて、とにかく元気に挨拶を繰り返していた。
ポンコの見た目は今はももポン――狸耳のついた桃子なので、来る客のことごとくが小さな女の子扱いしてきて困ってしまった。
とはいえポンコ自身もまだ子供であるのは事実だし、姿を借りている師匠がポンコに輪をかけて子供な外見である。「身体は子供、中身も子供」なので、子供扱いされるのはもはや必然である。
ヘノだけはやることがないので、奥でズルズルとカレーうどんを食べたり、途中でこっそり抜け出して、上空から他所のうどん店の様子を覗き見したりしていた。
中でも、風の四天王の得意とする、風魔法で乾物を作るという調理方法には興味を惹かれたらしく、テントに戻ってきたヘノが見よう見まねで付け合わせのキノコを全て乾物にしてしまったりという一幕はあったが、しかしパリパリになった焼きキノコが思いのほか美味しかったので、途中からはそれを追加のトッピングとすることにした。
もしかしたら、ヘノならば風のうどん店の名を受け継ぐことが出来るかもしれない。
そして。
『香川ダンジョンうどん大会フェス祭り、終了でぇええっす!! ご来客の皆さまは、投票をお願いいたしまーす!!』
「ふぅ……やりきったっす、ポン、がんばったよ」
最後の客がテントから出るのを見送って、ポンコが大きく息を吐く。
すでに大会フェス祭りが終了した以上は新しい客が入ってくることはないだろうが、しかし間違えて入ってきた客に狸耳を見られでもしたら大問題なので、テントの外には『営業終了』の札をかけておく。
「お疲れさまー、今日はたくさん食べて貰えたじゃん。すごいよ、この前の比じゃないよ?!」
「師匠にも、調理をずっと任せちゃって申し訳ないっす。ポンは、ポンは、ひとりでやるつもりだったけど、師匠がいなければここまで出来なかったっす……」
ポンコは以前にもまして満身創痍といった様子で、テントの奥へと戻ってくると、その場でへたり込む。
慌てて桃子がコップに水を入れて差し出すと、コップに舌を入れてぺろぺろと水を飲みだした。疲れすぎてて、人の姿での水の飲み方もどうやら忘れてしまっているようだ。
「おい。たぬき。お前。くたくただな。少し横になって休んだ方がよくないか」
「そっすね。集計結果が出るまで、ポンはちょっと眠るっすよ……」
ボフンという煙と共にポンコは変化を解いて、そこには床に落ちたフード付き外套と、その中でぐったりと横になる子狸の姿だけが残る。
ぐったりとしている姿に桃子は最初は心配したが、しかし狸が鼻からイビキ音をたてて眠りだしたので、寝ているだけだと安心し、そっとしておくことにした。
「うん、お疲れさま。ポンコちゃん」
そっとポンコのお腹に顔をうずめて、たぬ吸いをする。
ぐっすりと眠る子狸には、ケモノの匂いと、うっすらカレーの匂いがこびりついていた。