ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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父の想い

「残念だったね、ポンコちゃん……」

 

 時は過ぎ、うどん大会フェス祭りの投票結果が発表された。

 

 優勝者は、前回と同様に炎の激辛うどん店主である炎城寺マグマ。そして彼だけではなく、前評判通りに四天王の牙城は揺るがずに、上位入賞したのはやはり四天王と呼ばれる四人だった。

 桃子は結局ポンコのカレーうどんしか食べていないのだが、どうやら来場客の会話を聞く限りでは、彼らが入賞したのは知名度などによるものではなく、本当に、美味しさが頭一つ、飛びぬけていたらしい。

 ダンジョンの外ならば当然ながら様々な美味しいうどん店があるのだけれど、ことダンジョンの中で食べるならば、彼らのうどんは頭一つ抜きんでているという。偵察してきたヘノが言うには、練り込まれた魔力の質が違ったそうだ。

 うどんに魔力を練り込むというのが桃子にはいまひとつピンとこなかったが、しかし現にそれが味に繋がっているのだろう。

 

「ううう……ぐす……わかってたの、ポンが少し頑張った程度じゃ……四天王には敵わないって……でも……でも……」

 

「たぬき。お前。優勝賞品の。瘴気をどうにかする道具で。長の病気を。治したかったんだろ? それなら――」

 

 

「失礼するよ、ポンコ」

 

 

 もうすぐ、表彰台に四天王の四人が上がり、うどんギルドの代表者から賞品の授与が行われる。それが、ポンコが喉から手が出るほどに欲しがっていた、瘴気を浄化できる魔法道具なのだろう。

 しかし、ポンコは知らないかもしれないが、長の肺の病気に関しては実は既に解決の目途がついているのだ。

 ヘノがそれをポンコに説明しようとしたが、だがそれは、思いがけない来客に阻まれる。

 

「ポンコ、見ていたよ。頑張ったんだね、流石は私の子だね」

 

 テントの入り口には『営業終了』の札が立っているはずだが、それも気にせずにテントへとやって来たのは、桃子の知らない一人の男性だった。

 探索者というには線が細く、優し気な目の男性だった。

 ダンジョンの中ではあまり見かけない着流しの衣装に、少々アンティーク風味の漂う丸眼鏡。少し長めの髪を後ろで無造作に一つに縛っていて、優し気に、そして儚げに微笑んでいる。探索者にしては細身で、まるで明治時代の小説に出てくる優男の書生の姿だ。

 

「父ちゃん……!」

 

「え、ポンコちゃんのお父さん……?」

 

 その姿を見るや否や、半獣姿のポンコが跳ね起きて、飛び上がるようにその男性へと抱き着いた。

 男性は優しくポンコを抱擁し、その背を、その頭をゆっくりと頭を撫でている。

 ポンコを見る眼差しは優しく、桃子の目で見ても、化け狸の長と喧嘩別れをしたという熾烈なエピソードとはなかなか結び付かなかった。

 

「きみは、ポンコがお世話になっている人間の子だね。初めまして、私は――」

 

「お前。なんなんだ。それ以上。桃子に近づくな」

 

「へ、ヘノちゃん……?」

 

 ポンコの父親が、挨拶と共に桃子にその手を差し出そうとするが、しかしそこに待ったをかける存在がいた。桃子を守る風の妖精、ヘノである。

 精霊樹で作られた神槍ツヨマージを構えて、臨戦態勢でポンコの父親に対峙する。その殺気立つヘノの様子には、桃子も驚いた。

 そして攻撃体勢に入りそうなヘノの様子をみたポンコが、慌てて両者の間に割って入り、ヘノを説得しだした。

 

「へ、ヘノさん、待ってください! 父ちゃんは悪人じゃないっす! 桃子さんに変なことしないっすから!」

 

「いいんだ、ポンコ。私が人間の桃子さんに何もしないだなんて言われても、彼女も信じられないだろうからね。それは仕方がないさ」

 

「父ちゃん……あ、そうだ! ポン、おうどん作ったっすよ! 食べてって欲しいっす!」

 

 ヘノに訴えるポンコの肩に手を置いて、丸眼鏡のポンコの父親が寂しそうに首を振る。

 桃子の目から見ても、優し気な父親だが、しかしヘノは警戒を解く気配はない。桃子はその両者にオロオロとするが、しかしヘノが何の理由もなくここまで殺気立つとも思えなかったため、今はヘノの背後に控えて様子見をしている。

 

「ごめんよ、ポンコ、実は今は時間がないんだ。ここでは話せない話があってね。こっちへ。桃子さんも、妖精のあなたも、出来れば来て欲しい」

 

「父ちゃん……わかったっす、行くっす! 師匠は……」

 

 ヘノは相変わらず警戒心をむき出しにしてはいるが、しかしポンコの顔を立ててか、先ほどのようにいきなりツヨマージを向けることはないようだ。

 そして話は見えてこないものの、ポンコの父親は、ポンコと桃子、そしてヘノに話があると言い、テントの裏にある石壁迷宮への入り口から、その奥へと皆を誘っている。

 

「ヘノちゃん、いい?」

 

「仕方ないな。ヘノももちろん。ついていくからな。桃子はヘノが守るから。安心しろ」

 

 ヘノが桃子を守るように桃子の前を飛び、ポンコの父親が先導する石壁迷宮の通路へと入っていく。

 桃子もヘノに続き、最後尾に並ぶ形で迷宮へと入っていった。

 

 

 

 

 カツン、カツン、と足音が響く。

 

 迷宮の通路は静かだ。それなりに歩いたが、動く鎧もゴーレムも現れない。

 

「父ちゃん、どこまで行くっすか? うどん大会の表彰式はじまっちゃうっすよ? ポンは落選しちゃったけど」

 

 その静かな石畳の通路には、ヘノを除く三名の足音と、そしてポンコの元気な声が響き渡っていた。残念ながらポンコは入賞できなかったし、その結果を受けて先ほどまでテントで泣きじゃくっていたのだが、それはそれとしてイベントごとは最後まで見ておきたいタイプであった。

 なので、うどん四天王への表彰もしっかりと見ていくつもりだったのだが、どうやらポンコの父親的には授賞式については気にしていないのか、どんどん奥まで歩いていく。

 

「ああ、優勝賞品か。父さんも気になって調べてみたよ。どうやらあれは、瘴気を打ち消す珍しい薬草を魔力で固めた薬のようなものらしいね。親父殿の肺も、あれなら治せるかもしれない」

 

「違うっすよ父ちゃん! わかってるくせに、とぼけないで欲しいっす!」

 

 ポンコが激昂する。

 桃子には分からないが、何か二人の会話には大きな食い違いがあるようだ。

 そして、ポンコの父親はそのポンコを振り返り、足を止めた。足をとめて、ポンコをぎゅっと、強く、抱きしめる。

 

「ポンコ。ごめんよ。父さんはもう、時間がないみたいなんだ。桃子さん、すまないが……ポンコのことをよろしくお願いします」

 

「え、あ……はい、もちろん」

 

 そして唐突に名前を挙げられ、桃子も面食らいつつも、反射的に返事をしてしまう。

 ポンコのことを頼まれても、もちろん見捨てるようなことはしないが、しかしポンコの父親の様子はおかしい。

 まるで、そう。ポンコの父親の言葉では、ポンコを置いてどこかに行ってしまうようではないか。桃子が疑念を持ってポンコの父親を見ると、その瞳にどうしようもなく、光をうつさない闇が宿っているような錯覚を見た。

 

「父ちゃん、時間がないってどういうことっすか?!」

 

「ポンコ。父さんは、これから悪いことをするんだ。父さんね、あいつらをどうしても、どうしても、どうしても、どうしても……許せなかったんだよ。許したかったけど、無理だったんだ」

 

 ポンコの父親は、抱きしめていた娘の身体をゆっくりと離して。

 そして、ポンコにもう一度微笑みかけた。

 

「父ちゃん……?」

 

「うどんを振る舞ってるポンコが、母さんにね、夕凪に、そっくりだったんだよ。それを見たら、父さんはもう……心が耐えられなくてね、駄目だなあ、負けてしまったんだ。ごめんなあ、ポンコ。愛してるよ、ずっと元気でいてくれ」

 

「父ちゃ……?!」

 

「桃子! ポンコ! 下がれ!」

 

 そして異変は唐突だった。ポンコの父親と桃子たちの間に突如として石壁が、いや……その胸に緑色の葉をつけた岩のゴーレムが地中から出現し、行く手を阻む。

 

「キャッ?! ゴーレムが……!!」

 

「父ちゃん! 父ちゃん! なんすかこれ! なんで……父ちゃん!」

 

 ゴーレムは目の前のポンコに襲い掛かるでもなく、2体、3体と数を増やし、そして通路一杯にぎゅうぎゅうに詰まって、そのまま分厚い石壁となり沈黙してしまう。

 桃子が慌てて来た道を振り返ると、やはり後方の先の方ではゴーレムたちが出現し、そのまま石壁となっていく。

 

 前後ともが石壁に遮られて、桃子たちは通路に閉じ込められてしまった。

 ポンコの叫び声も分厚い石壁の向こうにいる父親には届かず、狭い空間に反響するだけだ。

 

「後ろも?! どうしよう、閉じ込められちゃった!」

 

「ポンコ! お前。どういうことだ。白状してもらうぞ。あれ。知らなかったわけないだろ。なんで黙っていた」

 

 ヘノが、ポンコに対して珍しく感情的に怒りを向ける。

 桃子には分からないが、ヘノは先ほどからポンコの父親に対して、これ以上ないくらいの敵対心を向けていた。どうやら、目に見えない重大な何かが、そこにはあったらしい。

 

「キューン……違うっす、違うっす……父ちゃんは、本当に優しくて、あんな風になっても……違うの……」

 

「ヘノちゃん、どういうこと? あんな風って、なにがあったの?」

 

 その場に崩れ落ちるポンコから離れて、ヘノは桃子の肩に着地し、ツヨマージを消す。どうやら、ポンコを問い詰めても仕方ないと判断したようだ。

 そして、いつものように無表情で、淡々と、事実だけを語っていく。

 

「桃子。さっきのあいつは。もう。瘴気に侵されて。瘴気に負けてたんだ。さっきまでいたのは。瘴気で動く。喋る魔物だ」

 

「え……」

 

「違うよ……父ちゃんは、魔物なんかじゃ……ポン、助けたくて……瘴気を消せば……きっと……ぐすっ……」

 

 魔物。

 ヘノの目に映っていたのは、ポンコの父親を騙る……いや、ポンコの父親だっただけの、魔物だった。瘴気で動くあれはもう、人間を襲う存在だ。

 だからこそヘノは、あの存在が桃子に近づくのを許さなかったのだ。

 

 しかし、だとすれば。ポンコがずっと助けたかったのは、どうにかして瘴気を消し去りたかった相手は、いまの――父親だったということだろう。

 魔物になっていく父親を助けるために、うどん大会の優勝賞品という希望に縋ったのだろう。

 

「うぅ……泣かないでください。ヘノも怒ってないで、今は一緒にここを出ましょうよぉ……」

 

 そんな泣きじゃくるポンコに、同じくめそめそ顔のニムが寄り添い、その小さな手でポンコの頭を撫でる。

 薄暗い通路を、ヘノの緑色の光と、ニムの薄青色の光が照らす。

 

「……そうだな。たぬき。さっきは怒って。すまなかった。ニムの言う通りだ。さっさと壁でも壊して。向こうに出るぞ」

 

「そうだね、ポンコちゃん。お父さんが何をするのかわからないけど、止めないと駄目だよ。行こう、ヘノちゃん、ニムちゃん」

 

 そうだ。

 ポンコの父親の話も桃子にとっては寝耳に水で、まだ感情の処理が追いついてはいない。

 でも、今やることは一つだけ。この通路を脱出して、何か致命的なことをしようとしているポンコの父親を、止めなければならない。

 桃子はポンコを見て。そしてヘノを、ニムを見て……。

 

「……え?! 待って、ニムちゃん?! いつからいたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【一方その頃】

 

 

「狸のお爺ちゃん。その薬草の煙草ってすごい匂いですけど、美味しいんですか?」

 

「煙が臭くて、とてもじゃないが好んで吸い続けるものではないのう。効果は良いんじゃが、これを作った妖精の子とやらには、改良をしてもらわにゃならんなあ」

 

「じゃあ、今度伝えておきますね。あ、お爺ちゃん、表彰式始まりますよ。見えますか? あれ」

 

「ああ、うまく司会者に化けてはいるが、ありゃあうちのバカ息子じゃな。全く、あんな姿になりおって」

 

「私は正直、息子さんのことは知りませんから、あの瘴気についてはわからないんですけど……どうするんです?」

 

「あれは、わしらがけじめをつけるさ。わしがもっと早く、ああなる前に対処すべきだったんじゃ」

 

「……じゃあ、先ほどのお話通りでいいですね? 化け狸さんたちの天敵でもあるクロムシは、人間の探索者たちが対処します」

 

「ああ。鎧や石像は、わしらの術で対処する。それで構わんが、嬢ちゃんはいいのかい? あの小さい娘っ子のことが心配なんじゃろう?」

 

「大丈夫ですよ。今はニムさんもあちらについてますし。それに、私の先輩は滅茶苦茶強いですからね」

 

「そうかい、それなら……一緒にいるポンコも安全じゃな」

 

「お爺ちゃん、孫可愛さで、孫が人間に近づけない様に変身の妨害術をかけるとか、愛情表現がねじれすぎてるんですよ。あとで謝ったほうがいいですよ?」

 

「……そうじゃな、考えておこうかの」

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