ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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座敷童子の萌々子ちゃん

「桃ちゃん、今日はお疲れですねー。昨日もダンジョンに潜ってたんですかー?」

 

「あはは、おはようございます、和歌さん。ちょっとダンジョンで普段行かないところとか歩きまわって、結構ヘトヘトになっちゃって」

 

「気を付けなきゃダメですよー? ちっちゃいんだから、あまり無理しないでくださいねー?」

 

 

 桃子がヘノに連れられ、サカモトを遠野ダンジョンまで送り届け、その後妖精の国で妖精たちにカレーを振る舞ってから、一日が経った。

 

 桃子は子供扱いされがちだが、18歳の成人であり。一応はこれでも社会人である。

 探索者としても収入は得ているが、さすがに四六時中誰とも会話せずに年中過ごすのは嫌だったので、探索は副業と割り切って千葉にある小さなダンジョン用アイテムの制作工房にて、今年の春から働いている。

 女学校を卒業して一人暮らしをはじめてからは、もっぱら休みの日にダンジョンに潜り、平日は工房にてアイテム加工のお仕事をする、という生活だ。

 

 桃子は子供のころから、工作などが好きな少女だった。

 ダンジョンで武器にしているハンマーも、さすがに工作に使うサイズ感ではないものの、なんとなく物造りの職人ぽくて好きだった。

 

 そんな桃子が選んだ職場は、見た目はこじんまりとした佇まいだが、それでもダンジョン庁に認可された正式な工房のひとつであり、主に関東圏内のダンジョン用のアイテムや武具の調整、加工を請け負っている。

 

 女学校を卒業したばかりの一人娘が、大学にも行かずに工房で働くというのは当然両親は反対をした。

 だが、ここがダンジョン庁に認可されているしっかりとした工房であること。そして、桃子のスキルや探索者としての経験・知識が必須な職場であり、これは誰もが出来るわけではない特別な仕事であるという説得のもと、両親も渋々納得する。

 なお、就職そのものよりも、そのための一人暮らしの説得のほうが大変だった。

 

 そんなわけで社会人とはなったのだが、とはいえ新米の桃子に任されるのはまだまだ簡単な作業ばかりである。

 探索者の武器や防具のメンテナンス作業、魔石のはめ込み作業など、専門の技術をさほど必要としない、まだまだシンプルなものを主に担当していた。

 

 実際にアイテムを0から制作できるのは、もっと経験を積んだ職人の仕事だ。

 

 

 さて。そんな職場にて。

 

 

 

 朝から工具ハンマーを片手に、作業台に並ぶ武具の数々を前にした桃子の横で、デスクに座りパソコンモニタで設計図とにらめっこしているのは、同僚のお姉さん、和歌。

 年齢不詳だが、いつも目を細めて笑っているようなほんわかお姉さんで、新人である桃子にとっては年上の姉のような存在だ。主に、アイテムの設計に関わる部分を担当している。

 

 そんな彼女がキーボードを入力する手をとめて、桃子に話しかける。

 

「桃ちゃん、先日は人助けで大活躍でしたからねー。でも、こんなに可愛いのにドワーフだなんてひどいですよねー」

 

「どっ」

 

 いきなりのドワーフ爆撃。

 桃子は手元が狂って、工具ハンマーで自分の指を叩きそうになった。

 

「どうして和歌さんが知ってるんですか?! それ、その……ドワーフとか、なんとか」

 

「どうしてと言われても……。だって、房総ダンジョンでー、子供みたいにちっちゃくてー、武器が大きなハンマーでー、誰も姿を見たことがなくて正体不明っていうのも、桃ちゃんの【隠遁】そのまんまじゃないですかー」

 

「や、それもそうか……」

 

 桃子のスキルのことは、知っている人は知っている。

 最初に【隠遁】の被害にあった友人たちは当然として、桃子が主にスキル鑑定をしてもらっている房総ダンジョンのギルド員、そしてこの職場も所持スキルが関わってくるため、固有スキルまで含めて初めから申告済だ。

 

 それに加えて、桃子のなりを知っていれば、確かに簡単に結びつくのだろう。

 

「大丈夫ですよー、誰もわざわざ桃ちゃんのことを言いふらしたりしませんから、ねえ所長ー?」

 

 向こうで会話を聞いていた白髪まじりの所長が笑顔で頷く。

 どうやら、みんな普通に気が付いていたらしい。桃子は急激に恥ずかしくなり、耳まで赤くなった。

 

「この数日で、尾ひれがついて大変なことになってますけどねー。『定期的にゴブリンを絶滅させる』とか、『妖精を捕まえてペットにしている』とか、『定期的に巨大なハンバーグを焼いてる姿の目撃談』なんて眉唾情報もありますねー」

 

「そ、そうですね」

 

 なんだそりゃ? とか内心思いつつも、ヘノのことが誤魔化せるならこれ幸いと、桃子は素直に頷いてみせる。

 

 そして、和歌は思い出したかのようにポンと手を叩いて付け加えた。

 

「あ、あとは例の動画も見ましたよー? 何とかっていう三人組が崩落に巻き込まれたときの……揺れる三つ編みが、おひげみたいで……っぷ……」

 

「わー! 和歌さん、いま笑いましたね?! 笑いましたね?!」

 

「笑ってませんよー、笑ってませんよー? ほら、怒らない怒らない。可愛い可愛い桃ちゃん」

 

 耳を真っ赤にし、頬を膨らませてむくれる桃子。実は、三つ編みがヒゲに見える案件は、結構気にしていた。

 いっそこのままハサミで髪を切ってしまおうかと立ち上がるが、さすがに慌てた和歌に止められる。

 

「ほら、頬っぺた膨らませないでくださいよー。桃ちゃんの三つ編み、とってもキュートなんですからねー?」

 

「うぷわわわわ」

 

 頬をつつかれ、頭をもみくちゃにされる勢いで撫でまわされ、桃子がなにがなんだかわからなくなってきた頃にようやく和歌は手を引いた。

 ひどい目にあった、とぼやきながら桃子が前髪を整えていると、何かまた新しくウェブサイトのページを開いて、和歌が問いかけてくる。

 

 

「ところでなんですけどー。桃ちゃん、昨日は岩手まで行ったりは……さすがに、してませんよねー?」

 

 

「岩手?」

 

 桃子は首をかしげる。岩手県はわかる。東北のどこかだ。

 しかし、岩手まで行った覚えもなければ、そもそも東北地方自体、家族旅行でしか行ったことがない。

 

「昨日も房総ダンジョンに行ってましたけど、岩手ってどこら辺でしたっけ? 東北ですよね?」

 

「桃ちゃん……地理のお勉強しましょうねー」

 

 和歌にため息をつかれてしまったが、日本地図がパッと出てこないものは仕方がない。

 結局何のことなのかと興味を持ち、和歌のPCのモニタを覗き込むと、ブラウザに表示されているのはどこかの掲示板のまとめサイトのようだった。

 そしてそこには、かわいらしい女の子のイラストがいくつも並んでいる。

 

 絵には『萌々子ちゃん』と書かれているが、何かのキャラクターだろうか。

 

「桃ちゃん、ダンジョン関係のニュースも見ないとダメですよー? 大ニュースだったんですから。昨日、あの深援隊の行方不明だった方が生還なさったんですよー」

 

「あー、あー……はい、それは、もちろん、記事、見ましたよ、はい。大ニュースですもん。よかったですよね」

 

 嘘である。行方不明者が生還したことは恐らく世界中の誰よりもよく知っているが、そこまで大変な記事になっているとは思っていなかった。

 

「その遠野ダンジョンが、昨日から話題になってるんですよー」

 

 しかし、ここでなんとなく察しがついた。

 桃子は遠野ダンジョンという名称は知っていたものの、遠野がどこの地域なのかよくわかっていなかった。それが、おそらく岩手県にあるのだろう。

 つまり、自分は昨日、岩手県に行っていた。間違いなく。

 

 桃子は今、目がとても泳いでいる。

 

「そのときに話題になったのが、そのメンバーを助けたっていう座敷童子で、桃ちゃんと同じく『ももこちゃん』って言うんですよー」

 

「ん……? ざしきわらし……」

 

「それがなんだかブームになっちゃって、昨夜はSNSで色々な絵描きさんが、想像上のももこちゃんを描く祭り状態になってたんですよー」

 

「は……? 想像上のももこちゃん……ですか? なんで?」

 

 桃子は、頭が真っ白になった。

 言うまでもなく、サカモトを助けた桃子は自分のことなのだが、なんでそれが座敷童子ということになって、祭りになっているのだろう。あの後、サカモトはどんな説明をしたというのか。

 ついでに言うと、萌々子という表記になっているのもさっぱりわからなかった。

 

「え、と。不思議なことってあるんですねえ」

 

 ふしぎー、と連呼して誤魔化すのが、萌々子……もとい、桃子の精一杯だった。

 

 

 

 

 少し、時を遡ると。

 

 

 昨晩はカレーでお腹も膨れたため、女王ティタニアが用意してくれていた個室のふわふわベッドで、ヘノとともに一夜を共にした。

 ヘノは桃子に抱きしめられて潰れるかと思ったらしいが、桃子は朝日が昇る時間まで、実に快眠だった。

 なお、妖精の国も地上、日本と同じ時間帯で空の昼夜が変わる。日本のどこかにあるわけではないだろうが、わかりやすくて桃子は助かった。

 

 その後、今日が平日で、当然ながら仕事があることを思い出して、挨拶もそこそこに大慌てでダンジョンを駆け上がった。

 おかげで朝からヘトヘトで、外に出る頃には朝日の下で汗だくだ。

 

 ヘノとともにダンジョン一層まで上がってきたのはいいものの、ヘノはヘノで何かやりたいことがあるらしく、桃子をダンジョン出口まで見送ったら、また奥へとふわふわ戻っていった。

 別れ際、何か考えがあるようで「次に会う日を、楽しみにしていろ」と、まるで悪役のようなセリフを言っていたため桃子の脳裏に多少の不安がよぎったが、気にしないことにしている。

 ヘノが考えることならば、桃子にとって悪いことではないだろう。そう信じる。

 

 その後は朝帰り姿に守衛さんやギルド受付のお姉さんに妙な心配をされつつ、帰ってシャワーをあびて、大急ぎで着替え。

 

 

 

 

 そして出社し、現在に至る。

 

 

 

 その間、ニュースの記事を見ているような時間はなかったので、和歌から聞く話はすべてが寝耳に水のことだった。

 

「ドワーフの次は座敷童子、かぁ……」

 

 ドワーフよりはマシかな、女の子だし。と、心の中で付け加えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ももこちゃんスレ】

 

 

 

:桃子ちゃん、座敷童子なら和服のおかっぱ幼女だよな (イラスト)

 

:仕事早いニキ

 

:保存した

 

:gj

 

:しかし待ってほしい、漢字表記はまだ「桃子ちゃん」に決まったわけじゃないだろ

 

:ひらがなでいいんじゃない

 

:百子ちゃん 桃子ちゃん 萌々子ちゃん 変換でも色々出てくるな

 

:萌々子ちゃんいいじゃん

 

:遠野萌々子ちゃん

 

:採用

 

:じゃあ名前修正した 遠野 萌々子ちゃん (イラスト)

 

:座敷童子「お兄ちゃんたち、勝手に名前決めたりしてて気持ち悪いでちゅ」

 

:おめーのがキメエよ死ね

 

:辛辣で草

 

:w

 

:萌々子ちゃん描いた (イラスト)

 

:巫女装束か、悪くない

 

:サカモトが鎧マンだから、萌々子ちゃんにも鎧着せてみた (イラスト)

 

:座敷童って西洋鎧着るんだな

 

:初耳だわ

 

:気づいちゃったんだが、ドワーフの女はヒゲそったらロリなんだよな? もしかして……

 

:誤爆しました

 

:誤爆元がどのスレかわかりやすくて草

 

:鎧の萌々子ちゃんにドワーフハンマー持たせてみた (イラスト)

 

:ドワーフの女戦士なんだよなあ

 

:ハンバーグも食べさせてあげよう

 

:座敷わらし要素どこいった

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