ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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クリスマスと未来の約束

「わーっ、三つ編みのほうの雪ちゃん、久しぶりー! もう会えないのかなって思ってたよ」

 

 雪ん子のわら帽子を頭からすっぽりと被り、両手にチキンとケーキを抱えた桃子が、雪道を歩いてたどり着いたそこは小さな民家だった。

 ここは探索者である風間の祖母、つまりは桃子が雪ん子として出会った風間のお婆ちゃんの家だ。

 お世話になった相手にチキンとケーキを届けたいと考えたときに、ここに住むお婆ちゃんは真っ先に思いついた。初対面の段階でちょっとした勘違いもあったものの、その時にお婆ちゃんが作ってくれたクリームシチューはとても温かく、美味しくて、いつかお礼をしたかったのだ。

 その時は知らなかったが、奇しくもそのお婆ちゃんが深援隊リーダー風間の祖母だという話を聞いた時には桃子も驚いた。世間が狭いのか、或いは桃子の紡いできた縁が太いのか。

 どちらにせよ、お婆ちゃんとの出会いは桃子にとっても大切なものである。

 

 そしてそこには、同じく大切な出会いの一つである小学生の女の子、小梅の姿もあった。

 

「お久しぶり、小梅ちゃん。クリスマスのケーキとチキン買ってきたよー」

 

「わーすごい?! 雪ちゃんって雪山に住んでるのにこんなの売ってるものなの?!」

 

「あんれまあ、派手なほうの雪ちゃんでねえの。あがってけ」

 

 なお、お婆ちゃんと小梅にとって、「雪ん子の雪ちゃん」は二人存在している。

 

 まず、いま目の前にいるのが派手な方の三つ編みの雪ちゃん。それは無論、桃子のことだ。

 今日はわら帽子の下は薄桃色のジャンパーであるが、前に訪れたときはキャラクターもののスカジャンを着用していた。様々な地域の伝承を漁っても、キャラものスカジャンを着た雪ん子の目撃談があるのはこの村くらいだろう。

 

 そしてもう一人の雪ちゃんが、もんぺにおかっぱ姿の雪ん子だ。

 こちらは恐らくだけれど、実際に過去に山で行方不明になった雪という少女が、桃子の【創造】の力の影響で雪ん子の姿を得たものだ。いわば本物の雪ちゃんの幽霊である。

 桃子は直接会ったことはないが、本物の幽霊かもしれないという話なので、いい子なのだろうとは思いつつも、桃子は内心ちょっとだけ怖がっている。

 

 

 その後、居間にあがった桃子は、二人と色々な話をした。

 主な話題は、ダンジョンの発見によって変わっていく、この村の状況。

 

 やはり、一番の変化は人間の流入だろう。

 まず、今は村の空き家のいくつかを利用しているが、深援隊メンバーが例のダンジョンの先遣隊となったことで、この村に住むことになった。

 最初は村人との距離感もぎこちなかったようだが、リーダーが風間だったことと、深援隊メンバーの人柄もあり、最近は打ち解けてきたという。

 

 他にも、しっかりとした大型道路の開通工事が始まっていることや、近隣の土地を開拓し、ダンジョンに関わる人間が住むための住居を建てることになるという。

 また、窪地には今はクヌギの住む小屋しかないが、あの場所にはしっかりとした門をつけ、それを管理するギルドの社屋を建てねばならない。

 ギルドを建てる際にクルラの桃の木やウワバミ様のお社がどうなるかは不明だが、一応法的にもあの窪地周辺は風間家の土地であるため、そこは深援隊の風間がうまく運んでくれることに期待だろう。

 

 この村は、これから急速に変わっていく。どうしても今までと同様ののどかな山村とはいかなくなる。

 しかし、風間のお婆ちゃんが言うには、村人の大半はその変化を受け入れているそうだ。

 反対運動などがなくて良かったと、桃子は胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

「今日は村の公民館で、深援隊の若いもんたちが飾り付けて、夜に村のもん集めてパーティをすんだよ」

 

「リュウおじちゃん、新しいゲームをクリスマスプレゼントで買ってくれる約束してるの。深援隊の人と対戦するんだー」

 

「わー、楽しそうだねえ。よかったね小梅ちゃん」

 

 村に増えた深援隊メンバーだが、特に影響を受けているのが小梅だそうだ。

 

 というのも、小梅と同年代の子供がこの村にはいない。なので小梅の遊び相手というのはネット回線越しのフレンドや、あるいは名も知らぬ対戦相手の数々になるのだが、やはりそれはどうしても、寂しい。

 深援隊メンバーももちろん小梅から見ればだいぶ年齢の離れた大人の人たちだが、ダンジョンに潜らない時間には小梅の遊び相手になってくれているというのだ。

 特に、回復魔法の使い手であるオウカは、以前のスタンピードの出会いもあり、小梅の師匠として時に優しく、時に厳しく、様々なことを教えてくれているのだそうだ。

 オウカ自身も医大を出ているエリートらしく、学校の先生よりも色々と教えてくれると言っていた。お酒を飲まなければ、最高の師匠かもしれない。

 お酒の話をしたときだけ、小梅の顔から表情が消えていた。

 

 

「深援隊の人たちはよくしてくれる?」

 

「うん。小梅が14歳になったら、深援隊の人たちがね、ダンジョンに案内してくれるんだって。小梅、早く大人になりたいな」

 

「小梅ちゃんが探索者になったら、きっとすごい実力者になれるね。なんせ、その年齢から修行始めてるんだもんね」

 

「あのね、雪ちゃん。もし小梅が、探索者になったらさ。雪ちゃんとかウワバミ様と一緒に、色んな所に行けるかな」

 

 小梅が、真っすぐな瞳を桃子へと向ける。

 この瞳は、桃子は数多く見て来たことがある。房総ダンジョンに初めて足を踏み込む、新人探索者たちと同じ瞳だ。夢と希望と、ちょっとの不安。それを全てひっくるめた瞳だ。

 桃子は、小梅のまっすぐな瞳に対して、一瞬の逡巡を見せてから――しかし、しっかりと、頷いて見せる。

 

「……うん、わかった! 小梅ちゃんが大きくなったら、一緒にダンジョンに入ろうね。一緒に、色々なもの探そうね」

 

 小梅がダンジョンに入れるのは、14歳から。あと5年後、桃子はいったいどういう探索者になっているのだろう。未来のことは、まだまだ桃子自身も全く予想はついていない。

 だけれど、いつの日か小梅と一緒にダンジョンに入るのは、悪くないなと思った。

 

 そして、そこに爆弾発言を放り込んでくる人物が一人。

 

「雪ちゃん、おれも探索者目指してっからよ」

 

「え?! お婆ちゃんが? 今からですか?」

 

「おれもよ、せっかく近くにダンジョンあんなら、中に入ってみてえからよ。爺さんに、土産話を増やしていきてえんだ」

 

 お婆ちゃん、今何歳なの? 桃子は口には出さなかったが、心の中でそうツッコんだ。

 もちろん、少なくとも桃子の知る限りは探索者の年齢上限というのはなかったはずだ。今からお婆ちゃんが見習い期間を経て探索者として独り立ちすることは、もちろん不可能ではない。

 

 現状ではここのダンジョンは一般人は入れないので、見習い制度なども不可能だ。

 だがしかしいつの日か、ここが正式に一般層の入れるダンジョンとして認められた暁には、お婆ちゃんがここの見習い一号となるのかもしれない。

 お婆ちゃんの周囲全方向に広がる【浄化】の力はなかなか物凄い強さなので、並の魔物は寄せ付けない、驚異のお婆ちゃん探索者になるのかもしれない。

 どちらかというと魔物どうこうよりも、お婆ちゃんの足腰とかのほうが心配ではあるが。

 

「じゃあ、お婆ちゃんが怪我したら小梅が治療してあげるからね! パーティ組もうよ、お婆ちゃん」

 

「そりゃいいな、わはは」

 

 でも、それもまた素敵な老後かもしれない。

 

 もし自分が何十年か後にお婆ちゃんになった時、わははと笑ってダンジョンに入れるお婆ちゃん探索者になるのも、素敵だなと、桃子は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。たぬき父。この大量のチキンは。桃子からのクリスマスプレゼントだ。ありがたく食べろ」

 

 一方その頃、桃子が風間のお婆ちゃんの家に向かっている間、ヘノは窪地で留守番をしていた。

 そしてその窪地には新しく小屋が建っており、そこにはポンコの父であるクヌギが住んでいるため、自然とヘノとクヌギの二人きりとなる。

 が、ヘノは先日のこともあり、未だにクヌギ相手にはツンツンしていた。

 

「これはこれは、ご丁寧にどうもありがとうございます。そういえば、今日がクリスマスイブでしたね」

 

「ここには。深援隊の連中も。来るんだったか。見つかったら面倒くさいな。桃子が戻ってきたら。ヘノはさっさと帰るぞ」

 

 着流し姿に、古めかしい丸眼鏡。男性としても線の細いクヌギの人化した姿は、先日と同様。

 桃子などは、ポンコの父を助けられたこと、狸の長と和解が出来たことなどを理由に、終わり良ければだいたい大丈夫と言っていたけれど、ヘノはまだ根に持っていた。

 というのも、ヘノにとっては狸の家族関係やら、和解がどうこうやらには殆ど興味が無くて、ただただ『桃子を危険に陥れたこと』に対して、ずっと怒っているのである。

 ヘノにとって一番大切な桃子を傷つけるのは、それが狸でも魔物でも、ヘノの敵なのだ。

 

 そんなヘノの気持ちを知ってか知らずか。いや、恐らくはわかっているのだろうが、そんなクヌギがヘノを呼び止めて。

 そして大きく、ヘノに頭を下げる。

 

「ヘノさん。その節は本当に、申し訳ありませんでした。そして娘を守ってくださって、ありがとうございます」

 

「なんだ。突然。そんな風にいきなり謝っても。ヘノは。簡単には許さないぞ」

 

「手厳しいですね。でも……私はね、本当に感謝しているんですよ。あの時あなた方がポンコに出会ってくれなければ、私は間違いを犯していた」

 

「……」

 

 顔をあげたクヌギは、ヘノを見ていたが、そのヘノを通して別なものを見ているようだった。

 それは恐らく、愛する娘のこと。ヘノが見聞きした中でも、この男は結局のところ、娘のポンコのことばかり考えていたはずである。

 

「ポンコが出会ってくれたのが、あなた達で本当に、良かったと思っているんですよ。ヘノさん、本当にありがとう」

 

「……ヘノは。別になにもしてないぞ。助けたのは。桃子だから」

 

 相手が謝ったら、許す。それは、桃子がよく言っている言葉である。

 ヘノはそれを思い出して、クヌギが謝っているのに自分だけが怒っている現状が、なんだか桃子の期待を裏切っているようで居心地悪くなってきた。

 ヘノは悪くないし、悪いのはクヌギだ。頭ではそう思っていても、心がモヤモヤする。

 

 なので、ヘノも。ちょっとだけ、ちょっとだけ。実は悪かったなと思っていたことを、素直に謝ることにした。

 

「実はヘノも。お前のこと。魔物と決めつけてたんだ。でもお前は。魔物じゃなかったんだ。だからヘノもちょっとだけ。すまなかったなと思ってる。魔物扱いして。すまん」

 

 クヌギのようにしっかりと頭を下げるわけではないが、しかしヘノはうつむき加減で、ぼそぼそと謝罪を口にした。

 それはまるで、素直になり切れない子供が友達に謝るときの姿のようだなと、クヌギは思う。

 ポンコは里の子供たちと比べても素直すぎる娘だったので、このような謝り方はしなかったけれど。それでもクヌギは、幼い日のポンコを思い出した。

 

「では、お互い様、ということでどうですか?」

 

「勝手にするといいぞ。ヘノは。桃子を守ってただけだからな」

 

 クヌギがにこりと笑いかけるが、ヘノはいつものように無表情で。しかし居心地悪そうにクヌギに視線を向けることもなく、特に意味もなく窓の外に視線を向けている。

 これ以上この話題を引っ張ってもよくは無いだろうなとクヌギは考えて、ふと、袋に入っているクリスマスのチキンに気づく。

 

「……そうだ、ヘノさん。桃子さんが戻ってくるまでの間、せっかくですしこのチキンでも一緒にいかがですか? 独りで食べるのも寂しいですからね」

 

「まあ。お前がそういうなら。一緒にチキンを。食べてやらなくも。ないぞ」

 

「じゃあ、お皿とお茶を出しますね」

 

「ヘノも。少しだけ。手伝うぞ。桃子の手伝いも。やってるんだ」

 

「それは頼もしいですね。では、お願いしましょうか」

 

 そうして、ぎこちないながらも。

 ヘノとクヌギの間の感情のしこりも、雪解け水のように少しずつ、溶けていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その後の会話】

 

 

「お帰りなさーい先輩。小梅ちゃんたちは元気でしたか?」

 

「うん、元気だったよ。深援隊の人たちが良くしてくれてるみたいで、今日は村のみんなでパーティだって」

 

「深援隊の人たちがいるなら大丈夫ですかね。ロリコンな人がいるのが心配ですけどね」

 

「もう、柚花。サカモトさんは子供が好きかもしれないけど、そういうラインを越えるような人じゃないでしょ?」

 

「はい……ごめんなさい」

 

「ん、許す! さて、それはともかく次はどうしようかな。琵琶湖ダンジョン」

 

「先輩、琵琶湖ダンジョンにチキンを持って行っても、特にお知り合いとかいませんよね? 百歩譲って人魚姫やクジラさんがいるかもしれませんけど、水の中ですしね」

 

「そうなんだよねえ。水中にチキンとケーキ持ってっても仕方ないしね。りりたんももう琵琶湖ダンジョンにはいないだろうし、なんか適当に探索者さんたち見つけて、チキンを押し付けて帰ってくるっていうのはどう?」

 

「先輩が、人魚姫の噂をこれまで以上にハチャメチャにしたいならそれでもいいと思いますけど……」

 

「んー、そうだよね。やっぱり、いきなりチキンを渡されても怖いよねえ。せめてあれかな、ピンチの探索者さんを助けてあげたうえで、そのあとチキンかな」

 

「あ、チキンあげるのは前提なんですね。でも、もし【創造】で既に人魚姫が生まれているなら、チキンとか喜びそうですよね。なんとなく、肉食なイメージあります」

 

「うーん……なんか、私のせいでそういうハチャメチャな子が生まれちゃってるとしたら、一番申し訳ないというかなんというか……」

 

「なるようになれで、とりあえず行ってみませんか? 私、琵琶湖ダンジョンは行ったことないんですよ。流石に深潭宮は遠慮しますけど、その上の層までなら私もなんとか同行出来ると思いますよ」

 

「じゃあ、滝の迷宮で探索者さん探して、助けて、チキンをプレゼントだね!」

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