ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
「す、すごかったですねえ……あの、い、岩が砕け散るところ、迫力ありました」
ニムが興奮気味に語る。
クリスマスのチキンを振る舞うため、とくに考えもなく琵琶湖ダンジョンへと赴いた一行だが、その結果としてまた大変なことになってしまったのだ。
「あれは失敗しちゃったなあ。探索者さんも泣いちゃったし、あれも人魚姫の仕業ってことになっちゃうのかな……なんだか申し訳ないや」
「桃子は。探索者を助けたんだから。申し訳なく思う理由が。ないだろ」
「そうですよ先輩。魔物も倒して、大岩が爆発、探索者さんは大パニック。琵琶湖っぽくていいと思いますよ?」
「柚花は琵琶湖にどういうイメージ持ってるの?」
「まあ、人の命を救えたんですから、結果オーライですよ、先輩」
なんやかんやあって、琵琶湖ダンジョンで仲間からはぐれてピンチに陥っていた探索者を助けるために桃子が暴れた結果として、大岩が弾け飛んだ。
香川ダンジョンでは、石壁ダンジョンの壁を破壊したり、巨大ゴーレムを破壊したりと、なにかと破壊力に力を注ぎこむことが多かった。どうやらその感覚が抜け切れていなかったようで、今日はちょっとばかし魔力の調整をミスってしまったのだ。
魔物から助けられた筈の探索者は余計にパニックに陥ってしまい、どうにか落ち着いて貰おうと後ろから羽交い絞めにしたら余計に暴れ出して、落ち着かせるためチキンを口元に差し出したらとうとう泣き出してしまい、最終的には号泣しながら逃げて行ってしまった。
準備したチキンもその際に滝つぼに落ちてしまうというオマケ付きで、実に散々な結果である。
ヘノによると逃げた探索者は仲間と合流出来たようで、それだけが救いだ。
最近は一部では蛮族の姫のような扱いを受けている人魚姫だが、この一連の不本意な出来事も巡り巡って人魚姫の更なるハチャメチャな噂になってしまうのかと思うと、桃子の心には人魚姫への申し訳なさが込み上げてくる。
とはいえ、やってしまったものは仕方がない。せめて、探索者が無事に帰れたのだから、結果的には良かったのだと前向きに考えることにした。
なお後日。滝つぼの横に、綺麗に可食部だけ食べられたクリスマスチキンの骨が並べられており、それが琵琶湖ダンジョン探索者たちの恐怖心を無駄に煽るのだが、それはまた別な話である。
「さて、先輩。先輩が一番行きたかった場所、そろそろ行きますか? マヨイガですよね?」
妖精の国の花畑で、一同は休憩を挟んでいた。
すでにあちらこちらに出向いて時間もかかってしまい、既に冬の太陽も傾きかけている。
これからどうするかという話になったのだが、柚花が立ち上がり、桃子の話を聞くまでもなく、行き先を言い当てる。
「ふぇ? な、なんでそんな……え、【看破】ってそんなところまで見えるの?」
「いえ、だって先輩、顔にそう書いてありますもん。萌々子ちゃんに美味しいケーキを食べさせてあげたいなー、って」
「ええ?! 私ってば、いったいどういう顔色してるの?」
柚花の指摘は図星だったようで、桃子は慌てて自分の頬に手を当てた。もちろん、顔に文字が書いてあるだなんて桃子とて思ってはいないが、しかしそこまで表情だけで具体的に読まれるのかと疑問に思う。
もちろん頬に触ったとてそこに何かあるわけでもないのだが、慌てる桃子を眺めながら柚花はにんまりと笑顔を見せて、言葉を続けた。
「なーんて、冗談ですよ。先輩この前の通話で言ってたじゃないですか、私に協力して欲しいって」
「えーと、うん。そういう話はしたねえ」
「でも、狸の里とか桃の窪地に行くのに私の協力なんて必要ないですし、じゃあ私の【看破】が必要な対象が何かと考えたら、座敷童子の子くらいかなーって思ったんです」
どうやら、柚花は先日の通話の段階から、桃子がマヨイガで萌々子ちゃんに会いたがっていることを察したようだった。
実のところ、桃子自身は具体的にそこまで考えていなかったのだが、しかし言われてみれば全くその通りで、香川ダンジョンにはヘノと二人でも問題なく行けるし、桃の窪地に至っては柚花が見つかると説明が面倒になるという理由により桃子一人で訪れている。琵琶湖などはほぼ思い付きで出向いただけだ。
ならば必然的に桃子が柚花を必要としたのは、遠野ダンジョン。マヨイガに向かうときに、柚花に共に居て欲しいと、無意識にでも思っていたということなのだろう。
「そっか、そっか……すごい、私も自覚なかったのに。柚花って探偵になれるよ」
「いやあ、それほどでもありますけど。先輩、頭撫でてくれていいですよ♪」
「うん、えらいえらい。柚花は私の最高の後輩だ」
自分でも分からなかった自分の心の動きを読み取ってくれる後輩が、桃子はとても誇らしくて嬉しかったので、とにかく褒めた。そして、柚花に望まれるままに頭を撫でた。
撫でながら、以前は柚花を猫っぽいと思ったけれど、もしかしたら尻尾をパタパタ振っている犬なのかもしれないなと思いなおしたが、その感想は心の棚にしまっておく。
「桃子。後輩。二人とも。何やってるんだ。さっさとマヨイガ。行かないのか?」
「そ、そろそろ……い、行きませんかぁ? き、今日は座敷童子さん……いますかねえ……」
女子二人でいちゃいちゃしてたら、妖精たちに急かされてしまった。
「桃子。多分だけど。今日はきっと。座敷童子。見つけられると思うぞ」
「え、そうなの? それってヘノちゃんの勘とか、そういうの?」
遠野ダンジョン第四層、マヨイガ。
この場所は、桃子がヘノと出会ってから、なんだかんだで何度も訪れることになった、壮麗な和風建築の姿をした巨大迷宮である。
初めて訪れた際にはダンジョンの第四層という事実にびくびくしていたし、なんなら河童に尻子玉を抜かれかけたのだが、今となっては慣れたもので、ヘノの先導に従って臆することなく進んで行く。
河童が現れたとしても、経験も重ねてハンマー力も向上した今の桃子ならば、後れをとることもないだろう。三匹くらい余裕でカチ割る自信がある。
しかし、今回は何故だか、ヘノが桃子の姿を見て不思議な反応を見せている。
そしてそれはヘノだけではない。
「いえ先輩。ええと……なんて言いますか……すごい、不思議なことになってますよ」
「あの、マヨイガに入ってから……桃子さんの魔力が、な、なんか……すごく、すごいです」
「そうだな。すごく。すごいぞ」
ヘノだけでなく、柚花やニムまでが桃子の姿を見て目を丸くする。
魔力がすごくすごいと言われても、桃子としてはその自覚もなく、そこまで魔力の運用を気にして過ごしているわけではないので、自らの身体に起きている不思議な状況というのがさっぱり分からない。
なので、桃子は困惑しきりだ。
「え、私の魔力、どうなってるの? 大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。桃子の魔力が。飛んでるというか。拡散してるというか。面白いだけだし。害は無さそうだぞ」
「うぅ……ふわっとなって、ヒューッとなってます……怖い」
「やっぱりこれって、【創造】が働いてるってことなんですかね? 先輩が直接、座敷童子の萌々子ちゃんに会いに来た影響とか、そいうのですかね」
三者がそれぞれの言葉で説明してくれるが、今一つ桃子にはピンと来ない。
桃子も自分の魔力の流れを把握してみようと集中してみるが。
「うーん、わかんないや」
わかんなかった。
魔力が飛ぶとはどういうことなのか。魔力が面白いことになるとはどういうことなのか。ニムに至っては怖がっているのだが、本当に大丈夫なのか。
目に見えないエネルギーというのは、実に扱いが難しいものである。
「まあ先輩、きっと【創造】スキルがきちんと働いているってことですよ。とりあえず、行けばわかるんじゃないですかね」
結局、柚花までもが説明を放棄したようで、桃子は自分の魔力の挙動に対してしきりに首を傾げるのであった。
「あっ、松茸焼いてるよ。ねえ、覗いてきてもいい?」
しかし、自身の魔力の流れを心配する気持ちは、炊事場に漂う食欲をそそる香りで全て吹き飛んでしまったようだ。
視線の先に、七輪で松茸を焼いている探索者の姿を見つけると、桃子は子供のように瞳を輝かせる。
「なら先輩、私はここから見てますね。さすがに私が見つかったら余計に騒ぎになっちゃいますし」
「じゃ、じゃあ私も……ゆ、柚花さんと一緒に、待ってますね」
「桃子。今日も。松茸をつまみ食いするのか?」
「み、見るだけだから……!」
柚花はさすがに姿を見せるわけにはいかないので、少し離れた場所から様子見だ。
ニムが不思議な霧を柚花の周囲に発生させ、探索者から柚花が見つけられないようにしてくれている。
一方ヘノは桃子の胸元にスルリと入り込み、一緒に焼き松茸を眺めにいくつもりのようだ。
桃子の瞳がらんらんと輝いているが、あくまで眺めるだけ。眺めるだけである。今日は勝手に食べたりはしない。そのはずだ。
そして、異変が発生した。
桃子が、探索者の右側にちょこんと屈みこんで、七輪を覗き込み始めてすぐである。
柚花とニムが、その異変に気づいたのは。
「ニムさん。あれって、先輩には見えてないってことですかね、多分」
「も、桃子さんは、目は、普通の人なので……そうかも、しれませんね」
桃子はもとより、七輪の前に座る探索者すらなんの反応も見せないため、それが見えるのは【看破】を持つ柚花と、元から魔法の眼を持つ妖精たちだけなのだろう。
が、しかしそれは、異変というにはあまりにはっきりと、堂々としている。
「これって、先輩には伝えた方がいいんでしょうか。さすがにちょっと、なんていうか、すごいシュールな景色ですよ」
「き、きっと、ヘノが伝えてると……思います、けどねぇ」
柚花たちに見えているそれは、とてもシュールな光景なのだけれど、見ようによってはほのぼのとした家族の風景に見えないこともない。
松茸を焼く男性探索者と、その右側から松茸を覗き込む桃子。
そして、反対の左側。
桃子の対面には、桃子を一回り小さくしたような少女が、桃子と全く同じ姿勢で。鏡映しのようなポーズで。桃子と向かい合うようにして、ジッと松茸が焼けるのを眺めていた。
「ねえヘノちゃん、このダンジョンの松茸って、結局どこに生えてるんだろう。私、これの出現場所知らないんだよね」
桃子にとって、松茸に限らず、七輪でものを焼いている風景は、みているだけで楽しいものである。
熱でじっくりと変形していき、汁が溢れ出す。網に接した面が少しずつきつね色に染まっていき、香ばしい煙が鼻腔をくすぐる。
なんなら、そのまま焼きすぎて焦げてしまう過程であっても、眺めている分には楽しい。
そんな桃子がじっと七輪の前で松茸の様子を眺めているのだが、胸元から共に覗き込んでいたヘノが、興味深げに桃子の顔を見上げる。
「桃子。桃子。もしかして。見えてないのか?」
「え、見えてないって……松茸? ちゃんと焦げ付いてるところまで見てるよ?」
ヘノが、桃子に不思議なことを聞いてくる。
桃子はじっと松茸を見ているし、その焦げ付きも確認している。とてもいい香りだ。
しかしどうやら、ヘノの言いたいことは、松茸についてではなさそうだった。
「松茸はどうでもいいんだけどな。桃子。ひとまず後輩たちのところに戻るぞ。あと。お前もこっちこい」
「ん? どういうこと? いま誰に――」
ヘノの言う『お前』とは誰のことか。すぐそこにいる探索者に呼びかけているわけではあるまい。
桃子は何のことかとヘノに聞き返そうとするが、しかしそんな桃子の袖がクイと引っ張られる。そして、手を握られる。
「え……?!」
そこで、初めて桃子は認識する。
桃子の持つ【隠遁】は、桃子の姿が相手から認識できなくなるという効果を持つ。そしてそれの破り方は、直接桃子と触れ合うこと。直接触れ合うことで【隠遁】の効果を打ち消し、桃子の姿を認識できるようになるのだ。
そしてそれは、桃子以外の誰かが【隠遁】を持っていたとしても、同じことが言えるだろう。
例えばそう。
『お母さん』
それが、桃子が生み出した存在である、座敷童子の少女でも。
【琵琶湖ダンジョン専用 聖夜の雑談スレ】
:クリスマスにダンジョンでスライム退治してる奴手あげて ノ
:しません
:しないよ
:スライムなら俺の横で寝てるよ
:お前パジャマ溶かされてるぞ?
:いまギルド 人魚姫に泣かされた探索者が帰ってきた
:草
:どういうこと?
:なんか、第三層でパーティメンバーとはぐれちゃったらしいんだが
:あーもしかして、三層でスライム退治してたときにどっかで物凄い破壊音が聞こえたんだけど、あれやっぱり姫様か
:草しか生えないw
:魔物に囲まれてピンチだったんだけど、周辺の岩場ごと魔物が弾け飛んで
:いつものパターン
:相変わらず力加減する気がない
:その後羽交い絞めにされて
:?
:なんて?
:強引に何かの肉を押し付けられたところで、号泣したら解放されたらしい
:??
:怖い
:なぜそうなる
:クリスマスだから姫様もテンションあがっちゃった?
:毎度助けてくれるんだけど、意思の疎通が難しすぎるんだよな・・・
:遠野は可愛い女の子なのに、琵琶湖はなんでこんなことに
:でも好きなんでしょう?
:大好き