ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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魔石と魔力とスクロール

「クズ魔石、持っていきますねー」

 

「はいよ、あんまり使いすぎるんじゃねーぞ?」

 

 奥で作業している親方に声をかけて、形が悪くて使い道が限られるクズ魔石の入った籠を持っていく。

 魔石とはダンジョンで主に魔物を倒した後に落ちている石だが、これはいわば魔力の結晶体である。

 武器や防具に魔石を加工すれば、所有者のスキル効果を上昇させる効果が主だが、高額ではあるが武具への魔法付与の核として扱われることもある。

 また、通常の電子機器の働きが阻害されるダンジョン内では、電力に代わる動力として魔石を利用したドローンや、探索者用の各種ツールなどにも使われている。

 形状はごつごつした水晶状のものもあれば、研磨された丸いものまで様々で、大きさはアーモンド大のものが一般的だが、中にはピンポン玉サイズのものもあり、大きければ大きいほど価値も高い。

 

 そして、アーモンドサイズにも満たなかったり、大きく割れていて加工に向かないものなどが、いま桃子が持っていった、いわゆる『クズ魔石』だ。

 

「じゃあ、こっちのカーゴから順番に魔石取り付け作業にかかりますね」

 

 そしてクズ魔石を準備した桃子の横には、運搬用のカーゴが何台か並べられており、カーゴの中には様々なダンジョン用の武器や防具が積まれている。

 そして武具カーゴの脇には、クズではない、きちんとしたサイズの魔石が並べられた容器。こちらの魔石はきちんと一つづつのサイズがわかるように秩序立って並べられており、クズ魔石とは扱いが天と地の差だ。

 

 桃子がこれから行うのは、これらの魔石を武具に装着し、『魔石武具』へと昇華させる作業である。

 

 とはいえ、作業自体は簡単。

 すでに武具には魔石をはめ込むための石座――指輪やアクセサリの宝石をはめ込む台座パーツのようなもの――か、あるいは直接穴をあけられているものもあるが、そこにサイズの合った魔石をはめ込むだけの作業。

 もちろん確認作業や、それなりのコツというものもあるにはあるが、特別難しいことはない。

 ただ一つ、特殊な手順を除いて。

 

 桃子は一つ目にあった剣を手に取ると、そこにすでに装着されている石座のサイズに合った魔石をいくつか手に取って、ちょうどよいものを選びとる。

 石座に合わせてみて、多少の出っ張りなどがあればやすりで削り取り、あるいは石座のほうを工具で変形させ、最終的に魔石が綺麗に石座へとはまるまでそれを繰り返す。

 

 そして魔石がはまれば。

 

「じゃあ、最後の仕上げ。スキル【加工】、えいっ」

 

 右手を魔石のはまった石座に合わせて、空いた左手ではおもむろに数粒のクズ魔石を握り込む。

 すると。

 

 

 パリン

 

 

 それはほんの短い時間。

 

 クズ魔石が砕ける音と共に、秒にして一秒にも満たない時間だけ、桃子の周囲に魔力が発生する。

 その魔力が右手に吸い込まれ、スキル【加工】の発動の礎となる。

 

 桃子が右手を除けると、たった今しがたはめ込んだばかりの魔石のはまった石座が、スキル【加工】の力により変異し、まるで最初から一体化されていたパーツのように、継ぎ目もなく完全なる武器の一部としてそこに存在していた。

 

 これが、【加工】の力。そして、アイテム工房でのクズ魔石の使い方である。

 魔石を砕くことによって広がる魔力は一秒も持たずに霧散してしまうが、こと【加工】のようなクラフトスキルを一瞬発動させるだけなら、それで十分であった。

 

 1つの武具が終われば識別用のバーコードを貼っていき、カーゴに並べられた次の武具を手にして同じ作業を繰り返す。

 これが桃子の、魔石はめ込み作業、である。

 

 

 

「……ふう、なんか今日は魔力のノリがいい、かも?」

 

 作業が一段落してからふとクズ魔石の籠を見ると、普段と比べて消費量が少なかったことに気づいた。

 作業中は気にしていなかったが、普段よりも少ないクズ魔石で、効率的に魔力運用できたような気がする。

 

「はてさて、これは……なんだろう。ヘノちゃんと仲良くなった影響かなあ」

 

 ヘノは魔力から生まれたと言っていたので、何かしら影響があったのかもしれないなと、桃子は新しくできた友達のことを思い浮かべる。

 今までずっと、ダンジョンは独りでソロ探索をする場所だったけれど、これからはヘノがそばに居てくれるのだと思うと、仕事中だというのにニヤついてしまう。

 

「えへへ」

 

「桃ちゃん、先ほどから何をニヤニヤしてるんですー?」

 

「わっ、わー! 見てたんですか和歌さん、見ないでくださいよっ、えっち!」

 

「えぇー……まあそれはそれでー」

 

 作業終わりに一人でニヤついている桃子に気付いた和歌が、PCをさわる手をとめて恐る恐る声をかけてきた。

 なぜか理不尽に桃子に罵られてしまったが、これはこれで悪くない。和歌はいい笑顔だ。

 

「ではなくて、何かあったんですかー? クズ魔石を眺めてニヤついてましたけどー?」

 

「えと、それが、なんか今日は調子が良かったんですよね。なんか、クズ魔石をパキンってした後、不思議と右手にスゥーってなって、ピタってくっつく感じで」

 

「んんー? 擬音が多いーっ」

 

 残念ながら、桃子の感覚的な説明は和歌にはさっぱり伝わらなかったようだ。

 両のこめかみに指をあてて、眉をひそめてしきりに首をかしげている。

 

「まあでもー、魔力の使い方ってある日突然うまくなったりしますからねー。私も、現役の頃にそういう日ってありましたよー?」

 

「へぇ、和歌さんが現役のときって、どんな感じだったんですか? 和歌さんって確か、炎魔法の使い手だったんですよね?」

 

 そういえば、同僚であるこの女性も、昔は探索者だったのだ。

 桃子はカーゴを押して部屋の端に寄せると、自分の席に戻って話を聞いてみた。

 

「私はもっぱら、仲間たちの後ろからバンバン火の玉ばかり撃ってましたねー。たまに仲間に炎を撃ち込んじゃって、大変なことになったりしてましたよー」

 

「わー……」

 

 仲間を燃やした話を、笑顔で話す和歌。

 桃子はちょっと恐れた。

 

「あとはひたすらお宝を探していましたよー。基本的な魔法はギルドで教えてもらえますけど、魔法職はより強いスクロールを探すのが目的みたいなところありますからねー」

 

「スクロールって、魔法を覚えられる巻物とか、魔導書とかですよね。ええと、魔法協会? からは売ってもらえないんですか?」

 

「私も魔法協会の会員ではあったので、会員価格では購入できるんですが、それでもお高いものですからねー。良いものになるとスクロールひとつで大型バイクが買えちゃいますからー……」

 

「へぇ……」

 

 スクロールの類は、使い切りというわけではないのだが、魔法の契約ごとに紙が擦り切れていくため、使用回数に限度のある消耗品である。

 そのくせ、ダンジョンで見つかることは稀なため、魔法の素質があっても肝心の魔法が入手できない探索者というのも珍しくない。それだけに、スクロールは品物としての価値が高い。

 和歌の言う大型バイクの値段はわからないが、おそらくスクロールひとつで100万や200万という品もあるのだろう。

 無論、深層まで潜れるような探索者ならばそれくらい安いものかもしれないが、そんな探索者は国内にも数える程しかいないのが現状だ。

 そういえば、ヘノは様々な魔法をバンバン撃ち込んでいたが、あれは相当セレブな戦い方だったのだなと、ヘノの凄さを感じる。

 

 そんな魔法職と比べれば、桃子はリーズナブルなものだ。

 

 服装は動きやすいただの私服。よく着ている妙なキャラの描かれたスカジャンも古着屋で買ったものだ。

 武器は魔物が落とした大きな木づち。主な出費といえば、毎回のカレーの材料費くらい。配信もしていないので、機材を買うお金すら必要ない。

 実に安上がりで、ありがたいことである。

 

 

「でも、逆に言うとダンジョンでスクロールを見つけたときは大興奮でしたよー。大きい声で叫んで、ついついはしゃいじゃいましたー。あの頃は若かったですねー」

 

「やだなあ、和歌さん今でも若いじゃないですか」

 

「はうっ」

 

 桃子が見る限りは、和歌はまだ桃子より少し上なくらいのお姉さんに見える。ざっくり、20代半ば程度だろうと、桃子は思っている。

 そんなわけで、思ったことをそのまま口にしたのだが、和歌が急に胸を押さえて苦しみだした。

 

「……ほ、ほほほ。これでも、昭和……いやその……んっ、んーっ」

 

「え? 和歌さん?」

 

「そうだ、桃ちゃん、たまにはギルドで計測してもらったほうがいいですよー? スキルとか、気づいたら増えてたりしますしー」

 

 聞き返した言葉はスルーされた。

 

「え、和歌さんのお話は……」

 

「桃ちゃん、近いうちにギルドに行くといいですよー? ねー?」

 

 聞き返した言葉はスルーされた。

 

「は、はい……」

 

 本当は魔法の話も興味があったのだが、唐突に話題を変えた和歌の勢いに気圧されるように、素直に頷く桃子であった。

 

 

 

 しかし、それはそれとして。

 

 

 

「そういえば、ギルドで聞かれたら、どう説明したらいいかなあ……」

 

 桃子は頭を悩ませる。

 妖精の話を、ギルドにどうやって説明すべきか。

 

 ヘノや女王ティタニアは、きっと桃子が他者に妖精の話を広めるのは嫌がるだろう。そういうことをしないからこその「信頼」なのだ。

 とはいえ、ハンマーに魔法が付与されていることとか、妖精の目撃例のこととか、朝帰りのこととか、どう考えても色々と誤魔化しきれない部分が出てくる。

 

 

 気づいたらそうなってました、じゃダメかなあ。

 

 

 トンテンカンと工具ハンマーを打ち付けながら、桃子はあれこれと言い訳のレパートリーを脳内で並べ立てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

 

「桃子が危険な目に遭わないように。桃子を。修行させようと思う」

 

「おいヘノ! 桃子というのは! あの人間だなっ!」

 

「うぅ……修行って……何をすればいいんですかぁ?」

 

「いっそ……この毒草で……一思いに……ククク」

 

「毒を飲ませて。どうするつもりだ。却下するぞ」

 

 

 

「強くなるにはなっ! より強い敵と! 戦うのがいいんだ!!」

 

「なるほど。でも。強い敵はとても強いから。戦うのは。ちょっと危険だぞ」

 

「じゃあ! まずは強くならなきゃなっ! 修行するといいぞ!」

 

「お前は本当に。ばかだな」

 

 

 

「あの……やっぱり、他の人間みたいに……仲間と一緒にいれば……いいんじゃないですかぁ?」

 

「桃子は。孤高の存在で。友達とかは。いないのだ」

 

「うぅ……桃子さん、ひとりぼっちで可哀そう……めそめそ」

 

「泣くな。今は。ヘノが友達だから。桃子はひとりぼっちじゃないぞ」

 

 

 

「ククク……毒草はダメかい……?」

 

「ヘノの大切な友達に。毒を飲ませるな。毒薬以外はないのか」

 

「失礼だねぇ……毒草は……薬にもなるというのに……ククク」

 

「そうなのか? 薬になるなら。毒草を飲ませるのもありかもしれないな」

 

 

 

「女王。ヘノは決めたぞ。桃子に。毒草を飲ませてみるぞ」

 

「……?」

 

「女王。聞こえているか。何か桃子にちょうどいい毒草を知らないか」

 

「大丈夫です、聞こえておりますよ、ヘノ。その上で改めて伺いますが、なんと?」

 

「桃子に。毒草を飲ませようと。思うぞ」

 

「ヘノ、もう少し落ち着いて、しっかり考えてみてくださいね。桃子さんに毒を飲ませたら、桃子さんが倒れてしまうのではありませんか?」

 

「ん……女王に言われると。なんだか変な気がしてきたな。毒を飲ませてどうするんだ」

 

「ええ、わかってくれたのならよかったです」

 

「まったく。あいつらはバカだな。あいつらに頼ったヘノが。バカだったぞ」

 

「……」

 

 

 

 

「あの子たちには、勉強も教えたほうが良いのでしょうか……」

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