ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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五章 コロポックル
歳末ぐうたら生活


 木のぬくもりを感じさせる和風の部屋の中心で、囲炉裏がパチパチと音を響かせていた。

 囲炉裏の中央では炭火が赤く熱を発しており、その周囲には串に刺された魚が数尾。炭火の熱を受けて、香ばしい匂いを発している。

 

 そして、座布団に座って目の前の囲炉裏の火を眺めているのは、135cmの小柄な体躯と、それに見合った童顔の少女。栗色の大きなふんわりした三つ編みが、腰元まで垂れている。

 少女と言っても、子供のような外見に反して戸籍上は19歳の女性である。

 

 少女――桃子は、少し離れた場所でぼんやりしている己の相棒たる風の妖精へと声をかけた。どうやら彼女は囲炉裏から流れる上昇気流を眺めているらしい。

 

「もう年末だねえ。ヘノちゃんたちは、年末年始はどうするの?」

 

「妖精には。一年とか。年末とか。そういうのないからな。特にどうもしないぞ」

 

「そっかー、それもそうだよねえ」

 

 ゆったりとした時間の中、桃子もヘノも、言葉少なめだった。

 室内には、パチパチと炭の燃える音だけが響く。そして時折、魚の皮の焼ける音、そして魚の油が火に垂れて弾ける音が響き、互いに言葉を発さなくとも、居心地の良い時間が過ぎていく。

 無言でいても、苦ではない。これは実に、心地よい間柄なのではないかと思う。

 

 しかし、その静寂を破り、桃子の顔を見上げて質問を投げかけたのは、桃子の膝の上に座っている着物姿の童女だった。

 

『ね、お母さんは、どうするの? 年末年始には、ダンジョンにはくるの?』

 

「んっとね。実は私は年末年始は実家に帰らないといけないから、ダンジョンにはこれないんだよ。残念だけどね」

 

 童女――座敷童子の萌々子は、桃子のことを「お母さん」と呼び、懐いている。

 もともとはただの噂話だったものが、桃子の持つ【創造】というスキルにより魂を与えられた存在。それが、座敷童子の萌々子だ。

 もとの噂話の由来が桃子本人だった上、それが桃子の魔力によって姿を得た存在なので、実質的に桃子の娘のようなものである。顔立ちもやはり、よく似ていた。

 その童女が、桃子の膝の上にちょこんと座っていた。

 

 人間、妖精、座敷童子の三人は、再び囲炉裏の火の音だけが響く中で、再び心地よい静寂に身を任せる。

 

 

「桃子。その焼き魚。もうそろそろ。食べられるんじゃないか?」

 

『じゃあ、お母さんは動けないから、萌々子がとってあげるね』

 

「座敷童子。ヘノのぶんも。頼むぞ」

 

「ありがとう、萌々子ちゃん。熱いから、気を付けてね?」

 

 桃子の膝の上から、座敷童子の萌々子が焼けた魚の串へと手を伸ばす。

 

 何故桃子の膝の上に座敷童子が座っているのかというと、これは単に母親に甘えているだけではなく、【隠遁】という能力の対策だ。直にくっついていないと、座敷童子の姿が桃子の認識から外れてしまうのだ。

 

 母親に似て【隠遁】の性質を一部受け継ぐ座敷童子。

 そのお陰で探索者たちからも姿を隠せているのだが、しかし、そのスキルによって孤独な日々を過ごしてきた桃子としては、娘にそれが受け継がれているのは複雑だ。

 しかしそんなことを魔法生物の童女は気にもせずに、焼き魚の串を手に取ってはしゃいでいる。

 

 萌々子から手渡された串焼きは、魚の皮はパリパリに焼けており、油断すると脂が滴り落ちる。実にちょうど良い具合に焼けており、非常に美味しそうだった。

 

 

 

 

「こんなところに囲炉裏部屋があるなんて知ってたら、もっと色々と焼いて食べてたよ」

 

 桃子たちがくつろいでいるここは、当然ダンジョン内。

 座敷童子の萌々子が住まう地でもある、遠野ダンジョン第四層『マヨイガ』にある一室である。

 この屋敷は途方もなく広い和風建築な上、ダンジョンの特性上、定期的に姿を変えるので、まだ見たこともない部屋が非常に多いのだ。

 

 現在桃子たちがまったりしているこの場所も、萌々子の案内で初めて訪れた場所だった。

 

『あのね、萌々子のとっておきの部屋なんだよ』

 

「教えてくれてありがとう、萌々子ちゃん」

 

「ヘノも前に。ここに来たことは。あるぞ。こういう風に。使う部屋だったとは。知らなかったけどな」

 

 どうやらヘノもこの部屋の存在自体は把握していたようである。だがしかし残念なことに、ヘノは囲炉裏というものを知らなかった為、ただの炭が真ん中に溜まっている変な部屋としか思わなかったのだ。

 もしヘノが最初から囲炉裏の使い方を理解していれば、桃子を連れてきて料理をねだったに違いない。

 

 なお、本日ここで焼かれている魚は、妖精の国で先ほど捕らえて来たボウソウダンジョンハゼ(仮)である。

 元々はシーフードカレーの材料として捕らえられてきたものの、その後に入手できた蟹やイカ、貝やエビに具材の座を奪われてしまい、出番がないまま冬になってしまった悲しき食材だ。しかしこの度、囲炉裏で魚を焼こうという提案とともに、改めてスポットライトが当てられたのだった。

 囲炉裏で焼いたボウソウダンジョンハゼは、見た目の美味しさを裏切らない味わいで、これはなかなか癖になる。

 この場に塩が無いことが悔やまれた。塩をつけて焼けば更に味が引き締まったかもしれない。

 

「よし。次は魚だけじゃなくて。もっと他の料理の。準備もしてこなきゃな」

 

『萌々子ね、お母さんの煮物、食べてみたいな』

 

「煮物かあ。たけのことか里芋はアテがあるけど、具材がもっと欲しいところだね。地上で買ってきてもいいけど」

 

 ハフハフと焼き魚を食べながらの会話の中で、膝の上に座っている童女から煮物というリクエストが飛び出てくる。

 言われてみれば確かに、囲炉裏で作る料理といえば煮物のイメージも強い。桃子に決めさせたらカレーの一択になりそうな話題だったが、カレー以外をチョイスしたあたり、桃子の魔力を分けた娘と言えど、やはり別人格ということなのだろう。

 しかし、囲炉裏で煮物を作るとなると、どのようなものが作れるだろうかと桃子は考える。

 実のところ、ダンジョン内では食材に限りがあるのだ。玄米や果物、それに小麦粉ならば容易に準備できる環境にはなったものの、こと野菜の類がなかなか難しい。

 たけのこやキノコは入手できないことはないが、煮物のたびにそれらを掘りに行くのも手間だし、それならいっそ地上のスーパーで購入してきた方が早いくらいである。

 

「じゃがいもだな。カレーには。じゃがいもが入ってた方が。嬉しいからな。遠野ダンジョンには。ジャガイモはないのか」

 

『うーん、遠野ダンジョンには、タケノコはあるけどジャガイモは見たことないや』

 

 そしてヘノからのリクエストはじゃがいも。

 最近はダンジョン食材でばかりカレーを作っているのでご無沙汰だが、ヘノと出会った当初は地上のスーパーでニンジンやじゃがいもを購入してきていた。

 ヘノの言葉どおりなら、意外にもヘノはじゃがいもを気に入っていたようである。風の妖精とじゃがいも。なかなか意外性のある組み合わせだ。

 

 しかし、じゃがいも。地上から持ってきて畑に植えてみてもじゃがいもならば育つだろうけれど、ヘノと桃子の共通のルールとして、あの畑はダンジョン食材でいっぱいにしようという目的があるのだ。

 なので、地上から持ってきた植物を植えて繁殖させるというのは、最後の手として取っておきたい気持ちが強い。

 

「じゃがいもっていうと北海道だけど、北海道のダンジョンに行けばあるのかな。行く機会もそうそうないとは思うけど……」

 

「今度。そういうのは。詳しそうな。後輩に聞いてみるといいぞ」

 

「柚花も特別にダンジョン食材に詳しいわけじゃないとは思うけどね。でもそうだね、色々ツテも多い子だし、今度聞いてみよっか」

 

 あくまでダンジョンではなく一般的なイメージとしては、じゃがいもと言えば北海道だろう。

 ついでに、牛乳やバター、チーズも北海道だし、蟹やトウモロコシも北海道である。北海道は美味しそうなものが非常に多い。

 もちろん、房総ダンジョンで千葉名産の落花生がとれるわけではないのと同じように、北海道のダンジョンだからといって北海道名産が獲れるなどということはないだろうが、しかしなんとなく、イメージだけで言うならば可能性はありそうな気がしてきた。

 

 北海道には確か、2つほどダンジョンがあったはずである。

 ヘノが思い当たらないということはティタニアが治めている領域ではないのかもしれないが、しかし機会があれば北海道ダンジョンの食材を調べてみるのも面白そうだ。

 

 

 

 

『あ、お母さん。私そろそろいくね。探索者さんたちの、お世話してこなきゃ』

 

 そして、魚を食べ終えて。三人でまったりした時間を過ごしていると、おもむろに萌々子が立ち上がって、帰りを宣言する。

 マヨイガは風景からは時間感覚が分からないので、桃子も言われてから端末で現在時刻を確認するが、確かにそろそろ日も傾いて夕食時である。

 見えない座敷童子が夕食の準備を手伝っていることに不思議なものを感じるが、探索者たちの世話をするのも座敷童子の存在意義なのだろうから、仕方がない。

 

「そっか、もうこんな時間か。うん、気を付けてね? 次に来れるのはいつになるかわからないけど、ひとりで大丈夫?」

 

『うん。お母さんのことなら、離れてても分かるよ。ありがとう、また来てね!』

 

 そして、言うが早いか萌々子はその場からスッと掻き消えてしまう。これは【隠遁】ではなく、本当にこの場所から消えているらしい。

 過去には女王ティタニアが鵺の魔力の籠った紅珠に空間転移の魔法を付与したこともあるし、なんならりりたんが即席で空間転移の門を作り出したことがある。

 萌々子のそれはまたその二者の空間転移とは違うもののようではあるが、なんにしてもダンジョン内を自由に行き来できるのはとても便利そうだなと思った。

 きっと既に今ごろは萌々子は探索者たちの元へとはせ参じ、彼らから見えなくともあれこれと世話を焼いているのだろう。

 

「なんだかあいつ。桃子よりも。忙しそうだな」

 

 ぐさり。

 今日はずっと囲炉裏でだらけていただけの桃子の胸に、ヘノの言葉が鋭く突き刺さる。

 

「ヘノちゃん、私も一応、平日は働いてるからね……?」

 

 平日は働いている。

 だがしかし、工房が冬季休業に入ってからは、連日こうしてヘノと一緒にだらける時間を過ごしているのだった。

 最近は柚花と共にダンジョンを訪れることの多い桃子だが、年末年始となると柚花は両親の実家へと帰郷中らしく、房総ダンジョンには顔を出せないとのことだ。

 なので、昨日はポンコと。今日は萌々子と。そのような感じで、連日ダンジョンの友人たちと共に、ぐうたらだらける時間を送っていたのであった。

 

 とはいえ、桃子も年末年始はやはり実家に帰らねばならない。

 実家と言っても都内なのだが、さすがにその期間は家族と共に過ごしているため、ダンジョン内部まではやって来れない。つまり、数日の間はヘノともお別れだ。

 数日とはいえ、年末年始にヘノと会えないのはとても寂しく思う。

 

 しかし桃子がそれをヘノに訴えると。

 

「桃子。普段だって。月曜日から金曜日まで。ダンジョンこれないだろ」

 

 と、意外とそっけなく返されてしまった。

 

 ヘノの言葉は全くその通りだったので、桃子はすごすご引き下がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【その夜のこと】

 

 

『先輩、年明けに北海道のダンジョンに一緒に行ってくれませんか?』

 

「え、柚花って超能力者?」

 

『なんのことですか?』

 

「あ、ううん。こっちの話。でもなんでいきなり北海道なの?」

 

『それがですね。ギルド経由で、招待状が届いたんです。「探索者 タチバナ様宛」で。同伴者1名までって……』

 

「怪しいじゃん」

 

『怪しいんですけど、私は行きたいと思うんですよね。なんせその招待された場所って、コロポックルの聖地「カムイダンジョン」ですから』

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