ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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魔石とフラグ

「うわぁーん、ニムさん会いたかったですよう」

 

「うぅ……ゆ、柚花さん、私も会いたかった……めそめそ」

 

 年があけて西暦は2024年。三が日が明け、柚花はようやく房総ダンジョンへと訪れることが出来るようになった。

 柚花がダンジョンへと足を踏み込むと、すぐにそれを察知したニムが飛んできて、己のパートナーである柚花の胸へと飛び込む。

 そんなニムを両手で大事に包みこみ、柚花もまたニムの感触をその胸で感じていた。

 年末年始のほぼ1週間近く会えなかった二人の、感動の再会である。

 

「うんうん、感動の再会だねえ、もらい泣きしちゃいそう」

 

「さすがに。一週間くらいで。大袈裟すぎないか?」

 

 なんとなく雰囲気で涙腺が緩くなってしまう桃子。

 そしてその横では、三人のテンションに置いて行かれた風の妖精が不思議そうに首を傾げている。残念ながら、この場では多数決により、ヘノのほうが少数派である。

 

 

 

 そんな感動のハグを終えた一同は、例の如く他の探索者が通るルートを避けて、人のいない遠回りルートを歩きながら第一層の森の中を進んで行く。ヘノが広範囲の索敵を担当し、魔物が近ければ柚花が殲滅という、いつもの役割分担だ。ちなみに桃子とニムは応援係をしている。

 そんな道のりにて、少女たちは互いの正月の報告を聞いていた。

 

「先輩はお正月は何かありましたか?」

 

「うん、ヘノちゃんたちと色々行ってきたよー。餅つきイベントのお餅食べたり、ポンコちゃんにお餅の入ったおうどん食べさせて貰ったり、あとマヨイガでも餅つきをしてて、私もこっそりお餅貰っちゃったよ」

 

「先輩のお正月、お餅食べてばっかりじゃないですか」

 

 桃子の語る年末年始の過ごし方。

 

 年の瀬には実家へと帰り、年末には学園時代の友人らと共に遊んだり買い物をしたりして過ごし、年があけ元日は家族とともに初詣。そして2日には千葉へと戻ってきて、その足でヘノたちと共に餅を食べ、そして3日にもヘノたちと共に餅を食べた。

 普段はカレーが主食の桃子と言えど、流石にお正月ばかりはお節やお雑煮、餅などの正月料理を食べるのだ。

 

「あ、違うの違うの。ちゃんとゴブリン一掃とか、スライム殲滅とか、一反木綿乱獲とか、探索活動もしてたんだよ?」

 

「ラインナップがお正月から物騒すぎません? まあ、楽しいお正月を過ごせたようで何よりですけど」

 

「うん、さすがにお餅食べすぎて、お腹いっぱいだったけどね。素材も集まったし、楽しかったよー」

 

 なにも、桃子とて正月からダンジョンに餅を食べに来たというわけではない。

 ならば桃子の目的は何だったのかというと、ダンジョン素材集めである。スライムの殲滅も、一反木綿の乱獲も、彼らから出てくる素材が目的だ。ゴブリンはただ居合わせただけだが。

 なお、素材を集めて自分の手で何かを調合したりするわけではない。【創造】の使い道次第では調合も可能かもしれないが、とりあえず今のところは、素材の大半は売却予定だ。

 要は、お金である。

 

 桃子は他の探索者ほど装備などにお金をかけてはいない。だがしかし、独り暮らしを続け、そしてヘノと存分に遊ぶためにはやはり最低限の準備資金や、カレーの材料費は必要なのだ。

 つまり、スライムや一反木綿に対する仕打ちは、すべて遊ぶ金目的の凶行だった、と言える。

 お陰で素材は大量に手に入った。

 

 流石に、先日のお店で同じものをまた一気に大量売却などという真似はしない。出所を説明できない以上、どうしても怪しまれてしまうし、品物の価値も下げてしまうことになるからだ。

 なので入手した素材自体はまだ手元に残っている。

 しばらくしてほとぼりが冷めた頃に、また売りに行こうと思っている。

 

 なんにせよ、素材集めとしては年明け早々なかなかの収穫を見せたのだった。

 

「いいなあ、私も先輩と一緒にお餅と殲滅の旅に出たかったです」

 

「まあ、次の機会にね。っていうか、明日から一緒に北海道の旅に行くんだからそれで良くない?」

 

「うぅ……明日から、お二人とも遠くに行ってしまうんですねぇ……ど、どうか、ご無事で」

 

「ニムさん、そんなに泣かないでください。あくまで3日間、ペンションに泊まりに行くだけですから」

 

 餅の話から、話題は北海道の話へと移っていく。

 今日は桃子と柚花が揃って房総ダンジョンへとやって来たが、明日には二人とも飛行機に搭乗して北海道へと旅立つのだ。

 あくまで二泊三日予定の旅路ではあるが、ニムが過剰に心配してくるので、まるで長い旅路へと出るかのような錯覚に陥りそうだ。

 

 そして、その旅行に対してヘノが疑問の声をあげる。

 

「桃子は。【隠遁】があるけど。また。こっそり侵入するのか?」

 

「いやいや、さすがにそんな泥棒みたいなことはしないよ。一応、向こうのギルドを通して私のスキルについては説明してくれてるみたいだから、対応してくれるんだって」

 

「でも。桃子の姿は。説明されたところで。見えないんだから。対応も何もなくないか?」

 

「そこなんですよね。なのでペンションのオーナーさんも、先輩を認識するのは諦めて『探索者タチバナには人には見えない同行者がついている』という形で対応してくれるみたいですよ」

 

「なんか私、柚花の守護霊みたいだね」

 

 桃子は、ダンジョンの中では他者から認識されない。

 なので、ダンジョン内の施設に入ったところで、そこの従業員から気づいてもらうことが出来ない。これはうどんダンジョンでも経験したことだった。

 しかしそこはさすがに正式なギルド。事前に連絡を取り合い、桃子のスキルについての情報を共有し、その上できちんとペンション側も対策をとってくれるようだ。

 桃子を認識できなくとも、タチバナは認識できる。そして、タチバナにもう一人同行者がいるという設定で動けば、自然と桃子も受け入れられるという仕組みだ。

 

「……も、桃子さんを見るんじゃなくて、柚花さんに一人ついていると、考えれば、わ、忘れることはないんですねぇ」

 

「すごいよね、その対応方法を考えた人は天才かもしれないよね」

 

「なんか。複雑だけど。とにかく。桃子のスキルは相変わらず。扱いが大変っていうことだな」

 

 ヘノは桃子の肩に腰を下ろしたまま、その親愛なるパートナーの横顔を覗き見るが、当の桃子はにこにこ笑顔を浮かべている。

 癖の強いスキルに振り回されてもなお笑顔で喜べる桃子が、ヘノはやっぱり大好きなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、明日から先輩と二人で、北海道のカムイダンジョン行ってきますね、女王さま」

 

「はい。お二方とも、聞けばそのダンジョンは第一層から厳しい環境にあるという話ですし、どうかご無事で」

 

 妖精の国、女王の間にて。

 先日桃子が報告した内容ではあるものの、柚花もまた自分の口から改めて妖精たちの女王、ティタニアへと旅行の旨を報告していた。

 二人には行動を逐一女王に報告しなければならない責務などはないのだけれど、やはりヘノやニムの加護を貰っている身としては、ティタニアは直属の上司みたいなところがある。

 杏に怒られたときの桃子ではないが、管理している立場の上司に対して報告・連絡・相談はしっかりしておくに越したことはない。

 

「もちろんです♪ ニムさんに心配をかけないよう、気をつけて行動しますね」

 

「でも女王さま、あくまで私と柚花の二人でペンションに泊まるだけですから、大丈夫ですよ」

 

「……それだけならば良いのですが、ダンジョンというのは何があるかわかりませんからね。ヘノ、ニム、例のものを」

 

「いま持ってくるぞ」

 

「は、はいぃ……」

 

 ティタニアは、やはり自分の管理していないダンジョンの話だからだろう。何やら表情が硬い。

 桃子としてはそこまで危険な話ではないと思っているので、ティタニアの心配に対して多少は首をひねる部分もある。しかし、ダンジョンは何が起こるかわからないのは事実だ。ティタニアが心配するのも当然なのだろう。

 更にどうやらティタニアは、二人のために何かを準備してくれている様子である。

 

 ティタニアに声をかけられたヘノとニムが、女王の間の奥の部屋へと入っていく。

 そういえば奥の部屋は桃子も見たことがなかったのだが、どうやら物置のような部屋にでもなっているのだろう、少ししてから、ヘノとニムは何かを手に持って戻ってきた。

 

 

 

 

「桃子。これ。ヘノが魔力を込めたんだ。使えば風の魔法が使えるから。何かあったときのため。持っておくといいぞ」

 

 それは、一つの魔石であった。

 桃子が普段工房で触っている魔石と比べても、それはきちんと形を保っている立派なものだった。

 どうやらなんと、その魔石にヘノが風の魔法を込めているらしい。

 

「わあ、一生大事にする!」

 

「一生大事にするんじゃなくて。何かあったときに使う奴だぞ。それ」

 

 桃子の反応にヘノは無表情でツッコミを入れるが、しかし桃子は嬉しそうにその魔石を両手で包み込んでいる。

 相変わらず表情が殆ど変わらないヘノであるが、ティタニアやニムならば、このときのヘノの口元の緩みにも、もしかしたら気づいたかもしれない。

 

 

 

 ヘノと同じくニムも、やはり柚花へと立派な魔石を手渡している。

 

「ゆ、柚花さんも。こ、これ、癒しの水の魔法が、籠ってます……」

 

「ありがとうございます、ニムさん♪ これで、多少の怪我も怖くないですね!」

 

「うぅ……で、でも、怪我とかしないで、くださいね……?」

 

 ニムが手渡した魔石には、癒しの水の魔法が付与されているという。

 癒しの魔法。それは使い道がハッキリしており、そしていざという時の命綱となる貴重なものだった。

 柚花とてわざわざ怪我をしたいわけではないので、これを使わないに越したことはない。だから、可能な限りはこれを大事にとっておこうと思う。

 柚花もまた、ニムの心の籠った贈り物を、大事に、大事に受け取るのだった。

 

 

 

「それと、私からはこちらを。これは純粋に、私の魔力が込められたものです。紅い珠ほどの魔力量はありませんが、いざというときのためにお持ちください」

 

 そして、ヘノとニム同様に、ティタニアから手渡されたものも魔石である。

 それは、鵺から出て来た紅珠ほどのものではないにしろ、滅多に見ることのないようなサイズの綺麗な魔石だった。

 

 それには女王ティタニアの魔力が込められているという。

 魔力とは、ダンジョン内ではある意味ではすべての物事の根幹に存在するエネルギーだ。

 ティタニアの込めたエネルギー量は、それこそ人間一人ではまず捻出できないほどの、膨大なエネルギー量――いや、膨大な魔力量を秘めているのだった。

 

「わ、わあ……でっかい魔石ですね。ティタニア様、こんな凄いもの受け取っていいんですか?」

 

「どうぞ。お二人の安全のために、是非とも活用して頂きたく思います」

 

「先輩、ここはきちんと受け取っておきましょうよ。特に先輩はほら、トラブル体質ですしね」

 

「トラブル体質って……うーん、私としてはそんなつもりはないんだけどなあ」

 

 実際に、ここ数か月は何かと色々な場所でトラブルに巻き込まれているので、桃子もトラブル体質という称号に対して否定しようにも否定しきれない。

 とはいえ、まさか柚花と一緒にペンションに泊まっただけでトラブルに巻き込まれるなんて、そうそうないだろう。

 これが推理漫画の主人公だったらとんでもない事件に巻き込まれるんだろうけどね、と桃子は軽く笑い飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【りりたんの朗読チャンネル】

 

 

 ――つまり。真犯人【雪山のペテン師】はこの中にいる。

 

 絶対に、暴いて見せる。ひいひいお爺ちゃんの誇りにかけて。

 真実は、いつもひどい!

 

 

 はい、推理パートはここまでですね。

 解決編の朗読は、次回を予定しておりますよ。

 

 さて、途中からいらした方もいるみたいなので、改めて挨拶です。

 

 おはようございます、こんばんは、りりたんです。

 今日も静かなダンジョン内で、朗読をしていきます。

 モンスターとは戦いません。探索もしません。朗読をしていきます。

 

 今日は、有名な推理漫画を朗読しておりましたよ。今回までが推理パートで、次の話からは解決編が始まるみたいですね。皆さまは犯人、わかりましたか?

 

 推理漫画って、面白いですね。主人公が行く先々で、とにかく事件に巻き込まれてますね。

 推理漫画の主人公がどこかへ旅行へ行くことになったりしたら、確実にそこで事件が起きますからね。

 知っておりますか? 俗に『フラグ』と言うらしいですよ。

 

 ふふふ。りりたんのお友達にも、いるんですよ。ことあるごとに、フラグをたててしまう方。

 ただ今年は年明け早々、どうやらりりたんの把握していないフラグをたててしまったようなので、りりたんも困っているのですよ。

 事件に巻き込まれるなら、りりたんが把握している場所で巻き込まれてくれると良いのですけれどね。

 

 ふふふ。まさか私が蚊帳の外で出し抜かれるとは思いませんでした。どうしたらよいでしょうね。

 

 ええ、お友達のお話ですよ。とても大好きな、自慢のお友達なのですよ。

 りりたんのいない場所で、妙な事件に巻き込まれなければいいのですけれどね。

 

 皆さんは、どんなフラグをたてていますか? フラグには、ちゃんと気を付けないといけませんね。

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