ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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看破と美少女中学生

 雪と氷のダンジョンを進む。

 

 左右には真っ白い氷に彩られた針葉樹林が並んでいるが、中央に続く街道は広く開拓されており、比較的歩きやすい。

 とはいえ、やはり流石に慣れない雪道。更には房総ダンジョンよりも魔物も強く、殺意が高い。

 ちょうど雪道の向こうからやってきた地元の探索者たちと出会い、マグマやアカヒトが率先して情報交換をしている間に、柚花は少し離れて休憩をとっていた。

 これ幸いと柚花は配信カメラを起動するフリをして、何かしらの記録映像の撮影をするという体で距離をとっているため、今なら桃子と会話をしていても誰も気にとめないだろう。

 

「さすがに、最低限の荷物だけとはいえ雪道はなかなか大変だね。柚花、大丈夫?」

 

「先輩は元気ですね、さすが雪ん子の雪ちゃんですよ」

 

 開けた場所で、大きな切り株の上の雪を軽く払い、桃子と柚花は並んで腰を下ろす。

 桃子が前方を見遣ると、視界の向こうではマグマが地元の探索者のもつ武器を見せて貰い、なにやら大きな声ではしゃいでいる。なんの話をしているのかは分からないが、どうやら見知らぬ武器にテンションが上がっている様子である。

 マグマの横ではえあろが呆れたように腰に手を当てている。どうやらえあろはマグマのストッパー的なポジションなのかもしれない。

 

 桃子は遠くを見ていた視線を横に向けて、柚花の顔色を覗き込む。

 

「柚花は……元気ないね。雪道が苦手だった?」

 

「まあ、それもありますけど。私って今、足手纏いじゃないですか。【看破】で魔物に気づくとは言っても、ここの魔物って慣れたらある程度の距離から索敵出来ますし」

 

「うーん、そっかー。電撃って雪と相性悪いんだねえ」

 

 桃子は決して柚花を足手纏いだなんて思っていないが、しかし柚花の雷属性魔法がこのダンジョンでは効力を発揮しきれていないのはわかる。

 とはいえ、そんなのはただの相性の問題だ。それに、今回は自分たちは招待された側であって、魔物の討伐を目的にして訪れたわけではないのだから、気にすることはないと桃子は思う。

 しかし柚花はため息をついて、自分の手を見つめる。そこからは、小さな雷が雪へと放出されるが、しかしパチンと弾けてすぐに雷は消える。

 

「先輩、知ってますか? 足手纏いって、嫌われるんですよ」

 

「柚花?」

 

「先輩が隙だらけなんで、いきなり自分語りはじめちゃいますね」

 

 そして、何の前触れもなく柚花が話しだした。

 冗談めかした言葉を使っているものの、でもいつもの元気な柚花ではない。陰鬱で、今にも泣き出しそうな、小さい声だった。

 

 

「私が見習い探索者だった頃は、散々だったんですよ。新宿ダンジョンなんていう場所で14歳のヒヨッコを引率するベテラン探索者たちは、それはもう殺気立っていて」

 

 柚花は静かに語りだす。柚花の最寄りのダンジョンは、危険性の高い新宿ダンジョンだ。

 14歳の柚花は、その新宿ダンジョンの見習いからスタートしたのだろう。

 

「口では理性的に取り繕っても、『足手纏いだ』『なんで出来ないんだ』『ちゃんとしてくれ』って。言葉で言われたわけじゃないんですけど、そういう感情を向けられてるのが分かっちゃって」

 

「そう、なんだ」

 

 新人探索者というものは、どうしたところで皆の足を引っ張るものだ。そして、引率者とて人間なのだから、それに対して内心では舌打ちすることもあるだろう。

 ただ不幸なことに、柚花にはその心の中の舌打ちが、全て聞こえてしまうだけだ。

 

 恐らくは、そのベテラン探索者が悪人だったとか、そういう訳ではない。

 むしろ、難易度の高い新宿ダンジョンで新人の引率を引き受けるなど、その時点で並みの探索者以上には新人想いであり、ギルドからの信頼もあったはずだ。

 でも、だからこそだ。

 

 信頼すべき相手から陰で舌打ちされるのは。それに、自分だけが気づいてしまうのは。とても辛いことだ。

 

「まあ、足手纏いで身体の動かし方もわからないひよっこでも、見た目は美少女中学生でしたからね。怒鳴られたりはせず、扱いはよくしてもらえましたよ。向けられる感情は本当に嫌でしたけど」

 

「そっか……」

 

 そして、少しの沈黙。離れた喧騒と、二人の白い息だけ時間を刻む。

 柚花が、サカモトの性的嗜好を目の敵にするのは、そういう視線に晒された日々の経験が下地にあるのかもしれない。

 

「だけど、そんな理不尽なことで諦めたくなかったんです。スキルには恵まれていましたから、隠し扉を見つけて、あっという間にスクロールを拾って。せめて、足手纏いにはならない様にって」

 

「うん、柚花はその年齢でも滅茶苦茶強いもんね。頑張ったんだね」

 

「でも結局、ただ【看破】を便利に使わせたいだけだったり、笑顔で妬みややっかみを向けてくる人もいて。私だけがそういうのに気づいちゃう境遇に嫌気がさしました」

 

「だから、柚花はソロを選んだんだね」

 

 以前、共通の知り合いであり柚花の事情を知っているギルドスタッフの窓口杏からも、柚花についての話を聞かされていた。

 柚花の持つ【看破】というスキルは思春期の少女の人格形成にも影響しており、根っこのところで他者に対して不信感が強いところがある、と。

 だから、柚花が唯一懐いている桃子だけが頼りであり、どうにか彼女を一人きりにしないで欲しいと。桃子はそう、頼まれたことがある。

 

 そんなこと。

 頼まれずとも。

 

 言われずとも、桃子は柚花を独りにする気はないし、なんならむしろ、独りきりだった桃子に救いの手を差し伸べてくれたのは柚花なのだ。ヘノという無二の友がいたとしても、同じ人間として、ダンジョン内で桃子を対等に認識してくれるのは、柚花だけなのだ。

 恩人でもあり、そして大切な後輩でもある柚花を、桃子が見捨てるはずがない。

 

 しかし、桃子の想いはともかくとしても、柚花からそのような過去の話をしっかりと聞かされるのは、初めてだった。

 

 

「その時、新宿ダンジョンに一時的に研修にきてた窓口さんが教えてくれたんです。房総ダンジョンにも、スキルの都合でソロでずっと頑張ってる女の子がいますよ、って。その時はわかりませんでしたけど、それってどう考えても先輩のことでしたよね」

 

「ああ、だから柚花って窓口さんとは最初から仲が良かったんだね」

 

「窓口さんは探索者じゃないので私を妬んだりもしないし、純粋に親身になってくれました」

 

 柚花は、桃子と同様に杏のことも慕っていると思う。これはきっと、柚花が本当に追い詰められていたときに、唯一救いの手を差し伸べてくれたのが杏だから、だろう。

 しかし彼女はギルド職員。桃子のようにダンジョン内で柚花と過ごせるわけではない。

 

「そして先輩は、私がいるだけで純粋に喜んでくれました。今でもいつも、笑顔で喜んでくれます」

 

「えへへ、ダンジョン内で私を見てくれるのって柚花だけだからね。でも、こういうのって『傷の舐め合い』っていうんだよ? あんまり良いことじゃないかもしれないよ?」

 

「私はそれでもいいですよ。傷を舐め合う相手がいるだけでも幸せなんですから。私が怪我したら先輩がちゃんと綺麗に舐めてくださいね」

 

 白い息。そして、二人とも頬がほんのりと紅潮している。

 これはきっと、寒さのせいだ。

 

「でも、ニムちゃんがいない場所でこんな話したら、ニムちゃんが嫉妬しちゃうよ?」

 

「先輩は人間で一番、私を安心させてくれる人です。ニムさんは妖精で一番、私のことを理解してくれた子です。どっちも一番ですよ」

 

「ヘノちゃんは?」

 

「ヘノ先輩は、エキセントリックすぎて私の手には負えません。ヘノ先輩は先輩だけのものです」

 

 柚花の語るヘノ評に、桃子はつい吹き出してしまう。確かに、ニムと違ってヘノはとても行動的で、桃子もいつも驚かされてばかりだ。

 きっと今も遠くで、ヘノが思い付きで行動して、ニムがおろおろしながらそれに振り回されているのかもしれない。

 大好きな妖精たちの姿が、脳裏にありありと思い浮かぶ。

 

「まあ、そんなわけで! 琵琶湖の方々も、香川の方々も、人としてはいい人なのは理解してますけどね。それでも、足手纏いになるのが怖いなっていうのが、私の本音です! でもまあ、頑張りますよ」

 

「よし、応援するよ! がんばれがんばれゆーか! すごいぞすごいぞたーちばな!」

 

 どうやら目線の先では現地の探索者たちとのやり取りも終えたようで、えあろが柚花へ向かって声をかけている。どうやらそろそろ出発するようだ。

 柚花は気合を入れるように立ち上がり、えあろに手を振って返す。

 

 そして立ち上がると、ふと思い出した用件を一つ、桃子に軽く伝える。

 

「そうだ先輩。今夜はお説教ですから、覚悟しておいてくださいね」

 

「なんで?!」

 

 

 

 

 

 

 

「こちらがペンション『パイカラ』の入り口となります。私はここまでの案内なので、あとは中に入ればオーナーから案内があるはずです」

 

「ああ! スタッフさんも、ここまでありがとう! また縁があれば一緒に戦おうな!」

 

「ここのダンジョンは滅多に地形の変動もありませんから、帰りも今の道となります。もしその時にご一緒出来れば、また」

 

 ダンジョン内の慣れない雪道を進むこと2時間弱。

 流石は全員が並以上に腕の立つ探索者である。一般的な探索者ならば更に時間をかけていただろう距離を、彼ら個々人の身体能力と経験、さらには魔力による補強も相まって、途中で休憩や魔物の襲撃を挟みつつも、この時間でペンション『パイカラ』へとたどり着いた。

 地元の探索者以外に、この時間でたどり着く人たちは滅多にいないと、案内役の男性も驚いていた。

 

 なお、道のりでは好き放題に遊撃として歩いていた桃子も、それなりの量の魔物をハンマーで煤へと還していた。何気に大きい魔石が拾えてホクホクである。

 

 

 そして、一同は『パイカラ』を見上げる。

 周囲には魔物対策のために物々しい大きな柵と塀で囲ってあるため、景色としてはあまり良いものではないが、しかし目の前に立ってみればそれは実に立派なペンションだった。

 しいて言うなら、部屋数や施設も多いために、ペンションと呼ぶには少々巨大ではあるが。

 

「柚花。多分ここのオーナーが、私たちに招待状を送ってきたんだよね……」

 

「ええ、先輩。気を付けてください。先輩の関係者を招いているのだとしたら、先輩の身柄を狙っている可能性もありますから」

 

「身柄って……まあ、でも気を付けるよ。【千里眼】とかを自由に使ってたりりたんを出し抜くほどだから、サイコメトリー能力くらい持っててもおかしくないからね」

 

 雪道を進むことでいっぱいいっぱいで失念していたが、結局このメンバーを選んだ人物、そしてその意図については謎のままだった。

 偶然にせよ、意図的にせよ、たまたま桃子の関わった人々が選ばれただけというのは考えにくい。しかも、りりたんをも出し抜く形でだ。

 そこには何かしらの、理由があるはずで。

 

「サイコメトリーはこの場合違う気もしますけど。でも確かに、ただの勘とか情報だけじゃない、特殊な能力が――」

 

 しかし、柚花の言葉はペンションの奥から聞こえて来た、女性の叫ぶような声で途切れる。

 叫ぶ声と言っても、何かの事件とかそいうものではない。ただただ、柚花と桃子が思考を停止する内容だったのだ。

 

 

 

 

「ホットワインお代わりくださいまし!! 極寒のダンジョンで飲むホットワイン、至高ですわっ!! 最高ですわ!! んあぁーッ!!」

 

 

 

 

「わー……聞き覚え」

 

「先輩、今のってやっぱりあの人ですかね」

 

「あのね、柚花。もしかしたらだけど、今回の招待客がどうやって選ばれたのか、私わかっちゃったかもしれない」

 

「奇遇ですね、私もです。でも、散々あれこれ推理させておいて、そんなオチあります? 実はただのお告げで選ばれましたとか、まるでギャグじゃないですか」

 

 

 二人は思い出した。

 

 それは神のお告げ。

 その意図は、お告げを代弁した本人にもわからない。

 恐らく、深潭の魔女にすら見通せないであろう、未来を指し示す能力。

 

 因果を先読みし、未来を指し示す、【天啓】というスキルの存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

「桃子がいない間に。新しい食材を探して。驚かせてやろうと思うぞ」

 

「はぁ……ど、どこかに行くんですかぁ? い、行ってらっしゃーい……」

 

「なんで。手を振ってるんだ。ニムも行くに。決まってるだろ。今日は砂漠のダンジョンに行くぞ」

 

「わ、私が……砂漠に行くんですか? 嫌ですよぅ……!」

 

「大丈夫だ。ただ。とっても暑くて。カラカラに乾いてるだけだろ」

 

「わ、私は水の妖精なんですよぉ……? うぅ、ヘノに殺されますぅ……ヘノの私殺しぃ……」

 

「なんだ。私殺しって」

 

「ええと、それはですね……? ひ、人を殺すのが……人殺しなので、私を殺そうとするヘノは……私殺しなんですよぉ……?」

 

「そうなのか。ニム殺しじゃ。駄目なのか?」

 

「鬼殺しのお話ね♪ お酒の名前よ♪ お酒、飲みましょ♪」

 

「なんだ! 鬼か! 知ってるぞ、桃と犬と猿がキジ団子で倒すんだろ!」

 

「ククク……毒団子……」

 

「なんなんだお前ら。ぞろぞろ出てきて。もう。なんの話だったか分からなくなっちゃったじゃないか」

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