ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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集う乙女

「みて柚花。あそこに大きな肖像画があるよ。家族写真……じゃないね。『我が友たち』だって」

 

 ペンション『パイカラ』のロビー正面には、額縁に入った絵が飾られていた。

 絵には、独特の民族衣装を身に着けた人物が3人。お爺さんに、男の子と女の子。子供二人は顔立ちがどこか似ていて、まるで双子のような佇まいだ。

 三人ともが、手に身長よりも大きな蕗の葉を手にしているのが特徴的だった。

 

「これ、コロポックルの絵ですね。それに先輩、額縁の下に飾ってある服、コロポックルの服だそうですよ」

 

「確かに絵にかいてるみたいな民族服だけど、コロポックルって、もうかなり昔にいなくなっちゃったんだよね? 服なんて残ってるものなの?」

 

 桃子が額縁の絵を見つめていると、柚花はその下に飾られていた衣装に注目する。

 それは額縁の中に飾られている絵の女の子と同じ衣装だ。横に貼られている説明書きには、コロポックルの着ていた衣装だと書かれている。

 一体どういう経緯で、少女の衣装だけがこの場に残されているのだろう。服をはぎ取ったなどというわけではないだろうが、不思議である。

 

 桃子はそんな疑問を他所に置いておき、そこに飾られている衣装を改めて見てみる。

 白地の羽織に似た形状の着物で、合わせの部分と袖口が鮮やかな青色に染められている。また、同じ青い染料で染められた小さな布は、頭にかぶる頭巾で、形状的にはバンダナのようにも見える。

 どちらも実物だとしたらそれなりの年代物なはずだが、しかしそこに飾られているそれは色鮮やかなままで、独特の刺繍にはほつれ一つもない。

 

「かなりの魔力が籠ってますよ、これ。本当にコロポックルの服かどうかはわかりませんけど、ダンジョン装備の一つなのは間違いないですね。先輩、つけてみますか?」

 

「わ、記念に試着してもいいんだね」

 

 説明には、記念に試着をどうぞと書いてあるのを見て、桃子もそれならばと遠慮なく手をのばした。

 見た目が劣化していないのは、魔力によって状態が保たれているということなのだろう。桃子が雪ん子になるときに愛用しているわら帽子も、魔力によって最適の状態が保たれていたのだが、それと同様なのだろうと思う。

 手に取ると、見た目に反してしっかりと丈夫そうな布地の感触がある。

 北海道に住んでいた先住民族は、木綿の他にも樹皮を加工して作った布を利用していたとのことだが、このコロポックル装備も同様の素材で作られているのかもしれない。

 

「みてみて柚花、これ頭につけるやつ、私にぴったし!」

 

「先輩、明日にでもその衣装つけて手当たり次第に人助けとかしませんか? コロポックルの目撃談増やしましょうよ。コロポ作戦です」

 

 桃子は飾られていたコロポックルの頭巾を手に取って頭に被ってみる。

 鏡がないので自分がどういう姿に映っているのかは分からないが、装着した感じとしてはなんだかサイズが丁度良い。

 サイズがたまたま近かったというよりも、何かしら魔法的なもので桃子にフィットしているようにも思える。

 

「コロポ作戦って、本気でやるつもりだったの? ……ってあれ? 取れなくなっちゃった」

 

「ちょ、先輩、なにしてるんですか?!」

 

 コロポ作戦は、確かに理に適っている。桃子の【創造】はコロポックルを復活させる手段の一つでもあるし、そしてそれは人々の目撃談、信じる心があってのものだ。

 ただ、よそ者である自分が勝手にコロポックルを名乗って、人々を騙すこと。ぬか喜びをさせること。それについてはやはり、抵抗感を拭えない。

 過去のあれこれを考えれば今更な悩みではあるけれど、だからと言って堂々と開き直れるほど、桃子は人を騙すのに慣れているわけではないのだった。

 

 そんな風に、どうしたものかなと悩みつつも頭巾を脱ごうと思ったら、何故だか頭巾が頭から外れない。

 別に桃子の頭には引っかかるものはついていないし、頭巾がぎゅうぎゅうに締め付けて取れなくなっているわけでもない。

 ただ、まるで頭巾のほうから桃子の頭にしがみついているように、離れなくなってしまった。

 

 柚花も慌てて桃子の被った頭巾を外そうとするが、しかし動かない。

 

「うわ先輩、これ魔力で固定されてますよ?!」

 

「ええ?! 呪いの装備だったの?!」

 

 装備をすると外せなくなる。それはいわゆる、ロールプレイングゲームで言うところの呪いの装備品を彷彿とさせる。

 さすがにコロポックルの衣装が呪われていたわけではないと思うが、しかしどうしたものか。このままこれを一生装着し続けるわけにもいくまい。

 そう桃子があたふたしていると、ダイニングのほうからペンションのオーナー、雪村がやってきて声をかけてきた。

 

「タチバナさんに、その……同伴の方もいらっしゃいますか? そろそろ夕食ですから、ダイニングへどうぞ」

 

 柚花と、恐らく柚花の怪しげな挙動からそこにもう一人いるのだと考えたのだろう、桃子のいるあたりに視線を向けて、雪村は二人を夕食へと招く。

 気づけば、奥の調理場からはとても良い香りが漂ってきている。桃子も柚花も今日は色々と動いたので、美味しいご飯の香りは強敵である。

 

「ねえ、柚花。ご飯に遅れてもみんなの迷惑になっちゃうし、とりあえずはこのまま行こうか。すごくフィットしてるから、そんなに不快なわけでもないしね」

 

「え、まあ、先輩がそれでいいならいいですけど……」

 

 さすがに他人の所有物なのでいつかは返却しなければいけないだろうが、取れないものはしょうがない。なにせ、桃子から離れようとしないのは、衣装の意思なのだ。

 なので、今はコロポックルの頭巾はそのままにして、桃子は夕食へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「ごきげんよう、タチバナさん。お久しぶりですわね」

 

 ダイニングへ向かうと、そこには昼間のパーティにはいなかった女性が、優雅に椅子でくつろいでいた。彼女の斜め後ろには、白髪交じりの老執事が控えている。

 彼女こそは、深援隊所属の探索者であり、何を思ったかたまに飲食配信を行っているお嬢様、オウカだ。

 本日も昼間からワインを飲んでいた疑惑があるが、今のところはアルコールが抜けているのか素面のようである。

 柚花とは鵺の討伐時に面識があり、その後は桃の窪地の戦いのときにも顔を合わせている。

 

 オウカは以前から医療を学んでいた上、スキルとしても癒しの術を得意としている。そしてその潜在魔力も高く、高レベルパーティである深援隊でも上から数えられるポジションだ。

 今では回復魔法のエキスパートとして小梅の師匠となり、色々と指導をしているらしい。

 柚花の知る限りでも、致命的に酒癖が悪いことを除けば、上から数えた方が早い有能な探索者のひとりである。

 

「オウカさん、お久しぶりです。そちらのお爺さまは?」

 

「オウカお嬢様がお世話になっております。私はお嬢様の執事で御座いますが、ここでは爺やとお呼びください」

 

 オウカの後ろに控えていた老執事、爺やが柚花たちへ向かい頭を下げる。

 パリッとしたスーツを身にまとい、手には白い手袋。目元にはモダンな丸眼鏡を装着した、漫画に出てきそうな老執事だ。

 柚花がその瞳に魔力を纏わせてその執事を見つめるが、しかしすぐに丁寧な挨拶を返す。

 

「タチバナです、よろしくお願いします」

 

「ササカワです、よろしくお願いします」

 

 柚花に続いて、コロポックル頭巾姿の桃子もつられて挨拶を返す。【隠遁】で爺やからは認識されていないのだろうが、これはただの癖。反射的な挨拶だ。

 柚花はそんな桃子をちらりと見てから苦笑を浮かべるが、しかしすぐにオウカに向き直った。

 

「で、オウカさん、今回の招待状ってオウカさんが一枚噛んでますよね?」

 

「おーほほほ、よくお気づきになられましたわね。でも、私はこちらの雪村オーナーの前で【天啓】を読み上げただけで、あとの判断は雪村オーナー自身によるものですわよ」

 

「ねえ柚花、【天啓】の内容も聞いてみようよ」

 

 やはり、今回の招待状には、オウカが一枚噛んでいたようだ。

 りりたんも予想していなかった北海道への招集は、【天啓】という、人ならざる何かの言葉によるものだった。

 桃子はその【天啓】の内容を聞くべく、柚花に声をかける。自分で聞ければ早いのだが、こういう時に相手から認識されないスキルというのは不便である。

 

「ちなみにオウカさん、その【天啓】とは?」

 

「ええと、なんでしたかしら。【天啓】は自分でも記憶が曖昧なのですよね」

 

 オウカのスキル【天啓】は、読んで字のごとく、天啓――すなわち、神のお告げの如きものがオウカの声を通して語られるスキルだ。

 だがしかしこのスキルは、所有者のオウカに対しての恩恵というのがさほどない。

 オウカに対する啓示も出てこないわけではないのだが、それを告げている最中はオウカはトランス状態になっているために、自分で自分の言葉を記憶するのが難しいのである。更には発動タイミングをオウカ自身が制御できないというオマケつきだ。

 なので、どちらかと言えばだれか他者がいるときに、その他者に向けて突発的に啓示を語るのがメインの用途となっている。

 

 つまりは、今回の【天啓】はオウカの口から語られたものではあるが、それを受けた人物は別にいて――。

 

「『護り手と縁ある乙女を集めよ さすれば 永き夜の終焉を示す選択肢が現れん』ですよ、オウカさん」

 

「あら雪村オーナー、聞いてらしたんですの?」

 

「ええ、ちょうど皆様もその話題を聞きたがっているようですので。いまここで説明させていただきます」

 

 ――天啓を受けた人物。それは当然、オーナーである雪村だ。

 

 オウカと柚花の会話が耳に届いたのだろう、エプロンを付けたままの雪村が奥の調理場からやってきた。

 どうやら今の会話はイリアやえあろと言った他の招待客たちも耳を傾けていたらしく、ちょうど良い機会として、雪村はこの場で説明を始めるつもりのようだ。

 

 

 はじまりは、数十年前。

 

 雪村がまだ10代の探索者だった頃には、このダンジョン第一層は今とは全く違う環境だった。

 緑の茂る、美しい第一層だった。夜になれば冷え込みはするものの、しかしそれも今の様に吹雪くわけではない。湖畔には大きな蕗が生い茂り、まるでそれが蕗で作られた迷路のようになっていたという。

 若き雪村がそこで出会ったのが、ロビーにも絵が飾られていたコロポックルたちだ。

 

 カムイダンジョン。

 

 コロポックルが存在したころは、この地を訪れる探索者たちは皆、守り神のいるダンジョンとしてこの場所をそう呼んでいた。

 

「彼らは、人間でこそなかったものの、私にとって良い仲間で、かけがえのない友でした。しかし、このダンジョンは変わっていってしまった……」

 

 その後、ダンジョンの環境の変化とともに魔物が跋扈しはじめる。それと共にコロポックルたちは弱っていき、ある日、大きな吹雪とともに彼らはこのダンジョンから消えてしまったという。

 その頃はまだ年若い探索者でしかなかった雪村は、時代が流れて探索者として引退をした後も、摩周ダンジョンギルド職員としてこの地を見守ってきた。

 雪村はその後もコロポックルたちへの気持ちを忘れられず、人々が彼らを忘れないようにと、このペンションのオーナーとなる道を選んだ。

 そして、今でも訪れる客たちに彼らコロポックルの思い出を語り続けているのだという。

 

 だが。

 

 近年は、以前にもまして魔物が増え、夜の吹雪も熾烈なものへと悪化していく。

 

 このままではいずれ、このペンションも危険になるだろう。

 その折に話題になったのが、妖精たちの目撃談であり、ドワーフであり、座敷童子であり、人魚姫だ。更には、遠く四国のダンジョンでは化け狸たちが再び人の前に姿を現わしたという。

 ダンジョンには魔法生物が住み着く。そして、彼らが住むダンジョンは、穏やかな環境を保持しているという。ギルド職員だった雪村も、少なからず魔法生物の特性というものは聞いたことはあるのだ。

 そこで、知人のつてを辿り、雪村が最後に頼ったのが【天啓】のスキルを持つオウカであった。

 

「彼女がここを訪れたのは昨年末。数日の滞在を経て、先ほどの言葉が紡がれました」

 

 

 

――『護り手と縁ある乙女を集めよ さすれば 永き夜の終焉を示す選択肢が現れん』

 

 

 

「それがつまりは、招待した皆様方、ということですわ。少なからず私もその条件に当てはまるため、今回また訪問させて頂きましたの。このペンションで頂くワインも美味しゅうございますのよ?」

 

「お嬢様は、乙女というには多少、お酒の癖が悪うございますがね」

 

 事情は分かった。分かったうえで、何をすればいいのかは分からないが。

 オウカの【天啓】により集められた乙女たちは、互いに顔を見合わせる。

 

 天の啓示は具体的なことは何も教えてくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

「仕方ない。砂漠はやめておくか。じゃあ。何か別な。カレーの材料がある場所を。探そう」

 

「カ、カレーって……そもそも、どんなものが、入ってるんでしょうか……?」

 

「桃子は。カレールーを入れてるから。カレーは。カレールーが入ってると思うぞ」

 

「な、なるほどぉ」

 

「じゃあ。カレールーを。探しにいかないとな」

 

「ち、地上のスーパー以外で、カレールーって。ありますかぁ……?」

 

「探せば。あるかもしれないな。まだ行ったことない場所を。探してみるぞ」

 

「はぁ……わ、わかりました。では、い、行ってらっしゃーい……」

 

「なんで。手を振ってるんだ。ニムも行くに。決まってるだろ。やっぱりあの。砂漠が気になるな。カレーがありそうな気がするぞ」

 

「うぅ、砂漠は無理ですよぉ……ヘ、ヘノに殺されますぅ……ヘノの私殺しぃ……」

 

「まて。このやり取り。知ってる気がするぞ」

 

「そ、それはきっと……デジャヴっていう……怪奇現象だそうです……うぅ……」

 

「そうか。怖いな」

 

「うぅ……怖い」

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