ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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配信と仮面の男

「爺や? わたくし常にお酒を飲んでいるわけではありませんわよ?」

 

「お嬢様はご冗談も得意でいらっしゃる」

 

 【天啓】を聞かされて硬直した空気が漂っていたが、オウカがいつもの調子で語り、老執事が軽いジョークを挟むことで、場の空気が弛緩する。

 老執事の言葉に小さく誰かが笑いを零し、それをきっかけにして他の面子もそれぞれで意見を交換し始めた。

 

「この歳にもなって、いざ乙女なんて言われると恥ずかしいわね。でも、護り手って……?」

 

「そりゃあ当然、夕凪さんとポンコの二人のことだろうな。彼女らとえあろの関係なんてのは、ギルドの人間ならすぐに調べられることだろ」

 

「……まあ、そうね」

 

 護り手、という言葉にまず反応したのは風祭えあろと炎城寺マグマだった。

 彼らのホームとしている香川ダンジョンに生息する魔法生物は、化け狸。彼らこそが、ダンジョンの護り手だ。

 そして、風祭えあろが縁を持つ化け狸といえば、友として、仲間として活動していた夕凪と、その忘れ形見の少女であるポンコだろう。

 

「えあろが乙女かどうかはわからねえけどな! こいつは前の彼氏とは相当拗れて――ぐあっ?!」

 

 マグマが余計なことを言いかけて、えあろがマグマの首を無表情で後ろから締め上げる。桃子は恐怖を覚えた。

 しかし桃子にとっては大人の男女による過激な痴話喧嘩だが、年輩の爺やから見れば微笑ましいものなのだろう。首を絞められているマグマを目を細めて眺めている。それはそれで恐い光景だなと桃子は思う。

 

 

 

「えあろさんってもっと穏やかなイメージでしたけど、風属性って、見た目に反して苛烈な性質になりがちなんですかね」

 

「あはは、ヘノちゃんもすぐツヨマージ振り回しちゃう可愛いところあるもんね」

 

 えあろによるマグマへの制裁を見た柚花は、自分の中の「風属性」というものに対するイメージが変わりつつあるのを感じていた。

 そもそも、風属性そのものと言える風の妖精ヘノが、何かとすぐに武器を取り出して敵と戦おうとするのだから、そういうイメージになるのも仕方がない。

 ちなみに、桃子には、それもまたヘノの可愛さの一つとして受け入れられていた。

 

 

 

「護り手……琵琶湖ダンジョンですと、人魚姫さまでしょうか。魔女様かもしれませんが」

 

「なんにせよ、俺たちが……というかイリアが招待されたのも、天の導きということか」

 

「ええ。永き夜を終わらせる選択肢……まあ、どのような選択が待ち受けるのかはわかりませんが、姫様ならば、摩周ダンジョンを救い己の力を示せと仰るはずです」

 

「そうだな。夜は終わらねばならない、朝日を迎えるべきだ。人魚姫の騎士として、その力になることに是非はない」

 

 えあろとマグマが痴話話で騒いでいる横で、琵琶湖の二人は非常にまじめに語り合い、そしてこのカムイダンジョンの力になろうと、誓いあっていた。

 人魚姫の騎士として、恥じぬように。

 

「あちらのお二人、いつのまにか人魚姫の騎士になってますけど」

 

「え、いや、人魚姫そんなこと言ってないよ? 二人ともなに言ってるの?」

 

 オリジナル人魚姫の桃子はあせあせと否定するが、当然桃子の声はイリアたちには聞こえない。

 仮に琵琶湖に【創造】による人魚姫がいたとしても、彼女も別に人間の騎士団を結成した覚えはないことだろう。

 だがしかし、イリアとアカヒトの意思は固いようだ。

 桃子は慌てているが、柚花としては見ていて楽しいので、これはこれで楽しく傍観することにしたようである。

 

 そして、柚花は考える。残る招待された乙女はオウカと、柚花本人。

 オウカにとっての関わりある護り手と言えば、ウワバミ様ことクルラだろうか。もしくは化け狸のクヌギか。

 雪ん子も存在はするものの、雪ちゃんはダンジョンの護り手というよりは、あの山村に居着く幽霊なので、カテゴリ違いな気がする。

 

 なんにせよ、あと残るは自分だが。

 

「護り手……となると、私の場合は萌々子ちゃん絡みか、化け狸の長に抱きついてるのをみられたかってところですかね」

 

「柚花、ずるい。私も長の大きな狸にハグしておけばよかったなあ」

 

「してもいいと思いますけど、先輩も里に出入り禁止を言い渡されますよ?」

 

「それは、困るかな」

 

 小声で、柚花は桃子と会話をする。

 傍から見れば柚花が独り言を言っているように見えるだろうが、今のところは誰もそれを気にしている様子はない。

 

「それにしても、多分乙女に対する配慮だったんでしょうけど、同伴者も許可したのは雪村オーナーにとって、最高の一手でしたよね」

 

「そうだね、それが無かったら私も柚花と一緒に旅行なんてこられなかったしね」

 

「まあ、そうなんですけど……」

 

 同伴者1名。

 それがなければ、真の意味で護り手と縁を持つ乙女がやってくることがなかっただろう。

 それとも、柚花が桃子を誘うことまで【天啓】は見抜いていたのだろうか。

 

 座敷童子。人魚姫。ドワーフ。妖精。化け狸。

 

 その全てと縁を紡いできた乙女がここにいることに、雪村は夢にも思っていないことだろう。

 ましてやその乙女が、いつまでもコロポックル頭巾を外せなくなっているなど。柚花ですらこの展開は読めなかった。

 

「その頭巾もう先輩と一体化してますよね」

 

「あ、忘れてた!」

 

 

 

 

 

「お客様がた、難しいお話は終わりましたか? お料理出してもよいですかね?」

 

「ああ、そうだった。皆さん、彼女はここの料理長の氷上さんです。もとは三ツ星レストランで腕を振るっていたんですよ」

 

 探索者たちのやり取りがひと段落したところで、調理場から様子を見ていたペンションの料理担当のおばさん、氷上が声をかけてくる。

 雪村オーナーと同様に頭髪は白髪交じりで、少なくとも桃子の両親よりも年齢は上だろう。

 『パイカラ』という特殊な環境があってこそだろうが、探索者というのは大半がある程度の年齢で身体的な限界が訪れ、引退を視野に入れるものだ。このペンションスタッフたちの平均年齢の高さはダンジョン界隈としてはかなり珍しい。

 

 そして、オーナーと調理スタッフたちが総出で、ダイニングに並べられたテーブルに様々な料理を運び込んでくる。

 サラダにスープ、唐揚げにローストビーフ、他にも炒め物や煮つけなどの惣菜が並び、すでにちょっとしたビュッフェレストランだ。残念ながらカレーはないが。

 

「柚花、すごいすごい。美味しそうなのがたくさんあるね!」

 

「先輩、人から見えてないとしても、ちゃんと落ちついて食べてくださいね? 先輩の食い意地、子供たちにも遺伝してるんですから」

 

「う、うん? まあ、おしとやかに食べるね、もちろん」

 

 小声で柚花に話しかけると、柚花から食い意地について注意されてしまった。

 桃子は決して、自分が食いしん坊だとは思っていない。だがしかし、座敷童子が謎の食い意地を見せていたのは事実であるため、もしかしたら件の松茸つまみ食いが尾を引いているのかと考えた。

 親の背を見て子は育つというが、桃子がもう少しお淑やかな食事を増やせば、萌々子もまたその影響で食い意地はおさまるのかもしれない。

 そう考えて、柚花の言葉にとりあえずは頷いておく。

 

「じゃあ、私はちょっと、配信でもさせてもらいますね! 実はもう許可は貰ってるんですよ」

 

「うん。美少女配信者タチバナ、頑張ってね。応援してるね」

 

 既に事前に他の客やオーナーたちからは配信許可をもらっていた柚花は、配信用のカメラを起動させる。

 桃子はそのカメラの画角に入らない様に注意しながらの食事になるが、その点は柚花も気を使ってくれるだろう。

 

 さっそく配信を始める柚花を眺めながら、桃子はさっそく用意されていた小皿を手に取って、ペンションの自慢の料理に手を伸ばしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【タチバナの真相解明チャンネル!】

 

 

 こんにちは、噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナでっす!

 はい、事前にSNSを見てくれていた視聴者さんは知っているかと思いますが、本日はあのカムイダンジョンこと、摩周ダンジョンに来ています。

 それで、今いるのはかの有名なダンジョン内ペンション『パイカラ』ですよー。

 

 このカムイダンジョンですけど、日が暮れたら外は吹雪いてくるんです。なのでほら、窓の外は見えますか? 雪がすごいです。夜になると風も強くなってくるらしいですよ。

 実際の雪山とかと違ってて魔法光でぼんやり明るいので、神秘的といえば神秘的なんですけど、薄着で外に出ようものなら1分も経たずに永遠の眠りについちゃいそうですね。

 めっちゃ寒いですよ。まあ、室内は暖炉とかで十分暖かいんですけどね。

 

 コロポックル? そう簡単に見つかりませんて。

 でも何となく、明日にでもすごい発見が出来そうな気がしてます。フラグですよフラグ。もちろん成功フラグですよ?

 

 え? 今はどこにいるのかって?

 時折ノイズが入る?

 

 はい、見ての通り今は夕食タイムでダイニングに来ています。ノイズは……まあ、ダンジョン内ですし、外は吹雪なんで、魔力が拡散してるんじゃないですかね? 我慢してくださいね。

 さて、では夕食です。今日はビュッフェ形式なんですよ。ガチで豪華です。

 ほらほら、他の探索者さんも食べてますよー? それなりに有名な方とかもいるんですけど、視聴者さんたちはわかりますか?

 

『なんだ、タチバナは配信中か! 今流れてるのか? ならば広告だ! うどんだ! 画面の前で見てるお前たち、香川ダンジョンのうどんを――うぐぉっ』

 

『あなた人の配信で何やってるのよ。ごめんなさいねタチバナさん、と視聴者さん……お目汚ししました』

 

 ……とまあ、個性的な方もいらっしゃいますね。

 ちなみに今のお二人はうどんダンジョンの、うどん四天王なんですよ。うどんダンジョンのうどんは滅茶苦茶美味しいので、気になったかたは今度食べにいってあげましょうね。

 

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 美味しーい♪

 

 すごいですね、どれを食べても美味しい。これが北海道の地元の幸なんですかね。

 お肉なんかはこのダンジョン内の原生動物を地元の猟師さんが狩ったお肉だそうですよ。原生動物のお肉って美味しいんですね……。

 ダンジョン食材なので魔力も豊富ですし、なんていうか……すごいです。

 

 あとこちらのスープは……

 

―― チリン・・・チリン・・・

 

 ……え? なんですか? 今の音。

 なんかオーナーさんが慌ててロビーに向かいました。ちょっと私も行ってみますね?

 

 

 

 えと、見えます? なんか、こんな時間に来客? みたいです。

 外はものすごい吹雪なんですけど、その中をやって来たんですかね? 遭難者……というには、なんか元気です。

 なんか、マントにマスクのいかにも怪しい……ああっと、駄目ですね。許可をもらってない人を堂々と配信に乗せちゃうところでした、危ない危ない。

 

 じゃあ、なんか変なタイミングになっちゃいましたけど、色々食レポも終わったので今日はここまでにしますかね! ぶっちゃけ、なんか色々と立て込んできそうなので。

 

 また明日も余裕があれば配信してみますから、私のチャンネル登録しておいてくださいねー♪ またねー♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? なんですか? 今の音。」

 

 桃子は柚花の配信カメラの画角の外で、柚花のトークを眺めながらご馳走を満喫していた。

 柚花がカメラに向かって話しているように、北海道の地元の食材が美味しいのはもちろんのこと、何より原生野生動物のお肉が美味しい。これもいわゆるジビエなのだろうか。わからないけど、とにかく美味しかった。

 カレーこそないものの、人目を気にせずビュッフェを楽しむというのはとても良い。孤独ではあるけれどとても自由だ。桃子はとても満足していた。

 

 しかし、玄関ロビーの扉のベルの音が響いたのは、そんなタイミングである。

 

 自分の端末で柚花の配信動画を生で楽しむという特殊な楽しみ方をしていた雪村オーナーが、扉のベルの音に反応して一瞬だけ硬直し、そして慌ててロビーへと走っていった。

 

「なんかオーナーさんが慌ててロビーに向かいました。ちょっと私も行ってみますね?」

 

 カメラに向かって話す柚花と一瞬だけ視線を合わせて目配せし、柚花のカメラの裏を追いかけるように、桃子もロビーへと向かう。

 そこには、開け放たれた玄関扉と、そこから吹き込む雪と風。

 そして、そこに立つ男性。

 

 上下黒のタキシードに、同じく黒の、しかし裏地が真っ赤なマント。

 そして顔にはヴェネツィアのカーニバルでつけるような、顔の半分を覆い隠す白と金のマスクという、訳の分からない姿だった。

 ここがイタリアのカーニバルか、マジックショーならば違和感もなかったかもしれないが、ここは吹雪のダンジョンだ。軽装のマジシャンが一人で訪れる場所ではない。

 

 雪村オーナーに続き、マグマ、アカヒト、そして爺やまでもが男を囲むように立つ。それも当然だろう、どこからどう見ても不審者なのだから。

 

「皆さま、ごきげんよう。こちらの宮殿がかの有名な『パイカラ』ですね? 氷の世界に一人彷徨っていたのですが、宜しければ、僕も今宵の舞踏会へ参加させて頂いても?」

 

 今まで吹雪の中を彷徨っていたとは思えないほど、しっかりとした声色で男が語りだす。

 見た目同様、やたらとアクの強いその語彙に一同は一瞬言葉を失うが、代表者である雪村はすぐに我に返り、男へと質問を投げ掛ける。

 

「一人で、このダンジョンに?」

 

「いえ、アシスタントもおりましたが、無事にダンジョンの入り口から外界へと出たようです。進むべき道を誤り、僕だけが取り残されてしまったのですよ。この凍れる夜に、ね」

 

 

 

「柚花、あの人って【看破】で見たらどうなの? 大丈夫そう?」

 

 吹雪が吹き込んでくるため、玄関扉を閉じて、男性陣が玄関先であれこれ話し合っている。

 どうやら、謎の男が怪しすぎるがために、皆もなかなか警戒心を解けないようだ。とはいえ、ダンジョンの帰り道がわからなくなったのならば、ここ『パイカラ』に避難するしかないのは道理である。

 この吹雪の中に追い返す選択肢もないため、今は男性陣が囲ってその不審者にあれこれと問い質しているようだった。

 

 桃子はそこから少し離れてそれを見ているのだが、隣に立つ柚花は魔力の込められた瞳で眺めていた。

 

「普通の人……というには少々常軌を逸してますが、【看破】で見る分には瘴気もなく、特には害意もないみたいですね。ただ、しいて言うなら、並外れて強いです。あと、この状況を楽しんでいる感じがします」

 

「つまり、ただの常軌を逸した変な人、ってことだね」

 

 魔物ではない。悪人でもない。とても強い、ただの、常軌を逸した変人。

 しかし果たしてそれは、大丈夫と言うのだろうか。

 

 桃子には、その判別はつけられそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【タチバナの真相解明チャンネル! コメント抜粋】

 

 

:突発的な放送乙

 

:スマホにいきなり告知がきてびっくりしたわ

 

:カムイダンジョンにいるのか。あそこって昼は寒くて夜はド寒いらしいな

 

:北海道なんかダンジョンじゃなくてもマイナス数十度いくから・・・。

 

:コロポックルまだー?

 

:次はコロポックルの声を配信するんだろタチバナ

 

:なんか時折ノイズが入るな カメラがぐるっと動いたタイミングとか特に

 

:さては座敷童子がついてきているんだろ

 

:座敷童子「いま北海道旅行中なの」

 

:うどんの人うるせえ!

 

:炎上寺マグマ。火のうどん店主だぞ(URL)

 

:炎上w

 

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:は?

 

:吹雪の中で来客とか絶対ホラーじゃん

 

:実はホラーだなってずっと思ってた。これから殺人事件起こりそう。

 

:こんや12じ だれかが

 

:やめるんだ

 

:一瞬だけ映ったけど、なんやあれ

 

:マントに仮面の男がいたぞ

 

:どう考えても犯人じゃないか!

 

:事件起きる前から犯人になる奴

 

:楽しかったよ、またねー

 

:またねーじゃねえよ、あの男が何者だったのかまで配信で教えてくれー!

 

:気になりすぎるんですけど

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