ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
マタギの老人と別れたあと、仮面にマント姿の探索者であるツインペアーと柚花の二人は、『パイカラ』へと続く雪道を歩いていく。周囲の魔物は先ほどの地元の探索者たちが撃退していたため、道のりに魔物が出てくる様子はない。
なお、柚花の横にはコロポックル衣装を着こんだ桃子もいるのだが、ツインペアーからは見えていない筈なのでカウントに数えなくても良いだろう。
「レディ。貴女は確か、【看破】というスキルをお持ちでしたよね?」
「なんですか。私は話すことはないですけど」
「もう……柚花? 警戒するのはわかるけど、そういう態度は良くないよ? 別に、悪い人っていうわけじゃないんだから……」
ツインペアーが話しかける度に、柚花はあからさまにトゲトゲしい声色で対応する。
そういえば、と桃子は思い出した。このツインペアーという面白い格好の男性は、魔力の制御が出来ており、【看破】では感情を読み取れないのだという。
柚花にしてみれば、見た目が怪しく、そして感情も読み取れない相手は警戒対象ということなのだろうが、しかし桃子としては後輩の失礼な対応には注意せねばならない。
柚花の手をぎゅっと握って、「ダメよ?」と、小さく叱ってみせる。
「……ごめんなさい、失礼な物言いでした」
「ふふふ、僕も怪しまれることは慣れていますから、ご心配なく。では、許してくださるのでしたら、麗しのレディに質問をしてもよろしいですか?」
「まあ、内容によりますけど」
どうやらツインペアーはさほど気にしていないらしい。
というより、その怪しげな外見から周囲に怪しまれるのは、本人もすでに慣れているのだそうだ。そりゃそうでしょうね、と柚花は思う。
日常的にヴェネツィアンマスクを装着している人物など、アニメやコミックの世界にしかいないだろう。あるいはオペラ座の地下には住んでいるかもしれないが、少なくとも日本でそのような人物は怪しまれて当然だ。
「貴女の持つ万物を見通す能力は、どの程度のものまで見通せるのでしょうか? 昨晩、謎の消失を遂げたという、雪の小人――コロポックルの少女の衣装の行方などは、見通すことは?」
「うわ、ねえ柚花。この人もしかして、勘付いてたりするのかね……」
ツインペアーの言う『コロポックルの少女の衣装』というのは、今現在桃子が装着しているもののことだ。
鮮やかな青い色の生地に独自の紋様が縫い付けてある、不思議な民族衣装。
この衣装はどうやら雪ん子のわら帽子と同様に、魔法的な冷気耐性が働いているらしい。【環境耐性〇】との合わせ技で防寒着など着なくても実に快適である。
ロビーに飾ってある絵画には、老人のコロポックルと、男の子と女の子の顔立ちの似た二人のコロポックルが描かれているが、そのうち女の子のほうが着ているものと似ている。
桃子が少し緊張しつつツインペアーの顔を横から覗き見るが、しかし彼は桃子に視線を向けるようなことはない。なのでどうやら、その衣装のありかが見えていたり、感じ取れていたりするというわけではないのだろう。桃子は胸を撫で下ろす。
「私のスキルも、そこにあるものなら視ることが出来ますけど、残念ながら失せ物探しは出来ませんね。それに……結局、あれは地元の方々のイタズラっていう話なのでは?」
「それがですね。あの衣装は、僕が訪れた段階ではまだ存在していたのですよ。貴女の昨晩の配信、僕も確認させて貰いました。闇の吹雪に閉ざされたペンション内で振る舞われる美食の数々。実に面白い放送です」
「ど、どうも……」
「残念なことに、丁度僕が訪れたあたりで配信終了になっていましたが、その時にちょうどロビーの様子が映り込んでいるんですよ」
「ああ、なるほど。私もそれは気づきませんでした」
ツインペアーが唐突に柚花の配信の話をはじめたので何事かと思ったものだが、ロビーの話まで言及されると、桃子も柚花も、そこで合点がいく。
つまりは、柚花の配信で、あの消失事件直前のロビーの様子が確認できるのだ。
そしてその配信動画には、しっかりとコロポックルの衣装が映り込んでいたということなのだろう。
「私が配信をしていたあの動画のロビーには、衣装がまだ残っていた。そして、あの時間に訪れた地元の探索者はいなかった」
「その通りです。しかし僕の覚えている限り、あの後は皆さんダイニングに戻り、わざわざロビーに戻る人はいなかったでしょう。謎は更なる謎を呼び、真実は闇へと溶け込んでしまいました」
お手上げだ、と言いたげにツインペアーは肩を竦めて見せる。
二人のやり取りを聞いていた桃子は、己の記憶を辿る。
彼の言う通り、少なくともいま宿泊しているゲストたちは、あの後には誰もダイニングには行かなかったはずだ。
雪村オーナーや料理人の氷上も同様で、しばらくはダイニングから出ていくことはなかった気がする。もしかしたらそれ以外の在住スタッフの仕業かもしれないが、メッセージを張り付けるだけならまだしも、誰にも気づかれずにロビーから衣装を持ち出すというのは不自然だ。
なんなら、一番容疑者として怪しいのは、【隠遁】により誰にも気づかれずに行動できる自分自身だろう。
桃子が周囲から容疑者として追及されていないのは、単に皆に気付かれていない、あるいは忘れられているからである。
もし追及などされようものなら、実際にいま現物を着用してしまっている以上、言い逃れすら難しい。
しかし、そこで会話は終わってしまった。
柚花も、ツインペアーも無言で歩いている。
もしかしたら、二人とも頭の中ではずっと考えているのかもしれない。あの時、誰が、どうやって、何を目的として、衣装を移動させたのか、と。
無論、柚花のほうは衣装の行方は知っているので、悩んでいる内容そのものは違うのだろうけれど。
衣装がどうして桃子のベッドに現れたのか。それについての答えはない。
雪というものは周囲の音を吸収する性質があるため、柚花たちの歩くザク、ザク、という音以外は殆ど何も聞こえてこない。
時折遠くから、地元の探索者たちが互いに合図を送る声や、猟銃の音が聞こえるが、しかしすぐに静寂が戻ってくる。
そしてその静寂を破ったのは、意外にも柚花だった。
「じゃあ……私も一つ、聞いてみていいですか?」
「どうぞ、僕に応えられることなら、どのような謎でもお答えしましょう?」
「ツインペアーって、偽名にしても珍しいですよね。ツインて、双子とかそういう意味にも使われますけど、どういう意図のお名前なんです?」
それは桃子も気になっていたことだ。恐らくは、オーナーや氷上を含め、あの場にいた全員が少なからず疑問に思ったことだろう。
見た目だけで言えばマジシャンのようなものなので、トランプにちなんだ『ツーペア』のほうがいくらかマッチしている気すらする。
「ふふふ、実に鋭い質問だ。僕の核心をつく、ゲイボルグの如き一撃だ。しかし残念ながら、今はその答えを伝えるべき時ではありません。そう、まだ運命の時は訪れていないのですよ。この静寂の銀世界が――」
「あ、すみません、長くなるようなら結構です」
「柚花ったら、ちゃんとお話聞いてあげようよお」
いまのやり取りの何が彼を刺激したのか、急にポエムを読みだした。
柚花はイライラを隠そうともせずそのポエムを両断する。桃子も柚花を軽く注意はしたものの、しかし突然ポエムを読みだす仮面の男に柚花がイライラしてしまうのは仕方ない。
長いし、意味も分からないのだ。
「……この静寂の銀世界が、新たな雫を得た時ならば。この秘密を教えて差し上げなくもない、ということで如何でしょうか?」
「あ、続けてる。この人結構、神経図太いね」
柚花に途中で両断されても、なおポエムを続けるツインペアー。
この仮面の男は、実に図太い神経を持っているようだった。
「もー、せんぱーい! あのマスクの人怖いんですよ、なんで先輩はあんなのにまで優しく出来るんですかーっ」
ペンションに戻り、割り当てられた自室まで帰ってくると、柚花はようやく気を緩めることが出来たのだろう。
腰に付けた双剣のベルトもそのままに、ベッドに身を預けて、ぐでっとした姿で桃子を見上げる。
「まあ怪しいは怪しいけどさ。でもほら、日常的にマスクつけてる人なんて愉快で面白いんじゃない?」
「愉快を通り越して怖いですよ。先輩はもうちょっと、警戒心を強く持ちましょう。あんな不審人物に簡単に気を許しちゃ駄目です! 嫌です!」
桃子がベッドのふちに腰を下ろすと、柚花は甘えるように桃子にくっついてきた。
どうやらツインペアーとのやり取りは柚花にとって相当のストレスだったようで、その反動が柚花を少々幼くしてしまっているのだろう。
もしかしたら、これが柚花の本当の、年相応の姿なのかもしれない。
「でもほら、あの人マジシャンかもしれないし……」
「先輩はマジシャンを何だと思ってるんです? もー、あの人何考えてるか分からないし、やだー」
桃子のイメージでは、顔が分からないマスクにマントを羽織った姿、更にそこにシルクハットを付け加えればまさにマジシャンなのだが、しかし恐らく柚花の言いたいことはそういうことではないだろう。
というかそもそも、マジシャンぽい姿なだけで、本人が言うには魔法生物を研究している身分だ。全然マジシャンじゃなかった。
「うん、苦手で怖い人相手に、よく頑張りました。よしよし」
「もっと褒めてください」
なんにせよ、マジシャンについてのイメージの擦り合わせなどは今はどうでも良いことである。
すねてしまった可愛らしい後輩を慰めるために、桃子は柚花の頭を優しく撫でてあげるのだった。
「よしよし、よしよし」
その後、柚花が気を取り直すまでそれなりの時間がかかった。
「柚花、みてみて、なんか面白そうなことやってるよ!」
あの後、柚花をひたすら撫でていたのだが、流石にお腹がすいてきた。
敬愛する先輩のお腹の音を間近で聞いてしまった柚花も、流石にそれを無視してずっと甘えているわけにもいかなかったようで、今はともにダイニングへとやって来たところだ。
が、ダイニングには何やら既にちょっとした人混みが出来ていた。
イリアにアカヒトはもちろんのこと、ペンションの従業員や、恐らく地元の探索者も何人かがそれを遠巻きに見ている。
「イリアさん、これは何をしてるんですか?」
「ああ、タチバナさん。どうやらマグマさんとえあろさんが、今から手打ちうどんを制作してくださるそうですよ?」
「手打ちうどん?」
見れば、ダイニングの大きなテーブルに非常に大きなボウルが用意されており、その横には小麦粉の袋が準備されている。
どうやら、うどんダンジョンのうどん四天王であるマグマとえあろが、今からこの場でうどんを制作する、という催しのようだ。
「うどんを打たないでいたら手に震えがきてな! うどん成分が足りないと思い、小麦粉を頂いてうどんを作らせて貰うことになったんだ!」
「へ、へえ……?」
「ごめんね、マグマが馬鹿で。でも、折角だから珍しいものを見せてあげるわよ」
タチバナとイリアのやり取りが聞こえたのだろう、マグマが相変わらず無駄に元気な声で趣旨を説明してくれる。
手が震えてしまうのは何らかの病気なんじゃと思わなくもないが、しかしうどんダンジョンにおいてトップの職人がこの場でうどんを作るというのなら、それはなかなかに興味深いものである。
えあろの言う「珍しいもの」が何なのか分からないものの、恐らくそれは見ていればわかることに違いない。
この時の桃子はまだ、その「珍しいもの」が、自分にとってとても重大な意味を持つとは思ってもいなかった。
【北海道ダンジョン用 雑談スレ(札幌/摩周)】
:せっかくの正月休みが終わってしまうわ
:毎日ダンジョンに潜れる幸せが終わってしまいます。
:ダンジョンの外は寒いから出たくないのじゃ! ダンジョンの方が暖かいのじゃ!
:この季節あるあるw
:摩周の話していいですか?
:どうぞどうぞ ここはあくまで合同スレだから自由にしてくれ!
:合同つってもほぼ札幌の話題だけどな・・・
:摩周ダンジョンて、いま配信者のタチバナが泊ってるんでしょ? ネットで見た。お前らもネットはみたほうがいいぞ。
:ここもネットだわよ
:生のタチバナさん見たよ、めちゃ可愛かったw じゃなくて、コロポックルがいたって報告があるんです。
:コロポックル絶滅したんじゃないの?
:やめろ、どっかで生きてるに決まってるだろ
:今日の昼に戻ってきた探索者の何人かが、ジャガイモ探してるコロポックルの女の子を見たって言ってる。
:じゃがいも?
:なんでジャガイモ? 摩周はジャガイモどころか野菜とか育つ環境じゃないだろ?
:じゃがいも探してるコロポックルそっくりの女の子でもいたんじゃないの?
:それはそれで興味深い事件だ
:なんか本州のほうでも最近そういう話多いでしょ? 座敷童子とか人魚とか。それで、コロポックルももしかしたらって思ってここに相談しに来たんです。
:相談されても困るんじゃが
:じゃがいもだけにw
:お前を殺す
:なんか、摩周の方はコロポックルの目撃談はあるし、第一層の雲模様? がなんかいつもと違くて、怖くなって帰ってきちゃったんだけど。
:そこは帰らずもうちょっと現地で調べろよw
:雲模様つったって摩周ダンジョンなんていつも吹雪いてるだろうが
:違うんだ、昼間は一応あそこは天気だけは大丈夫なんだよ。
:スタンピードでも起きるんじゃね? 知らんけど
:安易に縁起でもないフラグを生やすな