ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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うどんの絶技

「よしえあろ。俺が1で、お前が2でいいな!」

 

「構わないわよ」

 

 桃子の視線の先では、マグマとえあろが手慣れた様子でうどんの準備を進めていく。

 小麦粉の袋をあけて、テーブルの上にある業務用の大きなボウルに出す。

 その横に用意されている水差しの中身は、見た目では分からないが塩水だろうか。うどんは小麦粉と水と塩で作られる。これはポンコと共にうどんをつくる過程で、何度か桃子も目にした作業だ。

 しかし、製作前のマグマの言葉が気になる。

 

「柚花、1と2って何だろうね……?」

 

「なんでしょうね。っていうか、いくら小麦粉があったとしても、専用の道具もなしにそんな簡単に作れるものじゃないと思うんですけど」

 

 桃子は柚花の横に立って、小声で柚花と会話をする。

 ポンコがうどんを作る姿は見たことがあるものの、しかしやはり、どうしたってポンコのうどん技術は素人に毛が生えた程度のものである。

 大会で優勝した人物の技術ならば、ポンコの比ではないのだろう。

 

「タチバナさん。どうやら香川のお二人は【うどん製作】なるスキルを使用するそうですよ」

 

「うどん製作……?」

 

 途中から来て状況が把握しきれていないであろう柚花を見て、イリアが補足をつけてくれた。

 うどんダンジョンでは数多くの探索者が所持しているとも言われている調理スキル。それが【うどん製作】である。

 桃子の【カレー製作】と同様に、ダンジョン内でひたすら同じものを調理し続けた結果として入手できる不思議なスキルだ。

 

「よし、まずは俺からだな。本当は全部手作業で作った方が作った気分にはなるんだが、行くぜオラッ!」

 

 桃子の横で柚花とイリアが話している間にも、マグマたちの準備は進んでいた。

 既に小麦粉に塩水を注ぎ、両手で混ぜ合わせている。

 小麦粉と水を合わせて練り込むと、グルテンという独自のたんぱく質が形成されるのだが、そのグルテンは塩によってより強くなる性質がある。

 なので、小麦粉に塩水を混ぜ込み、ひたすら練って、混ぜて、更には足で踏んだりしてグルテンを活性化させることで、強いコシを持つうどんを作れるのだという。

 

 しかし、生地を作る作業というのは本来ならば時間がかかる。何度も練って、潰して、踏んでという工程もあるし、その上でしっかり時間をかけて生地を寝かせる必要もあるのだ。

 そして、その手間を簡略化させるためのスキルが【うどん製作】ということだろう。

 

「うわ、生地が光ってませんか?!」

 

「【うどん製作】壱の型! 一気に熟成まで進めるぜ!」

 

「す、すごい! マグマさんが粉を混ぜ合わせたかと思ったら、それが強い光を放ち、気づけば既にうどんの生地が丸まってますよ」

 

 【カレー製作】の発光現象を知っている桃子と柚花は黙って見ているが、これを初めて見るイリアにとっては衝撃の光景だったようである。驚きのあまり、解説役になってしまった。

 イリアの解説の通り、マグマの作っていたうどんの生地が強い光を発生させたかと思ったら、既にしっかりと練り込まれて丸くまとめられたうどんの生地がそこに鎮座している。

 見た目ではわからないが、どうやら本来時間をかけるべき熟成すら、簡略化されているようである。

 

「っし! なら次はえあろに任せる!」

 

「では、風祭えあろが引き継がせていただきます。よっと……!」

 

 そしてどうやらここで選手交代だ。

 マグマが生地を捏ねている間に、えあろは厨房から業務用の大きな麺棒を借りて来たようだ。

 

 ダイニングのテーブルに大きなシートをかけて、その上に丸まったうどん生地を置く。

 そして、そのうどん生地を大きな麺棒で伸ばしていく作業である。

 

「この後って、普通は専用の麺棒で伸ばして、そのあと包丁で切るんでしたっけ?」

 

「包丁がないようですが、どうなさるんでしょうね」

 

 桃子は、他者から姿が見えないのをいいことに、えあろのすぐ近くへと近づき、最前列でうどん作りを眺めることにした。

 ポンコの作業は近くで見ていたが、動きのキレといい、生地の出来栄えと言い、ポンコには悪いが素人目にも明らかにレベルが違う。

 もっぱらカレー専門の桃子だが、これでも学生時代はお料理研究部に所属していた身だ。その道のプロの技を間近で見れる機会を無視できるわけがない。

 

「【うどん製作】弐の型! 製麺します!」

 

 そして、桃子は間近でそれを目撃した。麺棒である程度生地が広げられたところで、えあろの両の手から、一気に光が広がっていくのを。

 そのまま、うどん生地全体が強く発光を始め――。

 

「す、すごいです……! 生地全体が光ったかと思えば、テーブルの上でえあろさんが伸ばしたばかりのうどんの生地が、全て専用の包丁で均等に切られたような完成した麺の姿になっているだなんて!」

 

「もうなんか意味がわかんないけど、とにかくすごいですね」

 

 光が収まったあとには、イリアの妙に説明的なセリフのとおり、均等に切られた状態の麺がそこには鎮座していた。

 桃子がカレーを作る際も、それがダンジョン食材ならば勝手に下ごしらえや調理工程を省いてくれているので、やっていることは同じようなものなのだが、しかし他人のそれを見るのは初めてだ。

 しかも、カレーとうどんで調理自体は全く違うものではあるけれど、この四天王二人は、桃子のそれよりもずっと【製作】スキルを使いこなせていた。

 桃子の中の常識に、電流が走ったような気がした。

 

 

 

「一応、参の型と言って最速で茹で上がる技術もあるんだがな。まあ湯自体はいちから沸かさにゃならんし、俺は麺を茹でる時間が好きだ!」

 

「マグマの好き嫌いはさておいて……以上が、香川ダンジョン名物、【うどん製作】でした。あとの茹でと、うどんつゆは氷上さんにお任せしますね」

 

「任せて頂戴! おばちゃん、香川のうどんも研究したことあるのよ。もと三ツ星の意地にかけてでも美味しいものを作るから、ちょっと待っててね!」

 

 うどんの麺をまとめて、ペンションの料理長である氷上に手渡し、マグマとエアロは卓上のシートやボウルをかたづけ始める。

 昨晩はコロポックルの件で実に不安そうな様相を見せていた氷上も、目の前で達人の技を見せられた影響か、料理人として燃えている。

 

「料理長の氷上さん、随分ご機嫌ですね」

 

「一流の料理人は一流の料理人を知る、ということなのでしょうね。随分と刺激を受けたようです。しかし……なんにしても凄いですね。一瞬で調理が終わるスキルだなんて、初めて見ました」

 

「香川では珍しくもないぞ! ダンジョンで長年の間うどんだけずっと作っていけば、そのうち取得できるからな! まあ、スキルを使わず全部手作業にした方が、納得いくものは出来るんだがな!」

 

「いえ、一つのものをずっと作り続ける探索者って、普通は居ませんからね。普通は……」

 

 柚花とイリアの会話が聞こえたようで、マグマが補足を入れる。

 香川ダンジョン、通称うどんダンジョンでは、これは珍しいものではないのだ、と。

 確かに、柚花も噂としては聞いたことはある。ダンジョンで、ずっと1つの料理だけを作り続けていれば、その料理の【製作】スキルが身に付けられるという噂だ。

 

 しかし、たとえスキルの覚え方を知っていたところで、ダンジョンの探索に役に立つわけでもないそのスキルのために、長年1つの料理を作り続けるという縛りを結ぶ探索者など殆ど存在しない。

 

 そう、あくまで、普通の探索者ならば。

 

 

 

 

 

 

「すごい。壱の型と弐の型で、工程を分けてるんだ。それに、多分あれはオンオフを使い分けてる……!」

 

 柚花の目の前で、カレーに魅入られた普通でない探索者の少女が、感動に震えていた。

 何やらぶつぶつと独り言を呟いていて、どうやら先ほどの【うどん製作】についてあれこれと分析をしている様子である。

 

「【カレー製作】は勝手に発動して最後まで完成させるだけのものだと思ってたけど、もしかしてまだ色々な工夫の余地があるのかもしれない!」

 

 どうやら、先ほどのマグマとえあろの【うどん製作】の使い方が、桃子にとっては全く考えもしなかったものだったようで、聞こえてくる独り言がどんどん興奮気味なものへと変わってきた。

 命の危機とかそういうものではないが、柚花の第六感が、これはマズいという警告を発する。

 そして第六感の警告に従い、とりあえず桃子を落ち着かせようと近づくが。

 

「ああ、カレーが作りたい……! いまなら私、うどんが作れなくて手が震えて来たマグマさんの気持ちがわかるよ! ごめん柚花、ちょっと部屋に戻るね!」

 

「ちょ、先輩?」

 

 どうやら、柚花の第六感の警告は、あと一歩遅かったようである。

 なんだか尋常ではない様子の桃子は、柚花に一声かけると返事も待たず、颯爽と己に割り当てられている部屋へと駆け込むのだった。

 

 

 

 

 

「小鍋とカレー粉があれば、まあ出来るかな……」

 

 桃子は自分のリュックを漁る。カレールーは当然常備されている。

 また、かさばらない程度の本当に小さいものではあるが、ソロキャンプ用の小鍋をリュックから取り出した。

 

 桃子は飲料用のペットボトルから鍋に水を注ぎこみ、部屋についている暖炉へと近づけて、火にかける。

 ある程度してから鍋が沸騰すると、一旦それを暖炉から取り出して、ある程度熱が冷めた段階でカレールーを投入。

 具もなにもない、ただの水とカレールーを合わせただけのものだ。

 

「信じて混ぜない、信じて混ぜない……! いや、混ぜないんじゃ混ざらないか、どうしよう」

 

 いつもならば「信じて混ぜる!」の合言葉で光を放つところだろうが、今回はスキルの制御が目的だ。

 勝手に光って勝手にカレーが出来上がるいつもの【カレー製作】は、制御が全くできていない、未熟なものだったのだ。

 桃子はそこに、いまようやく自分で気づいたのである。

 

「あ、光っちゃった」

 

 だがしかし、現実は非情である。信じて混ぜないようにしたのだが、しかしその小さな鍋は発光し、気づけば小さい鍋はしっかりと具なしカレーで満たされていた。

 

 

 

「先輩、さすがに部屋でカレーはどうかと思うんですけど……」

 

 ダイニングで他の面子と話をしていたのだろう、柚花が少し遅れて部屋へと戻ってきた。

 柚花が部屋に入ると、室内に充満しているのは桃子のカレーの香りだ。こうなっていることは予想していたので別段驚きはしないが、だとしても、どうかと思うことには違いない。

 

「柚花、さっきの【うどん製作】見た? あれ、実は物凄い技術なんだよ!」

 

 しかし、柚花の呆れに気付いているのかいないのか、多分気づいていないのだが、カレースイッチの入った桃子は熱く語りだす。

 どうやら、マグマとえあろの【うどん製作】は、桃子の【カレー製作】より何歩も先を行っていたらしく、それに刺激されて興奮しているようである。

 

 スキルの意図的なオンオフ切り替え。そして、作業工程の分割。

 桃子は自分の【カレー製作】を、鍋にルーを入れて混ぜたら勝手に光って完成するという、ただの全自動スキルとしか見ていなかった。

 しかし、それより先を行っている姿を目の前で見せつけられてしまったのだ。

 そう、桃子の【カレー製作】もまた、更なる進化の可能性がある。それを、マグマたちは教えてくれた。

 

「はぁ……まあ、分かりました。分かりましたけど、流石に室内でカレーを量産されたら困るので、スキルの実験は帰ってからにしましょうね」

 

「うーん、そうだねえ。お鍋もカレーが入ってるから、続けて実験もできないしね。まずはこれを食べようね」

 

 桃子の熱意は十分に伝わったし、柚花としても桃子の望みは可能な限り応援したい。

 が、それはそれ、これはこれ。

 室内の暖炉でカレーを量産されるのは、流石に困る。

 桃子も具なしで少量とはいえカレーを作ったことである程度はクールダウンできたのか、柚花の言葉に耳を傾けてくれた。

 

「なら、とりあえずうどん貰ってきましょうか。うどんを合わせて、カレーうどんにすれば丁度いいじゃないですか」

 

「うん、カレーうどんも大好き! あ、そうだ柚花。これ、リュックに入ってたんだよ。マグマさんにさ、良いもの見せてくれたお礼にって、渡して貰えるかな?」

 

「これ、唐辛子ですか? 房総ダンジョンの? 先輩、こんなものまで常備してたんですね」

 

 先ほどカレールーを取り出すときに、一緒にリュックから発掘されたもの。それは唐辛子。

 いつぞやヘノやニム、柚花とともに房総ダンジョンの第四層へと潜ったときに収穫したものである。

 それなりに日付はたってしまっているが、ヘノに頼んでしっかり乾燥させたものを密封状態で閉じておいたので、品質的にも問題はないだろう。

 

「これね、カレーに使えるかなって思って一応リュックにはいれておいたの。ただ、ヘノちゃんが辛いの苦手だから、使う機会がなくてさ。マグマさんなら激辛うどんの人だから、活用してもらえるかなって思って」

 

 確かに、桃子の相棒たるヘノは辛い物を嫌っていて、逆に甘いものが大好きだ。

 ヘノ以外にも、あの花畑にいる妖精たちは、どちらかというと刺激物を好まずに、甘いものを好むこの方が多い。

 妖精がまだ子供だからなのか、それとも単に生物として刺激物を苦手としているのか。そこは柚花には判別つかないが、なんにせよ唐辛子を使う機会がなかったのは理解できた。

 

「分かりました。じゃあ私から渡しておきますね」

 

 どうせ使われない唐辛子なら、激辛料理人に提供するのも悪くはないだろうという判断だ。

 桃子が直接渡したいところだが、相手から認識されない以上はそれも出来ないので、柚花に頼むことにした。

 うどんを作ってもらい、更にはスキルの可能性を教えてもらえた。

 唐辛子では足りないくらい、桃子はマグマに対して一方的に恩を感じているのであった。

 

 

 なお、ダンジョン産の唐辛子にマグマは大喜びで、後日、追加の唐辛子の採取を依頼されてしまうのだが、それはまた別な話である。

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