ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました 作:chikuwabu
結論から言うと、妖精と出会って友達になったこと、妖精が武器に付与を与えてくれたことを報告し、拡縮の魔法が付与されたハンマーも問題なく魔法武器として登録できた。
妖精の国のことや女王のことは伏せて説明したので、ところどころ辻褄の合わないこともあったが、先の約束通り、桃子が伏せていることまでは追及されることはなかった。
遠野ダンジョンの事件についても桃子が関わっていることは感づいていそうなものだが、何も聞いてこないでいてくれるのはありがたい。
「それと、先ほど話していたスタンピードについてだが、これまた別な話になってしまうんだが、出来ればこれも口外しないでおいてもらえると助かるよ。誓約書を書けとは言わないが、あまり広まってほしい話題ではないからね」
どうやらスタンピードが決してダンジョン内だけのものではないというのは、ギルド上層部や魔法協会にとっては既知の情報だったようだ。
桃子は知らなかったが、数十年前に外国のどこかで大きな事件があったらしい。しかしそれを今になって発表しても、民衆にパニックを起こしかねないという、政治的判断だ。
「あとはそうだな。今後、もしかしたら魔法協会あたりが何か言ってくる可能性はあるが、ぼくたち日本のダンジョン庁が対応するから、キミは気にせずに探索者として活動していてくれて構わない。今後とも、房総ダンジョンをよろしく頼むよ」
「はい、こちらこそ、色々とありがとうございました」
室長は立ち上がると、桃子に右手を差し出した。桃子も小さめの手を差し出してぎゅっと握手をする。
部屋から退室する室長の背を見送りながら、室長のゴツゴツした手のひらは、管理職よりも探索業のほうが似合う手だったなと、桃子は思うのだった。
「さて、桃子さん。残りの話は私のほうから説明させていただきますね」
室長さんが退室すると、次は窓口のお姉さんこと窓口さんが桃子の正面に座る。
これで話は全部終わったものかと思ったが、言われてみれば、まだいくつか確認していないことが残っている。
「スキルの、この……なんて言うんでしょうね。表記が崩れていて読めないものなのですが、ごくまれに珍しいスキルになりますと、言語化されずに表記が壊れてしまうことがあります」
【蟶ク闍・】繝?ぅ繝ォ繝サ繝翫?繝弱?繧ー縺ョ蜉?隴キ
「とはいえ、タイミング的には妖精がらみのことだと思いますから、申し訳ありませんがこちらは桃子さんのほうで調べてみて頂くしかありません」
「あ、いえ、私こそすみません。ヘノちゃ……じゃなくて、妖精の子にも何か知らないか聞いてみようと思います」
互いにペコペコと頭を下げる。
「あとそれともう一つ……現在房総ダンジョンまわりではドワーフの噂が広まっておりまして、もしかしたら該当者である桃子さんにとって、不都合が多くなるかもしれません」
「ドワーフ……まあ、私なんですよね」
そういえば言っていなかったなと思いながら、ポリポリと頬をかく。
妖精の話までしてしまっているのだから、今更ドワーフの噂を隠すようなこともない。というか、これに関しては桃子が何かしたわけではなく、勝手に周囲に勘違いされているだけである。
「一時的なブームだとは思いますが、ドワーフを探そうという探索者なども居ります。本来ならばただの勘違いで済むのですが、ここで問題なのがドワーフこと桃子さんが、実際に妖精を連れているという事実ですね」
「あー、私がドワーフだってバレたら、必然的に妖精の話がつながっちゃうのか……」
「まあ、現状では意図的に噂を捻じ曲げて広めることで、桃子さんとは似ても似つかない都市伝説として有耶無耶にしよう作戦、を実行中なのですけれどね」
ドワーフが巨大ハンバーグを焼いているという目撃談の出どころは、目の前のお姉さんだった。
カレーしか食べない桃子と、巨大ハンバーグを食べているドワーフ、なるほど繋がらない。
桃子は感心した。
「ええと、私は大丈夫です。見つかりそうになったら【隠遁】で逃げちゃえば、探索者さんたちはすぐ忘れちゃいますから!」
「……そうですね。桃子さんもソロ探索者としては長いですから、大丈夫ですよね」
ぐっとこぶしを握ってみせる桃子。
桃子の【隠遁】という、ある種の呪いのようなスキルの効果を知っている窓口としては、すぐ忘れちゃう、という言葉に少しだけ寂しそうな顔を浮かべたが、すぐに笑顔を作る。
「さて、では長くなってしまいましたが、本日はそろそろ戻りましょうか。お手数おかけしました」
「いえいえ、私こそ、色々とありがとうございました」
二人で立ち上がって、温もりの残るソファを後にして部屋にでる。
結果的に何事もなくてよかった、と。
呑気に考えていたのだが、そんな呑気な気分を破壊する存在と出会うまで、あと30秒。
20秒。廊下を歩く。
10秒。角を曲がる。
5秒。ロビーへ続く扉を開ける。
「あーっ! 窓口さんどこ行ってたんですか? 預けてるアイテム引き出したくてずっと待ってたんですけどー!」
窓口のお姉さんこと窓口と共に受付ロビーへと戻ってくると、唐突に鼓膜に響く少女の声が耳を刺した。
見ると、背中までの黒髪の左右に小さいクリップリボンをつけ、小さくスズランの意匠の入ったセーラー服姿の少女が、窓口さん担当の受付のテーブルをバンバンと叩いている。
「タチバナさん、台は叩かない。他の受付もあったでしょう?」
「もーっ、私、窓口さん以外の受付は利用しないって言ってるじゃないですか。……あれ? 誰ですかその子? 隠し子ですか?」
どうやらこの少女も窓口さんを専属担当としていたのだろう。仲良さげに軽口を叩いていたが、窓口の後ろに続いて歩いていた桃子を見ると、目を丸くする。
桃子は桃子で、ダンジョン前のギルドで見かけるなど、本来ならあり得ないセーラー服に目を真ん丸にする。
「隠し子じゃありません、それよりタチバナさん、預けたアイテムの引き出しって、今からダンジョンに潜るんですか? 制服でダンジョンに来てはダメだとあれほど……」
「うわっ、この子ちっちゃい! 可愛い! って、前にどこかで見たことあるような気がするなあ。どこで見かけたんだっけ」
窓口の言葉が聞こえているのかいないのか、ずずいっと桃子に近づいて、顔を寄せてくる。
間近で見る顔は整っていて、こんな場所でなく、そしてこんなに姦しくなければ、モデルやアイドルと言われてもおかしくないだろう。
「あの、タチバナさん、でいいのかな? 窓口さんが困ってるよ?」
顔が近い。
とりあえず間近で今にも桃子をハグしかねない距離感の少女に一歩ひいて、窓口と顔を見合わせる。
先輩にあたる探索者としては、桃子もいくつか言いたいことはあるのだが、ここではあくまで彼女は窓口に話をしに来たのだと思い、窓口に対応を任せる。
「彼女も探索者です。少々特殊なアイテムがあったので、奥で登録作業をしていたんですよ。ほら、タチバナさん、他の方に迷惑をかけるのは許しませんよ」
「へえ、特殊なアイテムですか……?」
パリン
一瞬、どこかで聞いたことのある音が聞こえた気がするが、周囲を見回しても何もない。
気のせいかと思ってタチバナを見ると、きらりと輝く瞳で桃子をガン見しているため、なんか怖くなってさらに一歩ひく。
「ふうん、これはこれは……。ねえ、あなたも探索者なのよね、てことは中学生? もしかしてソロ探索者なの?」
ガツガツくる。
このままでは年上の沽券に関わると思い、桃子はひとまずグイっとタチバナを押し返して。
仕方ないな、と小さく息をつく。
「タチバナさん? その制服は聖ミュゲットだよね?」
「!? よくわかったね、私、実は都内のあの有名ミッション系、聖ミュゲット女学園の現役生なんだよっ♪」
目の前のちまこい少女が己の制服に興味を持ったのかと思い、くるりとその場で一回転して、最後にキメのポーズをとるタチバナ。
しかし、目の前のちまこい少女こと桃子は、口をへの字にして強気な視線でタチバナを睨んでいる。
「タチバナさん。制服のままの寄り道は校則違反だし、ダンジョンに入るだなんてもってのほかだよ。学年は、何年生?」
「えっ、なにをいきなり……二年生だけど、これくらい別に……」
急に目の前の小さな女の子が強気な態度になり、タチバナは少し面食らった。
小さいながら胸を張り、心なしか口調も先ほどと変わっているように思える。
「となると、私の二学年下だよね……。では、聖ミュゲットの先輩として指導します。公共の場で、しかも制服姿のままでそのような態度は、見逃せません。今の二年生なら……学年主任は中田先生かな? 報告しますけど、いいですか?」
「え、どゆこと? ミュゲットの卒業生? え、もしかして年上……?」
年齢を疑われるのは日常茶飯事だ。
ちょうど今は手元にギルドカードがあるので、ずいとカードをタチバナの眼前に見せつけた。
「ほんと、18歳だ……」
「昨年度の卒業生で、あなたの先輩です。もう一度言います。タチバナさん、人様に迷惑はかけないことっ。窓口さんにきちんと謝りなさいっ!」
「は、はいっ、申し訳ありませんでしたっ」
桃子の通っていた聖ミュゲット女学園は、世間的には良いとこのお嬢様が多く通う学校であり、校風も決して緩くはない。
また、華やかなイメージとは違って、意外にも先輩と後輩の上下関係がはっきりしており、先輩が後輩を指導する習慣が何十年もの歴史とともに根付いている。
先輩である桃子は後輩であるタチバナを指導し、タチバナは先輩の背中を見て学ぶ。それが、叩き込まれた上下関係だった。
桃子がいくら小さくても、学園の先輩という立場は絶対だ。
結果として、探索者ふたりの上下関係が、今ここに確立された。
「って、あなた……じゃなくて、先輩っ。昨年度の卒業生でその小ささ、もしかして、かの伝説の、ミュゲットの妖精ですか?!」
「ちょ、まっ、そのあだ名はやめて、本当にやめて! 恥ずかしさで死ぬっ」
「じゃあ、やっぱり本当に先輩が妖せ」
「わーっ!!」
学生時代、文化祭の出し物でスズランの妖精役を演じた後に広まった、役名そのままの恥ずかしいあだ名は、桃子の最大の弱点だった。
真っ赤になって後輩の口をふさごうとする姿には、先輩の威厳はそんなに残ってなかった。
【タチバナの真相解明チャンネル!】
こんにちは。噂を追っかけ東へ西へ、都市伝説解明系、美少女探索者のタチバナです。
えーと……。
え、元気がないですか? キャラが違う?
あー、元気がないというか、個人的には物凄くうれしいことがあったんですよ。
それでテンションがリセットされたというか、いつもの配信テンションじゃなくなっちゃってますね。
そうだ、今日は学校が早く終わったんでそのまま房総ダンジョンまで来まして、ギリギリまで潜ろうかと思っていたんですけれど、色々あって今日は大人しく帰ることにしました。
なので、ダンジョン前で簡単なトーク配信だけです。ごめんなさい。
見えますか? あそこにあるのがダンジョンの門。こんな平日でも、結構多くの探索者さんが出入りしてるのがわかりますよね。
何があったか?
え、聞いてくれます? これ、ダンジョン関係ないですよ?
実はね、まさかの出会いがあったんです。
あ、なんか興奮してテンションが戻ってきた気がするっ!
なんと私、妖精に出会っちゃったんですよ! ……あっ、違います違います、ダンジョンのじゃなくて、あくまで比喩です、比喩。
ええと、第三者の個人情報なのであまり言えませんけど、私の学校の卒業生の方と、ひょんな場所で出会いましてですね、近くで見るのも、お話しするのも初めてだったんですが、妖精みたいに可愛い先輩だったんです。
……はぁ……可愛かったなー。抱っこしたい。
……。
……ごめん、今のなし! マジでなし! 先輩に見られたら変態だと思われちゃう!
こほん。
今日は制服のままダンジョンに入ろうとして、本気で怒られちゃいました。今はアウターのボタン閉じてますけど、この下はセーラー服なんですよ、実は。
ダメです、見せません。先輩にがっつり指導されちゃったので、これでもちゃんと反省してるんですから。
まあ、そういうわけなので、今日の配信はここまでね!
次の配信はまた休みの日に、ちゃんと公私を分けて、しっかりした状態でお送りしますねー。
バイバイ!