ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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氷雪の夜

 音信不通だった荷車チームと、マタギ親方チーム。

 無事に無傷でとは言えないものの、しかしどうにか全員が生きてペンション『パイカラ』へと戻ることができた。

 帰り道にも幾らかの魔物による襲撃はあったものの、しかしあの巨大な氷像のような強大なものさえいなければ、イリアとアカヒト、それにツインペアーの三名の実力ならば凌ぎきることは容易であった。

 桃子はその間、荷車が襲われぬように荷車そばで待機していたが、結局は桃子の出番もなく一同は『パイカラ』へと辿りつく。

 

 そしてそこからが、第二の戦場だった。

 

「オーナー、出来るだけお湯を沢山沸かしてくださいまし。外傷は薬草でどうにかなっても、凍傷を起こしかけています! 腕や脚が浸かれる大きな容器の準備を!」

 

 治癒のエキスパートであるオウカの指揮のもとで、ペンションスタッフたちが。そしてゲストである探索者たちが駆け回る。

 ダンジョンの中継基地たる『パイカラ』にも当然医療室はあるものの、今回は六人という大所帯だ。よって、けが人は全員がダイニングへと運び込まれる。

 ダイニングには既に、いくつかの清潔な布団が敷いてあり、怪我人たちはそこに並べられている。

 

 すでに最低限の応急処置を施し、魔法的な治癒の効果を持つ薬草を飲ませているので、ある程度の外傷は癒えていた。

 だがしかし、見た目ではわからない体内の傷や出血、骨折。そして凍傷。簡素な薬草だけではどうにもならない負傷も多く、決して山場を越えたとは言えない。館内に、オウカの指示が響く。

 

「予備の毛布を持ってきました! すぐにお湯も準備します!」

 

「いや、俺の剣を使おう! 俺の炎剣をつっこめば、冷たい水だってあっという間に熱くなる!」

 

「マグマさん、ナイスですわ! 浸す桶がないならば、とにかく湯をつけたタオル等で温めてください。決して揉んだり擦ったりしないよう注意ですわ! 爺や、あなたも薬草知識はあるでしょう、皆様の怪我をもう少し念入りに確認して回ってください」

 

「分かりました、お嬢様」

 

 どうやら、特に症状が酷いのがそれぞれの負傷者の手足の末端から広がる凍傷のようである。

 オウカの説明によれば、ダンジョン内では探索者たちは多かれ少なかれ魔力によって己の身体を護っているものなのだという。

 しかし、戦いで魔力を使い果たし、或いは少ない魔力だけでは補いきれないダメージの蓄積によってその護りが薄くなった時、このダンジョンの冷気が牙を剥く。

 そもそもがここは冬の北海道だ。地元の探索者たちも冷気の恐ろしさは十分に知っているはずだった。十分な対策はしているはずだった。

 だがしかし、突如として現れた雪の壁と、彼らを襲った巨大な氷像は、そのような対策を容易く打ち崩したのである。

 

「えあろさんは、温かいうどんをお願いいたしますわ。刺激の少ない、柔らかいものをお願いします」

 

「準備は出来てるわ、任せて! じゃあタチバナさん、手を貸して!」

 

「あ、はいっ!」

 

「柚花、頑張って! 私もちょっと、手伝ってくるよ」

 

 前衛のように重いものを運ぶ力があるわけでもなく、ペンションの物資の場所を把握しているわけでもなく、ましてや治癒の素養があるわけでもないえあろと柚花は、ここでもまた後方支援役を任命される。

 そして支援内容は温かい食料。冷えきった身体には温かい食べ物、実にわかりやすい道理であった。

 今はペンションの調理スタッフもオウカのサポートに駆り出されているために、調理室は無人の空間だ。うどんそのものは当然ながらえあろに任せれば問題ないので、柚花はえあろをサポートする助手として、共に調理場へと足を運ぶ。

 桃子はそんな柚花に声をかけてから、人知れず、己に出来る仕事を全うするために、ペンションの外。裏手へと足を運ぶ。

 

 

 

 

 裏手の倉庫に複数やってきたのは、ペンションの常駐スタッフたちだ。

 

「困ったわ。調理用の小さい桶ならあるけど、腕や足をつけるとなるとあれだけじゃ難しいわね」

 

「最悪、今から浴槽に水を貯めますか? 時間がかかるけれど……」

 

「おい、こっち見て見ろ! なんかでかい桶が積んであるぞ!」

 

 彼らが倉庫で探していたのは、大きな容器。

 凍傷にかかった腕や足をお湯につけるために、大きな容器が複数必要だった。今は応急処置としてお湯をつけたタオルを適時巻いているけれど、あれでは効率が悪く、本当の意味での回復は望めないかもしれない。

 焦るスタッフたちだが、しかしそのようなものが都合よくあるだろうか。

 

 しかし、スタッフがふと顔を上げると、そこに積まれているのは、桶。

 一体なんに使うのかというような、大きなサイズの木製の桶が、積んであった。

 

「え、こ、こんな桶あったの? 覚えがないけれど……」

 

「いや、でもあるんだからこれを使いましょうよ! 多分これなら存分に水もはれるでしょう!」

 

 全く覚えのない桶の山を前に、スタッフは疑問と困惑のハテナを浮かべる。しかしこれは渡りに船だ。覚えがなくとも、これを使わない理由もない。

 大量の水をくみ上げるのはより体力のある探索者に頼るほかないが、このサイズならば十分な量の水も張れるだろう。

 スタッフたちは、意気揚々と積まれていたいくつかの桶を抱えて、施設の中へと戻って行った。

 

「ふう……。【加工】の使い過ぎで、結構ちょっと疲れちゃった。えへへ」

 

 その場では、スタッフたちは気づいていなかったが、手に工具を持った少女が、疲れた様子でへたりこんでいた。

 実はペンション裏手のこの場所では、先ほどからずっと、桃子が【加工】を繰り返していたのである。

 

 建物の裏手に、使われない板材や、薪になる予定の木材が積まれているのを桃子は見て知っていた。それらの木材を元素材とし、【加工】につぐ【加工】で、複数の桶として組み立てていたのだ。

 これも柚花のいう所の、桃子の異常に多い魔力あっての力技だが、なんにせよ力にはなれたようである。

 とはいえさすがに【加工】の連発は消耗が激しく、桃子はその場で一息ついて体力を回復させてから、スタッフに続いて施設内へと戻るのだった。

 

 

 

「痛みがありますが、我慢してくださいませ!」

 

「ふぐぅ……ッ……」

 

 野戦病院のようになっているダイニングに戻ると、手足の末端を冷気でやられていた探索者が、その末端を湯桶に浸している。

 どうやら凍傷を湯に浸す際には、かなりの痛みが伴うようである。探索者は苦痛に歪みながらも、しかし涙ながらに、オウカの言葉にコクコクと頷いていた。

 

 桃子はそんな治療の風景を見て「お湯が気持ちよさそう」と、呑気な感想を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さま、どうにか応急処置の延長ではありますが、ひとまず全員の治療を終えましたわ。お疲れさまでした」

 

「オウカさんがいてくださって本当に良かった。ありがとうございます」

 

「皆様の力があってこそですわ」

 

 外はすでに暗い。昨日と同じように、そしてこのダンジョンではいつも通りに、瘴気交じりの吹雪が世界を覆っている。

 先ほどまでは野戦病院さながらだったダイニングだが、今は怪我人たちは各々の寝室で眠っている。本来ならば、早めにしっかりとした機材の揃っている病院で検査をすべきなのだが、少なくとも現状での出来ることは全てやりきった。

 怪我人の血などの付着した布団類は撤去され、使用された床や台には最低限の除菌スプレーではあるものの徹底的に清掃を施した。

 あくまで魔物による外傷の治療であり、病気などの心配は少ないかもしれないが、食事の場なのだから衛生面も気を付けるに越したことはない。

 

 現在は、椅子とテーブルが並べなおされて、オーナーの雪村と、ゲストたる探索者たちが一同に会していた。

 

「さて、ところで……結局、何がどうなったのかのお話を伺ってもよろしいですの?」

 

「では、僭越ながら私から、彼らを救出しに行った先で何があったのかを説明させて頂きます」

 

 そして、先ほどの救助隊を代表し、説明を求めるオウカらに対してイリアが説明役を買って出る。

 

 ダンジョン入り口へと続いていたはずの雪道が途中で途切れ、大規模な変動の影響と思われる巨大な氷雪の壁で覆われていたこと。

 倒れた荷車と血痕、そして銃声を頼りに救助にいった先では、マタギの親方が己を囮として巨大な氷像の魔物と対峙していたこと。

 氷像の足を砕き、行動不能にしたところで親方および残りの負傷者を発見。荷車に寝かせて、帰還したこと。

 

 大まかな説明ではあるが、しっかりと、あったことをそのままに伝えてくれた。

 

「マタギのお爺ちゃん、私をコロポックルだと思って、ずっと泣いてたんだよ」

 

「先輩……」

 

 あの涙は何だったのだろう。

 柚花にしか聞こえない声で桃子は呟き、あの時のマタギの涙を思い出す。

 あのお爺さんは、コロポックルに謝り続けていた。自分が弱かったから、助けられなかった、と。 

 しかし、そんな桃子の想いを置いていくように、会話は続いていく。

 

「ギルドともあれから連絡はついたのですが、やはり地上の入り口から進んでも、道のりが全く別な地形になっていたようです」

 

「ダンジョンの変動に、特殊個体の出現でございますか……」

 

 それまで静かに話を聞いていた爺やが、ぽつりと口を開く。

 オウカの御付きの爺やは、柚花が言うには魔力だけで言えばかなりの実力者なのだそうだ。

 凄腕のベテラン探索者ともなると、過去にも様々なダンジョンの異変を目にしてきたのかもしれない。

 尤も、いかな凄腕のベテランといえど肉体の老いは免れなかったのか、桃子の見る限りでは彼がペンションの外へと踏み出して活動するような素振りは一切なかったのだが。

 

 そしていま、このダンジョンに起きている異変と言えば、もう一つ。

 

「なあ雪村オーナー! 既に夜になっちまったが、今日は日が暮れる前から外が吹雪いてたよな? これも変動によるものなのか?」

 

「それは……わかりません。吹雪も、変動も。これが偶然なのか、必然なのか」

 

 オーナーもまた、この状況はどういうことなのかが分からないようである。彼は力なく首を振る。

 しかし、オーナーの言葉を代弁するかのように、それまで黙って成り行きを見守っていた仮面の男が椅子から立ち上がり、演説でもするように口を開く。

 

「マグマさん。変動と吹雪。これは、運命という名の必然ですよ。僕の調べによれば、遥か昔にも同じような状況に陥ったことがある。もちろんそれは、雪村オーナーはご存じですよね?」

 

「ええ。過去に一度。同じことがありました……」

 

 力なく、尋問される容疑者のように、雪村は頷く。

 別に誰も彼を責め立てようとしているわけではないのだが、しかし雪村はここにいるメンバーを招待し、この異変に巻き込んだという自責の念があるのだろう。

 俯く彼の声には、かすかな震えが混ざっている。

 

「もう何回か話題に出ていますよね? コロポックルが消えたという、このダンジョンの、永い夜の始まった日のことです。宜しければ、僕らにも聞かせていただけませんか?」

 

「その時は……私は……」

 

 そんなオーナーの気持ちなど知らぬとばかりに畳みかけるツインペアーの語りに、雪村オーナーは狼狽える。

 しかし、その問いに答えたのは、先ほどから後ろでこのやり取りを聞いていた人物だった。

 

「雪村オーナーは、あまり詳しいことを覚えていないのよ。彼はあの時、ずっと気絶していて何もみていないから」

 

「おや、料理長。貴女も当事者でしたか」

 

「今からだと、33年前のこと。当時雪村くんはまだ見習いの新人……ううん、新人から独り立ちした直後、くらいだったわね」

 

 今から33年前。本州ではいくつかのダンジョンが新たに発見されていき、まだ新宿や房総にダンジョンが発見されるより以前のことである。

 既に齢60となる料理長が語るのは、33年前にこのダンジョンで起きた、永い夜の始まりとなる物語だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【北海道ダンジョン用 雑談スレ(札幌/摩周)】

 

 

:摩周ダンジョンがやばい

 

:最近摩周ダンジョンの話題多いな。今度はなにか?

 

:閉じ込められたって

 

:閉じ込め? 誰が?

 

:摩周ダンジョンギルドからの発表 現在大規模なダンジョン変動で奥へ進むルートが消失、天候も急激に悪化。立ち入りに規制が入っている(URL)

 

:は?

 

:ペンションの客とかどうすんだ?

 

:なんかヤバいことになってるみたい。まだ明るいのに例の吹雪が始まったって。

 

:配信者のタチバナがペンション泊まってるじゃん 救助は?

 

:吹雪で、更に道が無くなってるんじゃ無理だろ

 

:親父に聞いたことあるぞ カムイダンジョンが終わった日も同じ状況だったって

 

:やめろよ縁起でもない

 

:あ、いまニュースになってる。摩周ダンジョンで大規模な異変発生。複数の探索者たちが閉じ込められている模様(URL)

 

:ニュースでさらっと特殊個体が目撃されたって言ってるんだけど、ヤバくね?

 

:頼む助けてくれ 札幌ダンジョンには強いパーティとか沢山いるんだろ

 

:いま札幌ダンジョンギルドも騒ぎになってるぞ。救助隊を編成するって方向で話し合ってるけど、具体的にどうするんだって話が。

 

:救助隊を編成したとして、札幌から何時間かかるんだよ。行ったとして道が消えた吹雪の摩周に誰が侵入できる。

 

:探索者引退して30年の親父がなんか泣きながらカムイダンジョンに行くとか言い出したんだが あいつらを今度こそ助けるとかワケわからないこと言ってる

 

:二次被害になるから絶対に向かわせるな

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