ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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桃子のために

「うお!! やるな爺さん!! 俺も負けてられねえな!!」

 

 明らかに動きが鈍くなったゴーレムに、マグマが気炎を上げて斬りかかる。

 だがしかし、装甲が弾け飛んだ上半身には、マグマの刃は届かない。仕方なく足に斬りかかるしかないが、だがそれでは先ほどまでと変わらず、いたちごっこだ。

 打撃への耐性が強いこの魔物相手に、イリアの【鉄拳】は効果が薄い。

 マグマが斬りつけ、魔力を送り込んだ箇所を重点的に狙えばある程度はダメージが入っているようだが、しかしそれも微々たるものであった。

 

「今更ながら、『バリスタ』が欲しくなりますね。今ならわかります、あれは有用なものです」

 

 マグマのサポートとして動き回るイリアも、さすがに体力が持たなくなってきた。

 銃弾でゴーレムの勢いが衰えたのは、彼女にとっても僥倖だ。あのままの勢いで暴れられては、いずれイリアの足が動かなくなってしまったことだろう。

 

 イリアは頭の中で、とある兵器の存在を思い浮かべた。その名も特殊個体討伐事案用巨大魔槍射出砲。通称『バリスタ』。

 一度は琵琶湖ダンジョンへと持ち込まれ、結局使われないままに終わった代物だが、あれがあればこのダンジョンはコロポックルを失うことなく、初めから救われていたのだろう。

 兵器という存在そのものに難色を示す声は多く、いまは封印されている状態ではある。

 それに、巨大な兵器故に使い勝手も悪く、自由にどのダンジョンでも使用できるというわけではないだろう。

 

 だがしかし。もし今のように、人の手に負えない特殊個体が居るのならば。

 あの兵器は、人々のために、活用すべきなのかもしれない。

 

 イリアは心の中でそう考えたが、しかし今それを考えても仕方がない。すぐに戦いへと心を戻す。

 いつの日か、かの兵器が再び息を吹き返し。そして、とあるダンジョンの闇を祓うための切り札となるのだが、今はその時ではなかった。

 

 

 

 

 

 戦いは続いている。

 オウカの治癒を受けて、アカヒトが再び戦線へと復帰し、氷のゴーレムの動きも最初よりは遥かに鈍くなってきている。

 魔力を込めた銃撃により、核が隠されているであろう上半身の装甲は剝がされた。

 だがしかし、銃弾ではそこが限界だ。魔力を込めたとしても、あの巨大な氷のゴーレムの核を貫くことは叶わない。そもそも、敵のサイズに比べて弾丸一つでは小さすぎる。

 

 えあろの風を受け、前線の三人は機敏に動けているようには見えるが、しかしやはり、どうしてもその限界はある。

 

「参ったわね。うどん大会のときみたいに、狸の長が上半身を丸ごと吹き飛ばしてくれるなら楽だったんだけどね」

 

「せめて、上半身に届く攻撃があればいいんですけど……」

 

 風で仲間を支援しながらも、えあろにも疲れが見えて来た。

 この瘴気を伴う吹雪の中で仲間たちが自由に戦えているのは、彼女が起こす魔力の風が吹雪をある程度まで打ち消しているからだ。ある意味、彼女はこの吹雪の中の戦いでの最大の功労者とも言える。

 だがしかし、流石にこれだけの魔力を放ち続ければ、えあろにも同様に限界が訪れるだろう。

 

 そしてえあろの魔力同様に、マタギの親方の持つ銃弾も残数が尽きてしまう。

 親方と柚花のコンビネーション、魔力を纏った弾丸でいくらかのダメージを与え、氷の装甲は弾き飛ばしてはいるが、しかしやはり決め手に欠けるのだ。

 銃弾で装甲が弾け飛んだとして、そこに誰かが一撃を叩き込むことが出来たなら。

 

 そこまで考えて、柚花の脳裏には一つの可能性が浮かぶ。

 えあろの言うように、うどん大会でゴーレムの上半身を吹き飛ばしたのは狸の長の力だと思われているのだが、実際は言うまでもなく桃子のハンマーだった。

 あのときは、桃子はヘノの魔法で上空に飛び上がり、ありったけの魔力を込めてゴーレムを粉砕したのだ。

 残念ながら今回の氷のゴーレムは衝撃に対する耐性が桁違いに強く、桃子がティタニアの魔力を借りた上でひたすら殴っても、いくつかの氷が吹き飛ぶだけでダメージらしいダメージは入っていない。

 

 だがもし仮に、桃子が空高く飛翔して、膨大な魔力をあの装甲の砕けた部位に叩き込めたならば。恐らく、確実に。氷のゴーレムを粉砕出来るだろう。

 そのためには、ヘノの魔石を使うための素養、それこそ妖精の如く風を使いこなす人並外れた技術が必要である。

 桃子と柚花で話し合った結果、普通の人間では制御出来ないという結論に至った。

 

 しかし、それは本当にそうなのだろうか。

 

 否。

 

「……えあろさんって、風の魔力を直接操ってますよね」

 

「ああ、それはね――」

 

 

 

 

 

 

「先輩!」

 

 柚花は駆け出した。吹雪に邪魔されず、桃子にしっかりと言葉が伝わるように。

 そして桃子は柚花の姿に気が付くと、慌てて戦線から離脱して柚花をそれ以上近づかない様に留める。さすがに柚花がゴーレムに近づきすぎるのは危険すぎる。

 

「柚花?! 危険だから、こっち来ちゃだめ!!」

 

「先輩、ヘノちゃんの魔石です! あれで翔んで、あの装甲が砕けた部分を壊しちゃってください!」

 

「でも、あれはっ……!」

 

「えあろさんがいます! 先輩、あの人は風の魔力を直接操れるヤバい人でした! だからきっと、使いこなせます!」

 

 風の魔力など、魔法の素質を持たない桃子には当然ながら使いこなせない。だがしかし、仮にここに風魔法を主体としている探索者がいたとしても、このヘノの魔石を使いこなすことは不可能だろう。

 どれだけ魔石に力を込めても、そこからはただ緑の風が吹き出すだけだ。更にその風を自在に操るなどというのは、スクロールに記された魔法スキルに頼っている人間には難しい。あれは風の妖精という、風そのものを司る存在だからこそ出来る技術なのだ。

 

 しかし。この戦いの中で、柚花はその眼で視て、確信したことがある。

 

 柚花は雷の魔法の素質を持っている。やろうと思えば、雷へと転じた魔力をその手から発することは出来る。だが、それだけだ。それを自在に操作する方法など、想像もつかない。出来る気もしない。

 一方、風祭えあろという女性は使える魔法スキルも少なく、『風の魔法スキルの使い手』としては才能こそあれど、よくて秀才レベルだ。

 だが、夕凪という化け狸の教えを受けて研鑽してきたその技能に着目すれば。ただ純粋に、風の魔力を運用するという類まれなる技術を含めて見るならば。

 

 彼女は、トップクラスの『風の魔力の操者』だった。

 

 桃子は残念ながらそれを見ていない。なので、えあろがヘノ程の使い手だとは思えないし、そもそもヘノの技術が人間の領域でないことくらいわかっている。

 それでも今は、柚花の言葉を信じることにした。

 

 

 

 

 

「えあろさん! お願いします、この魔石に籠ってる風の魔力で、私につむじ風の魔法を使ってください!」

 

 桃子がえあろの腕にしがみつく。

 そして、ヘノの魔力が籠った魔石をえあろに差し出して、懇願する。

 柚花が突然に、頼みがある、と言うので最初は何のことか分からなかったえあろは、唐突に己の前に現れたコロポックル少女の姿に、目を白黒させる。

 

「こ、コロポックル?! ……じゃない、ももポン……? 待って、あなた確か、出発時のバスで……」

 

 桃子が強くしがみつけば、それだけ【隠遁】の効果は薄れていく。えあろはだから、出発時に存在していたももポンそっくりの少女のことも、今なら思い出せることだろう。

 だがしかし、吹雪の中で仲間が戦っている最中だ。悠長なことは言っていられず、桃子も一方的に用件を伝える。

 

「ももポックルです。この魔石に風の妖精の力が籠ってて、それさえあれば前みたいに、ゴーレムの上半身まで跳べるんです!」

 

「……わかったわ、香川のゴーレムのときと一緒なのね」

 

 えあろも状況は飲み込めないものの、しかしただ一つ、理解したことがある。

 うどん大会にて、あの巨大なゴーレムを破壊したのは、化け狸長ではなかった。ももポンだかももポックルだか分からないが、あれをやったのは目の前の巨大なハンマーを携えた少女である、と。

 そして、あの時にえあろが目撃した風の妖精と、その妖精がポンコに使ってみせた【風走り】の魔法さえあれば、この少女は同じように、ゴーレムの破壊が可能なのだ、と。

 

「あの時の風の妖精が見せた【風走り】が、私に使えるかはわからないけど……ううん、やるわ! やってみせる!」

 

「お願いします……!」

 

 縋るような視線のももポックル。そしてその横では同じく、真剣な目で見守る柚花。

 その向こうには状況が分かっていないマタギの親方がいるが、その彼すら今のえあろたちが何か重大なことをしようとしていることが分かっているのか、静かに成り行きを見守っている。

 

 えあろは、桃子の手を包み込むように自分の手を重ねて、その魔石に己の魔力を流し込む。

 そこに込められた風の妖精の力に同調するように。魔力を混ぜこむように。ゆっくりと。ゆっくりと。

 えあろの魔力は風属性との親和性に優れている。その魔力は、ゆっくりと、だが確実に、妖精の力と混ざり合っていく。

 

 そして、その妖精の『声』が聞こえた。

 妖精の力と混ざり合った己の魔力を通じて、えあろの脳裏にははっきりと、その『声』が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 ――大切な。桃子の助けになるように。

 

 

 ――ヘノがいなくても。桃子がひとりでも。大空を。翔べるように。

 

 

 ――ヘノの。この力を。この魔石に。込めるぞ。

 

 

 

 

 

 瞬間。魔石からは緑色の風が勢いよく吹き出した。しかしそれは、優しく桃子の身体を包み込む。

 やり方は、魔力そのものが教えてくれた。えあろはただ、その声に従えば良い。

 そうすればこの風の魔力は、目の前の少女――桃子の力になってくれる。

 

「あなたは……桃子ちゃんていうのね。聞こえたわ。この風は全部、あなたの為のものだわ」

 

 えあろが風を調整し、いつか香川ダンジョンでみたように、桃子の両脚へと緑の風を集めていく。

 風属性の魔法スキルとして、【風走り】という魔法が存在する。対象の両脚に風の加護を与えて、その俊敏性を増すというものだ。

 しかし今えあろが使っているのは、そのようなスクロールで覚えられるような代物ではない。もっと高度な、ただただ純粋な、風の魔力を使うものとしての到達点の一つだった。

 

「……はい。これ全部、私の大切なパートナーの、魔力なんです」

 

「これなら、大丈夫。やり方は全部この魔力が教えてくれてるわ。まかせて!!」

 

 えあろが操る優しい風。しかし、激しく、力強い魔力が込められている。

 えあろが念じると、緑の風が桃子の両脚をつむじ風となって覆っていき、いま完全に、桃子の魔力に同調した。

 

「すごい! これなら――!!」

 

 桃子は、慣れ親しんだヘノの魔力を感じる。

 これなら跳べる。そう確信して、そのハンマーに魔力を込めて、氷のゴーレムへと向かい走りだした。

 

 

 翔ぶ。

 

 周囲の吹雪を切り裂いて、緑色の風が空高く舞う。

 

 

「先輩、行っちゃえーっ!!!」

 

 

 桃子の魔力と。そしてティタニアの、妖精女王の魔力をハンマーに込めて。

 大きく振り上げて、狙うは氷のゴーレムの上半身。柚花が装甲を破壊してくれた、むき出しの部位に狙いを込めて。

 遠い昔、コロポックルを蹂躙しつくした、その仇に向けて。

 

 

「このぉおおおっ!!! みんなのダンジョンを、返せええぇっっ!!!!」

 

 

 瘴気の渦を吹き飛ばすかのような、強大な魔力の爆発。

 

 氷の巨像の半身が、光と共に砕け散った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある妖精たちの会話】

 

 

「どういうことだ?」

 

「すやすや……」

 

「むにゃ……ポン……おなかいっぱい……」

 

「おい。ニム。たぬき。起きろ」

 

「むにゃ……うぅ……どうしましたかぁ?」

 

「いま。感じたんだ。桃子が。ヘノの魔力で。戦ってる」

 

「こ、こんな時間にですかぁ……? ま、まだ、桃子さんなら寝てる時間ですよぉ……?」

 

「ニム。お前が後輩に渡した魔石。治癒の水は。使われてるか?」

 

「うぅ……いきなり言われても、分かりませんけど……と、とくには……」

 

「そうか。それなら……おい。たぬきも起きろ。何か。何かおかしいぞ」

 

「んー……どうしたっすか……?」

 

「ヘノぉ……?」

 

「何か。何かおかしい。嫌な予感がするぞ。胸騒ぎが。するんだ」

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