ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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ぴょんぴょんのち特訓

「ヘノちゃーん、こっちこっち」

 

 

 待ちに待った週末。

 

 早朝から房総ダンジョンへと訪れて、下層へのルートを外れた人気のない森の中で薬草や果実を採集しながらヘノを待っていた。

 特に待ち合わせなどはしておらず、ヘノが言うには桃子がダンジョンに入ってくれれば何となくヘノに伝わるらしい。

 それも、加護とやらの効果なのだろう。

 

 30分ほどそうしていただろうか。一度手をとめて、ペットボトルのお茶で一息ついていると、森の奥に緑色の光がふよふよ漂っているのが見えた。

 桃子が呼びかければその光はまっすぐ飛んできて、そのまま桃子の右肩に着地する。

 

「桃子。薬草でも。集めていたのか? ヘノも。手伝うか?」

 

「ううん、大丈夫だよ。それより、今日は何かする予定だったんでしょ? 何するの?」

 

「そうだった。今日は。桃子の修行と。探索をかねて。またマヨイガへ。行こうと思うぞ」

 

 マヨイガとは、先週ヘノに連れられて、鎧騎士ことサカモトを送り届けた遠野ダンジョンの第四層のことだ。

 本来は気軽に行ける場所ではないのだが、妖精の国を経由すれば、比較的簡単に行き来することが可能である。

 

「修行……まあ、うん。こないだは危なかったけど。どうしてマヨイガに?」

 

 先日のマヨイガでは、サカモトが助けてくれなければ危ないところだった。

 どうやら、あのままだと尻子玉を抜かれるところだったらしい。尻子玉が何なのかはわからないが、乙女として、決して抜かれてはいけないものだという気がする。

 今思えば、河童が三匹だけなら他にもやりようがあったとは思う。だが、あの時は頭が混乱して無様な姿を晒してしまった。

 桃子としても、自分の経験不足を痛感した苦々しい経験である。

 

「桃子はもしかしたら。知らないかもしれないが。この前から。この房総ダンジョンの中には。ドワーフを探そうとする連中が。多いのだ」

 

「ああ、そういえば窓口さんも言ってたなあ。確かに、いちいち周囲を気にするのってやりにくいね……」

 

「なので。今から。マヨイガへ行くぞ。ちょうどあそこで。面白い場所も。見つけたんだ」

 

 マヨイガ自体はこの前歩いた感じでは、ヘノの案内さえあれば自分でもどうにかなりそうではあった。もちろん、油断しなければ、だが。

 あっちはあっちで座敷童の萌々子ちゃんなる噂話があるようだけれど、さすがに第四層まで直接探しにくる命知らずな探索者などはいないだろう。

 

 どちらかと言えば、そこへ行くまでの道のり、房総ダンジョン第三層の鍾乳洞窟のほうが大変だなあ、と思いながら、ヘノと共にダンジョン下層へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

 道すがら、今週あったことを雑談がてら報告する。

 

 ギルドの上層部は妖精のことを保護対象にしていたこと、妖精の国と女王のことはぼかして説明しておいたことなどの、妖精に関わる報告。

 なんて書いてあるのか読めないスキルについても聞いたが、それについてはヘノにも分からないようである。

 

「おおかた。桃子が。何か変なものを食べたんじゃないか?」

 

 だそうだ。ひどい言いぐさである。

 ヘノの目からみても特に変わったことはない様子なので、桃子もとりあえずは件のスキルについては保留とすることにした。

 

 他、そのような話以外にも、ヘノが色々と聞きたがるので、工房での仕事のことや、和歌や所長、親方のこと。今週食べたご飯の内容。あとはオマケでギルドで後輩を説教したエピソードなど、色々と話しながら歩いていたら、あっという間に三層の鍾乳洞までたどり着いていた。

 

「桃子は色々と。楽しく過ごしていたんだな。何を隠そうヘノも。最近は。色々なやつから。アドバイスをもらったぞ。見ろ」

 

 ヘノが神槍ツヨマージ――今回は静かに出現させた――を掲げると、そこに小さなつむじ風が出現する。

 そしてツヨマージを桃子の足に向けて一振りすると、ふわっとした風が桃子の両脚へと纏わりつく。

 

「うわっ、なにこれ?! 足が軽くなったよっ?」

 

「女王に教えてもらったのだ。ヘノの風は。こういう風に使えば。桃子を身軽にできるらしいぞ」

 

「へぇー、さすが女王様だね。物知りなんだねえ。うわすごい、飛べちゃいそう!」

 

「桃子。ここでジャンプするな。天井のトゲが頭に刺さって死ぬぞ」

 

 ヘノの風の魔力によって、桃子は自分でも驚くほどに身体が軽くなった。自分の体重どころか、背中のリュックまでもが、まるで重さがなくなってしまったかのように感じる。

 その場でぴょんぴょん跳ねれば実際に身体が軽くなっており、ジャンプ一つで自分の身長を飛び越えてしまった。

 無闇にぴょんぴょん跳ねる桃子が、洞窟の天井から垂れている鍾乳石に下から突き刺さりそうに見えて、ヘノはあわあわした。

 

「トランポリンみたいで楽しーい! ていうかヘノちゃん、これ第一階層から使ってくれればもっと早く行けたんじゃ……?」

 

「ヘノは。桃子とお話ししながら。歩くほうが好きだぞ。でもここの鍾乳洞は。歩くのが。大変そうだったからな」

 

「……えへへ、そうだね。じゃあサクッと入り口まで行っちゃおうか」

 

 ヘノの言葉に笑顔になる桃子。

 確かに、ヘノの言う通りだ。時間はかかったとしても、ダンジョンで仲間とおしゃべりをして歩く時間というのは、まさに桃子がずっと欲しがっていたものだった。

 

「じゃあさ、あとでヘノちゃんの今週の話も聞かせてね」

 

「ヘノは危うく。桃子に毒を飲ませる計画を。立てるところだったぞ。危ないとこだったな」

 

「ええ……どういうことなの……」

 

 よくわからないが、間一髪、暗殺の危機だったようだ。

 

 

 

 

 ヘノの魔法によって身軽になった桃子が、ぴょんぴょんと跳ねながら鍾乳洞を進んでいった。

 道のりに現れた蛇や蛙のモンスターは、勢いをつけたままハンマーで一撃。はたから見れば、横スクロールのアクションゲームのようだ。

 

 桃子の体感では身軽になっているものの、ハンマーの実際の重みは変わっていないようで、相変わらずモンスターたちは一撃で煤になっていく。

 通りすがりにモンスターを倒しては、時たま落ちている魔石や素材を拾って、またぴょんぴょん。

 移動が楽だと、魔物狩りも実に効率的だった。

 

 

 そして、あっという間に妖精の花畑を抜けて、遠野ダンジョン第四層、マヨイガへと到着する。

 

 

 

「桃子。修行をしなければいけないので。足の魔法を解くぞ。これからの話だが。桃子には。『いちげきりだつ』を。覚えてもらおうと思うぞ」

 

「一撃離脱? それって、一撃いれて、すぐに離れるっていう……?」

 

 マヨイガに出ると、そこは先日と同じ広々とした和風建築の廊下だ。ヘノが破壊したふすまや燭台は、いつの間にか復元されている。

 先ほどまで身軽だった反動で、今はよりいっそうハンマーのどっしりとした重みを感じる。

 

「実は先日。この遠野ダンジョンで。あのイビキ男をみつけたので。ちょっと声をかけてきたぞ」

 

「え、サカモトさん? なんか今週は色々テレビでも取材されてたけど、大丈夫だったの?」

 

「イビキ男は挙動不審だったが。ヘノは大丈夫だったぞ。それで。サカモトに。桃子の修行方法を。聞いてみたのだ」

 

 ヘノが言うところによると、最初は他の妖精たちに修行のアイデアを聞いてみたそうだ。

 だが、残念ながら妖精たちのアイデアは使えないものばかりだったため、何かないかと様々なダンジョンをうろうろしていたところ、丁度この遠野ダンジョンにて、見覚えのある鎧姿を見つけることができた。

 

 言われてみれば確かに、ヘノが桃子について相談できる人間というのは、サカモトくらいだろう。

 サカモトはあれでも高レベル探索者ギルドの一員であり、桃子の弱点も把握しているので、アドバイスを聞くには適任だ。

 

「なんだか。小難しい話を色々としていたが。結論としては。いちげきりだつ。を心掛けるといいんじゃないかと。言っていた」

 

「そっかー、一撃離脱か……」

 

「桃子の場合。一度気づかれても。すぐに隠れてしまえば。また見失うからな。ヘノも。それがいいと思ったぞ」

 

 ヘノが、人に見つかるリスクを……背負っていた自覚があるかは別として、少なくとも桃子のためを思って人間にコンタクトを取ったのだ。

 ここで一撃離脱をモノにしなければ、ヘノにも、サカモトにも、合わせる顔がない。

 まあ、サカモトに会うことなどは今後もあるとは思えないが。

 

 ともかく、桃子は気合をいれてハンマーの柄をぎゅっと握りなおした。

 

「さっきも話したが。このまえ。このマヨイガに。面白い場所も見つけたのだ。そこに移動しつつ。河童を探すぞ。リベンジだ」

 

「まって、最初はほら、唐傘お化けあたりからにしない?」

 

 気合は入れたものの。

 まだ、河童を相手にするのは少しだけ、ちょっとだけ、気後れしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【深援隊メンバー サカモトの手記】

 

 

○月▽日

 

 なんか、本当に大変なことになっちゃってたんだな。両親の涙はさすがに俺に効く。

 にしても、長い夢を見てた実感はあるんだけど、さすがに半年も寝てたとは思わなかったよ。

 カメラとかにも写されて、俺ってもしかして有名人じゃないか。

 

 

○月▼日

 

 有名人になんてなるもんじゃない。あれこれ追及されるばかりで、しんどすぎる。

 マヨイガを出るとき、桃子ちゃんの名前を出したのは失敗だったかもしれない、滅茶苦茶聞かれる。

 妖精のことも桃子ちゃんのことも寝起きで何も覚えていない、で押し通したけど、これでいいのかな。

 命の恩人でもある幼女先輩を巻き込んでしまったのは、いち紳士として反省点だ。

 

 座敷童の萌々子ちゃんの絵は見つけた分は全部保存した。規約無視のエロ絵は通報済みだ。紳士だからね。

 本物は確かもう少しちっちゃくて、横にヘノちゃんが飛んでて、ガチのリアル魔法少女なんだけど、それを言えないのが一番辛い。

 桃子ちゃんの声はあんまり覚えてないけど、イメージとしてはやっぱり声優の

 

 おっと、リーダーに呼び出された。CVはおいおい考える。

 

 

○月□日

 

 昨日はあのあと滅茶苦茶説教された。

 ピュアニャムニャムのスタンプを使ったことに滅茶苦茶怒ってた。ナンデ!? 趣味じゃなかったのかもしれないな。あの人ピュアキュアどころかアニメとかほとんど知らないし。分かち合えないのはつらい。

 次はリーダーには古今和歌集のスタンプ(あるのか?)を送りつけてやる。

 

 

○月■日

 

 リハビリがてら、遠野ダンジョンの第一層へ潜ったんだが、ヘノちゃんがいきなり話しかけてくるものだから、慌てた慌てた。超慌てた。

 猛烈な腹痛が襲ってきたフリして配信切って離れたから、お陰で俺は鎧マンの上にうんこマンだ。ひでえ。

 

 ヘノちゃんは、桃子ちゃんの修行をするらしい。毒がどうとかは意味がわからなかった。

 色々と、間合いやら脚捌きやら剣術の知識みたいなのは説明したけど、あんまし参考にはならなかったかもな。桃子ちゃんはハンマー幼女だし、剣術の知識は意味ないか。

 最後に出してみた、桃子ちゃんの特性を利用した一撃離脱をメインにした戦法は理解してくれたから、一応それでなんとかなったかな。

 

 そういえば俺の剣のこと聞くの忘れてた。あれ高いんだけど、さすがに戻ってこないかなー。しばらくは安い剣で我慢するしかないか。

 

 あと、あまりに長いトイレ離脱だったからか、やたらしつこく送ってきたリーダーからの確認のメッセージには、昨日見つけた古今和歌集スタンプを返しておいた。んでめっちゃキレられた。

 

 

○月◇日

 

 俺が言うのもなんだけど、遠野ダンジョンはトラブルには事欠かないようだ。

 忙しくなりそうだ。さっさと武器、調達しないとな。

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