ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました   作:chikuwabu

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おやすみ またいつか

【タチバナの真相解明チャンネル! コメント抜粋】

 

 

:配信開始のお知らせきてすぐに開いた!

 

:こんな早朝から何が始まるの?

 

:摩周ダンジョン、いまヤバいんだろ 大丈夫なのかタチバナ

 

:映った

 

:あああ目が

 

:たちばなあ

 

:ヤバいなんだよこれ

 

:あれ魔物なの?

 

:これはヤバい拡散するぐsにけgばんにはってkるk

 

:建物が滅茶苦茶になって

 

:左目

 

:涙でてきた

 

:視えてるの? 配信してないで病院いってくれ

 

:タチバナなんでその状況で笑えるんだお前

 

:奇跡って

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

:おっさん誰だよ

 

:誘導から来た! いまの摩周ダンジョンのマタギのおっさん! 知り合いだよ!

 

:コロポックル?

 

:今北 なにこれ ガチなの?

 

:映像作品だと言ってくれよ

 

:コロポックルいるじゃん!

 

:生きてるの

 

:光った

 

:なにこれ どうなってんの あの巨人なに?

 

:ああああ

 

:親父が映像みて泣き出した なんなん

 

:これ本当に摩周ダンジョンで起きてることなのか?

 

:すぐ拡散する

 

:雪が消えた これ マジだったらヤバい 摩周ダンジョン今何が起きてるんだ

 

:妖精! 妖精だろあれ!

 

:コロポックルが妖精と遊んでる

 

:涙とまらん

 

:あ

 

:配信おわた

 

:どうなったんだよ

 

:摩周ダンジョンギルドに連絡しろ ここにギルド関係者くらいいるだろ

 

:鎌倉ダンジョンだけどギルドの人に報告した

 

:砂丘ダンジョンのギルドにも報告済

 

:おまえらおちつけこれは北海道のダンジョンだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『桃子、ありがとう。カムイダンジョン、これで、救われる、よ』

 

 白い、氷の花の咲き乱れる花畑で、たどたどしい女の子の声が桃子に語りかけてきた。

 誰か、などと問いかけるまでもない。それはこの数日間、桃子とずっと共にいたコロポックルだ。その身を失ってもなお、このダンジョンを救ってくれた少女だ。

 

「うん、うん……貴女のお陰だよ、みて。みんな楽しそうだよ、見える?」

 

『見える、よ。私、頑張った、よかった』

 

 花畑には、たったいま生まれたばかりの白い光を放つ小さな妖精たちが戯れている。

 その背にうっすらと薄い氷の羽を纏った、氷の花の妖精たち。彼女たちこそが、このダンジョンの新たなる護り手となってくれるのだろう。

 

 更に、これは桃子にとっては予想外のことではあるのだが、湖畔に陣取っていたあの巨人までもが、氷の妖精たちの誕生と共に消え去ってしまった。

 桃子としては、人間が戦える程度に弱ってくれるか、あるいはダンジョンの下層へと引っ込んでくれることを期待していたのだが、まさか苦悶の声と共に消失してしまうとは驚きである。

 

 そして、更に桃子を驚かせたものがある。

 その存在は、桃子がコロポックルの少女の羽織と共に、白い花畑と小さな妖精たちを見つめていると、もの凄い勢いで桃子の元へと飛んできた。

 最初は気のせいかと思ったが、見てみたら間違いなく、緑色の光が猛スピードで向かってきたのである。

 そしてその光は桃子に近づくと速度を緩めて、桃子の目の前で静止して。

 

「桃子。無事でよかった。ヘノは。とっても。とっても。心配したんだぞ」

 

「ヘノちゃん?! なんで…………?!」

 

 桃子の相棒たる風の妖精ヘノが、遠く北海道のダンジョンまでやって来たのである。

 ヘノは、いつもの無表情に見えるが、しかし桃子の目にはなんとなく、半泣きの顔に見えた。しかし、ヘノからみればいまの桃子こそが泣きそうな顔だったのかもしれない。

 

「さっき。光の膜が出てきたんだ。それより桃子。どうしたんだ。なにか悲しいことでもあったのか?」

 

「ううん、ヘノちゃん、このコロポックルの衣装ね……あっ」

 

 ヘノに、このコロポックルの少女を紹介してあげたい。ただの衣装じゃなくて、ここに宿る心優しい女の子をのことを、相棒たるヘノにも知ってほしい。

 桃子がそう願うと、着用していたコロポックルの衣装が光となって桃子の身体から離れていく。

 

 そしてその光は、桃子の目の前でひとつの姿を形作る。

 それは、ロビーに描かれていた姿。桃子が夢のなかで語り合った姿、そのままのコロポックルの少女だ。

 今にも消えてしまいそうな光の幻影の姿で、コロポックルの少女が桃子の前で笑顔を浮かべている。

 

「あは……あのね、この子がね、ここで私のパートナーだったんだよ。たく……さん、頑張って……きて……ね……ひっく……」

 

 桃子は、コロポックルの少女をヘノに紹介した。短い時間だったけれど、彼女と桃子は一心同体だったのだ。

 雪道をかけて、敵とも戦って、美味しいものも食べて。夢の中でも、いっぱい話をした。

 しかし、伝えたいことが全然伝えられないままに、溢れてくる涙を堪えることが出来ず、嗚咽を漏らしてしまう。

 桃子の前で、少女の姿を形作る光の粒子が、少しずつ消えていく。

 

『ヨウセイ。桃子と、この土地のこと、お願いする、よ』

 

「お前が。桃子を守ってくれてたのか。感謝する。あとは。任せろ」

 

 それでも、コロポックルの少女も、ヘノも。桃子の気持ちはきっと、正しく受け取ってくれた。

 

 少女はヘノに向き直り、後の事を託す。

 ヘノは少女に礼を言い、後の事は心配するなと、伝える。

 互いに、これが最初で最後の挨拶だということが、わかっていた。

 

「ね、ねえ……最後に、お名前を……聞かせて?」

 

『私、パイカラ。春、意味する』

 

 少女の名は、パイカラ。

 それはこの三日間の間、何度も口にした響きだった。ペンション『パイカラ』という名には、オーナーたる雪村のコロポックルへの想いが込められていたのだろう。

 

 その意味は、春。

 

「そっか、いい名前だね」

 

『うん。春がきて、やっと、眠れる、よ……また、いつか……』

 

「うん、いつかまた、会おうねえ……」

 

 いつか、春の暖かい日に、この少女と再び会える日を夢見て。

 桃子とヘノは、光の粒子となって消えていく少女を。静かに、静かに、見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで。桃子」

 

『ねえさま。ヘノねえさま』

 

「ん……うん、なにかな……?」

 

 光が消えてしばらくしてから、ヘノが桃子に問いかける。

 桃子は涙に濡れたほほを袖で拭いながらも、ヘノに向き直る。ヘノに聞かれるであろうことは、なんとなく桃子も察していた。

 いや、察するも何もない。今現在、ヘノとの会話中にも彼女らの声が横から入ってくる。

 

『ヘノねえさま。ヘノねえさま』

 

「こいつら。なんなんだ。ヘノはいつ。ねえさまになったんだ」

 

『ヘノねえさまー』

 

 ヘノに気付いた氷の羽の小さい少女たちが、ヘノを姉と呼び、集団で群がってきたのだ。生まれたての彼女たちは、言葉もよく分かっていないのかもしれない。ただただ、ヘノを「ヘノねえさま」と呼んで、群がってくるだけだ。

 顔立ちをよくみれば、元が氷の花だからか全体的にクールっぽい子が多いのだけれど、どことなくヘノに雰囲気が似ているような気もする。

 

「あ、そうだ! 私【創造】のとき、ヘノちゃんの魔石の魔力も使っちゃったのかも!」

 

『ヘノねーさま』

 

『カレー』

 

『へのねえさま』

 

「そうか」

 

 桃子は思い返す。あのときに所持していたのはティタニアの魔石とヘノの魔石で、その二つからも魔力を借りてしまったような気がする。出力としてはさすがにティタニアの魔力のほうが多かったはずなので、ヘノが姉でティタニアが母ということだろうか。

 今回は桃子は母親にはなれなかったようで、助かったような、少し残念なような、複雑な気分だった。

 

「いきなり。ねーさまとか言われても。ヘノは。さすがに。困るぞ」

 

 小さな生まれたての妖精にしがみつかれたヘノは、その妖精たちにどう接したらいいのかわからないようで、本当に戸惑っていた。まずは何にせよ、もう少し言葉を覚えて貰わないと意思の疎通も難しそうだ。

 桃子は、生まれたての妖精たちに困惑するヘノの可愛らしい姿に、ようやく笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ゆ、柚花さん……そ、その目は……うぅ……ゆ、柚花さんが……死んじゃう……うわぁぁっ!」

 

 穏やかな再会を果たしたヘノたちとは逆に、ニムはパニックに陥っていた。

 他の何もかもを放って真っ直ぐに柚花のもとへと駆けつけたニムが見たものは、身体中がボロボロで、あろうことか左目が真っ白に凍りついている愛する柚花の姿だったのだ。

 パニック状態に陥ったニムは、出会い頭に柚花の顔に癒しの水をぶちまけたので、極寒のダンジョンだというのに柚花は水浸しだ。

 これが癒しの水でなければ、ここで柚花は凍え死んでいたかもしれない。

 

「ニムさん、心配は嬉しいんですけど、ちょっと落ち着いてください。私が大変なことになってますから。場合によっては普通に死んじゃいますから」

 

「う、うぅ……ゆ、柚花さんが水浸しに……な、なんてひどい魔物っ」

 

 どうやらまだニムの混乱は続いているらしい。柚花は説得を諦めて、強引にニムをその手でそっと捕まえて、胸元に抱き寄せる。

 びしょびしょだが、水の妖精のニムならばむしろ快適に感じてくれることだろう。

 

「あの、ニムさん。すみませんけど、この呪いの除去って出来ますか? 多分、魔物の親玉が滅んだみたいなので勝手に治ってくれるとは思うんですけど、治る過程で壊死とかしちゃったら嫌だなって」

 

「あっ、あっ、そ、それは女王様に……な、治してもらわなきゃっ……う、うぅ……」

 

「な、なあお嬢ちゃん、そりゃあ妖精か……?」

 

 柚花が胸にニムを抱き寄せているのを見て、遠慮がちに声をかけてきたのはマタギの親方だ。

 桃子の【隠遁】が復活したことで配信も終了。端末を柚花に返してからは、彼は外の景色に呆然とし、半ば魂が抜けたように呆けていた。

 だが、目の前で柚花がびしょびしょになり、突然現れた妖精が泣きわめく姿をみて漸く我に返ったようだ。

 

「あ、おじさん。おじさんのお陰で、どうにか無事に終わったみたいです。ありがとうございました」

 

 いま思い出したかのように、柚花がマタギの親方に頭を下げる。

 見知らぬ人間の存在に慌てて柚花の服の中に隠れたニムも、柚花が頭を下げたのをみて、恐る恐る顔を出して、マタギの親方を覗き見る。

 

「いや、俺はなにもしてねえよ。結局、コロポックルの娘っ子が……」

 

「違います! おじさんがいなければ、氷のゴーレムすら倒せなかった。それに、爆発後に私たちはここに辿り着かずに力尽きてました。だから、私たちみんなの勝利ですよ」

 

「俺が……俺は……そうか、ちゃんとやれたか……」

 

 親方が、重たい罪の意識を背負っていることは柚花も知っていたし、気づいていた。

 だけれど、このマタギは今回の戦いでは欠かすことの出来ない英雄の一人だったのだ。それは間違いない事実なのだと、柚花が証言しても良い。

 だからこそ、その罪の意識はもう下ろしてもいいだろうと、柚花は思った。

 

 他者には一線を引いている柚花だけれど、いまは純粋に、このマタギを労ってあげたいと思う。

 もしかしたら、共同で銃撃をしたことで、珍しく他者に仲間意識でも芽生えてしまったのかもしれない。或いは、性善説で生きているような先輩に影響されてしまったのかもしれない。

 

 だがしかし、なんにせよ。今はマタギの親方よりも、柚花にとっては自分の胸元でもがいている妖精が優先だろう。

 

「ええ♪ っと、では私は目の治療に行ってきますね、事後処理はお願いしますね」

 

「あ、おう。しかし、事後処理って……どうすりゃいいんだ、こりゃあ」

 

 少女――柚花は、蒼い妖精につれられてどこかへと走り去ってしまう。

 ボロボロになった『パイカラ』に一人取り残されたマタギの親方は、いまにもやって来るであろう雪村たちに、この事態をどう説明したものかと、頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ。慌てて成り済まし姿を探して、衣装を用意して、宿題を終わらせて、親を説得して外泊許可をもらって、どうにか北海道まできたというのに。なんですか、このあっけない終わり方は。先ほどの衝撃波で力を殆んど使い切ってたなんて、実に馬鹿馬鹿しい魔物じゃないですか」

 

 少女は、イラつきを隠そうともせずに、言葉を続ける。

 

「霜の巨人なんて大物の皮を被っただけの、ただの見かけ倒しじゃないですか。海の王の方が手応えがありましたよ。やるならもっと、素敵な戦いを演出出来なかったのですか」

 

 白く凍り付いていた湖畔は、今は青空を映す美しい湖となっている。

 その湖畔の中央部の上空では、つい先ほど『霜の巨人』たる摩周ダンジョンに巣食っていた魔物の首魁を討伐したばかりの魔女、りりたんが一人でひたすらにぼやいていた。

 桃子と柚花の北海道行きの旅行計画に気付いたのは、彼女らが旅立つその直前だった。孫たる妖精たちに関わることならばりりたんにもある程度は把握できるのだが、地上で進められた旅行計画に気付くことは出来ない。【天啓】にしてやられた形である。

 

 りりたんとて人間としてはまだ中学生だ。外泊をするにも、飛行機をとるにも、そして摩周ダンジョンに侵入するにしても、様々な裏工作が必要だ。また、学校が始まる前に冬休みの宿題を終わらせなければならない。

 それらの緊急事態を全てどうにかして摩周ダンジョンに来てみれば、最後の敵の親玉はあっけないものだった。

 コロポックルの少年と同調し、長年の怒りと今回のイライラを全て込めて最大級の魔力弾を口内から叩き込み破裂させたら、それだけで勝手に苦しみ消滅してしまった。

 拍子抜けもいいところだ。いつしか倒した琵琶湖ダンジョン第五層に潜んでいた海の王のほうが歯ごたえはある。

 

 そんなぼやきを口にするだけしてから、ふぅ、とりりたんは一息ついて。

 そして、己と共に居る、コロポックルの少年へと話しかける。

 

「あなたも、消えてしまうのですか? 私が貴方を眷属として、命を長らえることも可能ですよ?」

 

『いい。僕も、妹と。眠りたいから』

 

 二人は、この上空から全てを見ていた。

 ペンション『パイカラ』の周囲に白い氷の花畑が広がり、桃子とともにいたコロポックルの少女が、一足先に光となって安寧の地へと旅立っていく姿を。

 そして、りりたんが羽織っている双子の兄の魂も、そろそろ終わりの時が近づいてきている。

 

「……そうですか。イメル、あなたは素敵なパートナーでしたよ」

 

『僕も、そう思うよ。キミと会えて、良かった。ありがとう、梨々』

 

「イメル。貴方と私、二人で作ったツインペアーは、楽しかったですよ」

 

 ダンジョンに来てすぐに、りりたんは違和感を覚えてこの湖畔を探ってみたのだ。

 そこで出会ったのが、魔物を封じるための鍵として湖畔に沈んでいたこの衣装であり、そこに魂の残滓として存在したコロポックルの少年イメルである。

 

 魔物を封じるために封印の礎となる。これは、妖精の国の先代女王が成したことと同じだ。

 先代女王の場合は人間として生まれ変わるというイレギュラーが起きてしまったけれど、それでもイメルとりりたんは、立場としては同じものだ。彼らはすぐに、互いを尊重し、同調を可能とした。

 そして、りりたんとイメルが出会い、そこで生まれたのが『ツインペアー』という人物像である。

 

 しかし、その『ツインペアー』もここで終了だ。

 ツインペアーの半身たるイメルが、遠い世界に旅立ってしまうから。

 

 

 

「おやすみなさい、ゆっくり休んでくださいね」

 

 光となり、安寧の地へと旅立っていくイメルを、梨々という名の少女はずっと、最期まで見守っていた。

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